Onboard of Catacombs

王立アプリーリス魔法学院 イベントノベル(テーマ)制作 真柄 葉納品 2021年04月01日 10時24分39秒

 静けさの中、廊下に乾いた足音が木霊する。
「うん?」
 【ドラゴン寮】シスル・ノーティラスは、廊下の先に壁を眺める見知った姿を見つけた。
「なんでこんな所に……?」
 居るはずのない時間に知り合いを見つけたシスルは、静かに近づいていく。
「よぉ、三城 淳太郎(ジュン)こんな所で何やってんだ?」
 シスルの声に振り向いたジュンは、意外な所で出会ったと驚いた。
「君こそこんな所で何をやってるんだい? 今は授業中のはずだけど」
「そう言うジュンこそ。あんたがサボりなんて珍しいな」
「俺のはサボりじゃない。先生に言われて資料を取りに行ってた帰りだよ」
「帰ってないからサボりじゃねーか」
「うっ……」
 呆れ気味にそう言うシスルに、ジュンは言葉を詰まらせる。
「で、こんな所に突っ立って何見てたんだ?」
 シスルは何か反論の糸口はないかとぶつぶつ言ってるジュンをどけ、彼が見ていたものを見た。
「……『求む! テストプレイヤー! by魔法遊戯部』。なんだこれ?」
 掲示板にの中でも特に目を引くのがそのチラシだった。
「そのままの意味だよ。新しい遊戯が完成したらしい」
 押しやられたジュンは呆れ気味にシスルの後ろから答える。
「へぇ、なんか面白そうじゃねーか。ジュンもやるのか?」
「残念ながら、俺は部に所属してないからね」
「これテストプレイヤーの募集だろ? なら、所属は関係ないんじゃねーの?」
「まぁ、そうなんだけど……」
 と、歯切れ悪く答えるジュン。
 興味津々のシスルとは違い、ジュンはどうにも嫌な予感がしていた。
「よし決めた! ジュン、この魔法遊戯部ってとこに行ってみようぜ! 放課後迎えに行くから逃げんなよ?」
「逃げはしないけど……本当に行くのかい?」
「なんだよ、ビビってんのか?」
「ビビッてない!」
「じゃ、決まりだな。それじゃ、また放課後な!」
 そう言ってシスルは中庭へと続く廊下へ向かって歩いていく。
「おい、シスル! そっちは君の教室じゃないだろう!」
「あたしはこっちでいいんだよ。あんたこそ、そろそろ戻らねーとヤバいんじゃねーのか?」
「あっ!」
「あんたの苦手な魔法物理学の教授。怒らせると怖いぞー」
「くっ、シスル! 君もちゃんと授業受けるんだよ!」
 振り向きもせずひらひらと手を振るシスルを、恨めしそうに睨み付けたジュンは、急いで教室へと戻っていった。

●
 校庭からは運動部の元気な声と共に魔法の爆音が時折聞こえてくる。
「ねぇ、ほんとにあの張り紙で来るの?」
 そんな声をガラス越しに聞きつつ、ヒルルクは部室の主に声をかけた。
「きっと来てくれます! 今回の遊戯は自信作なんです。それに1名は確保済みですし」
 ここ『魔法遊戯部』の部長、雨利 晴花がヒルルクに向け静かだが自信に満ちた瞳で答える。
「それってわたしの事でしょ? この遊戯は5人用だって聞いたけど?」
「うっ……大丈夫です。きっと来てくれます」
「根拠は?」
「……あ、ありません」
 何度も問い詰められしゅんと項垂れる晴花。
「うーん、まぁ来なかったら来なかったで魔法チェスでも――」
 と、ヒルルクが半ば諦めて棚を漁ろうと立ち上がった、その時。

「あの、ここが魔法遊戯部でしょうか?」

 控えめに開けられたドアから、一人の少女が顔を覗かせた。
「あ、はい! ここが魔法遊戯部です!」
 先ほどまでの落ち込み具合とは打って変わって、大きく声を上げドアへと駆け寄った晴花。
「よかった。あの掲示板に貼ってあったチラシを見たんですが……」
 と、晴花に導かれるままに入室した少女は、きょろきょろと辺りを見渡した。
「私は【グリフォン寮】のクローリカと言います。よければ、テストプレイに参加させてもらえませんか?」
「もちろんです、ありがとうございます!」
 晴花はクローリカの手を取ると嬉しそうにぶんぶんと振り回す。
「ほんとに来た……」
「来ますよ! 残りの二人だって――」
 驚くヒルルクに向け、晴花がぷぅと頬を膨らせていると、廊下から――。

「引っ張らなくても自分で歩けるから!」
「逃げたら大変だからな」
「逃げないし!」
「お、ここっぽいぞ」

 二人の声と共に、ドアが開かれた。
「遊びに来たぞー」
 と、入ってきたのはシスルだった。
「最初はお邪魔しますだろ!」
 そして、少し遅れてジュンも。
「い、いらっしゃいませ! テストプレーに参加希望の方ですか……!」
 晴花は急いでドアへと駆け寄ると、二人に問いかけた。
「ああ、まだ空いてるか?」
「もちろんです! ようこそ、魔法遊戯部へ! ささ、こちらへどうぞ!」
 問いかけてきたシスルに、大きく頷いた晴花は、二人の背を押し入室を促す。
「うわ、ほんとに揃っちゃった」
 続々と部屋に集まってきた生徒達を見て、ヒルルクは驚きながら戻ってきた。
「あれ、寮長?」
「あ、ジュンじゃない。あなたも来たの?」
「ええ、まぁ、成り行きで。寮長こそ、こういう物に興味があるとは知らなかったよ」
「あはは……こっちも成り行き、かな」

