天獄の罠
王立アプリーリス魔法学院 イベントノベル(テーマ)制作 真柄 葉納品 2021年04月07日 20時29分24秒
その日も学園の生命線『スワン寮』には、様々な救護依頼が舞い込んでいた。
「えぇっ!! またペガサス寮がやらかしたの!? もぉ、今月何度目よ!」
慣れない眼鏡をかけ報告書と睨めっこしていたヒルルクが悲痛な叫び声を上げる。
「ちょっと、誰かアホレイジ呼んできて! あいつ、一回お灸据えてやる!」
「はぁ!? グリフォン寮の地下決闘場で観客含めて大乱闘!? まったく、だから防護結界はしっかり張りなさいって言ってるのに! 責任者誰よ! ……って、ウィリアムよね。あいつ……!」
報告書と依頼書に埋もれながら、ヒルルクの多忙は今日も続いていた。
「ふぅ……オウル寮の箒暴走事件の後始末、終わったわ……って、ヒルルク大丈夫?」
「ダメ、もう死ぬ。リサ、寮長かわって」
寮長専用の机に突っ伏すヒルルクを見つけ、救護作業から戻ってきたリサ・ベイカーは思わず声をかける。
「うーん、蘇生魔法って誰か使えたっけ?」
「リサ先輩!?」
「はは、冗談よ。それより、今月はやけに忙しいわね?」
そう言いつつ机の上に依頼の報告書を重ねたリサは、ヒルルクから「何仕事増やしてくれてんのよ」という視線を受けつつ備え付けのソファに腰かけ――。
「それで、こちらの少年君はどちら様?」
目の前で優雅に湯呑を啜る少年に目を向けた。
「俺か? 俺はタクマ。本名はあんた達には難しいだろうから、タクマでいい」
「ふむふむ。で、その【サーペント寮】のタクマ君がスワン寮に何用ですか?」
制服から所属寮を確認したリサが、タクマに問いかける。
「ヒルルク寮長に魔法資質の調査を依頼しに来たんだ」
「魔法資質の調査? それは入学の時にやったんじゃ? 見た所、1年生か2年生っぽいから、つい最近の事でしょ?」
「ああ、この間入学したから、調査もその時受けた。だけど、数か月通う内にどうやら変質してしまったようなんだ」
再び湯呑に口を付けながら、タクマはリサに答えた。
「へぇ、珍しい。なるほど、それでヒルルクに会いに来たんですね。でも、見ての通り今はあんなだから、ちょっと時間かかりますよ?」
「別にかまわないさ。まさか、この学院で故郷の味に出会えるとは思わなかったから、いただきながらゆっくり待つよ」
「そう言えばそれ、東国のお土産だって言ってましたね」
急須に湯吞。貰った時に確か東方の国特有の茶の楽しみ方だと聞いた。
「という事は、タクマ君は東方の子ですか」
「ああ」
リサの問いにタクマが頷いた、その時――。
「ヒルルク寮長は居ますか!!」
和やかだった茶会(ヒルルク除く)の雰囲気を打ち破り、勢いよく【ドラゴン寮】の制服が飛び込んできた。
「いらっしゃい。えっと――」
「【ドラゴン寮】所属、アンネエルカよ! ヒルルク寮長は――」
と、飛び込んできたアンネエルカはリサへの返答もそこそこに部屋を見渡す。そして、奥の机に突っ伏し力なく振られる手を発見した。
「ヒルルク寮長、急いで来てもらえないかしら! ドラゴン寮が大変なの!」
「え、どうしたの? またレイレイが皆におだてられて極大魔法ぶっ放したの?」
「ええ、実は昨日……って、そうじゃなくて! それもあるけど、そうじゃないの!」
机から顔だけ上げたヒルルクにアンネエルカが詰め寄る。
「繋がってしまったの!」
「繋がった? 何処に……?」
アンネエルカの言葉に不穏な気配を感じ、ヒルルクは恐る恐る問いかけた。
「位階の先に!」
●
「負傷者は!」
「ドラゴン寮の生徒が数名!」
「死者は!!」
「今のところなしよ!!」
