【恋神】恋する神よ、永遠に
清和アヤカシ闘乱帖 イベントノベル(テーマ)拝み屋制作 樫木間黒納品 2026年06月10日 15時18分15秒
百舌と契約している妖神の一柱が、虚化した。
「明日、妖神達には最後の求婚を行ってもらうの」
そして、琵音が誰を選ぶかを決める。
急な話ではあるが、百舌は「いつ誰が虚化するかもわからない」と譲らない。
「はぁー、しょうがない。流石に答えを出さないままって訳には行かなさそうだよねぇ……」
彼は頭を掻きながら渋々といった様子だったが、頷いた。
その日の夜、百舌は中々眠れなかった。
契約している妖神達が落ち着かないとこういう事もあるのか。
「――で、琵音くんは結局誰が好きなんだろうね」
そう切り出したのは白申。
「わ……わからない」
寡黙な黒酉でなくとも煮え切らない返事になっていただろう。
彼女達のほとんどは「誰が選ばれるのか」を気にしている中、黄未だけは別の事に関心を寄せているようだった。
「ねぇ……琵音お兄ちゃんが誰か一人を選んだら、そこで契約はおしまいなのかな……?」
黄未の不安そうな声に、共に過ごした孤児仲間達の影が重なる。
「その時は各々に契約を続ける意思があるか確認するつもりだわ。……全くこれまで通りとはいかないかもしれないけれど」
百舌は慣れ親しんだ調子で説いた。それで不安が拭い切れた訳ではないけれど――次第に声は乏しくなって、やっと百舌は眠りにつけた。
●
翌日。
百舌の身体を使った、最後のアピールが始まる。
「琵音」
最初に動いたのは赤寅だ。彼女は力強く襟の布を引っ張る。前屈みは、琵音にとって苦しい姿勢だ。至近距離で彼女と目が合う。
「あ、アンタの事――一番好きなのはわたし! 他の女選んで後悔する前にわたしを選びなさい! ……以上」
急にしおらしくなって、襟首を掴んだまま目に灯る光が変わる。今度は青巳だ。
「抱っこ、して?」
言われるがままに百舌の小さな身体を抱え上げる。ご満悦に、手の届く位置にある男の頬を優しく撫でた。
「んふー。何度見てもすてきな顔~……わたしだけのものに、させてくれない? だめー?」
しばらく見つめ合っていたが、不意に雰囲気が変わった。黄未はそのまま一層力を込めて男の腕にしがみつく。
「お兄ちゃんに迷惑はかけないよ。だから、一人にしないで……」
それだけ告げれば十分と言わんばかりに白申と交代した。
「あははっ、なんだか恥ずかしいね!」
そう言うと琵音の腕から飛び降りる。しかし距離は近くに寄せたまま、小さな両掌で一回り大きな手を包み込んだ。
「忘れないでね。一番君の心を釘付けにできるのは、わたしなんだから。他の女の子に目移りできなくなったら嬉しいなぁ、なーんて」
最後に現れた黒酉は「あ」と頼りなく口を開いて、一度頭の動作ごと振り払ったかと思えば必死に言葉を手繰り寄せるのだ。
「……す、好き。あなたが……忘れて、も……わたしは、覚えて、る……から。この、好きは、本当なの……」
無意識の内に、彼の小指へ五本の指を絡める。それは蝋燭の灯火一つに頼るかのように心許なく、しかし何よりも一途な心の表れに他ならなかった。
●
全員分の告白が終わった。
ここまで来たら百舌は見守るのみ。幾つもの期待と不安の視線に晒されながら琵音が下した答えとは――
「まぁ、その。なんというかね? みんな友達ってことじゃ、だめかな?」
「――――はぁ?」
それは百舌だけではなく複数の妖神達を代表した言葉でもあったのだろう。
呆れるしかない。この期に及んで「誰も選びません」と言っているも同然の答えに。
「こういうふうにしてるのって楽しいからさ。なら、平等に友達が一番と思ったんだけど」
「誰か一人に決めるように、って――」
「……我ながら残酷な選択をしたとは思う。でも、みんなあんなに頑張ったんだし、誰か一人以外を無碍にするのもさ、それはそれでつらいんじゃないかなぁって」
――みんなはどう思う?
