曲がり角のカレ

王立アプリーリス魔法学院 イベントノベル(テーマ)制作 大和気 いぐる納品 2021年04月03日 20時19分12秒

「わーわー、遅刻! 遅刻だよお!」

 お約束を口にしつつ、アルマ・ヴァレンタインは走っていた。
 廊下は走行厳禁。でも、最初の授業から遅刻するわけにもいかない。

 アルマは王立アプリーリス魔法学院の新入生。
 入学式の後、四苦八苦しながらスワン寮への引っ越しを終え。
 昨夜はくたくたでベッドに入った。
 まあ、それだけなら別にいい。ちゃんと朝は起きられたし。

 問題なのは朝食だった。
 美味しいと評判の食堂に行ったっていい。
 だけど、イマイチ昨日の疲れが抜けていない気がしたのだ。

(ここは、一発キめておくべきかな……)

 滋養強壮剤でも飲むノリで、アルマは荷物から黒焼きを取り出した。
 いや、実際、滋養強壮の効果はあるのだけれど。

 串に刺さったイモリ、カエルの脚、ヘビの尻尾……どれにしようか。
 たっぷり迷ってしまった。
 いや、それでもまだ時間はあった。

 まずかったのは、欲張ったことだった。
 相乗効果を期待して、カエルの脚とヘビの尻尾の両方に手を出してしまった。
 ――結果は。

 サイッコーにハイってヤツだった。

 しばらくは、身支度を整えるどころのテンションではなかったのである。

 かくして冒頭に戻る。
 後から気づいたが、なぜか、残りのイモリ串をくわえて出てきていた。
 おかしなテンションのせいだったのかもしれない。

 出てきちゃったのだから、仕方ない。
 もったいないし、教室につくまでに食べてしまおう。
 アルマは器用に串を唇で送りながら、黒焼きを味わった。

 ちなみに、この行為、非常に危険である。
 良い子は絶対に串をくわえたまま走ってはいけない。
 なぜなら――。

 どんっ!

 お約束どおり、アルマは曲がり角で誰かにぶつかった。
 ぶつかってしまった。

 時間がゆっくりと流れる気がした。
 さらさらの黒髪、気品にあふれながらも、どこか儚げな美貌。
 非の打ち所のない、美少年――いや、皇子様。

 アルマは後に知るのだったが、ドラゴン寮長のレイウェストであった。

 ズキンと何かが刺さる衝撃が走った。
 これはもしかして、恋の矢? いいえ――。

 突き刺さったのは、ハートじゃなくて口内で。
 恋の矢じゃなく、イモリ串だった。

「オオアアウァアァァァーーーー!!」

 アルマは乙女にあるまじき悲鳴をあげて、転げ回った。
 レイウェストはドン引きだった。
 フラグも串も、ボッキリ折れていた。

 あぶないから、本当にやめようね。

登場キャラクター

アーカイブ生成日時 2026年08月05日 14時56分25秒 ・ world0