アンネエルカの急を聞き、ヒルルクとリサは急ぎ【ドラゴン寮】へと向かう。
「リサ、手の空いてる人にも声をかけて!」
「もう連絡済み。皆、手が空き次第応援に来てくれるって」
「さっすが、リサ先輩、頼りになるわね! ねぇ、寮長かわ――」
「ほら、喋ってると舌噛むわよ」
走りながらヒルルクの背をどんと叩いたリサは、むせる彼女を気にもせず、もう一人の並走者へ声をかけた。
「それで、タクマ君はどうして着いて来たんです? これはスワン寮のお仕事ですよ?」
そう、なぜかタクマまで一緒に飛び出してきていた。
「忘れられると困るんだけど、ヒルルク寮長に先に依頼したのは俺だ」
「まぁ、それはそうなんですけど……今はほら、緊急事態ってやつですから、こき使うならもうすこし後にしてもらえます?」
「わかってるさ。俺だって事の重大さを理解できない馬鹿じゃない。だからこうして近くで順番待ちをしてるんだ」
「なるほど、順番待ちですか。言い得て妙ですね」
小さいながらも気の利いたセリフを吐くタクマに、リサは賢い子だねと小さく微笑む。
「それで、繋がったのはどの位階かわかってるの!」
「まだわからないけど、たぶん第8位階以降の世界だと思うわ!」
「天獄クラスじゃない!? そんなのペガサス寮の生徒だって簡単には開けないわよ!?」
返ってきたアンネエルカの言葉に、ヒルルクは驚き目を見開いた。
「でも確かに開いたわ。ドラゴン寮の生徒達が魔法の演習をしていたら、突然皆の魔法が収束して――閃光が弾けたの」
アンネエルカはその時の情景を思い出しながら、克明に伝えていく。
「弾けた閃光は生徒達を吹き飛ばしたわ。その時に多くの負傷者を出してしまったの」
「死者が出なかったのが不幸中の幸いね」
アンネエルカから伝えられる状況を思い描き、ヒルルクの表情がどんどん険しくなっていった。
「そして、閃光は消えずに演習場の上にとどまったわ。それが――位階への門だったの」
「それが何で位階の門だとわかったんだ。何か飛び出してきたのか?」
と、ヒルルクに代わりタクマが問いかける。
「いえ、まだ何も。ただ、そこから感じ取れる魔力があまりに異常だったの」
「……なるほど、それが天獄クラス以上だと思わせる理由か」
「ええ。無事だった生徒達で何とかしようと試みてはみたのだけれど……」
「結果は芳しくなかったわけですね」
タクマに答えたアンネエルカに、今度はリサが合いの手を入れた。
「それは今も消えずに残ってるんだな?」
「たぶん残っているわ。あの感じがまだするもの」
タクマに問われアンネエルカは、仲間達が待つ演習場の方に視線を向ける。
「わかった。急ごう」
いつの間にか主導権を奪ったタクマの言葉に、三人は神妙に頷いた。
●
「健常者は負傷者を一か所に集めてください! ただし頭を打ってる人は動かさないように!」
演習場はまるで戦場だった。そんな凄惨な現場に辿り着いたリサが真っ先に声を上げる。
ドラゴン寮の生徒達は、リサの制服を確認すると言われた通りに動き始めた。
「ヒルルク、分担しましょう! あなたは外傷を、わたしは内傷を治癒するわ!」
リサの指示に頷いたヒルルクがすぐに持ち場へと向かっていく。
そして、演習場の上空。それは確かに『門』だった。
「これがビクーニャ国の『門』か……」
演習場の上空3m程の場所にぽっかりと開いた光の穴をタクマが興味深そうに見上げる。
「東方では違うの?」
「ああ、あんな禍々しい『門』は見た事がないな」
アンネエルカの問いに、胸元の首飾りをいじりながらタクマが答えた。
「さて、いったい何を召喚する為の門だ」
言ってタクマは鞄からモノクルを取り出す。
