魔法学院のにちじょう!
王立アプリーリス魔法学院 イベントノベル(テーマ)制作 白葉うづき納品 2021年04月01日 10時28分38秒
●魔法学院の授業1
――魔法の杖が宙を踊る。杖の先から次々に色が溢れる。
緑の制服を纏う少年が指揮者のように操れば、絵具は生き物のように従い中空に留まった。
そこから色をとり、キャンバスに魔力の籠った色を乗せていく。筆が踊るたびきらきらと光が散る。
穏やかな瞳に真摯な光を滲ませながら、少年は黙々と筆を動かした。
「いやあ素晴らしい。君ほど魔法絵を上手く描ける生徒は見たことがないよ」
「そんな、恐縮です」
灰炭樹のように柔らかな髪に触れ、アメジストの瞳を照れたようにはにかませる。スワン寮のジュンは絵についての才能に溢れていた。目の前にはキャンバスと自分の描いたジャッカロープ。絵の中で跳ねまわる角兎には、息吹が宿っている。
「このように写実的な絵は動き出すのは周知の通りだ。魔法美術史の初めに現れるのはレビィラ美術と称され――」
既に予習を終えている内容をBGMに、ジュンは絵の中の兎に視線を送る。気付いた兎はこちらを向くと、嬉しそうな気持ちを共有してくれた。――ジュンだけの特別な力。絵画とのお喋り。
「おい、離せよ!!」
突然廊下に大声が響き、途端に静かだったクラス内が騒ぎ出した。
「まだ授業中だぞ」
「面白そうだから行ってみようぜ、ジュン」
誘われるまま廊下を覗くと、そこには白いもちもちとした糸に箒と絡めとられた女生徒がいた。ひとしきり暴れた後、勝気なツァボライトの瞳をキッと怒らせる。
「クソッ卑怯だぞ! こんな場所に魔力トリモチを仕掛けやがって、しかも不感知の呪文掛けてやがったな!」
「生徒が全力なら教師も応えなくてはな。わざわざ箒も呼び寄せて……さあ、授業に戻るぞ」
「魔法史は座ってるばっかで退屈なんだよ、せめて箒に乗りながら聞かせてくれ」
「出来るか!」
皆と見物しながら、授業の合間の騒がしさを楽しむ。この学院は毎日が新鮮だ。
「シスルお姉様、平気かしら? まだトリモチがついていますよ」
「いいって、ルアンナ……ったく、あいつ石頭過ぎんだろ」
「お姉様が授業を抜け出そうとするからです」
「かーっ、本当優等生だよな。……ありがとうな」
廊下窓傍のベンチ。頬に付いたトリモチを拭いたルアンナ・ミュラーが、小さなお礼にエメラルドの瞳を和らげる。
動きやすく着崩したシスルと、きっちり着たルアンナの制服は同じ赤色、ドラゴン寮の印。二人は先輩後輩だ。
「お、おい……あれ見ろよ」
「あれは先週ペガサス寮が召喚した魔人級のモンスター制圧したコンビじゃねえか、やべー……」
「『破壊のシスル』と『鮮烈のルアンナ』……!」
「素敵だわシスルお姉様、ルアンナお姉様ー! キャー!」
二人とも整った容姿も相まって人気が高い。周囲の声へ優雅に応えてから、ルアンナは悪戯っぽく笑う。
「次の合同授業、楽しみですわね」
●魔法学院の授業2
「それじゃ実戦だ。間違っても人に撃つんじゃないぞ」
そう言って教師は生徒たちに防御魔法を掛けていく。
ここは魔法学院のいわゆる体育館。建物自体が分厚い保護魔法に守られ、滅多なことでは壊されない。……壊されない!
