デートにハプニングはつきもの?
5周年イベントノベル(グループ)制作 真柄 葉納品 2025年10月23日 11時23分56秒
「あーんっ」
「あ、あーん」
「ふふ、どう? 美味しい?」
「う、うん。美味しいよ」
「やったっ! それじゃ、こっちのはどうかな? ”まかい”とか何とかってところで獲れたお肉なんだって。蠢くほど旨い! ってお店の人が言ってたのよ!」
「な、なるほど、ほんとに蠢いてるね……」
「うんうん、面白いわよね。こうやって神経節をぷすっとやると、なんと飛び跳ねるのよっ」
「うぁ……びちびち跳ねてる」
「このお店とっても人気みたいで、買うのに30分も並んだんだから! きっとほっぺた落ちるほど美味しいわっ!」
「あー、さっき用事があるってどこか行ったのはこれを買いに行ってたんだ……」
「うんっ! 内緒にしてた方が喜んでくれるかなって思って。さぷらいずってやつ?」
「そ、そうなんだね。うん、嬉しいよ。それで……これ美味しかった?」
「え? まだ食べてないけど?」
「あ、味見してないんだ……」
「うん?」
「そっかぁ……」
「何かまずかった?」
「う、ううん、そんなことないよ。……それじゃ、ちょっとだけいただこうかな」
そう言って恐る恐る伸ばした手をがしっと掴まれた。
「あーだめっ! わたしが食べさせてあげるっ!」
「そう……? それじゃその一番小さなや――んぐっ!?」
と、指定も空しく一番大きな”うごめくもの”を口に突っ込まれた。
うにょうにょぐねぐね――噛めば噛むほど味が……なんてぜんぜんわからない。口の中で”蠢くもの”が必死に生にすがっている。
「美味しい?」
「んんぐぐぬぬう」
正直味なんてわからない。どちらかといえば今すぐにでも吐きだしてしまいたい。でも、折角ヒルルクが並んでまで買ってきてくれたものだ、彼女の努力を無にはできない。
ああ、彼女の期待に満ちた視線が痛い――。
『美味しい』と、一言でも言ってあげないと――。
何とか一切れでも嚙み切って――――ぷちっ。
●
「――ヴィ! ハーヴィィ!!」
「あ、あれ……イーラ?」
僕は寝ていたのか? それとも気絶していた……?
視界に飛び込んできた彼女の瞳には溢れそうなほど涙がたまっている。
「ハーヴィ! 起きた!」
「うぐっ!? く、苦しいってば……。ここは、どこ?」
抱きついてきた彼女を宥めつつ引き剥がして、ゆっくりと体を起こした。
万博の喧騒が遠くから聞こえる。どうやら休憩用に設けられた緑地スペースらしい。
僕たちが座っているのがその緑地に置かれたベンチ。彼女の体制を見る限り、僕は彼女に膝枕されていたようだ。
「ごめん、膝を借りてたみたいだね。辛くなかった?」
よく見れば彼女の腿が少し赤くなっている。随分と長い時間、その場所を借りていたのかもしれない。
「そんなの! ぜんぜん、問題ない……それに謝るのはわたしの方。本当にごめんなさい」
彼女は赤くなった腿の上で両手をぎゅっと握り、深く頭を下げる。
「えっと、ごめん。正直、なんで君が謝っているのかもよくわかってないんだ。よかったら、詳しく教えてくれないかな?」
そう言うと彼女は驚いたように、そして申し訳なさそうに、事の経緯を説明してくれた。
「……なるほど、そう言う事だったんだね」
「本当にごめんなさい。まさかあんな毒みたいな食べ物が平気で売られてるなんて思わなくて……」
話を終えた彼女は相変わらず申し訳なさそうに俯いている。
「気にすることはないよ。もう終わった事なんだし。それに君が治療してくれたんでしょ?」
「え?」
「目に浮かぶな。君が慌てて全力ヒールしている場面」
「ちょ、ちょっと、何言って……」
