その、かけがえのない日常を

キャラクターノベル制作 太郎丸コトノハ納品 2021年03月19日 18時21分25秒

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 良く晴れた空の元、無数のテントが軒を連ねる。その合間を人々が行き交い、威勢のいい呼び込みの声であちらこちらで自慢の商品を紹介している。
 とある町の広場に立つ市場は、それなりに大きく、今日も盛況なようだ。
 日向で立ち止まれば汗ばみそうな程の陽気の中、レヴァーレ・クアルムは雑踏に紅い瞳を細めた。

(ちょっと今日は暑い……マントは置いてきて正解だったな)

 いつもは暗色でまとめられた軽装の上にマントを着こんでいる。所謂『シーフらしい』格好に拘っているレヴァーレだが、この陽気でマントは流石に暑い。

「さて、今日は何から見ていきましょうか」

 市場に足を運んだとはいえ、特に特定の必要なものがある訳ではない。
 気の向くまま足の向くままに、連なる軒先を覗いていく。

「お兄さん、ちょっと見ていかないかい?」

 呼び止められたのは3つ目に覗いた露店。乾燥させた薬草や、薬が並んでいるので、薬草師やまじない師の店だろうか。
 枯草色のローブを纏ったハーフビーストの店員が、小鉢に入った練り剤を手にしている。

「色々あるんですね。冒険者におすすめはありますか?」
「だったら良く効く匂い消しはいらないかい」
「へぇ、匂い消しですか」

 まさかのチョイス。俺の体臭が酷いという事はないだろう。と思う。

(いやいや、ちゃんと着替えとかしてるし。でも体臭って自分では気づきにくいとかの可能性も……?)

 内心で少々慌てるも、レヴァーレは顔に出さずに何故お勧めなのか尋ねる。

「お兄さん、その恰好から言って、シーフさんだろ? 隠密行動するなら、匂い消しはぴったりさ」
「あぁ、なるほど。でも俺は……、いや、商品を見せてもらっていいですか?」

 訂正するのを、思い直して商品を見せてもらう。
 小鉢を受け取って、練り剤に鼻を近づけて確認する。すると、僅かに土の匂いと草の匂いが混ざった匂いを感じた。
 これを塗れば、森の中で多少は人の匂いが紛れるかもしれない。

(まぁ、土や葉を擦り付ければ事足りるんですけども)

 折角だから一つ買ってみる事にする。
 隠密行動は、なにもシーフだけに必要なものではないのだから。

「綺麗好きな冒険者や、女性に案外受ける商品かもしれないですね」

 面白い買い物が出来たとお礼を言って、薬草売りの露天を後にする。


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「毎度あり、うちのべっぴんの搾りたてだ」
「これはどうも。また今度寄らせてもらいますね」

 あちらこちらの露店を覗いて、店員との会話を楽しんだレヴァーレ。
 増えた荷物はというと、携帯用の料理油の小瓶がひとつ、新鮮な果実をふたつほど。たった今受け取った肉屋の袋。新鮮なお肉とソーセージ、そしてミルクの瓶だ。

「ちょっとお腹空いてきましたねぇ」

 昼時に合わせて屋台も増えたのか、朝よりも美味しそうな香りがあちらこちらから漂ってくるので猶更だ。
 折角だから何かを食べていこうか。
 問題は、何を食べるかである。

 炭火にあぶられ、タレが香ばしい串焼きも捨てがたい。
 大鍋でしっかりと煮込んだ野菜と肉のスープも、なかなかに悩ましい。
 積みあがった蒸し器から、蒸気が立ち上り期待感を煽ってくる。

「どこも美味しそうですが、どうしましょうね。おや? あれは……」

 目に留まったのは、パン屋の露店。
 気が付いた若い売り子が早速笑顔で声をかけてくる。

「お兄さん、昼食はまだ? ウチのパンはおいしいよ~」
「へぇ、サンドウィッチですか」

 どうやらパン屋自体は別にあり、昼時だけサンドウィッチの露店に来ているらしい。
 客が選んだ具材をその場で挟むのだと、少年が丁寧に説明する。
 まだ新入りのようだが、パン屋の誇りがあるのだろう。

「じゃあ、店員さんのおススメを教えてください」

 あえて店員さんという言葉を投げかけると、少年は嬉しそうに瞳を輝かせた。

「えっと、この厚切りハムと朝採りレタスの卵ソースは絶対美味しいですよ!!」
「あぁ、いいですね。それを貰えますか」
「ありがとうございます! トッピングもおススメで大丈夫ですか?」

 早速準備をする少年が、トッピングリスト表を指す。

「うん、それでお願い。あ、そうだ。端切れが出ないように端を切り落とさないままでいいですよ。その分少しお安くできたりしませんか?」
「むむむ……、端切れが出ても困らないんです。あ、そうだ! 安くは難しいけど、オマケなら付けられますよ!」

 そう言って取り出したのは、スティック状のパン。

「シロップを塗ってるので食後のおやつにぴったりですよ」
「素敵だね、勿論それで十分だよ」

 交渉は成立だ。


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 商品を受け取り、レヴァーレは市場をふらりと再び歩き出す。
 沢山の活き活きとした人々に混じって。

 油紙に包まれたサンドウィッチを取り出して、がぶり。

「……美味いなぁ」

 その、かけがえのない日常の(素朴な)味が、ひどく印象に残った。
 そんな春の日。

登場キャラクター

アーカイブ生成日時 2026年08月05日 14時56分25秒 ・ world0