激走カオティック・ウ〇娘レース! ~黄金漆黒の翼~
キャラクターノベル制作 望月誠司納品 2021年04月05日 19時35分11秒
街に降り注ぐ日差しも麗らかな春の朝、ぺーんぺぺぺ~ん~、ぺぺぺ~ん、と勇壮なトランペットの音が鳴り響いている。
街に住んでいる貧乏なトランペット少年が、毎朝ハトへの餌やりついでに曲を吹き鳴らすのが街の近所の住人にとって目覚まし代わりであったが、この所は恒例の曲ではなく”中〇競馬場GIである”と呼ばれるものになっていた。
鳴り響く管楽器の音と共に青空に純白の鳥達が舞い上がる。
地上では漆黒の長衣に身を包んだ少女が裾を靡かせながら道を駆けている。
野蛮にして美、ゴブリナ美少女、冬毛はじめました、波紋の一派、暗黒頭巾、恐るべき借金踏み倒し人――そして『ハイスピード・キャスター』、数々の異名を持つバンビである。
今日も今日とて暗黒黄金娘は風を切って駆けていた。
速度がウリのハイスピードキャスターであるバンビはとても良く走る。
こうして毎朝ジョギングして鍛えている足は、依頼中に発揮されるのは勿論、借金取りのお兄様がたからトンズラする為にも用いられる。
銀河に跨る大帝国の皇帝みたいな恰好でよくやると思われる所であるが、高速モードに入れば今も頭上の青い大空で舞っている鳥の翼の如く、両手を大きく広げて『キーン!』と言いながら走るとか走らないとか。
そんな美少女バンビの駆ける姿は最早、この街の風物詩じみていて、住民の多くは微笑ましく眺めていたりするものだったが、しかし、一枚岩ではないのが人間というもの、笑う人あれば怒れる人あり、中にはこの姿を面白く思わない者達も居るのだった。
「チクショウ、今日も軽快に駆けてやがるな」
薄暗い路地の陰から顔を出した人相の悪い男がぼやく。
つれの男達のうち一人が忌々し気に舌打ちした。
「どうする、あの娘、盆までには返すとか言ってたが、借金返そうとする気配がずぇんずぇん無いぞ」
「年の瀬の時も捕まえられなかったなぁ……」
「借金を取り立てられない借金取りなんてただの慈善事業家じゃねぇか」
「今回ばかりはしくじる訳にはいかねぇな、てめぇの方が首くくっちまわぁ」
「なんとかしてあの小娘に借金を支払わせられないものか」
借金取りの男達は顔を突きつけ合ってう~んと唸り、知恵を絞り合い出た結論は――
「そうだ、賭けレースにしちまえばどうだ? あの娘が逃げる様子を」
「レース……だと?」
「そういえば、最近流行ってるらしいな」
「ああ。あの娘はこの街じゃ結構有名人だし人気もある、その命運を決するとなれば観客は多く集まるんじゃねぇか?」
「なるほど、バンビを目玉にすれば一儲けできると?」
「十分な人数さえ集めりゃあレースってのはどう転ぼうが開催者が一番儲かるように出来てんだ。それで儲けた金の一部をバンビの取り分として借金の返済にあてよう。そうすりゃ借金取りとしての面目も立つ」
懇切丁寧に返済計画を用意してやるそれは、ホントに恐れられるべき借金取りとしての面目が立っているのか? と疑問に思わないでもないが、まさにある意味、鑑ではあるのかもしれない。
少なくともこの場の四人の借金取り達は誰一人疑問には思わなかったようだ。
「……よしよし、こりゃホントに行けるかもしれねぇぜ!」
男達は名案が浮かんだ! とばかりに笑みを浮かべると細部を詰め、意気揚々とバンビの元へ向かうのだった。
●
「――暴挙、ですわ!」
行きつけの飯屋にて『良い話がある』と持ち掛けられたバンビは詳細を聞き抗議の声をあげた。
男達はきょうび巷で流行りのウ〇娘レースの公道開催を目論んでいるらしいが、この街の記録係は馬レースといえば曲がれー! くらいしか知らないのである。
大丈夫なのか???