「君のことだから、とりあえずヒールをかけたんじゃない?」
「う゛……なんでそれを」
「でも効果がないってわかって、とても焦った」
「そ、それは普通に焦るでしょ!」
「どうしようかと悩んだ末、救けを求めようかと辺りを見たけど、自分のしたことだから自分で解決しないといけないって考え直した」
「当然でしょ! だってわたしのせいなんだから!」
「決断したことでやっと冷静になれて、僕の症状を正確に診断できた。で、これは治癒じゃなくて解毒だって判断して――」
「……ねぇハーヴィ」
「うん?」
「あなた、起きてたでしょ」
「まさか。完全に気を失ってたよ。この緑地に運ばれたことだって覚えてないし。覚えてる事といえば君の膝の上がとても心地が良かったってことくらいかな」
「っ!? ハ、ハーヴィぃ!!」
顔を真っ赤にして振り上げた拳をわななかせる彼女。
そんな必死な彼女に、僕は手を差し出した。
「僕は随分眠ってたみたいだ。太陽がもうあんな所にある」
「え……あ、うん。そうね」
「イーラは疲れてない? ずっと膝枕しててくれたんでしょ」
「そ、そんなの全然平気よっ!」
大丈夫だと見せつけるように勢いよく立ち上がった彼女だったが、脚は震え姉妹にはよろけてしまう。
「うっ……ずっと同じ姿勢だったから、しびれた」
「……ぷっ。あはははっ」
僕に寄りかかってプルプルしている彼女を見て、思わず吹き出してしまった。
「わ、笑わなくてもいいでしょ!? そもそもあなたを看病してたからしびれたんだからね! そりゃ元を正せば悪いのはわたしだけど!」
「ごめんごめん。君のその仕草があまりにも可愛かったから」
杖代わりにされるのも悪くない。でも彼女を支えるならそれなりの”作法”があるよね。
僕は足元のおぼつかない彼女の腰に手を回し、ぐっと手前に引いた。
「ちょ、ちょっとハーヴィ!?」
「その足じゃ歩きにくいでしょ? だから僕が支えるよ」
「ばっ!? こ、こっちの方がもっと歩きにくいわよっ!!」
「あれ、そうか。それはまずいね」
そう言ってぱっと手を離すと、支えを失った彼女はベンチにストン。
瞳にうっすら涙をためて、恨めしそうに僕を見上げている。
「……ハーヴィ。わたしで遊んでるでしょ」
「まさか。命の恩人にそんな失礼なことはしないよ」
僕は膝を地面に着き、座った彼女と目線を合わせた。
「君ほどの力はないけど、僕にだって癒すことはできるんだよ」
僕は彼女の膝に手を当てて癒しの光を注ぐ――。
「もうすっかり日が暮れちゃったね」
「うん、楽しめたのか楽しめなかったのかよくわからなかったわね」
二人でベンチに腰かけて沈みゆく夕日を眺める。
「なら今から楽しめばいいじゃないか」
「えっ……でも、もう夜よ? パビリオンも閉まってるんじゃ……」
「実はそんなことないんだよね」
そう言って僕は胸のポケットからパンフレットを取り出した。
「ナイト営業してるとこもけっこうあるみたい。ほら、”まかい”のとかね」
「うっ……」
パンフレットに記された魔界パビリオンを指さすと、彼女の表情が目に見えて曇る。
「パビリオン以外にもパレードとか花火とかもあるみたいだよ?」
「え、そんなのあったっけ」
「あるんだよ、これが」
パンフレットをめくりスケジュール一覧を見せると、彼女が食い気味に覗き込んできた。
すぐ目の前にある柔らかそうな髪の毛を撫でたい衝動を堪えながら、『花火』と記された部分を指さす。
「ほんとだ。って、もうすぐ始まるじゃないっ!」
彼女はばっと立ち上がり、繋いでいた手を勢いよく引っ張る。
「ほらハーヴィ、急ぐわよ! 何処が一番見やすいのかしら……」
「大丈夫、動かないで。花火のベストビューポイントは、ここだから」
