【甘休】とある2人の美味しい休日
清和アヤカシ闘乱帖 イベントノベル(テーマ)侠客制作 菊華 伴納品 2026年05月11日 15時10分37秒
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――甘味処『甘休』。
その一番奥の席に座り、レビト・ベータはさっそくおしながきを手に取った。
「今日は何にしよっかなー! 姐さんの奢りだよね? ねっ?」
「仕方ありませんね……」
姐さんと呼ばれた女性、黒卯 由縁(くろう ゆえん)は苦笑しながらレビトの頭を撫でる。
レビトはとある国のマフィアで、現在『トナミ組』の食客である。彼は、『トナミ組』と関係が深い拝み屋の由縁の家にやっかいになっていた。所謂居候である。その繋がりでよく共に仕事をすることも多かった。
注文を終え、何気なく店内を見ていたレビトは「ん?」と首を傾げた。
「なんか、井上機関の隊員さん多くない?」
「そういえば、最近よく来てくれるようになったそうですよ」
由縁が女将から聞いた話をすれば、レビトは「まぁ、女将の作る甘味は美味しいからねー」となぜか自慢げな顔になっていた。
女将曰く、新人隊員達の他とある部隊の隊長とその部下が足を運んだからか、ちらほら井上機関の隊員がこの甘味処を訪れるようになったらしい。
「もしかして、こっちのお客減った?」
「それは微妙な所ですね。ほら、女将はそういうの気にしない性質ですし」
2人がそんな風に話していると「何こそこそ話してるんだい?」と女将が苦笑しながら声をかけ、注文の品を置いた。
「今日はくりぃむそーだの気分なんだ。それとナポリタン! 姐さんは?」
「今日は少し冷えるので、磯辺焼きとお茶ですよ」
お互い注文した物を口にしていると、様々な噂が聞こえてくる。
「酒を武器にする侠客が虚相手に大暴れした」とか、「とある劇場で歌う歌姫が大人気」とか、「子どもと遊ぶ、動くぬいぐるみ」とか等々。
その噂がまた面白い話を持ってくることもあるから由縁としてはもう少し耳を澄ませたいところなのだが、傍らでレビトが無邪気に「くりぃむそーだ美味しい」と言いながら鼻歌交じりに楽しんでいるから気がそれる。
「もう少し落ち着きなさい。紳士的に」
「わっ、解ってるよ」
そう言いながらも、幸せそうに味わう姿を見るとまだ幼さが抜けないなぁ、と由縁は思う。
「貴方だって侠客の1人なのですからね」
「わかってるよぉ。でも、このしゅわしゅわで甘い素敵な物の前では童心に帰るって」
由縁は「今も十分幼いですよ」とはあえて言わず、優しい眼差しを向ける。
それでも知っている。目の前のあどけなさを残した少年が切り裂き魔もかくやと言われるほどのナイフ遣いである事を。2本の妖刀を振るい虚をばっさばっさと切り倒す姿は、今くりぃむそーだに夢中になっている姿と結びつきにくい。
(まぁ、どっちもレビトさんなのではあるのですが)
1つため息を吐くと、彼女もまた磯辺焼きに口を付けた。
(所作が綺麗だよなぁ)
レビトは由縁が磯辺焼きを口にする様子を見ながら、そんなことを思った。
家族がヤシロに所属する中、一人拝み屋として『トナミ組』に協力し続ける由縁をレビトはすごいな、と思っている。彼女曰く今も家族との仲は悪くないらしいが、「祭神と交流できないなんて息苦しい」という理由でヤシロ入りを拒絶したのもあり、他のヤシロの人間からは良く思われていないらしい。
商売の邪魔をされた事があるとも噂で聞いたが、そんなことを感じさせない清廉さというか、すっきりとした部分が由縁にはある。そんなところをレビトは尊敬していた。
所属するマフィアのボスから八洲国の東都に渡るよう言われたレビトは、魔導科学庁の技師として呼ばれた養い親と共に妖刀2本と少しの荷物だけ持って渡ってきた。
最初は養い親とも離れねばならず、右も左も分からず困っていたが由縁のおかげでだいぶ東都に馴染んだと思っている。
「ねぇ、今日はこの後どうするの? 僕は明日までまるまるお休みだけど」
「ちょっと気になるお店があるから、買い物に付き合って頂戴。くりぃむそーだはその前払い。ちゃんとお駄賃もあけますから」
レビトの問いに由縁がにこやかに答えると、そのまま2つ目の磯辺焼きを口にする。幸せそうに微笑む彼女に、レビトは「姐さんの頼みならば」と楽し気に頷いた。
ナポリタンは野菜の風味とベーコンのしょっぱさ、よい茹で加減のパスタをうまくケチャップが絶妙なバランスで纏めている。まさに素敵な組み合わせだ、とレビトは顔を綻ばせる。
「ふふ~、ナポリタンってくりぃむそーだにも合うなぁ」
「幸せそうで何よりです」
由縁が頬杖をついて柔らかい声で言う。
こうした一時が、2人にとってもいい息抜きになっている。だからこそ、厳しい虚との戦いや新政府側からの圧力などと乗り越えて行けるのだ。
