【パイ】お残し厳禁! おぅこのパイを食うんだよ!
清和アヤカシ闘乱帖 イベントノベル(テーマ)マザリモノ制作 高久高久納品 2026年05月06日 13時29分52秒
――近頃、巷で話題となっている甘味処があった。
見る機会が少ない珍しい西洋の菓子を扱う店であり、特に甘いパイが評判なのだという。そんな洋菓子に合う紅茶などの飲み物も各種揃えており、店内で楽しむことが出来るのだという。
その洋菓子が美味である事も評判となっているのだが、それ以上に話題をさらっているのは『客の大半がマザリモノである』ということだろうか。
――『マザリモノ』という呼び名は蔑称だ。肉体が妖神と融合したこの者達を、新政府は決して認めようとしない。故に、表舞台で目立つことはせず、目をつけられぬようにひっそりと生きている者も多い。
そして、そんなマザリモノを快く思わない者も少なからずいる。新政府から目をつけられたくないからか、人と異なる事に忌避感を抱くからか。マザリモノとわかると立ち入らせない店なんかも、あるようだ。
だがこの甘味処は、そんなマザリモノでも堂々と入る事が出来るのだという。店内には人と異なる見た目をしたマザリモノであっても、堂々とこの店の菓子を楽しんでいる姿が見ることができるのだ。そのせいか経営者がマザリモノだとかいう噂もあるが、真偽は定かではない。
「ほう、ここが噂の店か」
隻腕の”白耀”が、件の甘味処を興味深そうに眺めていた。扱っている物が洋菓子である為、店構えも西洋のものとなっている。
麒麟のマザリモノである白耀も、この店を『新しい食べ物をマザリモノが堂々と楽しめる店』として聞いてたのだ。この日は虚狩りの為に外に出ていたのだが、近くを通った為についでに立ち寄ってみたのだ。
「む、これがこの店で口にできる物であるか。パイ、というのか」
パイ生地の上にクリームやフルーツを鮮やかに飾っているサンプルを見て、白耀が小さく「どんなものか、楽しみだな」と呟きつつ、店に足を踏み入れる。
この時店やサンプルを見たせいか、少しばかり白耀は浮かれていたのだろう。
――故に気づかなかった。繁盛というには少々騒がしすぎる音が、店から聞こえている事に。
「そぉい!」
「んぶっ!?」
入店するなり、白耀は飛んできた物を顔面で受け止める事となった。
「……甘い、な。その中に酸味もあって、これは果実か? 悪くない、というか美味いな」
顔に飛んできた物――パイの感想を、白耀は述べるのであった。
●
「いやぁ悪いな! 手元が狂っちまった!」
白耀に結果的ではあるが、パイを投げつけた野猪が豪快に笑った。
野猪も猪のマザリモノである。甘い物好きである為、気兼ねなく楽しめるこの店の噂を聞き訪れていたのだという。
「で、店が戦場になっている原因は――」
「おうよ、アイツのせいだなァ!」
野猪が向けた視線の先には、大きな大福のような丸い塊があった。よく見ると黒い穴があり、大福が虚だというのが分かる。
「大髭回りが食ってるって言ってるでしょうがぁッ!」
で、その大福に向かって一見普通の男がパイを投げつけていた。パイが嫌なのか、見た目に反して機敏な動きで虚が避けるが、追撃しようと男がパイを手に前に出る。
「ぬわぁーッ!?」
が、怒りのせいで周りが見えていない男は、足元に落ちていたパイを踏んで盛大に転倒する。手にあったパイは見事に男の顔面に。
そして男は、その顔面のパイを貪り始めた。
「……大髭回り、美味しいですか?」
先程とは違う、穏やかな口調で男――大髭回りのニガイが言う。偶々大髭回りと食べに来たところ、この件に巻き込まれてガン無視を決め込むはずが、被弾に遭いブチ切れて参戦していたのだ。
この光景を見て、白耀は思うのであった――どっちがアイツだ、と。
「とまぁ見ての通り、アレはパイが嫌いみたいなんだよなァ!」
野猪が言うには、突然現れた虚が店で暴れたのだが、誰かが追い払おうと投げたパイを嫌がるような素振りを見せた為にこうやってパイを投げている、というのだ。
「成程――某も参戦せん!」
事態を把握した白耀が、テーブルに置かれた得物を手に取ると「ふんッ!」という言葉と共に振りかぶって、投げた。
真っすぐに投げつけられたパイを、虚はさっと避ける。
「あ」
「んぶっ!?」
そして、その後ろで体勢を立て直していたニガイの顔面に当たった。その場を一回転するように、顔から倒れこむ。
「す、すまぬ、大丈夫か?」
倒れたニガイに駆け寄る白耀。
「……ほう、この味は南瓜でしょうか? 甘さは控えめですが、また違った美味しさですが、大髭回りはどう思います?」
俯せにニガイは、パイを食べているようであった。どうやらパイがクッションになったようで、ダメージはあまり無いようだ。
「あたしはもっと甘い方が好みだなァ!」
横で、野猪が白耀が投げたパイをつまみ食いするのであった。
●