「数十年前、さるドラゴン寮の生徒が一発の破壊魔法でこの体育館を破壊したそうです」
ルアンナは長いスカートを翻し、魔法の杖を人型に向けた。胸元で真っ赤な薔薇が咲き誇る、三つ編みにしたおさげが揺れる。
「その生徒は私の身内ですわ。それからこの体育館を破壊することが一族で力を示す一つの手段となっています。
ぶっ飛ばしてあげます、『ラヴェイジ』!」
呪文と共に、杖の先から魔力の奔流が流れ出す。眩い閃光へ真っ赤な花びらに似た光が周りを渦巻き人形を一瞬にして穿った。勢いの止まない魔力は壁に向かい――
「ううん、まだまだ足りませんね」
出来たのはヒビ入れのみ。悩ましげにため息を付くが、シスルは拍手し、周りの生徒がどよめいた。
「こら! 教えたのと違う魔法を使うな! ……舌を出してウインクしてどうした」
「『てへぺろ』ですわ。若者の間で流行っている最高の謝罪です」
「ほう……って騙されるか!」
「すごいなぁ……」
ジュンもまた驚いた一人だ。攻撃魔法は得意とは言い難いが授業は授業、頑張らないと。
「感覚だけで振ってるって感じだな、媒体合ってんのか?」
「!?」
振り向くと有名人がそこにいた。驚くジュンも意に介さず横に立つと、シスルは真っ直ぐ人形を見据える。
「いいか? 威力を出すには周りの魔力を巻き込んで膨らますんだ。『ディストラム』!」
杖先から暴力的なまでに巨大な火球が飛び出し、一瞬で人形を焼いた。ジュンは驚く。今、杖を振った?
「白鳥は攻撃魔法苦手だよな、頑張れよ……げっ」
「まーたお前かシスル! 授業で高速詠唱を試すな! しっかり基礎を練習してからにしろ!」
「いいだろ! スピードはパワーなんだよ!」
「そうですわ! 生徒の自主性を重んじてください!」
「二人とも居残りだー!」
●魔法学院の日常?
「あ! あんた!」
食堂で昼食をとっていると声を掛けられる。振り向くとまたあの有名人がいた。あっという間に両脇を固められる。
破壊の、と称されていた生徒は食事が湧き出る魔法の皿から一切れをとって口に入れる。
「ケーク・サレじゃん。んー……まあまあだな」
「シスルお姉様はグルメですね」
「……な、何?」
「あんたあれだろ? 『絵魔術の貴公子』。さっきは気付かなかったけどさ」
ジュンは目を丸くする。確かにそれはジュンに当てられた一つの呼称だ。けれど知り合いが呼んだ冗談のようなものだし、それが何故学年の有名人に知れているのだろう。
「ねえ貴公子さん、『禁魔術の棚』に興味はありません?」
「それって、図書館の奥にある棚の?」
「ああ」
この学院は優秀な魔法使いが多く、危険な魔法アイテムを保管という名目で所蔵している。当然生徒の閲覧は禁止されているが……。
ルアンナは上品な仕草で紅茶を飲み、にっこりと微笑む。
「私の一族の大切な本がそこにあるという噂なんです。せめて目録を確認できれば、と」
「あたしもちょっと読みたい本があってさ。あんたの絵魔術ならしばらくの間、司書の目を誤魔化せる。
なに、見つかっても軽いお咎めで済むだろ」
ジュンは察した。自分は今、とんでもない面倒ごとに巻き込まれようとしている。
……でもこの二人を放っておいたら、もっととんでもないことになる気がする……!
