学院の仲良し三人組と七不思議のハイカイさん

王立アプリーリス魔法学院 イベントノベル(テーマ)制作 空色みなも納品 2021年04月01日 10時31分01秒

●
 王立アプリーリス魔法学院――ビクーニャ王国に存在し、魔法を操る生徒が通う教育機関。
 そんな夢の学園で、夜の帳が下りた校舎を行く仲良し三人組の姿があった――。

●
 闇に閉ざされていた校舎に、ふわり――と柔らかい光が灯る。

「学園の七不思議の噂は本当なのでしょうか?」
 学園に通う三年生、ルアンナ・ミュラーの灯した魔法の照明だ。
 ルアンナがきっちり着こなす、竜の吐き出す灼熱の吐息を思わせるような赤の制服は、ルアンナがドラゴン寮の所属であることを示している。
 後ろで一本に編まれたルアンナの髪には、深紅の薔薇が飾られていた。

「アタシが言うんだから間違いないって! ……まあ、アタシも聞いた話だから、今から確かめに行くんだけど」
 そう話しながら、落ち着きなくキョロキョロと周囲を見回すベアトリーチェ・カロッサも、ルアンナと同学年。
 サイドテールにした髪を緩めに巻いたベアトリーチェは、胸元の黄色いリボンが鮮やかなペガサス寮の制服を着崩していた。
 太ももがちらりと覗く丈を短くしたベアトリーチェのスカートは、隣に並ぶルアンナの長いスカートとは対照的だ。

「本来は夜中に出歩くのは良くないことですが――」
 お二人を危険な目に遭わせたくはないですからね、と呟いたのは、やはり三年生のクローリカ。
 三つ編みにした髪を首元に揺らすクローリカがまとう、落ち着いた青の制服はグリフォン寮のもの。
 そのズボン式制服のピシッとした着こなしは、クローリカの生真面目な性格を表していた。

「夜な夜な校舎に現れるというハイカイさん――その真相を確かめるため、ですから」
 ルアンナの語ったように、三人は夜の学園にまつわる噂話を聞きつけ、ベアトリーチェの発案により校舎の探検に訪れていたのだ。

 その学園に伝わる噂というのが、ハイカイさん。
 巨体を引きずりながら夜の校舎を徘徊し、夜中にうろつく生徒を発見すると猛スピードで追いかけてくるという――。

「そのために、わざわざ私たちが危険を冒すこともないと思うのですけどね」
 油断なく周囲に目を配るクローリカの手には、うっすら光り輝く剣が握られていた。
 その剣はクローリカが魔法により生み出したものであり、核として魔法の杖が埋め込まれている。
 もともと杖にあしらわれていたグリフォンの羽が、剣の柄頭に揺れていた。

「だーかーらー、そんなの面白いからに決まってるじゃない……」
 言葉の内容とは裏腹に、ベアトリーチェの声はかすかに震えていた。
 どうやら肝試しを自分から提案したものの、今になって怖くなってしまったようだ。
 ファンシーな小物が所狭しと並んだ革バックを体の前に抱え、ベアトリーチェは身体を縮こまらせている。

「ひゃっ!?」
 突然ガタガタッと廊下に響いた音に、ベアトリーチェは思わずルアンナに飛びついた。

「きゃっ!?」
「どうしました!?」
 釣られて驚くルアンナと、慌てて剣を構えて警戒するクローリカ。

「……風で窓が鳴っているようですね」
 クローリカは音の発生源を確かめ、ほっと胸を撫で下ろす。

「もー、びっくりさせないでくださいよ、ベアトさん」
「だって、だってえ」
 頬を膨らませたルアンナに、それでもベアトリーチェは暫くしがみついていた。

●
 ダカダカダカッ……廊下の角を曲がった三人の後方で、再び騒々しい音が鳴り響く。

「うう……」
「大丈夫ですよ、きっとまた風の音です」
 びくりと震えたベアトリーチェを、安心させようとルアンナが声をかける。

「いえ、これは……床の鳴る音?」
 しかし、耳を澄ませていたクローリカは気付いていた。
 この音は先程までとは異質なものであり――しかも、だんだんと三人のもとへ近づいて来ている。

