【恋神】七度目のはじめまして
清和アヤカシ闘乱帖 イベントノベル(テーマ)拝み屋制作 樫木間黒納品 2026年04月19日 14時32分30秒
あなたはもし、初対面の異性から言い寄られたらどうするだろうか?
それが一人や二人でなく、六人もいたとしたら――――
●
ある日、琵音が道を歩いていた所、見知らぬ少女に声をかけられた。
ただ呼び止められただけであれば気にも留めない。彼はほどほどに軽薄であるし、相手から声をかけられる程度には顔も良いと自負していた。
娘が初めて会話するはずの彼の名前を知っていなければ、何事もなく平然と受け答えしたであろう。そうならなかったという事は、即ち。
「琵音くん! やっと会えたね」
「え?」
己の名を呼んだ少女をどうしようもなく注視してしまう。白い髪と巫女装束の娘。改めて少女の顔を見ても、やはり見覚えはない。しかし少女の方は琵音を知っている様子だ。
「あなたにもう一度会えたら伝えたい事があったの。わたしね、あなたの事が好き。あなたさえよければわたしと恋人に――」
「いや……俺、おたくの事全然知らないし、人違いじゃない?」
「……そっかー。そうだよね。早すぎる、よね。ごめん!」
そう言うと、少女は瞬く間に立ち去ってしまった。深く食い下がられなかったのは助かったが、何故急に告白してきたのか。意味が分からないという事実に変わりはない。
(なんだったんだ?)
頭を掻きながら元の進路に舵を切ろうとした。が、
「ちょっと! あ……あっ、アンタの事なんて全然好きじゃないけど、わたしの婿にしてあげてもいいんだからね!?」
何故だが喋り方は変わっているが、見た目は間違いなく先程の少女だ。
(またぁ??)
先程の告白では上手くいかなかったから遣り口を変えたのだろうか。それにしてはお粗末な――変装すらしていない。これで別人と誤魔化せているつもりならば正気を疑う。当然、琵音はまたしても軽くあしらった。
「悪戯なら他所にしてくんない? 子供の遊びに付き合ってるほど暇じゃないんでね」
「違――もういい! 次に会う時は泣かせてやるんだから! 覚悟しなさい!!」
捨て台詞を吐いて、また少女は去ってしまう。
時間にしては僅か。けれど琵音の身にはどっと疲労が押し寄せた。流石にもうないとは思うが、
(二度ある事は三度あるって言うけど。まさかね)
不用意な事を思うんじゃなかった、と後悔したのはその直後の事であった。
●
「琵音くーん。ねぇ、一緒にー……毎日、のんびり、だらだらーってするカンケイになろーよ?」
ある時は、こちらも眠くなってしまいそうなスローテンポで話す、ふわふわしたのんびり屋のように。
「琵音お兄ちゃん……もう、お兄ちゃんと会えなくてさびしいのはやだよ……。わたしとずっといっしょにいてくれる?」
ある時は、涙目で「一人にしないで」と訴えかける甘えん坊な幼い子供のように。
「琵音……、す……す、…………すき」
ある時は、簡単な言葉であっても気持ちを伝えるだけでたっぷりと時間をかける寡黙な恥ずかしがり屋のように。
「やっと相見える事ができました……さあ、わたしと結婚してください。そういう運命です」
ある時は、口調こそ礼儀正しいが厳格に決まりを押し付けてくる役人のように。
(流石になんかおかしくない? 何が起きてんの??)
三度目の告白を受けた段階で、琵音は「自身の知らない異常事態が水面下で進行している」という事に気づいた。単なる悪戯で性格が変わったかのように同一人物が入れ替わり立ち代わり愛を囁いてくる事があるだろうか。
けれども「何が起きているのか」「どうすればいいのか」という疑問に答えは出ず、言い寄られる傍からあしらい続ける他なかった。
六人目に「何の事かわからないんだけど……」と実質的なお断りの言葉を返す。いつもの流れならば捨て台詞を吐いて姿を消し、また新たな遣り方で再アタックしてくる所だが、
「……仕方ありませんね。いずれわたしと結ばれる事こそが定めであると理解するでしょう」
そう言った直後、少女は力なく腕を下ろした。まるで糸の切れた操り人形のように。これまでとは明らかに違う。異常な様子だ。
「おーい……大丈夫?」
少女の目の前で手を振る。間もなく、ゆっくりと顔を上げた。けれどその顔つきはこれまで見たどの少女とも違っていて――
「ああ、やっと体を取り戻せたわ」
開口一番、彼女はおかしな事を言った。戸惑う琵音に目を向けて、少女は淡々とした口調で話す。
「わたしは歩き巫女の百舌よ。でも、これまであなたに愛を囁いたわたしはわたしじゃないの……何の事かわからないって顔をしているわね? いいわ、説明してあげる」
百舌は返答を待たずに矢継ぎ早で喋る。けれど――短い期間だが彼女の言う事は正しいとよくわかった。六度も告白した方の百舌は、いずれも雰囲気こそ違ったが一様に琵音を熱の篭った目で見ていた。今の百舌にはその熱がない。
要するに、彼女は琵音をこれっぽっちも好きではないのだ。
それが一人や二人でなく、六人もいたとしたら――――
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ある日、琵音が道を歩いていた所、見知らぬ少女に声をかけられた。
ただ呼び止められただけであれば気にも留めない。彼はほどほどに軽薄であるし、相手から声をかけられる程度には顔も良いと自負していた。
娘が初めて会話するはずの彼の名前を知っていなければ、何事もなく平然と受け答えしたであろう。そうならなかったという事は、即ち。
「琵音くん! やっと会えたね」
「え?」
己の名を呼んだ少女をどうしようもなく注視してしまう。白い髪と巫女装束の娘。改めて少女の顔を見ても、やはり見覚えはない。しかし少女の方は琵音を知っている様子だ。
「あなたにもう一度会えたら伝えたい事があったの。わたしね、あなたの事が好き。あなたさえよければわたしと恋人に――」
「いや……俺、おたくの事全然知らないし、人違いじゃない?」
「……そっかー。そうだよね。早すぎる、よね。ごめん!」
そう言うと、少女は瞬く間に立ち去ってしまった。深く食い下がられなかったのは助かったが、何故急に告白してきたのか。意味が分からないという事実に変わりはない。
(なんだったんだ?)