「無理にとは言わないさ。この話はちょっと黙っててくれたら嬉しいけどな」
「いいよ。でも、絵は使わない方法を考える」
シスルとルアンナが僅かに目を見開く。
「……へえ、意外とノリいいんだな」
「俺がいた方が無茶しないって思っただけだよ」
二人とも力技で乗り切ろうとしそうだし、と呟けばにやりと笑われる。
「心強い協力者を得ましたわね」
「今度授業抜け出すのも手伝ってくれよ。さておき、放課後に『帰らずの樹』の下へ集合な。あたしの秘密基地がある」
ジュンが頷くと、二人とも次の授業へと移っていく。
(禁書棚)
噂で聞いたことがある。そこには、絶筆となった作者の絵画集も所蔵されているらしい。
あまりにも美しいその絵を見た者は魅入られ、廃人となってしまう。
(実際の絵画を見る訳じゃないから……見てみたい、な)
それはどんなに綺麗な絵なのだろう。夜に警戒魔法を突破する術はどうしようか。
想像を巡らせながら、ジュンは残りのケーク・サレを腹に収めた。
――魔法の杖が宙を踊る。杖の先から次々に色が溢れる。
緑の制服を纏う少年が指揮者のように操れば、絵具は生き物のように従い中空に留まった。
そこから色をとり、キャンバスに魔力の籠った色を乗せていく。筆が踊るたびきらきらと光が散る。
穏やかな瞳に真摯な光を滲ませながら、少年は黙々と筆を動かした。
「いやあ素晴らしい。君ほど魔法絵を上手く描ける生徒は見たことがないよ」
「そんな、恐縮です」
灰炭樹のように柔らかな髪に触れ、アメジストの瞳を照れたようにはにかませる。スワン寮のジュンは絵についての才能に溢れていた。目の前にはキャンバスと自分の描いたジャッカロープ。絵の中で跳ねまわる角兎には、息吹が宿っている。
「このように写実的な絵は動き出すのは周知の通りだ。魔法美術史の初めに現れるのはレビィラ美術と称され――」
既に予習を終えている内容をBGMに、ジュンは絵の中の兎に視線を送る。気付いた兎はこちらを向くと、嬉しそうな気持ちを共有してくれた。――ジュンだけの特別な力。絵画とのお喋り。
「おい、離せよ!!」
突然廊下に大声が響き、途端に静かだったクラス内が騒ぎ出した。
「まだ授業中だぞ」
「面白そうだから行ってみようぜ、ジュン」
誘われるまま廊下を覗くと、そこには白いもちもちとした糸に箒と絡めとられた女生徒がいた。ひとしきり暴れた後、勝気なツァボライトの瞳をキッと怒らせる。
「クソッ卑怯だぞ! こんな場所に魔力トリモチを仕掛けやがって、しかも不感知の呪文掛けてやがったな!」
「生徒が全力なら教師も応えなくてはな。わざわざ箒も呼び寄せて……さあ、授業に戻るぞ」
「魔法史は座ってるばっかで退屈なんだよ、せめて箒に乗りながら聞かせてくれ」
「出来るか!」
皆と見物しながら、授業の合間の騒がしさを楽しむ。この学院は毎日が新鮮だ。
「シスルお姉様、平気かしら? まだトリモチがついていますよ」
「いいって、ルアンナ……ったく、あいつ石頭過ぎんだろ」
「お姉様が授業を抜け出そうとするからです」
「かーっ、本当優等生だよな。……ありがとうな」
廊下窓傍のベンチ。頬に付いたトリモチを拭いたルアンナ・ミュラーが、小さなお礼にエメラルドの瞳を和らげる。
動きやすく着崩したシスルと、きっちり着たルアンナの制服は同じ赤色、ドラゴン寮の印。二人は先輩後輩だ。
「お、おい……あれ見ろよ」
「あれは先週ペガサス寮が召喚した魔人級のモンスター制圧したコンビじゃねえか、やべー……」
「『破壊のシスル』と『鮮烈のルアンナ』……!」
「素敵だわシスルお姉様、ルアンナお姉様ー! キャー!」
二人とも整った容姿も相まって人気が高い。周囲の声へ優雅に応えてから、ルアンナは悪戯っぽく笑う。
「次の合同授業、楽しみですわね」
●魔法学院の授業2
「それじゃ実戦だ。間違っても人に撃つんじゃないぞ」
そう言って教師は生徒たちに防御魔法を掛けていく。
ここは魔法学院のいわゆる体育館。建物自体が分厚い保護魔法に守られ、滅多なことでは壊されない。……壊されない!
