【恋神】その恋は嵐のように
清和アヤカシ闘乱帖 イベントノベル(テーマ)拝み屋制作 樫木間黒納品 2026年05月28日 09時33分45秒
琵音が百舌――に憑依した六柱の妖神から求婚を受けて、半月ほどの時間が流れた。その間も特に進展はなく、琵音がアプローチを受ける日々が連日のように続く。
ある時は色仕掛けで、
「男の人ってぇ……こういうのが、好きなんだよねー?」
「もっと育ってからやり直して欲しいかなぁ」
(青巳、ちょっと! わたしの身体でそれは、やりすぎなのだわ?!)
「…………っ!」
(黒酉は無言で服を脱ごうとしないでー!?)
ある時は手料理を披露し、
「いいお嫁さんには、美味しいご飯を作れる腕前が不可欠だよね!?」
「ちょっと、白申! それはわたしが先にやろうとしてたのに!」
「赤寅ちゃん、完成した後に美味しい所だけ持って行こうだなんて狡いよー!」
「……俺は空腹のまま、いつまで待てばいいのかなぁ?」
ある時は書物から学んだ心揺さぶる場面を真似して、
「お兄ちゃん、上目遣いって……こう、かな?」
「いいんじゃないかなぁ」
「雨が降ってしまいましたね……。さ、わたしと一緒の傘に入りませんか?」
(このためだけに天候を操るなんて……規模が違いすぎるのだわ)
妖神達はあの手この手で琵音を振り向かせようとするが、女慣れしている琵音は(突拍子もない行動に戸惑う事はあれど)軽くいなしてしまう。その結果、表面上はいつも通り言い寄って言い寄られてが続くけれど、当事者の心境まで永遠にそのままのはずがなく――
●
「……疲れたのだわ」
「あはは、俺としては結構楽しいんだけどね~」
「あなたは身体を貸す経験がないから、そんな事が言えるのだろうけれど……」
百舌の小さな体躯からは想像がつかないほど「怒らせてはいけないオーラ」が出ているように感じた。流石の琵音も、咄嗟に謝罪する。
「でも、いい加減誰か一柱に決めないの?」
「う~ん……正直、誰が好きかって言われたらみんな同じくらい好きだし」
これまでもそうだったように、今更身を固めるつもりはない。誰かを選べるほど彼女達への好意に差がある訳でもなく。
「別にこのままでもいいって思うんだけどね」
「それでは困ります」
「いや、百舌さんには悪いとは思ってるけど! ん? ――――いや、違うな。君は……丑空さん?」
問いかけに答えは返って来ない。ただ只管怒っているように声を震わせ、轟轟と不吉な風の音を纏う。それは彼女自身が嵐になったかのようで。
「それでは困ります――でないと、予知が――わたしの未来視が間違いだなんて――」
様子がおかしい、と気づいた時には手遅れだった。
何か強い力で弾き出されたかのように、百舌の身体が崩れ落ちる。その横には先程までいなかったはずの――空に溶けてしまうほどに澄み渡った色をした牛の姿があった。
「あれは丑空? ……まさか!」
百舌が叫んだ通り、空に浮かぶ牛が、妖神としての丑空本来の姿なのだろう。
だとすれば、それが今ここで突然姿を現したのはどういう事か。
考える暇を許さず、天の丑はその様相を変貌させていく。角は禍々しく伸び、均整の取れた体格は歪に膨らみ、誰も寄せ付けないほどに分厚い黒雲を纏う。
胸の位置にぽっかりと穴を開けた、牛に似た異形。それは神と呼ぶより、
「丑空が……虚になってしまったのだわ……」
「おいおい……勘弁して欲しいねぇ」
短い付き合いだったが、それでも見知った相手だ。苦虫を潰した顔にもなろう。
「――間違いでは――間違いでは――間違いでは――」
虚化した丑空は、周辺諸共暴風と雷雨の中に琵音を巻き込もうとする。
見知った相手といえど、無差別に被害を振り撒くようになった存在を放置できる彼らではない。
「わたしが“天候操作”を抑えるわ。琵音さんは、その隙に彼女を討って」
炎が黒雲を焼き、激流と稲光が嵐を相殺し、蔦と岩壁が暴風を遮る。
丑空は、百舌と契約した中で最も強力な妖神だ。五柱がかりとはいえその力を抑えるだけで精一杯。だからこそ、百舌が齎した凪の中を琵音の弓矢が奔る。魔術を込めた矢は、易々と虚の厚い身体に突き刺さった。
「悪いね」
そう言いながらも、弦を弾く指に迷いはなかった。
●
激闘を制したのは虚狩り達だった。
「――これは――運命――なのに」
幾本もの矢を射かけられた死に体の丑は、無念そうに呟きながら消失した。
二人と五柱の妖神達は勝利した。だが、彼らの表情に晴れやかな心地はない。安堵や勝利の喜びよりも、遥かに重く圧し掛かる事実。
丑空が「恋が報われない焦燥」で虚化したのは明白だった。故に、彼らの脳裏に過るのはこれからの事。有り得る未来。
即ち――このまま誰も選ばずに現状維持を続けると、他の妖神達も虚化してしまうのではないか。
不吉な予感を否定する声はない。誰もが恐れているのだろう。この物語の有り得る未来を。
「琵音さん。こうなったからにはもう、誰を選ぶかはっきりさせてもらうのだわ」
「……やれやれ、参ったね」
時間は進む。
不可逆に、残酷に。
ある時は色仕掛けで、
「男の人ってぇ……こういうのが、好きなんだよねー?」
「もっと育ってからやり直して欲しいかなぁ」
(青巳、ちょっと! わたしの身体でそれは、やりすぎなのだわ?!)
