お洋服を買いに行きましょう
キャラクターノベル(グループ)制作 おおくまねこ納品 2021年03月06日 21時36分19秒
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ある晴れた日のこと。
「ねえ、クローリカ。一緒に服を買いに行かない?」
クローリカの部屋を訪ねたルアンナ・ミュラーは微笑みながらそう提案してきた。
パン屋であるルアンナの朝は早い。早朝の出来事だったが、クローリカはお嬢様の声を聞いた瞬間にしっかり覚醒し、キリッとした声で即答した。
「畏まりました。謹んでお付き合いいたします。このリブラネスタならば必ずお嬢様に似合う素敵なお召し物が――」
「違う違う。私のじゃなくて、貴方の服を買いに行くのよ」
ルアンナはぱたぱたと手を振った。
「私の、ですか? はあ……それはなんでまた?」
きょとんとした様子で、クローリカは聞き返す。
「だって貴方、その服以外ろくに服を持っていないじゃない」
ルアンナは呆れた様子で、クローリカが今も着ているメイド服を指差した。
「お嬢様、それは違います。ちゃんとスペアも持ち合わせていますよ。それに、春になったらちゃんと半袖のメイド服に変えます。それから寝間着も……」
「そういうことじゃないの! あなた、殆ど『私服』を持ってないでしょう」
ルアンナはプンスコ怒った。
「う、それは」
痛い所を突かれ、クローリカは押し黙った。確かにクローリカはメイド服(思い出の品でもある)や冒険者として活動する為の男装や鎧は持っているが、私服となると確かにほとんど持ち合わせていなかった。実際、今日も休みの日だというのにメイド服で過ごすつもりだったのだ。
「女の子なんだから、クローリカもちゃんとお洒落しなくちゃ駄目よ。冒険者と言うと、ただでさえ荒くれ者みたいなイメージがあったりするし」
ルアンナの言葉は的を射ていた。実際にクローリカも少し前まで腕っぷしが物を言う冒険者社会で女だからといって舐められまいと男装し、髪も短くしていたぐらいなのだから。
思わぬ展開に耳がぺたんと垂れ下がっているクローリカに対し、ルアンナは満面のスマイルでもう一度問いかける。
「さあクローリカ。はいかイエスの返事を聞かせてちょうだい」
「わ、分かりました。では、お願いいたします、お嬢様」
「はい、決まり! じゃあ30分後に広場に集合ね!」
にこにこ顔で、ルアンナはパンと両手を合わせた。
「あと」
部屋から退出しようとしかけたルアンナは人差し指をぴっと立て、くるりとターンした。
「それともう一つ貴女にお願いがあるの。もう私はお嬢様じゃないの、これからは名前で呼んで!」
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「ふんふーん♪」
クローリカの手を引き、街へと繰り出したルアンナは上機嫌だ。何しろ、ここは大陸最高峰と名高い大都市リブラネスタ。きっとクローリカによく似合う可愛いお洋服が見つかるだろう。
「お嬢……いえ、ルアンナ」
一瞬お嬢様と呼びかけ、ルアンナの冷たい視線に気づいたクローリカは慌てて言い直した。
「なあに、クローリカ?」
長年彼女に仕えるメイドをやっていたせいか、やはりまだ慣れない。とはいえ、クローリカは居心地の悪さなどは全く感じていなかった。むしろ、逆だ。クローリカは、そしてルアンナも、この上ない幸福感を感じていた。
お互い色々あったが、昔のように二人で買い物に出かけられるなんて、まるで夢のようだ。こうして並んで歩いているだけで、ぽかぽかと暖かくなってきた気温と、春の日差しの優しさに溶かされそうになる。
「いえ、今日はとても良いお天気だなと」
「ふふ、そうね。お買い物にはちょうどいいお天気だわ」