「はーい、お待たせしました! こちらに注目してくださーい!」

 参加者同士、挨拶がてら声を掛け合っていると、パンパンと手を二度叩き、晴花が声を上げた。
 そして、晴花は皆の視線が向いたのを確認すると、満を持して机の上に広げた盤上遊戯(ボードゲーム)をお披露目する。
「へぇ、それが新作かい?」
「はいっ! 自慢の新作! その名も【盤上の魔世界(ファントム・ミラージュ)】です!」
 盤上を覗き込んでくるシスルに、晴花は自信満々に答えた。
「一見シンプルな双六……のようにも見えますが。このコマ、もしかして魔法人形(マジカルデコイ)ですか?」
 クローリカが手に取ったコマをまじまじと見つめる。
「すごい、正解です! このコマに魔力を同調させると、あら不思議、視覚や聴覚、果ては痛覚まで同期することができます!」
「へぇ、そこまで行くとほとんど分身体ですね。一体どういう仕組みなんだろう」
 これまた自慢げに答えた晴花に、ジュンも興味津々。
「ねぇ、これってちゃんと正規の品なんでしょうね? 禁書の類とかなら流石に看過できないわよ」
「だ、大丈夫ですっ! ちゃんと、教授の許可ももらってますから」
「そう? それならいいんだけど……」
 若干訝しみながらもヒルルクも納得した。

 一通りお披露目も済むと――。
「それじゃ、ルールを説明していきますね!」
 晴花が4人に向けルール説明を始める。
 ルール自体はいたって単純。魔力のこもっていない双六同様、ダイスを振り、コマを動かし、一番先にゴールにたどり着いたプレイヤーが勝利。
 そして、舞台となるのは。
「数千年前に滅んだとされる、旧ナロヌイノ帝国の王墓ダンジョンです!」
「うわ……アンデッド出てくる奴じゃんか」
 そんな事を呟くシスルの声を聞きつつ、晴花は続けた。
「道中で宝箱等からアイテムや金貨を取得可能で、それを駆使しながら進んでいく事になります」
「すごく本格的なダンジョン探索ですね……」
 クローリカが感心する様に何度も頷いている。
「幽霊行商人(ファントム・マーチャント)が徘徊してたりするので、うまく出会えれば冒険に有利なアイテムをゲットできたりします!」
「もちろん、罠やモンスターも居ますから、十分注意してくださいね!」
 ここまで言って晴花は、質問はないかと4人を見渡した。
「質問いいか?」
 すると、シスルが手を上げた。
「これ、コマに自分を投影するって事は、ステータスも同期するって事か?」
「はい! そう考えていただいて構いません! ただ、個々のパラメーターは平均化されてます」
「まぁ、寮長とかいるしな。さすがにそのまんま反映されたらハンデがあるか」
 と、シスルはちらりとヒルルクを見る。
「あら、平均化されたって負けないわよ?」
「はっはっ! いいね、流石寮長だ!」
 ヒルルクの返事を挑発と受け取ったのか、シスルは不敵な笑みで返した。
「他に質問が無いようですので、コマを配りますね!」
 晴花は魔法人形(マジカルデコイ)を4人に配り、自身の前も一つ手に持つ。
「それでは、魔力回路を開いて人形と同期してください」
 言って晴花は静かに目を閉じ、人形へと魔力回路を接続する。他の4人も彼女に倣い、魔力を人形へと送っていった。

●
「うえぇ、ここに入るのかよ……」
「怖いなら帰ってもいいけど?」
 ダンジョンの入り口を前に嫌悪感を露にしたシスルに、ジュンが冗談半分に声をかけた。
「誰が帰るか!」
「でも、本当に本物みたいな質感ですね。湿気や冷たさまで伝わってくるようです」
 そんな二人を横目に、クローリカがダンジョンの入口に触れる。
 見た目、音、そして感触。全てが本物だと言われても信じてしまいそうなほど精巧にできている。ただ、嗅覚を感じないのだけが唯一の救いか。
「これ、やっぱり禁呪なんじゃ……」
 あまりのリアリティにヒルルクがそう呟くと――。
「はぁ、うまくいってよかったです! さすがにドキドキしました」

「「「「……えっ?」」」」

「え?」
 見つめ合う4人と1人。
「ちょっと待って! 試験運用してないの!?」
「え? はい。だって、プレーはフェアに行きませんと」
「そういう問題ではないと思いますが……」
「ヒルルク! こいつ大丈夫か!?」
「わたしに聞かれても知らないわよ!」
「これはいったん中断して、安全を確保する為に、何人か残った方が――」
 自身が置かれた現状に焦る中、ジュンが他の3人に提案しようとするが。

「あ、ちなみに誰かがゴールしないと魔力回路は切断されません」

 「すごいでしょ」と胸を張る晴花に、4人の顔から血の気が引いた。
「こうなったら、腹くくるしかねーな」
「まったく……シスルに付き合うといつもこうだ」
「私、実はこういうの嫌いじゃありません」
「なんでみんなやる気なのよ!?」
「それじゃ、順番を決めるダイスロール、行きましょう!」
 十人十色の反応を見せる4人を前に、晴花が空中に巨大なダイスを召喚する。

 そして、ついに死戦(テストプレー)の火蓋は切って落とされた――。

登場キャラクター

アーカイブ生成日時 2026年08月05日 14時56分25秒 ・ world0