頭を掻きながら元の進路に舵を切ろうとした。が、
「ちょっと! あ……あっ、アンタの事なんて全然好きじゃないけど、わたしの婿にしてあげてもいいんだからね!?」
何故だが喋り方は変わっているが、見た目は間違いなく先程の少女だ。
(またぁ??)
先程の告白では上手くいかなかったから遣り口を変えたのだろうか。それにしてはお粗末な――変装すらしていない。これで別人と誤魔化せているつもりならば正気を疑う。当然、琵音はまたしても軽くあしらった。
「悪戯なら他所にしてくんない? 子供の遊びに付き合ってるほど暇じゃないんでね」
「違――もういい! 次に会う時は泣かせてやるんだから! 覚悟しなさい!!」
捨て台詞を吐いて、また少女は去ってしまう。
時間にしては僅か。けれど琵音の身にはどっと疲労が押し寄せた。流石にもうないとは思うが、
(二度ある事は三度あるって言うけど。まさかね)
不用意な事を思うんじゃなかった、と後悔したのはその直後の事であった。
●
「琵音くーん。ねぇ、一緒にー……毎日、のんびり、だらだらーってするカンケイになろーよ?」
ある時は、こちらも眠くなってしまいそうなスローテンポで話す、ふわふわしたのんびり屋のように。
「琵音お兄ちゃん……もう、お兄ちゃんと会えなくてさびしいのはやだよ……。わたしとずっといっしょにいてくれる?」
ある時は、涙目で「一人にしないで」と訴えかける甘えん坊な幼い子供のように。
「琵音……、す……す、…………すき」
ある時は、簡単な言葉であっても気持ちを伝えるだけでたっぷりと時間をかける寡黙な恥ずかしがり屋のように。
「やっと相見える事ができました……さあ、わたしと結婚してください。そういう運命です」
ある時は、口調こそ礼儀正しいが厳格に決まりを押し付けてくる役人のように。
(流石になんかおかしくない? 何が起きてんの??)
三度目の告白を受けた段階で、琵音は「自身の知らない異常事態が水面下で進行している」という事に気づいた。単なる悪戯で性格が変わったかのように同一人物が入れ替わり立ち代わり愛を囁いてくる事があるだろうか。
けれども「何が起きているのか」「どうすればいいのか」という疑問に答えは出ず、言い寄られる傍からあしらい続ける他なかった。
六人目に「何の事かわからないんだけど……」と実質的なお断りの言葉を返す。いつもの流れならば捨て台詞を吐いて姿を消し、また新たな遣り方で再アタックしてくる所だが、
「……仕方ありませんね。いずれわたしと結ばれる事こそが定めであると理解するでしょう」
そう言った直後、少女は力なく腕を下ろした。まるで糸の切れた操り人形のように。これまでとは明らかに違う。異常な様子だ。
「おーい……大丈夫?」
少女の目の前で手を振る。間もなく、ゆっくりと顔を上げた。けれどその顔つきはこれまで見たどの少女とも違っていて――
「ああ、やっと体を取り戻せたわ」
開口一番、彼女はおかしな事を言った。戸惑う琵音に目を向けて、少女は淡々とした口調で話す。
「わたしは歩き巫女の百舌よ。でも、これまであなたに愛を囁いたわたしはわたしじゃないの……何の事かわからないって顔をしているわね? いいわ、説明してあげる」
百舌は返答を待たずに矢継ぎ早で喋る。けれど――短い期間だが彼女の言う事は正しいとよくわかった。六度も告白した方の百舌は、いずれも雰囲気こそ違ったが一様に琵音を熱の篭った目で見ていた。今の百舌にはその熱がない。
要するに、彼女は琵音をこれっぽっちも好きではないのだ。