大丈夫なわきゃーない。
ゴールデンなシップではなくシルバーなシャリボーイになってしまう。
そんなレースに目玉として出走しなければならないなんて、バンビの美少女としての未来への沽券に関わってしまうではないか。
「大丈夫大丈夫、一応レースの様子をちょいと調べてきたらしいから」
「パカチューブで二、三本レースを見て来たらしい。問題無い、完璧だ」
「ぜんっぜんっ安心できそうな気配が無いですわね……」
ずずっと麦粥を啜りつつ、緑瞳を細め男達を睨みつけバンビ。
「そうは言ってもバンビちゃんよ、ちったぁ借金減らして貰わんと、こちとらとしても困る訳で、そっちも冗談抜きで絨毯屋に冬毛生成人として売り飛ばされちまうぞ?」
「…………条件がありますわ」
麦粥を咀嚼しこくりと喉を動かし呑み込んだ所で、バンビは人差し指を一本ピンと伸ばして立てた。
「条件だとぉ?」
「ええ、出走するのは構いませんけれど、それに勝利したら俺の借金が一部減る……のではなく、全部無しにして欲しいんですの。いかが?」
淑女然とした微笑みを向けてやる。
借金取り達が目を剥いた。
「――棒引きにしろだとっ?! あの額を?!」
「ベラボウな事言うなぁ」
「棒引きなだけに」
「お上手ですわね」
「うるせーよ」
「……お前、そりゃあチトごうつくじゃねぇか?」
強面のオッサンが眉間に皺を刻んで睨んで来る。
バンビは卓上に両手の肘をつき、指を平らに組んで、その上に顎を乗せニヤーリと緑瞳を細めた。
「駄目でしたら、俺の出走のお話は無しですわ?」
睨み合う視線と視線がぶつかり合って、バチバチと火花が散る。
――不意に、男が口元を歪めた。
「……へっ、イーだろうよ。だがな、それならこっちとしても条件を出させて貰うぜ……!」
「あら……なんですの?」
「もしお前が二着以下なら借金は現在の倍になる。それでどうだ?」
「倍、ですか……」
「なぁに、勝てば良いのさ。勝てば。天下のハイスピードキャスター様のご健脚ならお手のモンだよなぁ? 足だけどよ」
「ええ、ええ、その通りですわ。まったく、とっても良きお話ですコト」
フフフフフ……と男とバンビが笑い合っている。
「――やったろうじゃねーかですわ。ハイスピードキャスターの名に懸けて、その挑戦、受けて立ってやるぜなのだわ」
「オーケィ、二言は無いな? 腕利き用意してくっから、首洗って待っていろ!」
かくて、勝てば天国、負ければ地獄、エェェェキサァイティィィィン! なドキドキ公道レース(予定)へのバンビの出走が決定されたのだった。
●
ぺーんぺぺぺーん♪ とファンファーレの音が大空へと響き渡ってゆく。白いハト達が青空へ飛び立ってゆく。
レース当日、街には優勝賞金目当てに脚力自慢の授恵者達及び、非授恵者の身ながら工夫を凝らしてこれに抗せんと企む若者達が集まっていた。
バンビ以外の走者は運営による厳選な抽選により七名まで絞られていたが、
(やっぱり案の定カオスめいてるんだぜ……)
一輪車、二輪車、戦車、普通に騎馬に、駝鳥的魔獣乗り、イロモノめいてる出走者達を見渡しげんなりするバンビである。
しかしゴブリナ娘は、その中に強敵の匂いを敏感に感じ取って表情を引き締めた。
細く引き締まった見事な女性的な流線形、空気抵抗に対し理想的な体躯を誇っている軽装の女リザードマン二人、名をエリマキンとノンポリルドルフというらしい。
機械や騎獣に乗っていない事から授恵者であろう。恐らくこの二人が借金取り達が送り込んで来た刺客だ。