クローリカが微笑むと、ルアンナも微笑みを返した。
思えば、二人の関係は複雑なものだった。
ルアンナはリーンエス王国の大商家・セラフィアス商会の一人娘だ。否、だったというべきか。セラフィアス商会が大商家だったのは今となっては昔のこと。違法な取引が露見したことで、家は没落。ルアンナの両親も今は塀の中だ。
クローリカは、セラフィアス家に雇われ、メイド兼の護衛役としてルアンナに仕えるメイドだった。しかし、セラフィアス家が没落した際、他の使用人共々、クローリカは解雇され、ミュラー家に引き取られたルアンナとも離れ離れになってしまった。
その後、流浪の冒険者となったクローリカは長い間、お嬢様を探して各地を放浪していたが、先日その努力がようやく実り、とある田舎町の公園のベンチでルアンナと奇跡の再会を果たしたというわけである。
(お嬢様――いえ、ルアンナ。……やはり慣れるまでは時間がかかりそうですね。ですが、それがお嬢様の望みならば、ファイトです、私)
雇用関係ではなくなった今でもルアンナは恩人であり、お嬢様なのだが、ルアンナは自分とは対等の友人関係であることを望んでくれている。ならば、早くこの呼び方にも馴染まねば。
「私は近頃の流行りが分からないので、色々とアドバイスを頂けると助かります」
「もちろんよ! 腕によりをかけて、クローリカをドレスアップして見せるわ!」
ルアンナはパチンとウィンクした。
他愛のない雑談をしながら二人が歩いていると、やがて二人は洋服屋がたくさん並んでいる一画に到着した。
「さあ、一軒ずつ見て回りましょう!」
ルアンナに手を引かれ、クローリカは店へと入っていった。
●
「いらっしゃいませー。ってあら、パン屋さんじゃないの! 今日はデートかい?」
「あら、マーガレットさん! こんにちは。ここ、貴女のお店だったんですね! あ、クローリカは女の子ですよ。今日はこの子の服を買いに来たんです」
何軒目かに二人が入った店のおばさんはミュラースの常連客の一人だった。確か、クロワッサンとマーマレードがお気に入りだったっけ。
「こ、こんにちは」
どことなく緊張した様子でクローリカはおばさんに一礼した。
「そうかいそうかい! ルアンナちゃんも可愛いけどこっちの子も可愛いねえ! 王子様かと思ったよ! どうぞ、好きなだけ見てっておくれ!」
「はい、お言葉に甘えてじっくり選ばせていただきます!」
ルアンナはおばさんにお礼を言った後、クローリカを連れて店内を物色し始めた。
●
ルアンナ(とおばさん)の厳選なる選考に合格した栄えある洋服は、大きなリボンタイが付いたグレーのパススリーブブラウス、フリルがたっぷり付いた蒼いボックスプリーツスカート、そして黒の可愛い革靴だった。
「へ、変な所はないでしょうか?」
着替えを終えたクローリカは、落ち着かない様子でルアンナに問いかけた。
「全然そんなことないわ! 素敵! これなら王都の舞踏会にでも駆け付けられそう!」
清楚な衣服に身を包んだクローリカはどこに出しても恥ずかしくない美少女だった。
ぺかー、という効果音と共に、花びらが舞っている花園で戯れている幻覚(イメージ)さえ見える。ルアンナはきらきらした瞳で拍手した。
「ありがとうございます。お……、ではなく、ルアンナ」
●
「あら、もうこんな時間! 夕ごはんの支度をしないと!」
ルアンナ達が店を出た時には、太陽はずいぶんと傾いていた。急いで夕食の支度をしないと、「家族」がお腹を空かせてしまう。
「そろそろ帰りましょう。クローリカも手伝ってくれる?」
「畏まりました――ルアンナ」
探し続けて、やっと見つけた恩人ルアンナの屈託のない笑顔を眩しく感じながらも、クローリカは微笑んだ。
暮れなずむ夕暮れの中、二人は家路につく。
