【恋神外伝】歩き巫女・百舌の回顧録
清和アヤカシ闘乱帖 イベントノベル(テーマ)拝み屋制作 樫木間黒納品 2026年04月24日 07時14分32秒
百舌は所属する歩き巫女一派の中でも、極めて優秀な逸材だ。まだ「子供」と呼んでも差し支えない齢でありながら流派の術を収め、早くも一人前と認められた。
それでも本領には至らない。やはり契約妖神がいてこそ。よって彼女は一人旅の傍ら、自身と契約してくれる妖神を求めていた。
一人旅をする事自体に苦はない。姉代わりとして面倒を見ていた孤児仲間達と離れるのは少々名残惜しく思うが、血の繋がらない弟妹達の日々は「自分はこのために生まれたのだ」と信じさせるものになれなかったから。
寧ろ懸念は、契約に応じてくれる妖神が見つかるかどうか。しかし、ここでも彼女は運が良い。
なんと、早速契約してもいいと言う妖神が名乗り出た。それも六柱。
(こんな事になるなんて、思ってもみなかったのだわ)
これだけいれば契約相手は選び放題だ。いっその事――契約する妖神は一人に絞れ、という規則はない。流石に六柱同時となるとあまり例を聞かないが……条件次第では十分考慮に入る。
妖神達は話し方も、そこから伝わる性格も多種多様だ。しかしどういう訳か、妖神らが提示した見返りは全員同じ。「会いたい人と出会えたら身体を貸して欲しい」というもの。
予想外の事で面食らってしまったが、気を取り直す。何故そのような事を望むのか、詳しく聞いた方が良さそうだ。だが、それを尋ねると彼女達は一斉に顔を赤くして、視線を逸らした。
(ああ。これ、見覚えがあるわ……)
百舌はまだ幼い娘で、そういう事とはほとほと縁がなかったが。身近な人間がそういう物事に一喜一憂する様を見た事があるのだ。
妖神達は――誰かに恋している。
人ならざる姿を取っていても伝わってしまう。思いの外、と言っていいのか。妖神にも人間と変わらない所があるのか。
兎も角妖神を説き伏せて、各々の事情と経緯を改める事にした。
●
一柱目は、炎の気を持つ妖神。
「わたしは赤寅……本当に話さないとダメ?」
「ええ。不透明な点が多いと、契約の話はなかった事になってしまうかも……」
「わ――わかったわかった! 話す! 話せばいいんでしょ!??」
赤寅という妖神は非常に強気な言葉遣いだが、こと恋愛に関してはわかりやすく脆弱だ。思い出して話すだけでも威勢が削がれてしまうのだろう。
「わたしが根城にしていた土地は、山から降りてきた獣にしょっちゅう荒らされていたの。だから自慢の炎で追い払ってたんだけど――別に、感謝されたくてやった事じゃないわ。わたしは妖神。自分の居場所を守るのは自分でやって当然。でも……」
自力では手に負えない獣が現れた。そこを偶然通りすがった旅の男が、代わりに獣を退治してくれた。だから、
「――はい! わたしの話はこれで終わり、次行って!」
●
二柱目は、植物の気を持つ妖神。
「わたしは青巳。……えーと、理由を話せばいいの? ……んー、すれ違った時ー顔が良くて、すごーいかっこいい人だと思ったから~」
「……え、それだけ?」
「? 変な事言ったー?」
変、という訳ではないが。直前に赤寅の話を聞いたものだから落差が激しい。とはいえ「一目惚れ」は人間同士の恋愛でも珍しくない事だ。何より彼女は妖神。妙に間延びした話し方といい、他者とのズレを感じさせる。
「いっぱい話したら、つかれたー……ふわぁぁ」
どうやら寝てしまったみたいだ。自由が過ぎる。
気を取り直して、次の妖神に話を回す。
●
三柱目は、土の気を持つ妖神。
「わたしは黄未。昔はいっぱいの人に信仰されて、いっぱいの人が遊びに来てくれたんだけど、いつの間にか誰も来なくなっちゃって……」
栄えていた時期と同じくらいか、それ以上に長い孤独を味わっていた。そんな時に旅の男が訪れ、寂れた社で夜を明かした。
たった一晩。それでも数えきれないほどの昼夜を独りで過ごした彼女の気持ちを膨れ上がらせ、それ以上を求めさせてしまうには十分な体験だった。
(話を聞くに、かなりの長命みたいだけど)
夢見がちに自身の恋を語る仕草、言葉遣い。百舌が面倒を見ていた子供達と大した違いがあるようには見えない。
恐らく――彼女はそういうものだ。「そのままでいい」と思われたのを良い事に成長を止めた、幼き神。
「なんだか恥ずかしいよぉ……次、お願い!」
●
四柱目は、雷の気を持つ妖神。
「わたしは白申! 彼とはね、変化の練習をしてた時に知り合ったの」
人の生活に不慣れで困っていた所、人間の男に助けてもらった。それ以来、彼に好意を抱いているのだと言う。
明るく、元気で、ハキハキと――だがツンケンしている所は微塵もなく実に人好きのする話し方だ。されど幼さは感じられない。どちらかというと、常に余裕があって良くも悪くも他者を対等に見ていないから物怖じしない。何故だかそういう雰囲気があった。
「でも人間に化けられるのならどうしてその姿で会いに行かないの?」