「数十年前、さるドラゴン寮の生徒が一発の破壊魔法でこの体育館を破壊したそうです」
ルアンナは長いスカートを翻し、魔法の杖を人型に向けた。胸元で真っ赤な薔薇が咲き誇る、三つ編みにしたおさげが揺れる。
「その生徒は私の身内ですわ。それからこの体育館を破壊することが一族で力を示す一つの手段となっています。
ぶっ飛ばしてあげます、『ラヴェイジ』!」
呪文と共に、杖の先から魔力の奔流が流れ出す。眩い閃光へ真っ赤な花びらに似た光が周りを渦巻き人形を一瞬にして穿った。勢いの止まない魔力は壁に向かい――
「ううん、まだまだ足りませんね」
出来たのはヒビ入れのみ。悩ましげにため息を付くが、シスルは拍手し、周りの生徒がどよめいた。
「こら! 教えたのと違う魔法を使うな! ……舌を出してウインクしてどうした」
「『てへぺろ』ですわ。若者の間で流行っている最高の謝罪です」
「ほう……って騙されるか!」
「すごいなぁ……」
ジュンもまた驚いた一人だ。攻撃魔法は得意とは言い難いが授業は授業、頑張らないと。
「感覚だけで振ってるって感じだな、媒体合ってんのか?」
「!?」
振り向くと有名人がそこにいた。驚くジュンも意に介さず横に立つと、シスルは真っ直ぐ人形を見据える。
「いいか? 威力を出すには周りの魔力を巻き込んで膨らますんだ。『ディストラム』!」
杖先から暴力的なまでに巨大な火球が飛び出し、一瞬で人形を焼いた。ジュンは驚く。今、杖を振った?
「白鳥は攻撃魔法苦手だよな、頑張れよ……げっ」
「まーたお前かシスル! 授業で高速詠唱を試すな! しっかり基礎を練習してからにしろ!」
「いいだろ! スピードはパワーなんだよ!」
「そうですわ! 生徒の自主性を重んじてください!」
「二人とも居残りだー!」
●魔法学院の日常?
「あ! あんた!」
食堂で昼食をとっていると声を掛けられる。振り向くとまたあの有名人がいた。あっという間に両脇を固められる。
破壊の、と称されていた生徒は食事が湧き出る魔法の皿から一切れをとって口に入れる。
「ケーク・サレじゃん。んー……まあまあだな」
「シスルお姉様はグルメですね」
「……な、何?」
「あんたあれだろ? 『絵魔術の貴公子』。さっきは気付かなかったけどさ」
ジュンは目を丸くする。確かにそれはジュンに当てられた一つの呼称だ。けれど知り合いが呼んだ冗談のようなものだし、それが何故学年の有名人に知れているのだろう。
「ねえ貴公子さん、『禁魔術の棚』に興味はありません?」
「それって、図書館の奥にある棚の?」
「ああ」
この学院は優秀な魔法使いが多く、危険な魔法アイテムを保管という名目で所蔵している。当然生徒の閲覧は禁止されているが……。
ルアンナは上品な仕草で紅茶を飲み、にっこりと微笑む。
「私の一族の大切な本がそこにあるという噂なんです。せめて目録を確認できれば、と」
「あたしもちょっと読みたい本があってさ。あんたの絵魔術ならしばらくの間、司書の目を誤魔化せる。
なに、見つかっても軽いお咎めで済むだろ」
ジュンは察した。自分は今、とんでもない面倒ごとに巻き込まれようとしている。
……でもこの二人を放っておいたら、もっととんでもないことになる気がする……!
「無理にとは言わないさ。この話はちょっと黙っててくれたら嬉しいけどな」
「いいよ。でも、絵は使わない方法を考える」
シスルとルアンナが僅かに目を見開く。
「……へえ、意外とノリいいんだな」
「俺がいた方が無茶しないって思っただけだよ」
二人とも力技で乗り切ろうとしそうだし、と呟けばにやりと笑われる。
「心強い協力者を得ましたわね」
「今度授業抜け出すのも手伝ってくれよ。さておき、放課後に『帰らずの樹』の下へ集合な。あたしの秘密基地がある」
ジュンが頷くと、二人とも次の授業へと移っていく。
(禁書棚)
噂で聞いたことがある。そこには、絶筆となった作者の絵画集も所蔵されているらしい。
あまりにも美しいその絵を見た者は魅入られ、廃人となってしまう。
(実際の絵画を見る訳じゃないから……見てみたい、な)
それはどんなに綺麗な絵なのだろう。夜に警戒魔法を突破する術はどうしようか。
想像を巡らせながら、ジュンは残りのケーク・サレを腹に収めた。