【恋神】妖神はあなたに恋してる
清和アヤカシ闘乱帖 イベントノベル(テーマ)拝み屋制作 樫木間黒納品 2026年04月19日 14時32分43秒
何故か同じ人物から六度も愛の告白を受けた琵音。
六度の玉砕を経て、少女は漸く自身が百舌という名の歩き巫女である事、彼の疑問に答えると告げたのであった。
●
「一体どういう事か知りたいと思ってたからいいんだけどさぁ、甘味屋に場所を移した意味はある?」
「あるわよ」
百舌は指の代わりに匙を振った。どんな事であれ物を教えるのが楽しいのか、得意気に微笑む。
「妖神の憑依は非常に体力を使う事なの。一番効率のいい補充手段が甘味よ。それに、あなたのためでもあるわ?」
「俺のため?」
「話が長くなると、立ち話じゃ辛いでしょう?」
百舌が事情を語り出したのは、餡蜜の器を空にしてからの事であった。
「わたしの所属する流派での修行を終えて、一人旅に出てすぐの事よ」
術の扱い方では一人前と認められたものの、当時の百舌には契約している妖神がいない。旅に出たのは歩き巫女の務めだけではなく、力を貸してくれる存在の発見も兼ねていた。
幸運な事に、旅に出て直ぐ「力を貸そう」と名乗り出てくれる妖神がいた。それも六柱。契約の際に代償を求められたが、それも「会いたい人がいるので、その時が来たら肉体を貸して欲しい」というもの。寿命や肉体の一部を永久に失うよりは遥かにマシな条件だ。少女は躊躇う事もなく承諾した。
「――その“会いたい人”が同じ相手の事を指していたとは思わなかったけど」
百舌曰く、
最初に会った矢鱈と距離感の近い人格が白申。
順に、思った事と反対の言葉を口走ってしまう素直になれない人格が赤寅。
釣られて眠くなってしまうほどのんびりした調子の人格が青巳。
甘えん坊で寂しがりやな妹気質の人格が黄未。
無口で、赤寅とは別の意味で感情が伝わりにくい人格が黒酉。
琵音と結ばれる事を「運命」と語る真面目で堅物な人格が丑空。
それが琵音に惚れた、六柱の妖神の名前と特徴である。
「なるほどぉ……」
概ね事情は飲み込めた。どうしてそうなったのか甚だ疑問だが、なってしまったものは仕方ない。
「そんなに好かれるような事したっけなぁ……」
「詳しくは彼女達に直接聞いてみたら? 今度こそ一番に好かれようと燃えているみたいだし」
「えー、丁重にお断りしたから諦めたわけじゃないの?」
「全然諦めていないのだわ。解放されたかったら、誰か一人選ぶしかないんじゃない?」
「百舌さんはそれでいいわけ? 興味ない相手との逢瀬に身体を使われる事になるんだろう?」
「そういう契約だから、わたしは身体を貸すだけよ」
「んー……でも言い寄って来るだけで害はないんだよね? じゃあ面白そうだし、暫くこのままでいっか」
「……あなたも大概変わっているのだわ」
妖神から一方的に好意を寄せられているのだ。もっと警戒してもいいように思うが――そういう所もこれだけの妖神に好かれた要因か。ともあれ話は纏まった。
今日はもう妖神達に仕掛けるつもりはないし、また後日に仕切り直しとする。
その予定は――突如聞こえた悲鳴に掻き消された。
「虚ね」
百舌は顔色一つも変えず立ち上がった。
「こんな時に……面倒だなー」
「やる気がないなら手伝わなくていいのだわ。六柱もいるのだし、単独でも負けないわよ」
「いいや。行かないとは言ってないさ」
琵音も弓矢を手に取り、悲鳴の元へ目掛けて走り出した。
●
黒い塊が雄叫びを上げ、逃げ惑う人々を執拗に追いかけている。眼光に映す色の名は殺意。不幸にも、市民の一人がその場で躓いた。立ち上がる前に、触手のように伸びた靄に摘まみ上げられる。
市民の顔に恐怖が浮かんだ。想像の通りに虚の口の中に放り込まれ、そのまま――という事にはならなかった。雷鳴が迸り、触腕を切り裂く。次いで同時に放たれた何本もの矢が虚をその場に縫い留めた。自由落下に晒された市民の身体を植物の緩衝材を受け止め、そのまま包み込むように蔓の繭を形成した。
一先ずの安全は確保できただろう。百舌は横目で、余裕そうに戦う琵音の姿を見る。
(あの人、結構やるじゃない)
これならば後は支援するだけで十分――百舌は巨体の振り下ろしを岩の壁で受け止めた直後、杖で地面を叩き天候を操って風を起こした。音を旋律に乗せるように、巧みに操られた矢が全身の至る所へ突き刺さる。これにはもう形を保つ事ができず、虚の姿は霧のように掻き消えた。
「ふぅ……大した事なかったな」
支援があったのも大きい。なるほど「単独でもやれる」という宣言に偽りはない。少し感心したが当の百舌は平然とした様子で……いや、何か様子がおかしい。
「もしかして、これが“はじめての共同作業”かな!?」
「では琵音様に最も相応しい伴侶はわたしという事になりますね。これが運命……」
「ちょっと! 何勝手に言ってるのよー!」
もしかして、間近での唐突な一人芝居の発生が当分続くのだろうか。聞いているだけで妙に疲れるが、それもまあ楽しそうか。琵音は呑気に考えていた。