彼女等はバンビの視線に気づくと鋭い金色の双眸で視線を合わせ来てニヤリと笑い。
「賞金をいただくのは我々だ」
「今のうちに冬毛を伸ばしておくんだな」
とハスキーなヴォイスで挨拶代わりの挑発をしてきた。
バンビはにこりと笑い、
「あら、そろそろ換毛期なので俺は冬毛生成人にはなろうとした所でなりえませんわ。もっともその必要も無いでしょうけど」
「ふん、まぁやってみれば解るさ」
己達の脚の速さに自信があるのだろう、リザード娘達はそう言い放って踵を返し、スタート位置へと向かう。
バンビもまたラインに立った。
街の中央に立つ巨大な塔より大音声が響き渡っている。
なんでもサウンドボマー的な力が籠められた紋具を使用しているらしい。
『え~一番人気はこの街の有名なゴブリナ美少女バンビ、二番人気はギシュム最速と名高いエリマキン、そのライバルであるシルトラース出身のノンポリルドルフも注目されています』
走者が街の目抜き通りに横一線にずらっと並んで位置につくと、係員に扮している借金取りの一人が鏑矢を空に向けた。
『よーい!』
響き渡る塔上からの声と共に長弓に矢を番えぎりぎりと引き絞る。
通りの左右に詰めかけて来ている人々はわいわいざわざわと声をあげていたが一斉に静まり返った。
次の刹那、借金取りが空に向かって矢を打ち放った、
ヒョー! という独特の鏑矢の音が鳴り響く。
同時に、バンビ達走者は一斉に走り始めた。
周囲の人々よりワッ! と歓声があがる。
一番に飛び出したのはノンポリルドルフだった。二番手はエリマキン、バンビはというと三番手だった。
やはり加速力は授恵者が高い。なおスキル有りだとシーフ系以外に勝ち目が皆無であったり妨害が飛びまくったりで大変危険なので本レースのルールではスキルの使用は禁止されている。
バンビは身を前に大きく傾け、エリマキンの背後につけると、暗黒長衣の裾を靡かせながら風を切って駆けてゆく。
ノンポリドルフとエリマキンもまた前方に身を大きく傾け、尻尾を揺らし、手足を大きく動かしながら街のメインストリートをひた走る。
『さぁ走者、一斉にスタートしました! まず飛び出したのはシルトラース出身のノンポリルドルフ、華麗なフォーム、揺れる尻尾はスマート緑色、政治的な主張はありません。続いて二番人気、ギシュムの女リザード最速と名高いエリマキン、こちらは赤色。そしてバンビはここに居た! 黄金もふもふ冬毛なびく暗黒ローブ、この街の駆ける風物詩、一番人気のバンビは現在三番手、ハイスピードキャスターは三番手につけている~! ――おぉっとぉ?!』
妙に活舌の良い軽快な語りで喋っていた塔上の実況者が声を張り上げると同時、バンビは右斜め後ろより迫り来る圧を感じた。
ちらりと視線を走らせればそこには赤褐色肌の四足生物が躍動していた。
『おーっとここで馬! 本物の馬が上がって参りました! 授恵者相手とはいえ二足動物に負けてなるものかと草原の走り~! 名前はジャックリーン! 鞍上は地元牧場ハレル家三女グリー嬢! ただいま彼氏募集中~!』
三つ編みの娘を乗せた馬はバンビ、エリマキン、ノンポリルドルフまでを抜いて先頭に躍り出てゆく。巨大な黒影も上がって来た。
『さらに続くのは謎の鳥型魔獣チョコットボ、陸上を二脚で力強く走るこれは果たして鳥なのか~ッ?! チョ〇ボではありません!!!!』
危険な発言が響き渡る中、第一コーナーが迫って来る。
馬、鳥、蜥蜴人二人、ゴブリナ娘が弧を描いて鮮やかに街角を曲がってゆく。
