ありがとうの魔力

王立アプリーリス魔法学院 イベントノベル(テーマ)制作 真柄 葉納品 2021年04月01日 10時29分18秒

「いいですか、寮長というのはですね――」
 いつもの決まり文句から始まった先代寮長のお説教。
 ヒルルクは静かに机を睨みつつ聞いている。反論すれば10倍になって返ってくるので、こちらからは何も言わない。
「聞いていますか?」
「聞いてます!」
「本当に?」
「ほ、本当に……」
「……はぁ、今日はこれくらいにしておきます。また、『バカアホマヌケ』とか寮長らしからぬ発言をしたら、たっぷりお説教しますから覚悟しておいてくださいね」
「は~い……」
 ようやく終わったお説教に、ヒルルクは机に突っ伏した。
「もぉ、終わったらすぐそれなんですから」
「だって、トーラのお話長いんだもの」
 ぐでーっと伸びるヒルルクを呆れながら見下ろすトーラ。
「これはあなたの為にやってるんです。わたしだって試験を控えるこの忙しい時期に、後輩にガミガミ言いたくないですよ」
「じゃ言わなきゃいいのに」
「あなたの手綱を握れるのがわたししかいないから仕方ないじゃないですか」
「手綱って……わたしは馬じゃありませ~ん」
「お気づきないかもしれませんけど、立派なじゃじゃ馬ですよ」
 はぁと大きくため息をつき寮則の書かれた本を閉じたトーラ。
「もう少し寮長としての威厳を持ってくださいね。あなたはこの学院の生命線【スワン寮】の寮長なんですから」
「はいはーい。わかってまーす」
「本当にわかってるんでしょうかね……はぁ。それじゃ、明日も伺いますから、遅れずに来るんですよ」
「はーーい」
 頭だけ起こしたヒルルクを見ながら、トーラは本を鞄にしまった。
「あ、そうだ。トーラ。今夜暇?」
 出口へと向かいかけたトーラに声をかけたヒルルク。
「今夜ですか? 試験勉強の予定ですが……何か用があるんですか?」
「うーん、用といえば用かな」
「……大した用でないのなら遠慮しておきます」
 ヒルルクの返事にジト目で返したトーラはドアに手を掛けた。
「わー! 大した用だから、予定空けてて!」
「……何時ですか?」
「えっと、10時!」
「……門限オーバーじゃないですか。またお説教しましょうか?」
「うぐっ! お、お願い! 今日だけだから! 無礼講で!」
「その言葉、使いどころを間違ってますよ……まったく、大した用じゃなかったら承知しませんからね」
「それは大丈夫!」
「わかりました。それじゃ今夜10時に」
「はい、元寮長!」
 起き上がって敬礼するヒルルクに嘆息しながら、トーラは部屋を後にした。

登場キャラクター

アーカイブ生成日時 2026年08月05日 14時56分25秒 ・ world0