「それは?」
「『視る』ための道具さ」
モノクルを装着したタクマは、空に開いた門を眼鏡越しに睨み付けた。
「えぇっ!! またペガサス寮がやらかしたの!? もぉ、今月何度目よ!」
慣れない眼鏡をかけ報告書と睨めっこしていたヒルルクが悲痛な叫び声を上げる。
「ちょっと、誰かアホレイジ呼んできて! あいつ、一回お灸据えてやる!」
「はぁ!? グリフォン寮の地下決闘場で観客含めて大乱闘!? まったく、だから防護結界はしっかり張りなさいって言ってるのに! 責任者誰よ! ……って、ウィリアムよね。あいつ……!」
報告書と依頼書に埋もれながら、ヒルルクの多忙は今日も続いていた。
「ふぅ……オウル寮の箒暴走事件の後始末、終わったわ……って、ヒルルク大丈夫?」
「ダメ、もう死ぬ。リサ、寮長かわって」
寮長専用の机に突っ伏すヒルルクを見つけ、救護作業から戻ってきたリサ・ベイカーは思わず声をかける。
「うーん、蘇生魔法って誰か使えたっけ?」
「リサ先輩!?」
「はは、冗談よ。それより、今月はやけに忙しいわね?」
そう言いつつ机の上に依頼の報告書を重ねたリサは、ヒルルクから「何仕事増やしてくれてんのよ」という視線を受けつつ備え付けのソファに腰かけ――。
「それで、こちらの少年君はどちら様?」
目の前で優雅に湯呑を啜る少年に目を向けた。
「俺か? 俺はタクマ。本名はあんた達には難しいだろうから、タクマでいい」
「ふむふむ。で、その【サーペント寮】のタクマ君がスワン寮に何用ですか?」
制服から所属寮を確認したリサが、タクマに問いかける。
「ヒルルク寮長に魔法資質の調査を依頼しに来たんだ」
「魔法資質の調査? それは入学の時にやったんじゃ? 見た所、1年生か2年生っぽいから、つい最近の事でしょ?」
「ああ、この間入学したから、調査もその時受けた。だけど、数か月通う内にどうやら変質してしまったようなんだ」
再び湯呑に口を付けながら、タクマはリサに答えた。
「へぇ、珍しい。なるほど、それでヒルルクに会いに来たんですね。でも、見ての通り今はあんなだから、ちょっと時間かかりますよ?」
「別にかまわないさ。まさか、この学院で故郷の味に出会えるとは思わなかったから、いただきながらゆっくり待つよ」
「そう言えばそれ、東国のお土産だって言ってましたね」
急須に湯吞。貰った時に確か東方の国特有の茶の楽しみ方だと聞いた。
「という事は、タクマ君は東方の子ですか」
「ああ」
リサの問いにタクマが頷いた、その時――。
「ヒルルク寮長は居ますか!!」
和やかだった茶会(ヒルルク除く)の雰囲気を打ち破り、勢いよく【ドラゴン寮】の制服が飛び込んできた。
「いらっしゃい。えっと――」
「【ドラゴン寮】所属、アンネエルカよ! ヒルルク寮長は――」
と、飛び込んできたアンネエルカはリサへの返答もそこそこに部屋を見渡す。そして、奥の机に突っ伏し力なく振られる手を発見した。
「ヒルルク寮長、急いで来てもらえないかしら! ドラゴン寮が大変なの!」
「え、どうしたの? またレイレイが皆におだてられて極大魔法ぶっ放したの?」
「ええ、実は昨日……って、そうじゃなくて! それもあるけど、そうじゃないの!」
机から顔だけ上げたヒルルクにアンネエルカが詰め寄る。
「繋がってしまったの!」
「繋がった? 何処に……?」
アンネエルカの言葉に不穏な気配を感じ、ヒルルクは恐る恐る問いかけた。
「位階の先に!」
●
「負傷者は!」
「ドラゴン寮の生徒が数名!」
「死者は!!」
「今のところなしよ!!」
アンネエルカの急を聞き、ヒルルクとリサは急ぎ【ドラゴン寮】へと向かう。
「リサ、手の空いてる人にも声をかけて!」