「そうできればよかったんだけどね~。わたしぐらいになると妖力が強すぎて傍にいるだけでも影響与えちゃうからさ」
本気で男を手に入れようとしたら、力が暴走して望まぬ結果を得てしまうかもしれない。だから人の器を使って力を抑えようとしているのだとか。
妖神には妖神にしかわからない悩みがあるのだな、と百舌は思った。
●
五柱目は、水の気を持つ妖神。
「わたしは黒酉。…………」
契約の話を始めた時から薄々察していたが、彼女は非常に無口だ。そのため事情を聞き出すのに少々時間がかかってしまった。
要するに――虚の退治に出向いた際、偶然その場に居合わせた人間の男と共闘する事になった。その時に男の戦う姿があまりにも格好良くて虜になってしまったという。
「彼と、会えてよかった……だから、もう一度……」
●
最後の六柱目は、天空を司る強い気を感じる妖神だった。
「わたしは丑空。彼とは直に顔を合わせてはいませんが……」
彼女には未来の光景を幻視する能力がある。その力で人間の男性と結ばれる未来が視えた、らしい。
「それで彼のどういう所が好きになったの?」
「妙な事を尋ねますね。わたしの力で結ばれる未来を視たのですから、それを実現するのが当然でしょう? 彼とわたしが結ばれる事は運命であり、既に定まった事です」
――青巳の時に感じたように、妖神の価値観に人間の常識を当て嵌める事はできない。丑空においてもまた然り。
幻視でその姿と為人を知って惚れたのか、それとも幻視に映ったからこそ好きになったのか。彼女の中では区別がついていないのかもしれない。
●
全員分の話を聞き終わった。
人の器を借りる理由も様々。白申のように強い力を持つ故に敢えて人の規模に落としたい者、変化が不得手だが人の姿で会いたい者、土地に縛られているから契約を利用して広く動けるようになりたい者。
百舌は悩んでいた。自分の身体を見ず知らずの男との逢瀬に使うと言われたら気が引ける。しかし六柱も同時に契約できる機会は貴重だし、それに「会えたとしても一日を超えて肉体の制御を奪う事はない」とも言った。
「いいわ」
熟慮の末、六柱全員との契約に応じる事にした。
世界は広い。八洲国に絞っても同じ事が言える。彼女らが恋焦がれている男と再会できる確率はそう高くない。
百舌にとっては利の多い契約となるはず。この時は確かにそう思っていた。
――それが浅はかな考えだったと気づくのは、これより暫く後の事。
それでも本領には至らない。やはり契約妖神がいてこそ。よって彼女は一人旅の傍ら、自身と契約してくれる妖神を求めていた。
一人旅をする事自体に苦はない。姉代わりとして面倒を見ていた孤児仲間達と離れるのは少々名残惜しく思うが、血の繋がらない弟妹達の日々は「自分はこのために生まれたのだ」と信じさせるものになれなかったから。
寧ろ懸念は、契約に応じてくれる妖神が見つかるかどうか。しかし、ここでも彼女は運が良い。
なんと、早速契約してもいいと言う妖神が名乗り出た。それも六柱。
(こんな事になるなんて、思ってもみなかったのだわ)
これだけいれば契約相手は選び放題だ。いっその事――契約する妖神は一人に絞れ、という規則はない。流石に六柱同時となるとあまり例を聞かないが……条件次第では十分考慮に入る。
妖神達は話し方も、そこから伝わる性格も多種多様だ。しかしどういう訳か、妖神らが提示した見返りは全員同じ。「会いたい人と出会えたら身体を貸して欲しい」というもの。
予想外の事で面食らってしまったが、気を取り直す。何故そのような事を望むのか、詳しく聞いた方が良さそうだ。だが、それを尋ねると彼女達は一斉に顔を赤くして、視線を逸らした。
(ああ。これ、見覚えがあるわ……)
百舌はまだ幼い娘で、そういう事とはほとほと縁がなかったが。身近な人間がそういう物事に一喜一憂する様を見た事があるのだ。
妖神達は――誰かに恋している。
人ならざる姿を取っていても伝わってしまう。思いの外、と言っていいのか。妖神にも人間と変わらない所があるのか。
兎も角妖神を説き伏せて、各々の事情と経緯を改める事にした。
●
一柱目は、炎の気を持つ妖神。
「わたしは赤寅……本当に話さないとダメ?」
「ええ。不透明な点が多いと、契約の話はなかった事になってしまうかも……」
「わ――わかったわかった! 話す! 話せばいいんでしょ!??」
赤寅という妖神は非常に強気な言葉遣いだが、こと恋愛に関してはわかりやすく脆弱だ。思い出して話すだけでも威勢が削がれてしまうのだろう。
「わたしが根城にしていた土地は、山から降りてきた獣にしょっちゅう荒らされていたの。だから自慢の炎で追い払ってたんだけど――別に、感謝されたくてやった事じゃないわ。わたしは妖神。自分の居場所を守るのは自分でやって当然。でも……」
自力では手に負えない獣が現れた。そこを偶然通りすがった旅の男が、代わりに獣を退治してくれた。だから、
「――はい! わたしの話はこれで終わり、次行って!」
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二柱目は、植物の気を持つ妖神。
