【喫煙】紅茶葉

清和アヤカシ闘乱帖 イベントノベル(テーマ)マザリモノ制作 龍川 那月納品 2026年04月19日 12時15分13秒

 街外れに発生した虚を倒した隻腕の”白耀”(パヴェル・A・サムルガチェフ) は息を吐くと今一度周囲を見渡した。
 虚を恐れてか周囲に生き物の気配はなくただ春の風が彼の髪を撫でていくだけである。
 安堵の息を吐いて白耀(はくよう)は懐からパイプケースを取り出す。
 自分の手袋や馬布と同じ鹿の皮で作られたそれは、ヤニと手の油で他の物より少しだけ黒ずんでいた。
(手入れせねばな……)
 煙草葉をパイプの上まで並々と入れていく。
 数種の煙草葉に紅茶の葉を混ぜた彼独自のブレンドだ。
 詰め終えてからマッチケースを何度か振ってやると、愛猫の楓庵(ふうあ)が小さく鳴いて近くの草むらへと走っていった。
 愛猫は煙草の香りが苦手な癖に、白耀の側にギリギリまで居たがる。
 居たいなら居ればいいと、吹かし始めると本当に嫌そうな、しかめっ面をして逃げていくのが不憫で、これから煙草を吸うぞ、と合図してやるのが恒例になったのだ。
 最初から吸うのではなく、空気を送り込み葉を動かし膨張させてやってから押し棒(タンパー)で葉を少し押し込み平らにならす。
 これを喫煙中に何度かすることでどこか一ヶ所だけが燃えるのではなく、全体が穏やかに燃えるのだ。
 白耀の使っている木彫りのパイプには麒麟が彫り込まれているので、自分でしつらえたものだと思われがちだが、これは以前、虚を退治した時に礼の品としてマッチケースと共に貰った舶来品だ。
 ちなみにマッチケースには対に扱われる鳳凰が彫刻されている。
 基本的に山奥に暮らしている白耀には最初これが何をするものなのかすら分からなかったが、人里に下りる度に人が使っているのを見たり、教えてもらっては思考錯誤し今の形に落ち着いている。
 葉も最初は吸っている人におすすめを聞いたりしていたが、自分で複数の葉を混ぜることも出来ると聞き、今では自分好みの煙草をブレンドするに至った。
(葉の風味が落ちてきたな)
 煙草葉も紅茶葉も乾燥してはいるが生物(なまもの)だ。
 干物がいつまでも保存できない様に、ゆっくりと風味は劣化する。
 帰りに新しい葉を購入して混ぜてやるかと白耀は思う。
 そう思っているうちにボウルの上の方に灰がたまって来た。
 残しておいたマッチの柄の部分で灰だけをかき出し、再び吸う。
 肺に入れない方がいいと言う者もいるが煙が喉を通り肺に入ってくる感覚が白耀は好きなのだ。
「終わったでござるぞ」
 最後まで吸い終わった白耀が草むらに声をかけると待ってましたとばかりに愛猫が顔を出した。

登場キャラクター

アーカイブ生成日時 2026年08月05日 14時56分25秒 ・ world0