パーラーなずな、静かなる戦い
清和アヤカシ闘乱帖 イベントノベル(テーマ)拝み屋制作 狐野径納品 2026年04月12日 15時10分08秒
八洲国の、西方の建築が並ぶ、とあるハイカラな街。そこに「パーラーなずな」はある。
石造りの建物の扉を開け、女学生たちがショウウインドウを覗き込む。
「あのケーキおいしそうですわ」
「羊羹に見えて、実はケーキだったりするのでしょうか」
カウンターにいる赤毛の若者・赤井・桔音は狐耳を動かす。
「これは羊羹です。でも、あなたがおっしゃるような見た目のケーキが西方にあるんですよ」
女学生たちは「どういうものなんです?」と興味津々。桔音はケーキに話しつつ、店の商品の説明をした。
虚撲滅――それは北瀬 敏子の心身の安寧のために重要なこと。井上機関に推薦されたことは能力が認められたという喜びの一方で、自身の不安なところに関わることで葛藤した。それでも過酷な訓練を乗り越え、深紅の制服に袖を通したときの気持ちは何にも代えることはできないし、さらなる活躍をしたいという願いが重なる。
敏子はパーラーなずなに向かっていた。虚に関する情報を持っているかどうかといった情報収集のため。
華やかな街、明るい顔の学生たち。
この光景になじむため、制服ではない。丈が長いタイトスカート。普段感じない不安が生じる。
(スカートってこんな感じだったっけ……)
急に羞恥心が湧いたり、似合っているか不安がったり、街を歩くだけでも四苦八苦していた。
(武器も最小限しか持てないのも怖い……のかも)
戦いのために行くわけではなくその準備段階だ。しかし、虚がいれば戦うことや足取りを追い安全の確保に努める等、すべきことは多々あるとしても。
考えだすと体が動かなくなる。
(ダメだ! 行こう! パーラーを見て、感じて帰るだけだ。そこであったことを報告するだけ!)
覚悟を決め、パーラーの扉を開けた。
カランカラン。
扉につけられた鐘が鳴る。
「いらっしゃいませ」
桔音は人当たりよく穏やかそうに言う。が、その眼光は鋭かった。
入って来たのは洋装の女性。動きにそつがなく、一般人ではないのが明らかだ。
(政府の奴が来やがったなぁ……偵察ぽいが……)
それらしいものは見せていない。動きが固い影響で、この女は陽動で何か起きる危険性を想像させた。
(他にも来てたけどなぁ……尻尾は掴ませてはいないとしても、厄介だぜ)
女学生たちに対応しつつも、頭の中ではいくつもの道筋を立てていた。
敏子は店員に睨みつけられた気がしたが――気のせいかどうか、わからない。注意はするけれども。
着物のふわりとしたスカートを合わせた服を着た給仕が「お客様は一名様でしょうか? 店内でお召し上がりになりますか?」と敏子に声を掛けて来た。
敏子は「あ、ああ……え、はい」と応じる。一般人であることを装う必要があるのだ。
桔音は女学生たちがいくつかケーキを買って帰った後、応対がしやすいよう店員に代わってもらう。
なお、拝み屋として大した力はない。
(契約するならば、力ある者を――言っていることはわかるが、俺にはそんな度胸もねぇ)
多大な犠牲を払ってでも妖神と契約する者の考えはわからない。それでも、守りたいもののために取る行動に敬意を払う。
なお、力がない選択は色々なヒトをつなぐ役割には良いと考えていた。見えるだけで、あとは口八丁。桔音は知らぬ存ぜぬで逃げ切る。それでも責任は持つ。
敏子は席に付き、注文をする。井上機関で訓練する前、一度だけこういう店に行った。それが最後であったが、唐突に湧いた今という時間に気が緩む。
(やっぱりいいな……)
むいていないのか、やはり――。
(いや、虚撲滅しないと、日常生活も落ち着かない。大切な役目)
敏子は一人、色々思っていた。
桔音は客として入って来た推定・井上機関の女に注意を払う。給仕として向かう女に任せていれば大体大丈夫だろうけれども。
なお、観察していると緊張に包まれていた女は徐々に客としてなじんでいく。客なら自然だがどうとらえていいのか迷う。
(……いやいやいや……これは、演技に見えないけど、演技力とか馴染み力とか?)