「わたしは青巳。……えーと、理由を話せばいいの? ……んー、すれ違った時ー顔が良くて、すごーいかっこいい人だと思ったから~」
「……え、それだけ?」
「? 変な事言ったー?」
変、という訳ではないが。直前に赤寅の話を聞いたものだから落差が激しい。とはいえ「一目惚れ」は人間同士の恋愛でも珍しくない事だ。何より彼女は妖神。妙に間延びした話し方といい、他者とのズレを感じさせる。
「いっぱい話したら、つかれたー……ふわぁぁ」
どうやら寝てしまったみたいだ。自由が過ぎる。
気を取り直して、次の妖神に話を回す。
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三柱目は、土の気を持つ妖神。
「わたしは黄未。昔はいっぱいの人に信仰されて、いっぱいの人が遊びに来てくれたんだけど、いつの間にか誰も来なくなっちゃって……」
栄えていた時期と同じくらいか、それ以上に長い孤独を味わっていた。そんな時に旅の男が訪れ、寂れた社で夜を明かした。
たった一晩。それでも数えきれないほどの昼夜を独りで過ごした彼女の気持ちを膨れ上がらせ、それ以上を求めさせてしまうには十分な体験だった。
(話を聞くに、かなりの長命みたいだけど)
夢見がちに自身の恋を語る仕草、言葉遣い。百舌が面倒を見ていた子供達と大した違いがあるようには見えない。
恐らく――彼女はそういうものだ。「そのままでいい」と思われたのを良い事に成長を止めた、幼き神。
「なんだか恥ずかしいよぉ……次、お願い!」
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四柱目は、雷の気を持つ妖神。
「わたしは白申! 彼とはね、変化の練習をしてた時に知り合ったの」
人の生活に不慣れで困っていた所、人間の男に助けてもらった。それ以来、彼に好意を抱いているのだと言う。
明るく、元気で、ハキハキと――だがツンケンしている所は微塵もなく実に人好きのする話し方だ。されど幼さは感じられない。どちらかというと、常に余裕があって良くも悪くも他者を対等に見ていないから物怖じしない。何故だかそういう雰囲気があった。
「でも人間に化けられるのならどうしてその姿で会いに行かないの?」
「そうできればよかったんだけどね~。わたしぐらいになると妖力が強すぎて傍にいるだけでも影響与えちゃうからさ」
本気で男を手に入れようとしたら、力が暴走して望まぬ結果を得てしまうかもしれない。だから人の器を使って力を抑えようとしているのだとか。
妖神には妖神にしかわからない悩みがあるのだな、と百舌は思った。
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五柱目は、水の気を持つ妖神。
「わたしは黒酉。…………」
契約の話を始めた時から薄々察していたが、彼女は非常に無口だ。そのため事情を聞き出すのに少々時間がかかってしまった。
要するに――虚の退治に出向いた際、偶然その場に居合わせた人間の男と共闘する事になった。その時に男の戦う姿があまりにも格好良くて虜になってしまったという。
「彼と、会えてよかった……だから、もう一度……」
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最後の六柱目は、天空を司る強い気を感じる妖神だった。
「わたしは丑空。彼とは直に顔を合わせてはいませんが……」
彼女には未来の光景を幻視する能力がある。その力で人間の男性と結ばれる未来が視えた、らしい。
「それで彼のどういう所が好きになったの?」
「妙な事を尋ねますね。わたしの力で結ばれる未来を視たのですから、それを実現するのが当然でしょう? 彼とわたしが結ばれる事は運命であり、既に定まった事です」
――青巳の時に感じたように、妖神の価値観に人間の常識を当て嵌める事はできない。丑空においてもまた然り。
幻視でその姿と為人を知って惚れたのか、それとも幻視に映ったからこそ好きになったのか。彼女の中では区別がついていないのかもしれない。
●
全員分の話を聞き終わった。
人の器を借りる理由も様々。白申のように強い力を持つ故に敢えて人の規模に落としたい者、変化が不得手だが人の姿で会いたい者、土地に縛られているから契約を利用して広く動けるようになりたい者。
百舌は悩んでいた。自分の身体を見ず知らずの男との逢瀬に使うと言われたら気が引ける。しかし六柱も同時に契約できる機会は貴重だし、それに「会えたとしても一日を超えて肉体の制御を奪う事はない」とも言った。
「いいわ」
熟慮の末、六柱全員との契約に応じる事にした。
世界は広い。八洲国に絞っても同じ事が言える。彼女らが恋焦がれている男と再会できる確率はそう高くない。
百舌にとっては利の多い契約となるはず。この時は確かにそう思っていた。
――それが浅はかな考えだったと気づくのは、これより暫く後の事。