再び巡り逢い、再出発した二人の新たな門出を祝福するように、春風にユーカリの葉が舞っていた。
ある晴れた日のこと。
「ねえ、クローリカ。一緒に服を買いに行かない?」
クローリカの部屋を訪ねたルアンナ・ミュラーは微笑みながらそう提案してきた。
パン屋であるルアンナの朝は早い。早朝の出来事だったが、クローリカはお嬢様の声を聞いた瞬間にしっかり覚醒し、キリッとした声で即答した。
「畏まりました。謹んでお付き合いいたします。このリブラネスタならば必ずお嬢様に似合う素敵なお召し物が――」
「違う違う。私のじゃなくて、貴方の服を買いに行くのよ」
ルアンナはぱたぱたと手を振った。
「私の、ですか? はあ……それはなんでまた?」
きょとんとした様子で、クローリカは聞き返す。
「だって貴方、その服以外ろくに服を持っていないじゃない」
ルアンナは呆れた様子で、クローリカが今も着ているメイド服を指差した。
「お嬢様、それは違います。ちゃんとスペアも持ち合わせていますよ。それに、春になったらちゃんと半袖のメイド服に変えます。それから寝間着も……」
「そういうことじゃないの! あなた、殆ど『私服』を持ってないでしょう」
ルアンナはプンスコ怒った。
「う、それは」
痛い所を突かれ、クローリカは押し黙った。確かにクローリカはメイド服(思い出の品でもある)や冒険者として活動する為の男装や鎧は持っているが、私服となると確かにほとんど持ち合わせていなかった。実際、今日も休みの日だというのにメイド服で過ごすつもりだったのだ。
「女の子なんだから、クローリカもちゃんとお洒落しなくちゃ駄目よ。冒険者と言うと、ただでさえ荒くれ者みたいなイメージがあったりするし」
ルアンナの言葉は的を射ていた。実際にクローリカも少し前まで腕っぷしが物を言う冒険者社会で女だからといって舐められまいと男装し、髪も短くしていたぐらいなのだから。
思わぬ展開に耳がぺたんと垂れ下がっているクローリカに対し、ルアンナは満面のスマイルでもう一度問いかける。
「さあクローリカ。はいかイエスの返事を聞かせてちょうだい」
「わ、分かりました。では、お願いいたします、お嬢様」
「はい、決まり! じゃあ30分後に広場に集合ね!」
にこにこ顔で、ルアンナはパンと両手を合わせた。
「あと」
部屋から退出しようとしかけたルアンナは人差し指をぴっと立て、くるりとターンした。
「それともう一つ貴女にお願いがあるの。もう私はお嬢様じゃないの、これからは名前で呼んで!」
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「ふんふーん♪」
クローリカの手を引き、街へと繰り出したルアンナは上機嫌だ。何しろ、ここは大陸最高峰と名高い大都市リブラネスタ。きっとクローリカによく似合う可愛いお洋服が見つかるだろう。
「お嬢……いえ、ルアンナ」
一瞬お嬢様と呼びかけ、ルアンナの冷たい視線に気づいたクローリカは慌てて言い直した。
「なあに、クローリカ?」
長年彼女に仕えるメイドをやっていたせいか、やはりまだ慣れない。とはいえ、クローリカは居心地の悪さなどは全く感じていなかった。むしろ、逆だ。クローリカは、そしてルアンナも、この上ない幸福感を感じていた。
お互い色々あったが、昔のように二人で買い物に出かけられるなんて、まるで夢のようだ。こうして並んで歩いているだけで、ぽかぽかと暖かくなってきた気温と、春の日差しの優しさに溶かされそうになる。
「いえ、今日はとても良いお天気だなと」
「ふふ、そうね。お買い物にはちょうどいいお天気だわ」
クローリカが微笑むと、ルアンナも微笑みを返した。
思えば、二人の関係は複雑なものだった。