そこへ続いてガラガラと激走する車輪の音を響かせながら二頭立ての戦車が突っ込んできたが、カーヴしようと車体を傾けた所で、そのまま横転した。けたたましい破砕音を轟かせながら回転してゆく。
『あぁ~っと! 戦車転がったぁああ! ガシャンと二回転! 破片が飛び散っています! おっとさらに二輪車避けきれず突っ込んだ~! 連続クラッシュ~~~!! 一輪車は遥か後方です』
バンビ達の後方で大事故が起こったようだった。
しかし、無事に角を曲がった走者達も、新たなる脅威に襲われていた。
『一方先頭集団! おーっと先頭ジャクリーン! 嘶いて棹立ち~!』
そう、角を曲がった先には馬車が連なって並べられ、まるで石壁のように立ち塞がっていたのである。
ワゴンブルクだ。機動要塞。
このレースはただのレースではなく障害物走でもあったのである。
『高さニメートルの無情なる城塞に阻まれた~!!』
続き来たチョコットボはしかし、道を蹴り跳躍すると大きく翼をはばたかせ、さらに高く舞い上がった。
『あぁっとチョコットボ飛んだー! やはり鳥だったー! 華麗に飛び越えてゆくゥゥゥ!』
続くノンポリルドルフ、エリマキン、バンビもまた跳躍すると、馬車の側面を蹴りつけ、腕を上へと伸ばして車体上部の角を掴み、己の身を引き上げて馬車の上へと出る。
車体の上を駆けると高々と跳躍、道へと降り立った。
鳥、蜥蜴人二人、そしてバンビが道を駆けてゆく。
『鉄と火の通りを抜け先頭集団! いよいよ最終コーナーに突っ込んでゆきます! 先頭は依然チョコットボ! あぁっとしかしノンポリルドルフが仕掛けたぁああああ!』
角を曲がる所でチョコットボは僅かに減速し、その一瞬にノンポリドルフが尻尾でバランスを保ちながら巧みなコーナリングを見せ斬り込んだ。並ぶ。
最後の直線に入るとほぼ同時、温存していた体力をここぞとばかりに全開にして超加速する。
チョコットボも加速していたが、ノンポリルドルフの速度の方が圧倒的に勝っていた。あっさりと抜き去り、ぐんぐんと距離を離してゆく。
『外側からノンポリルドルフ! 抜いた! 抜いた! 速い! 速い! 速い! チョコットボ伸びない! あぁっ?! しかし、ここでエリマキンだッ! エリマキンが顔を天へ向かって上げたぁああああああ! 秘技エリマキ走りッ! 独特ヒョコヒョコ、キ〇ちゃん走りッ! 何故これが速いのかーーーっ?! 追いつく! 追いつく! がッ! ノンポリルドルフも譲らないッ! 差し合いッ! 激しいッ! 二人だけのデッドヒィィィィィィトッ!!』
蜥蜴人の二人が競ったまま猛スピードで駆けてゆき、ゴールがグングンと迫って来る。
が、その時だった。
『――大外から何か一人突っ込んで来る!!』
実況が声を盛大に張り上げた。
バンビが両手を左右へと伸ばしていた。
身を地に倒れ込む程にさらに前傾に、温存していた体力を爆発的に燃やして加速する。
風が唸った。
頭巾が後ろに外れ、黄金の髪が靡き宙に踊る。
道の左右からは大歓声が上がっていた。
『バンビ来た! バンビ来た! バンビ来た! キーン! キーン! キーン!
差し切るか?! 差し切るか?!
やはり三強の争いか! やはり三強の争いかッ!!
さぁ外はバンビ! 外はバンビ! 内エリマキン――』
左斜め前方で蜥蜴人が走っている。
バンビは隣に追いつくと、さらに駆け、後方へと一瞬で置き去りにした。
『変わったああああああッ!
バンビだぁあああああああッ!!
左右に大きく広げた漆黒の翼!
夢を掴んで栄光の空へと翔け登るーッ!!