「また奢って下さいね、姐さん」
「懐があったかくなったらね」
そんなことを言い合いながら2人の美味しい時間は過ぎていく。
(終)
――甘味処『甘休』。
その一番奥の席に座り、レビト・ベータはさっそくおしながきを手に取った。
「今日は何にしよっかなー! 姐さんの奢りだよね? ねっ?」
「仕方ありませんね……」
姐さんと呼ばれた女性、黒卯 由縁(くろう ゆえん)は苦笑しながらレビトの頭を撫でる。
レビトはとある国のマフィアで、現在『トナミ組』の食客である。彼は、『トナミ組』と関係が深い拝み屋の由縁の家にやっかいになっていた。所謂居候である。その繋がりでよく共に仕事をすることも多かった。
注文を終え、何気なく店内を見ていたレビトは「ん?」と首を傾げた。
「なんか、井上機関の隊員さん多くない?」
「そういえば、最近よく来てくれるようになったそうですよ」
由縁が女将から聞いた話をすれば、レビトは「まぁ、女将の作る甘味は美味しいからねー」となぜか自慢げな顔になっていた。
女将曰く、新人隊員達の他とある部隊の隊長とその部下が足を運んだからか、ちらほら井上機関の隊員がこの甘味処を訪れるようになったらしい。
「もしかして、こっちのお客減った?」
「それは微妙な所ですね。ほら、女将はそういうの気にしない性質ですし」
2人がそんな風に話していると「何こそこそ話してるんだい?」と女将が苦笑しながら声をかけ、注文の品を置いた。
「今日はくりぃむそーだの気分なんだ。それとナポリタン! 姐さんは?」
「今日は少し冷えるので、磯辺焼きとお茶ですよ」
お互い注文した物を口にしていると、様々な噂が聞こえてくる。
「酒を武器にする侠客が虚相手に大暴れした」とか、「とある劇場で歌う歌姫が大人気」とか、「子どもと遊ぶ、動くぬいぐるみ」とか等々。
その噂がまた面白い話を持ってくることもあるから由縁としてはもう少し耳を澄ませたいところなのだが、傍らでレビトが無邪気に「くりぃむそーだ美味しい」と言いながら鼻歌交じりに楽しんでいるから気がそれる。
「もう少し落ち着きなさい。紳士的に」
「わっ、解ってるよ」
そう言いながらも、幸せそうに味わう姿を見るとまだ幼さが抜けないなぁ、と由縁は思う。
「貴方だって侠客の1人なのですからね」
「わかってるよぉ。でも、このしゅわしゅわで甘い素敵な物の前では童心に帰るって」
由縁は「今も十分幼いですよ」とはあえて言わず、優しい眼差しを向ける。
それでも知っている。目の前のあどけなさを残した少年が切り裂き魔もかくやと言われるほどのナイフ遣いである事を。2本の妖刀を振るい虚をばっさばっさと切り倒す姿は、今くりぃむそーだに夢中になっている姿と結びつきにくい。
(まぁ、どっちもレビトさんなのではあるのですが)
1つため息を吐くと、彼女もまた磯辺焼きに口を付けた。
(所作が綺麗だよなぁ)
レビトは由縁が磯辺焼きを口にする様子を見ながら、そんなことを思った。
家族がヤシロに所属する中、一人拝み屋として『トナミ組』に協力し続ける由縁をレビトはすごいな、と思っている。彼女曰く今も家族との仲は悪くないらしいが、「祭神と交流できないなんて息苦しい」という理由でヤシロ入りを拒絶したのもあり、他のヤシロの人間からは良く思われていないらしい。
商売の邪魔をされた事があるとも噂で聞いたが、そんなことを感じさせない清廉さというか、すっきりとした部分が由縁にはある。そんなところをレビトは尊敬していた。
所属するマフィアのボスから八洲国の東都に渡るよう言われたレビトは、魔導科学庁の技師として呼ばれた養い親と共に妖刀2本と少しの荷物だけ持って渡ってきた。
最初は養い親とも離れねばならず、右も左も分からず困っていたが由縁のおかげでだいぶ東都に馴染んだと思っている。
「ねぇ、今日はこの後どうするの? 僕は明日までまるまるお休みだけど」
「ちょっと気になるお店があるから、買い物に付き合って頂戴。くりぃむそーだはその前払い。ちゃんとお駄賃もあけますから」
レビトの問いに由縁がにこやかに答えると、そのまま2つ目の磯辺焼きを口にする。幸せそうに微笑む彼女に、レビトは「姐さんの頼みならば」と楽し気に頷いた。
ナポリタンは野菜の風味とベーコンのしょっぱさ、よい茹で加減のパスタをうまくケチャップが絶妙なバランスで纏めている。まさに素敵な組み合わせだ、とレビトは顔を綻ばせる。
「ふふ~、ナポリタンってくりぃむそーだにも合うなぁ」
「幸せそうで何よりです」
由縁が頬杖をついて柔らかい声で言う。
こうした一時が、2人にとってもいい息抜きになっている。だからこそ、厳しい虚との戦いや新政府側からの圧力などと乗り越えて行けるのだ。
「また奢って下さいね、姐さん」
「懐があったかくなったらね」
そんなことを言い合いながら2人の美味しい時間は過ぎていく。
(終)