そう言って僕が夜空を指さした瞬間、開幕を告げる大花火が上がった。
「あ、あーん」
「ふふ、どう? 美味しい?」
「う、うん。美味しいよ」
「やったっ! それじゃ、こっちのはどうかな? ”まかい”とか何とかってところで獲れたお肉なんだって。蠢くほど旨い! ってお店の人が言ってたのよ!」
「な、なるほど、ほんとに蠢いてるね……」
「うんうん、面白いわよね。こうやって神経節をぷすっとやると、なんと飛び跳ねるのよっ」
「うぁ……びちびち跳ねてる」
「このお店とっても人気みたいで、買うのに30分も並んだんだから! きっとほっぺた落ちるほど美味しいわっ!」
「あー、さっき用事があるってどこか行ったのはこれを買いに行ってたんだ……」
「うんっ! 内緒にしてた方が喜んでくれるかなって思って。さぷらいずってやつ?」
「そ、そうなんだね。うん、嬉しいよ。それで……これ美味しかった?」
「え? まだ食べてないけど?」
「あ、味見してないんだ……」
「うん?」
「そっかぁ……」
「何かまずかった?」
「う、ううん、そんなことないよ。……それじゃ、ちょっとだけいただこうかな」
そう言って恐る恐る伸ばした手をがしっと掴まれた。
「あーだめっ! わたしが食べさせてあげるっ!」
「そう……? それじゃその一番小さなや――んぐっ!?」
と、指定も空しく一番大きな”うごめくもの”を口に突っ込まれた。
うにょうにょぐねぐね――噛めば噛むほど味が……なんてぜんぜんわからない。口の中で”蠢くもの”が必死に生にすがっている。
「美味しい?」
「んんぐぐぬぬう」
正直味なんてわからない。どちらかといえば今すぐにでも吐きだしてしまいたい。でも、折角ヒルルクが並んでまで買ってきてくれたものだ、彼女の努力を無にはできない。
ああ、彼女の期待に満ちた視線が痛い――。
『美味しい』と、一言でも言ってあげないと――。
何とか一切れでも嚙み切って――――ぷちっ。
●
「――ヴィ! ハーヴィィ!!」
「あ、あれ……イーラ?」
僕は寝ていたのか? それとも気絶していた……?
視界に飛び込んできた彼女の瞳には溢れそうなほど涙がたまっている。
「ハーヴィ! 起きた!」
「うぐっ!? く、苦しいってば……。ここは、どこ?」
抱きついてきた彼女を宥めつつ引き剥がして、ゆっくりと体を起こした。
万博の喧騒が遠くから聞こえる。どうやら休憩用に設けられた緑地スペースらしい。
僕たちが座っているのがその緑地に置かれたベンチ。彼女の体制を見る限り、僕は彼女に膝枕されていたようだ。
「ごめん、膝を借りてたみたいだね。辛くなかった?」
よく見れば彼女の腿が少し赤くなっている。随分と長い時間、その場所を借りていたのかもしれない。
「そんなの! ぜんぜん、問題ない……それに謝るのはわたしの方。本当にごめんなさい」
彼女は赤くなった腿の上で両手をぎゅっと握り、深く頭を下げる。
「えっと、ごめん。正直、なんで君が謝っているのかもよくわかってないんだ。よかったら、詳しく教えてくれないかな?」
そう言うと彼女は驚いたように、そして申し訳なさそうに、事の経緯を説明してくれた。
「……なるほど、そう言う事だったんだね」
「本当にごめんなさい。まさかあんな毒みたいな食べ物が平気で売られてるなんて思わなくて……」
話を終えた彼女は相変わらず申し訳なさそうに俯いている。
「気にすることはないよ。もう終わった事なんだし。それに君が治療してくれたんでしょ?」
「え?」
「目に浮かぶな。君が慌てて全力ヒールしている場面」
「ちょ、ちょっと、何言って……」
「君のことだから、とりあえずヒールをかけたんじゃない?」
「う゛……なんでそれを」