暗黒ハイスピィィィィィドッ!! 黄金のバンビィィィィィッ!!!!』
爆発的に沸き立つような大歓声の渦の中、驚異的な差し切りを見せたバンビは、ゴールへと突っ込んで行ったのだった。
●
確定
一着 バンビ
二着 エリマキン
――かくて、バンビは第一回街レースの覇者となり、借金の棒引きを達成したのであった。
街に住んでいる貧乏なトランペット少年が、毎朝ハトへの餌やりついでに曲を吹き鳴らすのが街の近所の住人にとって目覚まし代わりであったが、この所は恒例の曲ではなく”中〇競馬場GIである”と呼ばれるものになっていた。
鳴り響く管楽器の音と共に青空に純白の鳥達が舞い上がる。
地上では漆黒の長衣に身を包んだ少女が裾を靡かせながら道を駆けている。
野蛮にして美、ゴブリナ美少女、冬毛はじめました、波紋の一派、暗黒頭巾、恐るべき借金踏み倒し人――そして『ハイスピード・キャスター』、数々の異名を持つバンビである。
今日も今日とて暗黒黄金娘は風を切って駆けていた。
速度がウリのハイスピードキャスターであるバンビはとても良く走る。
こうして毎朝ジョギングして鍛えている足は、依頼中に発揮されるのは勿論、借金取りのお兄様がたからトンズラする為にも用いられる。
銀河に跨る大帝国の皇帝みたいな恰好でよくやると思われる所であるが、高速モードに入れば今も頭上の青い大空で舞っている鳥の翼の如く、両手を大きく広げて『キーン!』と言いながら走るとか走らないとか。
そんな美少女バンビの駆ける姿は最早、この街の風物詩じみていて、住民の多くは微笑ましく眺めていたりするものだったが、しかし、一枚岩ではないのが人間というもの、笑う人あれば怒れる人あり、中にはこの姿を面白く思わない者達も居るのだった。
「チクショウ、今日も軽快に駆けてやがるな」
薄暗い路地の陰から顔を出した人相の悪い男がぼやく。
つれの男達のうち一人が忌々し気に舌打ちした。
「どうする、あの娘、盆までには返すとか言ってたが、借金返そうとする気配がずぇんずぇん無いぞ」
「年の瀬の時も捕まえられなかったなぁ……」
「借金を取り立てられない借金取りなんてただの慈善事業家じゃねぇか」
「今回ばかりはしくじる訳にはいかねぇな、てめぇの方が首くくっちまわぁ」
「なんとかしてあの小娘に借金を支払わせられないものか」
借金取りの男達は顔を突きつけ合ってう~んと唸り、知恵を絞り合い出た結論は――
「そうだ、賭けレースにしちまえばどうだ? あの娘が逃げる様子を」
「レース……だと?」
「そういえば、最近流行ってるらしいな」
「ああ。あの娘はこの街じゃ結構有名人だし人気もある、その命運を決するとなれば観客は多く集まるんじゃねぇか?」
「なるほど、バンビを目玉にすれば一儲けできると?」
「十分な人数さえ集めりゃあレースってのはどう転ぼうが開催者が一番儲かるように出来てんだ。それで儲けた金の一部をバンビの取り分として借金の返済にあてよう。そうすりゃ借金取りとしての面目も立つ」
懇切丁寧に返済計画を用意してやるそれは、ホントに恐れられるべき借金取りとしての面目が立っているのか? と疑問に思わないでもないが、まさにある意味、鑑ではあるのかもしれない。
少なくともこの場の四人の借金取り達は誰一人疑問には思わなかったようだ。
「……よしよし、こりゃホントに行けるかもしれねぇぜ!」
男達は名案が浮かんだ! とばかりに笑みを浮かべると細部を詰め、意気揚々とバンビの元へ向かうのだった。
●
「――暴挙、ですわ!」
行きつけの飯屋にて『良い話がある』と持ち掛けられたバンビは詳細を聞き抗議の声をあげた。
男達はきょうび巷で流行りのウ〇娘レースの公道開催を目論んでいるらしいが、この街の記録係は馬レースといえば曲がれー! くらいしか知らないのである。
大丈夫なのか???