「わぷっ!? んー、甘い! 美味い!」
誰かが投げたパイが顔に当たり、満面の笑みで堪能する野猪。
「しかし、パイが無くなってきましたね」
パイ塗れになったニガイが、辺りを見回して呟く。その目はよく見ると複眼のようになっており、マザリモノであることがわかる。
「すばしっこいなァ! 全然当たらないんだな!」
同じく、パイ塗れになった野猪が何処か楽しそうに言う。
「あの見た目で、中々俊敏な奴よ」
こちらもパイ塗れの白耀が、感心したように言った。
投げたパイは、虚には悉く躱されていた。そしてそのパイは他の者に当たり、結果的に皆パイ塗れになっているのだ。尚よく見ると皆口元が最も汚れているように見える。これは時折無事なパイを投げるのではなく、口に運んでいたのでそのせいだろう。
このままでは虚を退治する前に、パイが無くなってしまう――そう思われた時であった。他の者が投げたパイを躱す様にして、虚が白耀の方へと向かって来たのだ。
「むぅん! 逃がさん!」
虚を抱くようにして抱えると、白耀は近くの壁に挟むようにして抑え込む。半人半馬の巨体に壁と挟まれ、虚は身動きが取れなくなってしまった。
「おお! パイに挟まれて動けなくなってるなァ!」
白耀に挟まれ、動けなくなっている虚を見て野猪が楽しそうに声を上げる。恐らくは身体についたパイの残骸により、弱っているのだと思われる。
「どうやら年貢の納め時、ってやつですねぇ……大髭回りとのひと時の邪魔をした罪は重いですよ?」
何処に残っていたのか、ひと際大きなパイを手ににじり寄るニガイ。その横で野猪も、パイを手にしていた――「うまうま」と、ついつい口元に運びながら。
――逃げ場の無い虚に向かい、ニガイが掛け声と共に、野猪も飛び上がり、共にパイを叩きつける。
白耀の胸とニガイと野猪のパイに挟まれた事により、虚はたまらないとばかりに退散するのであった。
「むぅ、某の胸がパイ塗れよ」
残ったのは、投げつけられたパイのせいでパイ塗れになった白耀――と、大立ち回りのせいでボロボロになった店内。
このような店内ですぐに営業できるわけもなく。
『今日は臨時休業!?』
甘味処は、店を閉めざるを得なかったのであった。
「まぁ、これだけ暴れてたから仕方ないな! うまうま」
「大髭回り、どうでしょうか。気に入りましたか?」
周りが落ち込む中、野猪とニガイは白耀の身体についたパイを口に運んでいる。
「このクリーム、甘いがくどくないから飽きずに食べられる。悪くない、悪くないぞ」
白耀も白耀で、残ったパイを楽しむのであった。
見る機会が少ない珍しい西洋の菓子を扱う店であり、特に甘いパイが評判なのだという。そんな洋菓子に合う紅茶などの飲み物も各種揃えており、店内で楽しむことが出来るのだという。
その洋菓子が美味である事も評判となっているのだが、それ以上に話題をさらっているのは『客の大半がマザリモノである』ということだろうか。
――『マザリモノ』という呼び名は蔑称だ。肉体が妖神と融合したこの者達を、新政府は決して認めようとしない。故に、表舞台で目立つことはせず、目をつけられぬようにひっそりと生きている者も多い。
そして、そんなマザリモノを快く思わない者も少なからずいる。新政府から目をつけられたくないからか、人と異なる事に忌避感を抱くからか。マザリモノとわかると立ち入らせない店なんかも、あるようだ。
だがこの甘味処は、そんなマザリモノでも堂々と入る事が出来るのだという。店内には人と異なる見た目をしたマザリモノであっても、堂々とこの店の菓子を楽しんでいる姿が見ることができるのだ。そのせいか経営者がマザリモノだとかいう噂もあるが、真偽は定かではない。
「ほう、ここが噂の店か」
隻腕の”白耀”が、件の甘味処を興味深そうに眺めていた。扱っている物が洋菓子である為、店構えも西洋のものとなっている。
麒麟のマザリモノである白耀も、この店を『新しい食べ物をマザリモノが堂々と楽しめる店』として聞いてたのだ。この日は虚狩りの為に外に出ていたのだが、近くを通った為についでに立ち寄ってみたのだ。
「む、これがこの店で口にできる物であるか。パイ、というのか」
パイ生地の上にクリームやフルーツを鮮やかに飾っているサンプルを見て、白耀が小さく「どんなものか、楽しみだな」と呟きつつ、店に足を踏み入れる。
この時店やサンプルを見たせいか、少しばかり白耀は浮かれていたのだろう。
――故に気づかなかった。繁盛というには少々騒がしすぎる音が、店から聞こえている事に。
「そぉい!」
「んぶっ!?」
入店するなり、白耀は飛んできた物を顔面で受け止める事となった。
「……甘い、な。その中に酸味もあって、これは果実か? 悪くない、というか美味いな」
顔に飛んできた物――パイの感想を、白耀は述べるのであった。
●
「いやぁ悪いな! 手元が狂っちまった!」