「でも効果がないってわかって、とても焦った」
「そ、それは普通に焦るでしょ!」
「どうしようかと悩んだ末、救けを求めようかと辺りを見たけど、自分のしたことだから自分で解決しないといけないって考え直した」
「当然でしょ! だってわたしのせいなんだから!」
「決断したことでやっと冷静になれて、僕の症状を正確に診断できた。で、これは治癒じゃなくて解毒だって判断して――」
「……ねぇハーヴィ」
「うん?」
「あなた、起きてたでしょ」
「まさか。完全に気を失ってたよ。この緑地に運ばれたことだって覚えてないし。覚えてる事といえば君の膝の上がとても心地が良かったってことくらいかな」
「っ!? ハ、ハーヴィぃ!!」
顔を真っ赤にして振り上げた拳をわななかせる彼女。
そんな必死な彼女に、僕は手を差し出した。
「僕は随分眠ってたみたいだ。太陽がもうあんな所にある」
「え……あ、うん。そうね」
「イーラは疲れてない? ずっと膝枕しててくれたんでしょ」
「そ、そんなの全然平気よっ!」
大丈夫だと見せつけるように勢いよく立ち上がった彼女だったが、脚は震え姉妹にはよろけてしまう。
「うっ……ずっと同じ姿勢だったから、しびれた」
「……ぷっ。あはははっ」
僕に寄りかかってプルプルしている彼女を見て、思わず吹き出してしまった。
「わ、笑わなくてもいいでしょ!? そもそもあなたを看病してたからしびれたんだからね! そりゃ元を正せば悪いのはわたしだけど!」
「ごめんごめん。君のその仕草があまりにも可愛かったから」
杖代わりにされるのも悪くない。でも彼女を支えるならそれなりの”作法”があるよね。
僕は足元のおぼつかない彼女の腰に手を回し、ぐっと手前に引いた。
「ちょ、ちょっとハーヴィ!?」
「その足じゃ歩きにくいでしょ? だから僕が支えるよ」
「ばっ!? こ、こっちの方がもっと歩きにくいわよっ!!」
「あれ、そうか。それはまずいね」
そう言ってぱっと手を離すと、支えを失った彼女はベンチにストン。
瞳にうっすら涙をためて、恨めしそうに僕を見上げている。
「……ハーヴィ。わたしで遊んでるでしょ」
「まさか。命の恩人にそんな失礼なことはしないよ」
僕は膝を地面に着き、座った彼女と目線を合わせた。
「君ほどの力はないけど、僕にだって癒すことはできるんだよ」
僕は彼女の膝に手を当てて癒しの光を注ぐ――。
「もうすっかり日が暮れちゃったね」
「うん、楽しめたのか楽しめなかったのかよくわからなかったわね」
二人でベンチに腰かけて沈みゆく夕日を眺める。
「なら今から楽しめばいいじゃないか」
「えっ……でも、もう夜よ? パビリオンも閉まってるんじゃ……」
「実はそんなことないんだよね」
そう言って僕は胸のポケットからパンフレットを取り出した。
「ナイト営業してるとこもけっこうあるみたい。ほら、”まかい”のとかね」
「うっ……」
パンフレットに記された魔界パビリオンを指さすと、彼女の表情が目に見えて曇る。
「パビリオン以外にもパレードとか花火とかもあるみたいだよ?」
「え、そんなのあったっけ」
「あるんだよ、これが」
パンフレットをめくりスケジュール一覧を見せると、彼女が食い気味に覗き込んできた。
すぐ目の前にある柔らかそうな髪の毛を撫でたい衝動を堪えながら、『花火』と記された部分を指さす。
「ほんとだ。って、もうすぐ始まるじゃないっ!」
彼女はばっと立ち上がり、繋いでいた手を勢いよく引っ張る。
「ほらハーヴィ、急ぐわよ! 何処が一番見やすいのかしら……」
「大丈夫、動かないで。花火のベストビューポイントは、ここだから」
そう言って僕が夜空を指さした瞬間、開幕を告げる大花火が上がった。