大丈夫なわきゃーない。
ゴールデンなシップではなくシルバーなシャリボーイになってしまう。
そんなレースに目玉として出走しなければならないなんて、バンビの美少女としての未来への沽券に関わってしまうではないか。
「大丈夫大丈夫、一応レースの様子をちょいと調べてきたらしいから」
「パカチューブで二、三本レースを見て来たらしい。問題無い、完璧だ」
「ぜんっぜんっ安心できそうな気配が無いですわね……」
ずずっと麦粥を啜りつつ、緑瞳を細め男達を睨みつけバンビ。
「そうは言ってもバンビちゃんよ、ちったぁ借金減らして貰わんと、こちとらとしても困る訳で、そっちも冗談抜きで絨毯屋に冬毛生成人として売り飛ばされちまうぞ?」
「…………条件がありますわ」
麦粥を咀嚼しこくりと喉を動かし呑み込んだ所で、バンビは人差し指を一本ピンと伸ばして立てた。
「条件だとぉ?」
「ええ、出走するのは構いませんけれど、それに勝利したら俺の借金が一部減る……のではなく、全部無しにして欲しいんですの。いかが?」
淑女然とした微笑みを向けてやる。
借金取り達が目を剥いた。
「――棒引きにしろだとっ?! あの額を?!」
「ベラボウな事言うなぁ」
「棒引きなだけに」
「お上手ですわね」
「うるせーよ」
「……お前、そりゃあチトごうつくじゃねぇか?」
強面のオッサンが眉間に皺を刻んで睨んで来る。
バンビは卓上に両手の肘をつき、指を平らに組んで、その上に顎を乗せニヤーリと緑瞳を細めた。
「駄目でしたら、俺の出走のお話は無しですわ?」
睨み合う視線と視線がぶつかり合って、バチバチと火花が散る。
――不意に、男が口元を歪めた。
「……へっ、イーだろうよ。だがな、それならこっちとしても条件を出させて貰うぜ……!」
「あら……なんですの?」
「もしお前が二着以下なら借金は現在の倍になる。それでどうだ?」
「倍、ですか……」
「なぁに、勝てば良いのさ。勝てば。天下のハイスピードキャスター様のご健脚ならお手のモンだよなぁ? 足だけどよ」
「ええ、ええ、その通りですわ。まったく、とっても良きお話ですコト」
フフフフフ……と男とバンビが笑い合っている。
「――やったろうじゃねーかですわ。ハイスピードキャスターの名に懸けて、その挑戦、受けて立ってやるぜなのだわ」
「オーケィ、二言は無いな? 腕利き用意してくっから、首洗って待っていろ!」
かくて、勝てば天国、負ければ地獄、エェェェキサァイティィィィン! なドキドキ公道レース(予定)へのバンビの出走が決定されたのだった。
●
ぺーんぺぺぺーん♪ とファンファーレの音が大空へと響き渡ってゆく。白いハト達が青空へ飛び立ってゆく。
レース当日、街には優勝賞金目当てに脚力自慢の授恵者達及び、非授恵者の身ながら工夫を凝らしてこれに抗せんと企む若者達が集まっていた。
バンビ以外の走者は運営による厳選な抽選により七名まで絞られていたが、
(やっぱり案の定カオスめいてるんだぜ……)
一輪車、二輪車、戦車、普通に騎馬に、駝鳥的魔獣乗り、イロモノめいてる出走者達を見渡しげんなりするバンビである。
しかしゴブリナ娘は、その中に強敵の匂いを敏感に感じ取って表情を引き締めた。
細く引き締まった見事な女性的な流線形、空気抵抗に対し理想的な体躯を誇っている軽装の女リザードマン二人、名をエリマキンとノンポリルドルフというらしい。
機械や騎獣に乗っていない事から授恵者であろう。恐らくこの二人が借金取り達が送り込んで来た刺客だ。
彼女等はバンビの視線に気づくと鋭い金色の双眸で視線を合わせ来てニヤリと笑い。
「賞金をいただくのは我々だ」