白耀に結果的ではあるが、パイを投げつけた野猪が豪快に笑った。
野猪も猪のマザリモノである。甘い物好きである為、気兼ねなく楽しめるこの店の噂を聞き訪れていたのだという。
「で、店が戦場になっている原因は――」
「おうよ、アイツのせいだなァ!」
野猪が向けた視線の先には、大きな大福のような丸い塊があった。よく見ると黒い穴があり、大福が虚だというのが分かる。
「大髭回りが食ってるって言ってるでしょうがぁッ!」
で、その大福に向かって一見普通の男がパイを投げつけていた。パイが嫌なのか、見た目に反して機敏な動きで虚が避けるが、追撃しようと男がパイを手に前に出る。
「ぬわぁーッ!?」
が、怒りのせいで周りが見えていない男は、足元に落ちていたパイを踏んで盛大に転倒する。手にあったパイは見事に男の顔面に。
そして男は、その顔面のパイを貪り始めた。
「……大髭回り、美味しいですか?」
先程とは違う、穏やかな口調で男――大髭回りのニガイが言う。偶々大髭回りと食べに来たところ、この件に巻き込まれてガン無視を決め込むはずが、被弾に遭いブチ切れて参戦していたのだ。
この光景を見て、白耀は思うのであった――どっちがアイツだ、と。
「とまぁ見ての通り、アレはパイが嫌いみたいなんだよなァ!」
野猪が言うには、突然現れた虚が店で暴れたのだが、誰かが追い払おうと投げたパイを嫌がるような素振りを見せた為にこうやってパイを投げている、というのだ。
「成程――某も参戦せん!」
事態を把握した白耀が、テーブルに置かれた得物を手に取ると「ふんッ!」という言葉と共に振りかぶって、投げた。
真っすぐに投げつけられたパイを、虚はさっと避ける。
「あ」
「んぶっ!?」
そして、その後ろで体勢を立て直していたニガイの顔面に当たった。その場を一回転するように、顔から倒れこむ。
「す、すまぬ、大丈夫か?」
倒れたニガイに駆け寄る白耀。
「……ほう、この味は南瓜でしょうか? 甘さは控えめですが、また違った美味しさですが、大髭回りはどう思います?」
俯せにニガイは、パイを食べているようであった。どうやらパイがクッションになったようで、ダメージはあまり無いようだ。
「あたしはもっと甘い方が好みだなァ!」
横で、野猪が白耀が投げたパイをつまみ食いするのであった。
●
「わぷっ!? んー、甘い! 美味い!」
誰かが投げたパイが顔に当たり、満面の笑みで堪能する野猪。
「しかし、パイが無くなってきましたね」
パイ塗れになったニガイが、辺りを見回して呟く。その目はよく見ると複眼のようになっており、マザリモノであることがわかる。
「すばしっこいなァ! 全然当たらないんだな!」
同じく、パイ塗れになった野猪が何処か楽しそうに言う。
「あの見た目で、中々俊敏な奴よ」
こちらもパイ塗れの白耀が、感心したように言った。
投げたパイは、虚には悉く躱されていた。そしてそのパイは他の者に当たり、結果的に皆パイ塗れになっているのだ。尚よく見ると皆口元が最も汚れているように見える。これは時折無事なパイを投げるのではなく、口に運んでいたのでそのせいだろう。
このままでは虚を退治する前に、パイが無くなってしまう――そう思われた時であった。他の者が投げたパイを躱す様にして、虚が白耀の方へと向かって来たのだ。
「むぅん! 逃がさん!」
虚を抱くようにして抱えると、白耀は近くの壁に挟むようにして抑え込む。半人半馬の巨体に壁と挟まれ、虚は身動きが取れなくなってしまった。
「おお! パイに挟まれて動けなくなってるなァ!」
白耀に挟まれ、動けなくなっている虚を見て野猪が楽しそうに声を上げる。恐らくは身体についたパイの残骸により、弱っているのだと思われる。
「どうやら年貢の納め時、ってやつですねぇ……大髭回りとのひと時の邪魔をした罪は重いですよ?」
何処に残っていたのか、ひと際大きなパイを手ににじり寄るニガイ。その横で野猪も、パイを手にしていた――「うまうま」と、ついつい口元に運びながら。
――逃げ場の無い虚に向かい、ニガイが掛け声と共に、野猪も飛び上がり、共にパイを叩きつける。
白耀の胸とニガイと野猪のパイに挟まれた事により、虚はたまらないとばかりに退散するのであった。
「むぅ、某の胸がパイ塗れよ」
残ったのは、投げつけられたパイのせいでパイ塗れになった白耀――と、大立ち回りのせいでボロボロになった店内。
このような店内ですぐに営業できるわけもなく。
『今日は臨時休業!?』
甘味処は、店を閉めざるを得なかったのであった。
「まぁ、これだけ暴れてたから仕方ないな! うまうま」
「大髭回り、どうでしょうか。気に入りましたか?」
周りが落ち込む中、野猪とニガイは白耀の身体についたパイを口に運んでいる。
「このクリーム、甘いがくどくないから飽きずに食べられる。悪くない、悪くないぞ」
白耀も白耀で、残ったパイを楽しむのであった。