その言葉を皮切りに、百舌は暫し沈黙を余儀なくされた。
「ほんっと最低! ……これ以上被害者が出ないように一生見張ってやるんだから」
口調こそは厳しいが、暗に「愛想をつかして離れる事はない」と宣言している。赤寅は内心ホッとしているのだろう。
「じゃあ、これから先もっと魅力的に思ってもらおー……ふわ~、慣れないことして疲れたぁ。おやすみー……」
「ええー……わたしは流石にどうかと」
休眠状態に入る青巳。呆れる白申。
その裏で、黒酉は自分の男を見る眼を疑いながらも最も悪い結末が訪れなかった事に喜んでいるのだろう。
「よかったぁ。まだこのまま、みんなで一緒にいられるんだね」
小さく吐き出した黄未の声に、百舌も「そうね」と呟いた。ああは言ったけれど、大変でありながらも騒がしい日常に居心地の良さを感じているのは間違いないのだから――
(それがあの甲斐性なしを中心に回っているのは少し癪なのだわ)
人間であろうが妖神であろうが、人を見る眼は正確であるに越した事はない。
まだ恋も知らぬ少女は、強くそう思った。
「明日、妖神達には最後の求婚を行ってもらうの」
そして、琵音が誰を選ぶかを決める。
急な話ではあるが、百舌は「いつ誰が虚化するかもわからない」と譲らない。
「はぁー、しょうがない。流石に答えを出さないままって訳には行かなさそうだよねぇ……」
彼は頭を掻きながら渋々といった様子だったが、頷いた。
その日の夜、百舌は中々眠れなかった。
契約している妖神達が落ち着かないとこういう事もあるのか。
「――で、琵音くんは結局誰が好きなんだろうね」
そう切り出したのは白申。
「わ……わからない」
寡黙な黒酉でなくとも煮え切らない返事になっていただろう。
彼女達のほとんどは「誰が選ばれるのか」を気にしている中、黄未だけは別の事に関心を寄せているようだった。
「ねぇ……琵音お兄ちゃんが誰か一人を選んだら、そこで契約はおしまいなのかな……?」
黄未の不安そうな声に、共に過ごした孤児仲間達の影が重なる。
「その時は各々に契約を続ける意思があるか確認するつもりだわ。……全くこれまで通りとはいかないかもしれないけれど」
百舌は慣れ親しんだ調子で説いた。それで不安が拭い切れた訳ではないけれど――次第に声は乏しくなって、やっと百舌は眠りにつけた。
●
翌日。
百舌の身体を使った、最後のアピールが始まる。
「琵音」
最初に動いたのは赤寅だ。彼女は力強く襟の布を引っ張る。前屈みは、琵音にとって苦しい姿勢だ。至近距離で彼女と目が合う。
「あ、アンタの事――一番好きなのはわたし! 他の女選んで後悔する前にわたしを選びなさい! ……以上」
急にしおらしくなって、襟首を掴んだまま目に灯る光が変わる。今度は青巳だ。
「抱っこ、して?」
言われるがままに百舌の小さな身体を抱え上げる。ご満悦に、手の届く位置にある男の頬を優しく撫でた。
「んふー。何度見てもすてきな顔~……わたしだけのものに、させてくれない? だめー?」
しばらく見つめ合っていたが、不意に雰囲気が変わった。黄未はそのまま一層力を込めて男の腕にしがみつく。
「お兄ちゃんに迷惑はかけないよ。だから、一人にしないで……」
それだけ告げれば十分と言わんばかりに白申と交代した。
「あははっ、なんだか恥ずかしいね!」
そう言うと琵音の腕から飛び降りる。しかし距離は近くに寄せたまま、小さな両掌で一回り大きな手を包み込んだ。
「忘れないでね。一番君の心を釘付けにできるのは、わたしなんだから。他の女の子に目移りできなくなったら嬉しいなぁ、なーんて」
最後に現れた黒酉は「あ」と頼りなく口を開いて、一度頭の動作ごと振り払ったかと思えば必死に言葉を手繰り寄せるのだ。
「……す、好き。あなたが……忘れて、も……わたしは、覚えて、る……から。この、好きは、本当なの……」
無意識の内に、彼の小指へ五本の指を絡める。それは蝋燭の灯火一つに頼るかのように心許なく、しかし何よりも一途な心の表れに他ならなかった。
●
全員分の告白が終わった。
ここまで来たら百舌は見守るのみ。幾つもの期待と不安の視線に晒されながら琵音が下した答えとは――
「まぁ、その。なんというかね? みんな友達ってことじゃ、だめかな?」
「――――はぁ?」
それは百舌だけではなく複数の妖神達を代表した言葉でもあったのだろう。
呆れるしかない。この期に及んで「誰も選びません」と言っているも同然の答えに。
「こういうふうにしてるのって楽しいからさ。なら、平等に友達が一番と思ったんだけど」
「誰か一人に決めるように、って――」
「……我ながら残酷な選択をしたとは思う。でも、みんなあんなに頑張ったんだし、誰か一人以外を無碍にするのもさ、それはそれでつらいんじゃないかなぁって」
――みんなはどう思う?
その言葉を皮切りに、百舌は暫し沈黙を余儀なくされた。
「ほんっと最低! ……これ以上被害者が出ないように一生見張ってやるんだから」
口調こそは厳しいが、暗に「愛想をつかして離れる事はない」と宣言している。赤寅は内心ホッとしているのだろう。
「じゃあ、これから先もっと魅力的に思ってもらおー……ふわ~、慣れないことして疲れたぁ。おやすみー……」
「ええー……わたしは流石にどうかと」
休眠状態に入る青巳。呆れる白申。
その裏で、黒酉は自分の男を見る眼を疑いながらも最も悪い結末が訪れなかった事に喜んでいるのだろう。
「よかったぁ。まだこのまま、みんなで一緒にいられるんだね」
小さく吐き出した黄未の声に、百舌も「そうね」と呟いた。ああは言ったけれど、大変でありながらも騒がしい日常に居心地の良さを感じているのは間違いないのだから――
(それがあの甲斐性なしを中心に回っているのは少し癪なのだわ)
人間であろうが妖神であろうが、人を見る眼は正確であるに越した事はない。
まだ恋も知らぬ少女は、強くそう思った。