「今のうちに冬毛を伸ばしておくんだな」
とハスキーなヴォイスで挨拶代わりの挑発をしてきた。
バンビはにこりと笑い、
「あら、そろそろ換毛期なので俺は冬毛生成人にはなろうとした所でなりえませんわ。もっともその必要も無いでしょうけど」
「ふん、まぁやってみれば解るさ」
己達の脚の速さに自信があるのだろう、リザード娘達はそう言い放って踵を返し、スタート位置へと向かう。
バンビもまたラインに立った。
街の中央に立つ巨大な塔より大音声が響き渡っている。
なんでもサウンドボマー的な力が籠められた紋具を使用しているらしい。
『え~一番人気はこの街の有名なゴブリナ美少女バンビ、二番人気はギシュム最速と名高いエリマキン、そのライバルであるシルトラース出身のノンポリルドルフも注目されています』
走者が街の目抜き通りに横一線にずらっと並んで位置につくと、係員に扮している借金取りの一人が鏑矢を空に向けた。
『よーい!』
響き渡る塔上からの声と共に長弓に矢を番えぎりぎりと引き絞る。
通りの左右に詰めかけて来ている人々はわいわいざわざわと声をあげていたが一斉に静まり返った。
次の刹那、借金取りが空に向かって矢を打ち放った、
ヒョー! という独特の鏑矢の音が鳴り響く。
同時に、バンビ達走者は一斉に走り始めた。
周囲の人々よりワッ! と歓声があがる。
一番に飛び出したのはノンポリルドルフだった。二番手はエリマキン、バンビはというと三番手だった。
やはり加速力は授恵者が高い。なおスキル有りだとシーフ系以外に勝ち目が皆無であったり妨害が飛びまくったりで大変危険なので本レースのルールではスキルの使用は禁止されている。
バンビは身を前に大きく傾け、エリマキンの背後につけると、暗黒長衣の裾を靡かせながら風を切って駆けてゆく。
ノンポリドルフとエリマキンもまた前方に身を大きく傾け、尻尾を揺らし、手足を大きく動かしながら街のメインストリートをひた走る。
『さぁ走者、一斉にスタートしました! まず飛び出したのはシルトラース出身のノンポリルドルフ、華麗なフォーム、揺れる尻尾はスマート緑色、政治的な主張はありません。続いて二番人気、ギシュムの女リザード最速と名高いエリマキン、こちらは赤色。そしてバンビはここに居た! 黄金もふもふ冬毛なびく暗黒ローブ、この街の駆ける風物詩、一番人気のバンビは現在三番手、ハイスピードキャスターは三番手につけている~! ――おぉっとぉ?!』
妙に活舌の良い軽快な語りで喋っていた塔上の実況者が声を張り上げると同時、バンビは右斜め後ろより迫り来る圧を感じた。
ちらりと視線を走らせればそこには赤褐色肌の四足生物が躍動していた。
『おーっとここで馬! 本物の馬が上がって参りました! 授恵者相手とはいえ二足動物に負けてなるものかと草原の走り~! 名前はジャックリーン! 鞍上は地元牧場ハレル家三女グリー嬢! ただいま彼氏募集中~!』
三つ編みの娘を乗せた馬はバンビ、エリマキン、ノンポリルドルフまでを抜いて先頭に躍り出てゆく。巨大な黒影も上がって来た。
『さらに続くのは謎の鳥型魔獣チョコットボ、陸上を二脚で力強く走るこれは果たして鳥なのか~ッ?! チョ〇ボではありません!!!!』
危険な発言が響き渡る中、第一コーナーが迫って来る。
馬、鳥、蜥蜴人二人、ゴブリナ娘が弧を描いて鮮やかに街角を曲がってゆく。
そこへ続いてガラガラと激走する車輪の音を響かせながら二頭立ての戦車が突っ込んできたが、カーヴしようと車体を傾けた所で、そのまま横転した。けたたましい破砕音を轟かせながら回転してゆく。