六度の玉砕を経て、少女は漸く自身が百舌という名の歩き巫女である事、彼の疑問に答えると告げたのであった。
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「一体どういう事か知りたいと思ってたからいいんだけどさぁ、甘味屋に場所を移した意味はある?」
「あるわよ」
百舌は指の代わりに匙を振った。どんな事であれ物を教えるのが楽しいのか、得意気に微笑む。
「妖神の憑依は非常に体力を使う事なの。一番効率のいい補充手段が甘味よ。それに、あなたのためでもあるわ?」
「俺のため?」
「話が長くなると、立ち話じゃ辛いでしょう?」
百舌が事情を語り出したのは、餡蜜の器を空にしてからの事であった。
「わたしの所属する流派での修行を終えて、一人旅に出てすぐの事よ」
術の扱い方では一人前と認められたものの、当時の百舌には契約している妖神がいない。旅に出たのは歩き巫女の務めだけではなく、力を貸してくれる存在の発見も兼ねていた。
幸運な事に、旅に出て直ぐ「力を貸そう」と名乗り出てくれる妖神がいた。それも六柱。契約の際に代償を求められたが、それも「会いたい人がいるので、その時が来たら肉体を貸して欲しい」というもの。寿命や肉体の一部を永久に失うよりは遥かにマシな条件だ。少女は躊躇う事もなく承諾した。
「――その“会いたい人”が同じ相手の事を指していたとは思わなかったけど」
百舌曰く、
最初に会った矢鱈と距離感の近い人格が白申。
順に、思った事と反対の言葉を口走ってしまう素直になれない人格が赤寅。
釣られて眠くなってしまうほどのんびりした調子の人格が青巳。
甘えん坊で寂しがりやな妹気質の人格が黄未。
無口で、赤寅とは別の意味で感情が伝わりにくい人格が黒酉。
琵音と結ばれる事を「運命」と語る真面目で堅物な人格が丑空。
それが琵音に惚れた、六柱の妖神の名前と特徴である。
「なるほどぉ……」
概ね事情は飲み込めた。どうしてそうなったのか甚だ疑問だが、なってしまったものは仕方ない。
「そんなに好かれるような事したっけなぁ……」
「詳しくは彼女達に直接聞いてみたら? 今度こそ一番に好かれようと燃えているみたいだし」
「えー、丁重にお断りしたから諦めたわけじゃないの?」
「全然諦めていないのだわ。解放されたかったら、誰か一人選ぶしかないんじゃない?」
「百舌さんはそれでいいわけ? 興味ない相手との逢瀬に身体を使われる事になるんだろう?」
「そういう契約だから、わたしは身体を貸すだけよ」
「んー……でも言い寄って来るだけで害はないんだよね? じゃあ面白そうだし、暫くこのままでいっか」
「……あなたも大概変わっているのだわ」
妖神から一方的に好意を寄せられているのだ。もっと警戒してもいいように思うが――そういう所もこれだけの妖神に好かれた要因か。ともあれ話は纏まった。
今日はもう妖神達に仕掛けるつもりはないし、また後日に仕切り直しとする。
その予定は――突如聞こえた悲鳴に掻き消された。
「虚ね」
百舌は顔色一つも変えず立ち上がった。
「こんな時に……面倒だなー」
「やる気がないなら手伝わなくていいのだわ。六柱もいるのだし、単独でも負けないわよ」
「いいや。行かないとは言ってないさ」
琵音も弓矢を手に取り、悲鳴の元へ目掛けて走り出した。
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黒い塊が雄叫びを上げ、逃げ惑う人々を執拗に追いかけている。眼光に映す色の名は殺意。不幸にも、市民の一人がその場で躓いた。立ち上がる前に、触手のように伸びた靄に摘まみ上げられる。
市民の顔に恐怖が浮かんだ。想像の通りに虚の口の中に放り込まれ、そのまま――という事にはならなかった。雷鳴が迸り、触腕を切り裂く。次いで同時に放たれた何本もの矢が虚をその場に縫い留めた。自由落下に晒された市民の身体を植物の緩衝材を受け止め、そのまま包み込むように蔓の繭を形成した。
一先ずの安全は確保できただろう。百舌は横目で、余裕そうに戦う琵音の姿を見る。
(あの人、結構やるじゃない)
これならば後は支援するだけで十分――百舌は巨体の振り下ろしを岩の壁で受け止めた直後、杖で地面を叩き天候を操って風を起こした。音を旋律に乗せるように、巧みに操られた矢が全身の至る所へ突き刺さる。これにはもう形を保つ事ができず、虚の姿は霧のように掻き消えた。
「ふぅ……大した事なかったな」
支援があったのも大きい。なるほど「単独でもやれる」という宣言に偽りはない。少し感心したが当の百舌は平然とした様子で……いや、何か様子がおかしい。
「もしかして、これが“はじめての共同作業”かな!?」
「では琵音様に最も相応しい伴侶はわたしという事になりますね。これが運命……」
「ちょっと! 何勝手に言ってるのよー!」
もしかして、間近での唐突な一人芝居の発生が当分続くのだろうか。聞いているだけで妙に疲れるが、それもまあ楽しそうか。琵音は呑気に考えていた。