ルアンナはリーンエス王国の大商家・セラフィアス商会の一人娘だ。否、だったというべきか。セラフィアス商会が大商家だったのは今となっては昔のこと。違法な取引が露見したことで、家は没落。ルアンナの両親も今は塀の中だ。
クローリカは、セラフィアス家に雇われ、メイド兼の護衛役としてルアンナに仕えるメイドだった。しかし、セラフィアス家が没落した際、他の使用人共々、クローリカは解雇され、ミュラー家に引き取られたルアンナとも離れ離れになってしまった。
その後、流浪の冒険者となったクローリカは長い間、お嬢様を探して各地を放浪していたが、先日その努力がようやく実り、とある田舎町の公園のベンチでルアンナと奇跡の再会を果たしたというわけである。
(お嬢様――いえ、ルアンナ。……やはり慣れるまでは時間がかかりそうですね。ですが、それがお嬢様の望みならば、ファイトです、私)
雇用関係ではなくなった今でもルアンナは恩人であり、お嬢様なのだが、ルアンナは自分とは対等の友人関係であることを望んでくれている。ならば、早くこの呼び方にも馴染まねば。
「私は近頃の流行りが分からないので、色々とアドバイスを頂けると助かります」
「もちろんよ! 腕によりをかけて、クローリカをドレスアップして見せるわ!」
ルアンナはパチンとウィンクした。
他愛のない雑談をしながら二人が歩いていると、やがて二人は洋服屋がたくさん並んでいる一画に到着した。
「さあ、一軒ずつ見て回りましょう!」
ルアンナに手を引かれ、クローリカは店へと入っていった。
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「いらっしゃいませー。ってあら、パン屋さんじゃないの! 今日はデートかい?」
「あら、マーガレットさん! こんにちは。ここ、貴女のお店だったんですね! あ、クローリカは女の子ですよ。今日はこの子の服を買いに来たんです」
何軒目かに二人が入った店のおばさんはミュラースの常連客の一人だった。確か、クロワッサンとマーマレードがお気に入りだったっけ。
「こ、こんにちは」
どことなく緊張した様子でクローリカはおばさんに一礼した。
「そうかいそうかい! ルアンナちゃんも可愛いけどこっちの子も可愛いねえ! 王子様かと思ったよ! どうぞ、好きなだけ見てっておくれ!」
「はい、お言葉に甘えてじっくり選ばせていただきます!」
ルアンナはおばさんにお礼を言った後、クローリカを連れて店内を物色し始めた。
●
ルアンナ(とおばさん)の厳選なる選考に合格した栄えある洋服は、大きなリボンタイが付いたグレーのパススリーブブラウス、フリルがたっぷり付いた蒼いボックスプリーツスカート、そして黒の可愛い革靴だった。
「へ、変な所はないでしょうか?」
着替えを終えたクローリカは、落ち着かない様子でルアンナに問いかけた。
「全然そんなことないわ! 素敵! これなら王都の舞踏会にでも駆け付けられそう!」
清楚な衣服に身を包んだクローリカはどこに出しても恥ずかしくない美少女だった。
ぺかー、という効果音と共に、花びらが舞っている花園で戯れている幻覚(イメージ)さえ見える。ルアンナはきらきらした瞳で拍手した。
「ありがとうございます。お……、ではなく、ルアンナ」
●
「あら、もうこんな時間! 夕ごはんの支度をしないと!」
ルアンナ達が店を出た時には、太陽はずいぶんと傾いていた。急いで夕食の支度をしないと、「家族」がお腹を空かせてしまう。
「そろそろ帰りましょう。クローリカも手伝ってくれる?」
「畏まりました――ルアンナ」
探し続けて、やっと見つけた恩人ルアンナの屈託のない笑顔を眩しく感じながらも、クローリカは微笑んだ。
暮れなずむ夕暮れの中、二人は家路につく。
再び巡り逢い、再出発した二人の新たな門出を祝福するように、春風にユーカリの葉が舞っていた。