「まさかっ――ハイカイさん!?」
 続いてルアンナもそのことに気付き、急いで後ろを振り返る。
 ルアンナの目に映ったのは――白い巨体を横滑りさせながら廊下の角で見事なコーナリングを決めた、四足歩行の謎生物であった。

●
「きゃーきゃー!?」
 ベアトリーチェの悲鳴が夜の校舎に響き渡る。
 あまりに面妖な姿でハイカイさんが猛然と追いかけてくるものだから、三人はとりあえずダッシュで逃げていた。

「はっ!? 逃げてどうしますか、私たち!? ハイカイさん事件を解決しにきたのでした!」
 ややあって自分たちの目的を思い出したルアンナは、勇気を奮い立たせてハイカイさんに向き直る。

「やるしかありませんかっ……!」
 クローリカもハイカイさんが徐々に距離を詰めているのを感じていたので、覚悟を決めてハイカイさんを迎え撃つ。

「ここは通しませんっ!」
 廊下の闇に、クローリカが振るった魔法の剣が一筋の光を描き出す。
 剣が鼻先を掠めたハイカイさんは、その膨大な質量を持つであろう巨体に急ブレーキをかけた。

「今のうちに……! えーと、あれでもない、これでもない」
 それを見たベアトリーチェも足を止め、肩に下げた革バックから召喚術の触媒を取り出そうと、中身をあれこれ取り出しては周囲に散らかしている。

「これ、かな? いいや、使っちゃえ! 出でよ! 宵闇に舞う光の蝶!」
 薄暗い中で、ベアトリーチェは鞄の中から一つの触媒を探り当てると、ペガサスのたてがみを巻いた杖を用いて、時空の遥か彼方へと呼びかける。
 ベアトリーチェの召喚に応え現れたのは、鱗粉に覆われた翅を大きく広げた、美しき蝶の使い魔――ではなく。

「これ蛾、ですね」
「きゃー、間違えちゃった!」
 クローリカの冷静な指摘を受け、自らの失敗に気付いたベアトリーチェ。

 しかし、召喚された蛾の使い魔は、ハイカイさんに毒の鱗粉を浴びせることで、その体を痺れさせることに成功する。
 これはこれで、結果オーライというやつだ。
 蛾の使い魔は役目を終えると、元いた世界へと還っていった。

「ありがとうございます、クローリカ、ベアトさん! 後は私が!」
 ルアンナが手にした魔法の杖を、指揮棒のように優雅に振るう。
 ドラゴンの牙を削りだして作られたルアンナの杖は、先端に炎を灯していた。

 ハイカイさんへと向け、ルアンナが突き付けた杖から激しく炎が噴き出し、ハイカイさんの巨体を飲み込んでいく。
 そして火炎が全て過ぎ去った後――ハイカイさんの姿はそこから消えていた。

「跡形もなく燃え尽きた……?」
「いえ、これはもしかして――」
 訝しむクローリカに、ベアトリーチェが自らの予測を述べた。
 ルアンナもそれを聞いた結果、三人は互いに顔を見合わせることになった。

●
「――はぁ、またペガサス寮の仕業か、って言われちゃうよ」
 事件の犯人を見つけた後、ベアトリーチェは溜息をついていた。

「まあまあ、夜中にこっそり召喚術の練習をしていた、だなんて健気じゃないですか」
 それを慰めるルアンナの言葉が示す通り、ハイカイさんはペガサス寮のある生徒が召喚術の練習をするたびに、失敗した結果として呼び出されていたのだ。

「ベアトリーチェさんも練習したほうがいいんじゃないですか? 夜中に校舎を使うのはいけませんけど」
 そう言って、クローリカもクスクスと笑う。

「あっ、あの時は暗かったから触媒を間違えただけだし! 普段は成功してるから!」
 精一杯の反論を試みるベアトリーチェであったが、その必死な様子に、ルアンナも悪いと思いながらも笑ってしまった。
 そして二人の笑顔を見たことで、ベアトリーチェも一緒に笑ったのだった。

登場キャラクター

アーカイブ生成日時 2026年08月05日 14時56分25秒 ・ world0