「…………っ!」
(黒酉は無言で服を脱ごうとしないでー!?)
ある時は手料理を披露し、
「いいお嫁さんには、美味しいご飯を作れる腕前が不可欠だよね!?」
「ちょっと、白申! それはわたしが先にやろうとしてたのに!」
「赤寅ちゃん、完成した後に美味しい所だけ持って行こうだなんて狡いよー!」
「……俺は空腹のまま、いつまで待てばいいのかなぁ?」
ある時は書物から学んだ心揺さぶる場面を真似して、
「お兄ちゃん、上目遣いって……こう、かな?」
「いいんじゃないかなぁ」
「雨が降ってしまいましたね……。さ、わたしと一緒の傘に入りませんか?」
(このためだけに天候を操るなんて……規模が違いすぎるのだわ)
妖神達はあの手この手で琵音を振り向かせようとするが、女慣れしている琵音は(突拍子もない行動に戸惑う事はあれど)軽くいなしてしまう。その結果、表面上はいつも通り言い寄って言い寄られてが続くけれど、当事者の心境まで永遠にそのままのはずがなく――
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「……疲れたのだわ」
「あはは、俺としては結構楽しいんだけどね~」
「あなたは身体を貸す経験がないから、そんな事が言えるのだろうけれど……」
百舌の小さな体躯からは想像がつかないほど「怒らせてはいけないオーラ」が出ているように感じた。流石の琵音も、咄嗟に謝罪する。
「でも、いい加減誰か一柱に決めないの?」
「う~ん……正直、誰が好きかって言われたらみんな同じくらい好きだし」
これまでもそうだったように、今更身を固めるつもりはない。誰かを選べるほど彼女達への好意に差がある訳でもなく。
「別にこのままでもいいって思うんだけどね」
「それでは困ります」
「いや、百舌さんには悪いとは思ってるけど! ん? ――――いや、違うな。君は……丑空さん?」
問いかけに答えは返って来ない。ただ只管怒っているように声を震わせ、轟轟と不吉な風の音を纏う。それは彼女自身が嵐になったかのようで。
「それでは困ります――でないと、予知が――わたしの未来視が間違いだなんて――」
様子がおかしい、と気づいた時には手遅れだった。
何か強い力で弾き出されたかのように、百舌の身体が崩れ落ちる。その横には先程までいなかったはずの――空に溶けてしまうほどに澄み渡った色をした牛の姿があった。
「あれは丑空? ……まさか!」
百舌が叫んだ通り、空に浮かぶ牛が、妖神としての丑空本来の姿なのだろう。
だとすれば、それが今ここで突然姿を現したのはどういう事か。
考える暇を許さず、天の丑はその様相を変貌させていく。角は禍々しく伸び、均整の取れた体格は歪に膨らみ、誰も寄せ付けないほどに分厚い黒雲を纏う。
胸の位置にぽっかりと穴を開けた、牛に似た異形。それは神と呼ぶより、
「丑空が……虚になってしまったのだわ……」
「おいおい……勘弁して欲しいねぇ」
短い付き合いだったが、それでも見知った相手だ。苦虫を潰した顔にもなろう。
「――間違いでは――間違いでは――間違いでは――」
虚化した丑空は、周辺諸共暴風と雷雨の中に琵音を巻き込もうとする。
見知った相手といえど、無差別に被害を振り撒くようになった存在を放置できる彼らではない。
「わたしが“天候操作”を抑えるわ。琵音さんは、その隙に彼女を討って」
炎が黒雲を焼き、激流と稲光が嵐を相殺し、蔦と岩壁が暴風を遮る。
丑空は、百舌と契約した中で最も強力な妖神だ。五柱がかりとはいえその力を抑えるだけで精一杯。だからこそ、百舌が齎した凪の中を琵音の弓矢が奔る。魔術を込めた矢は、易々と虚の厚い身体に突き刺さった。
「悪いね」
そう言いながらも、弦を弾く指に迷いはなかった。
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激闘を制したのは虚狩り達だった。
「――これは――運命――なのに」
幾本もの矢を射かけられた死に体の丑は、無念そうに呟きながら消失した。
二人と五柱の妖神達は勝利した。だが、彼らの表情に晴れやかな心地はない。安堵や勝利の喜びよりも、遥かに重く圧し掛かる事実。
丑空が「恋が報われない焦燥」で虚化したのは明白だった。故に、彼らの脳裏に過るのはこれからの事。有り得る未来。
即ち――このまま誰も選ばずに現状維持を続けると、他の妖神達も虚化してしまうのではないか。
不吉な予感を否定する声はない。誰もが恐れているのだろう。この物語の有り得る未来を。
「琵音さん。こうなったからにはもう、誰を選ぶかはっきりさせてもらうのだわ」
「……やれやれ、参ったね」
時間は進む。
不可逆に、残酷に。