『あぁ~っと! 戦車転がったぁああ! ガシャンと二回転! 破片が飛び散っています! おっとさらに二輪車避けきれず突っ込んだ~! 連続クラッシュ~~~!! 一輪車は遥か後方です』
バンビ達の後方で大事故が起こったようだった。
しかし、無事に角を曲がった走者達も、新たなる脅威に襲われていた。
『一方先頭集団! おーっと先頭ジャクリーン! 嘶いて棹立ち~!』
そう、角を曲がった先には馬車が連なって並べられ、まるで石壁のように立ち塞がっていたのである。
ワゴンブルクだ。機動要塞。
このレースはただのレースではなく障害物走でもあったのである。
『高さニメートルの無情なる城塞に阻まれた~!!』
続き来たチョコットボはしかし、道を蹴り跳躍すると大きく翼をはばたかせ、さらに高く舞い上がった。
『あぁっとチョコットボ飛んだー! やはり鳥だったー! 華麗に飛び越えてゆくゥゥゥ!』
続くノンポリルドルフ、エリマキン、バンビもまた跳躍すると、馬車の側面を蹴りつけ、腕を上へと伸ばして車体上部の角を掴み、己の身を引き上げて馬車の上へと出る。
車体の上を駆けると高々と跳躍、道へと降り立った。
鳥、蜥蜴人二人、そしてバンビが道を駆けてゆく。
『鉄と火の通りを抜け先頭集団! いよいよ最終コーナーに突っ込んでゆきます! 先頭は依然チョコットボ! あぁっとしかしノンポリルドルフが仕掛けたぁああああ!』
角を曲がる所でチョコットボは僅かに減速し、その一瞬にノンポリドルフが尻尾でバランスを保ちながら巧みなコーナリングを見せ斬り込んだ。並ぶ。
最後の直線に入るとほぼ同時、温存していた体力をここぞとばかりに全開にして超加速する。
チョコットボも加速していたが、ノンポリルドルフの速度の方が圧倒的に勝っていた。あっさりと抜き去り、ぐんぐんと距離を離してゆく。
『外側からノンポリルドルフ! 抜いた! 抜いた! 速い! 速い! 速い! チョコットボ伸びない! あぁっ?! しかし、ここでエリマキンだッ! エリマキンが顔を天へ向かって上げたぁああああああ! 秘技エリマキ走りッ! 独特ヒョコヒョコ、キ〇ちゃん走りッ! 何故これが速いのかーーーっ?! 追いつく! 追いつく! がッ! ノンポリルドルフも譲らないッ! 差し合いッ! 激しいッ! 二人だけのデッドヒィィィィィィトッ!!』
蜥蜴人の二人が競ったまま猛スピードで駆けてゆき、ゴールがグングンと迫って来る。
が、その時だった。
『――大外から何か一人突っ込んで来る!!』
実況が声を盛大に張り上げた。
バンビが両手を左右へと伸ばしていた。
身を地に倒れ込む程にさらに前傾に、温存していた体力を爆発的に燃やして加速する。
風が唸った。
頭巾が後ろに外れ、黄金の髪が靡き宙に踊る。
道の左右からは大歓声が上がっていた。
『バンビ来た! バンビ来た! バンビ来た! キーン! キーン! キーン!
差し切るか?! 差し切るか?!
やはり三強の争いか! やはり三強の争いかッ!!
さぁ外はバンビ! 外はバンビ! 内エリマキン――』
左斜め前方で蜥蜴人が走っている。
バンビは隣に追いつくと、さらに駆け、後方へと一瞬で置き去りにした。
『変わったああああああッ!
バンビだぁあああああああッ!!
左右に大きく広げた漆黒の翼!
夢を掴んで栄光の空へと翔け登るーッ!!
暗黒ハイスピィィィィィドッ!! 黄金のバンビィィィィィッ!!!!』
爆発的に沸き立つような大歓声の渦の中、驚異的な差し切りを見せたバンビは、ゴールへと突っ込んで行ったのだった。
●
確定
一着 バンビ
二着 エリマキン
――かくて、バンビは第一回街レースの覇者となり、借金の棒引きを達成したのであった。