油断はできない。一応、見えない部分を占うが「たぶん、あれ、素」という結果。
(……え、ええ……)
桔音は何とも言えない顔になる。
敏子は出されたケーキと紅茶を前に、表情は緩みっぱなし。
丁寧に味わい食べる。どちらも美味しかった。食べ終わった余韻に浸った後、店を後にする。
勘定をする際、入店時に見た桔音が応対してくれた。
「美味しかったです」
気分よく、敏子は立ち去った。
虚も結社の情報も何も拾ってないけど。
気づかなかったということも重要な情報であるし、次につながるかも、しれない。
「ありがとうございます。またのお越しをお待ちしております」
と、言いながら、塩をまきたい桔音。
しばらく緊張の糸は張ったまま――これは、いい話かどうか、まったく判断がつかなかった。
石造りの建物の扉を開け、女学生たちがショウウインドウを覗き込む。
「あのケーキおいしそうですわ」
「羊羹に見えて、実はケーキだったりするのでしょうか」
カウンターにいる赤毛の若者・赤井・桔音は狐耳を動かす。
「これは羊羹です。でも、あなたがおっしゃるような見た目のケーキが西方にあるんですよ」
女学生たちは「どういうものなんです?」と興味津々。桔音はケーキに話しつつ、店の商品の説明をした。
虚撲滅――それは北瀬 敏子の心身の安寧のために重要なこと。井上機関に推薦されたことは能力が認められたという喜びの一方で、自身の不安なところに関わることで葛藤した。それでも過酷な訓練を乗り越え、深紅の制服に袖を通したときの気持ちは何にも代えることはできないし、さらなる活躍をしたいという願いが重なる。
敏子はパーラーなずなに向かっていた。虚に関する情報を持っているかどうかといった情報収集のため。
華やかな街、明るい顔の学生たち。
この光景になじむため、制服ではない。丈が長いタイトスカート。普段感じない不安が生じる。
(スカートってこんな感じだったっけ……)
急に羞恥心が湧いたり、似合っているか不安がったり、街を歩くだけでも四苦八苦していた。
(武器も最小限しか持てないのも怖い……のかも)
戦いのために行くわけではなくその準備段階だ。しかし、虚がいれば戦うことや足取りを追い安全の確保に努める等、すべきことは多々あるとしても。
考えだすと体が動かなくなる。
(ダメだ! 行こう! パーラーを見て、感じて帰るだけだ。そこであったことを報告するだけ!)
覚悟を決め、パーラーの扉を開けた。
カランカラン。
扉につけられた鐘が鳴る。
「いらっしゃいませ」
桔音は人当たりよく穏やかそうに言う。が、その眼光は鋭かった。
入って来たのは洋装の女性。動きにそつがなく、一般人ではないのが明らかだ。
(政府の奴が来やがったなぁ……偵察ぽいが……)
それらしいものは見せていない。動きが固い影響で、この女は陽動で何か起きる危険性を想像させた。
(他にも来てたけどなぁ……尻尾は掴ませてはいないとしても、厄介だぜ)
女学生たちに対応しつつも、頭の中ではいくつもの道筋を立てていた。
敏子は店員に睨みつけられた気がしたが――気のせいかどうか、わからない。注意はするけれども。
着物のふわりとしたスカートを合わせた服を着た給仕が「お客様は一名様でしょうか? 店内でお召し上がりになりますか?」と敏子に声を掛けて来た。
敏子は「あ、ああ……え、はい」と応じる。一般人であることを装う必要があるのだ。
桔音は女学生たちがいくつかケーキを買って帰った後、応対がしやすいよう店員に代わってもらう。
なお、拝み屋として大した力はない。
(契約するならば、力ある者を――言っていることはわかるが、俺にはそんな度胸もねぇ)
多大な犠牲を払ってでも妖神と契約する者の考えはわからない。それでも、守りたいもののために取る行動に敬意を払う。
なお、力がない選択は色々なヒトをつなぐ役割には良いと考えていた。見えるだけで、あとは口八丁。桔音は知らぬ存ぜぬで逃げ切る。それでも責任は持つ。
敏子は席に付き、注文をする。井上機関で訓練する前、一度だけこういう店に行った。それが最後であったが、唐突に湧いた今という時間に気が緩む。
(やっぱりいいな……)
むいていないのか、やはり――。
(いや、虚撲滅しないと、日常生活も落ち着かない。大切な役目)
敏子は一人、色々思っていた。
桔音は客として入って来た推定・井上機関の女に注意を払う。給仕として向かう女に任せていれば大体大丈夫だろうけれども。
なお、観察していると緊張に包まれていた女は徐々に客としてなじんでいく。客なら自然だがどうとらえていいのか迷う。
(……いやいやいや……これは、演技に見えないけど、演技力とか馴染み力とか?)
油断はできない。一応、見えない部分を占うが「たぶん、あれ、素」という結果。
(……え、ええ……)
桔音は何とも言えない顔になる。
敏子は出されたケーキと紅茶を前に、表情は緩みっぱなし。
丁寧に味わい食べる。どちらも美味しかった。食べ終わった余韻に浸った後、店を後にする。
勘定をする際、入店時に見た桔音が応対してくれた。
「美味しかったです」
気分よく、敏子は立ち去った。
虚も結社の情報も何も拾ってないけど。
気づかなかったということも重要な情報であるし、次につながるかも、しれない。
「ありがとうございます。またのお越しをお待ちしております」
と、言いながら、塩をまきたい桔音。
しばらく緊張の糸は張ったまま――これは、いい話かどうか、まったく判断がつかなかった。