「もう連絡済み。皆、手が空き次第応援に来てくれるって」
「さっすが、リサ先輩、頼りになるわね! ねぇ、寮長かわ――」
「ほら、喋ってると舌噛むわよ」
走りながらヒルルクの背をどんと叩いたリサは、むせる彼女を気にもせず、もう一人の並走者へ声をかけた。
「それで、タクマ君はどうして着いて来たんです? これはスワン寮のお仕事ですよ?」
そう、なぜかタクマまで一緒に飛び出してきていた。
「忘れられると困るんだけど、ヒルルク寮長に先に依頼したのは俺だ」
「まぁ、それはそうなんですけど……今はほら、緊急事態ってやつですから、こき使うならもうすこし後にしてもらえます?」
「わかってるさ。俺だって事の重大さを理解できない馬鹿じゃない。だからこうして近くで順番待ちをしてるんだ」
「なるほど、順番待ちですか。言い得て妙ですね」
小さいながらも気の利いたセリフを吐くタクマに、リサは賢い子だねと小さく微笑む。
「それで、繋がったのはどの位階かわかってるの!」
「まだわからないけど、たぶん第8位階以降の世界だと思うわ!」
「天獄クラスじゃない!? そんなのペガサス寮の生徒だって簡単には開けないわよ!?」
返ってきたアンネエルカの言葉に、ヒルルクは驚き目を見開いた。
「でも確かに開いたわ。ドラゴン寮の生徒達が魔法の演習をしていたら、突然皆の魔法が収束して――閃光が弾けたの」
アンネエルカはその時の情景を思い出しながら、克明に伝えていく。
「弾けた閃光は生徒達を吹き飛ばしたわ。その時に多くの負傷者を出してしまったの」
「死者が出なかったのが不幸中の幸いね」
アンネエルカから伝えられる状況を思い描き、ヒルルクの表情がどんどん険しくなっていった。
「そして、閃光は消えずに演習場の上にとどまったわ。それが――位階への門だったの」
「それが何で位階の門だとわかったんだ。何か飛び出してきたのか?」
と、ヒルルクに代わりタクマが問いかける。
「いえ、まだ何も。ただ、そこから感じ取れる魔力があまりに異常だったの」
「……なるほど、それが天獄クラス以上だと思わせる理由か」
「ええ。無事だった生徒達で何とかしようと試みてはみたのだけれど……」
「結果は芳しくなかったわけですね」
タクマに答えたアンネエルカに、今度はリサが合いの手を入れた。
「それは今も消えずに残ってるんだな?」
「たぶん残っているわ。あの感じがまだするもの」
タクマに問われアンネエルカは、仲間達が待つ演習場の方に視線を向ける。
「わかった。急ごう」
いつの間にか主導権を奪ったタクマの言葉に、三人は神妙に頷いた。
●
「健常者は負傷者を一か所に集めてください! ただし頭を打ってる人は動かさないように!」
演習場はまるで戦場だった。そんな凄惨な現場に辿り着いたリサが真っ先に声を上げる。
ドラゴン寮の生徒達は、リサの制服を確認すると言われた通りに動き始めた。
「ヒルルク、分担しましょう! あなたは外傷を、わたしは内傷を治癒するわ!」
リサの指示に頷いたヒルルクがすぐに持ち場へと向かっていく。
そして、演習場の上空。それは確かに『門』だった。
「これがビクーニャ国の『門』か……」
演習場の上空3m程の場所にぽっかりと開いた光の穴をタクマが興味深そうに見上げる。
「東方では違うの?」
「ああ、あんな禍々しい『門』は見た事がないな」
アンネエルカの問いに、胸元の首飾りをいじりながらタクマが答えた。
「さて、いったい何を召喚する為の門だ」
言ってタクマは鞄からモノクルを取り出す。
「それは?」
「『視る』ための道具さ」
モノクルを装着したタクマは、空に開いた門を眼鏡越しに睨み付けた。