四角い空

キャラクターノベル制作 真柄 葉納品 2021年02月21日 20時46分17秒

 四角い光が見える。ずっとずっと昔から、空はあの四角の中だけにしかなかった。

「うぅ……あぁ……」

 うまく声が出ない。声ってどうやって出すんだろう。どうやって出していたんだろう。喉が渇いた。声が出ない――。

 冷たい石床から頬を引きはがし空を見上げる。
 四角い空は今日も青かった。

「おら、飯だ!」

 乱暴に置かれた皿の音に、びくりと身を竦ませる。
 いつもの塩水と差して変わらない薄いスープが、半分以上零れてしまっていた。

「あぁぁ……あぁ……」

 水だ。

 力の入らない脚を引きずって、冷たい床の上を進む。手を伸ばしても届かないから、重い体を引きずって。

――ガシャ!

 ようやく届いた。届いたのに……全部零れた。冷たい床が濡れている。

 舌を伸ばせば……。

 重い体を引きずって、濡れた床を目指して、床に爪を立てる。パキッと乾いた音を立てて爪が割れた。

 水……!

 辿り着いた。頬を冷たさが濡らす。額を床に付け舌を伸ばした。ざらりとした感触と共に舌が濡れる。

「――げほっ! がはぁ……!」

 掬い取ったスープの濃い塩分が喉を焼く。今日のは一段と塩気が濃い。なんでだろう、わからない。だけど――余計に喉が渇いた。

●
 今日の四角い空は曇っていた。雨でも降れば雨水が入ってくる。そうしたら、ただで水が飲める。早く降れ。雨よ降れ――。

「こいつなんですがね」

 檻の向こうで声が聞こえた。ご飯の時間……には、まだ早いような気がする。

「ふむ……子供、いや、ハーフリングか」
「ええ、とは言ってもまだ子供ですので、ヒューマンと変わりませんがね」
「それで、なにが特別なんだ?」
「へぇ、目を見てもらえますか」

 檻が蹴られた。何度も何度も蹴られた。それがうるさくて男を見上げる。

「ふむ、色違いか」
「なかなか珍しいでしょ?」
「そうだな、顔だちも悪くない。……少しやせ過ぎなような気もするが」
「おぉ! それじゃ」
「報酬は落札額の3割だ」
「3割!? せめて5割でしょう!! ここまで養ってきたんですぜ!?」
「養った? 飼っていたの間違いだろう」
「うっ……」
「3割だ。嫌ならこの話はなかった――」
「そ、それで大丈夫です! いやぁいい商売ができてオレも嬉しいですよ!」
「……明日引き取りに来る。せめて風呂に入れて見目だけは整えておいてくれよ」
「もちろんです!」

 もう一人の男が覗き込んでいる。初めて見る顔。でも、すぐに何処かへ行ってしまった。興味を無くしたみたいに……。

「おい、出ろ!」

 出ろ? 出ていいの……? でも、身体が動かないんだ……。重くて怠くて力が入らないんだ……。

「ったく、世話を焼かせやがって」

 腕を掴まれて無理やり起こされる。足で地面を踏むのはどれくらいぶりだろう。もちろん力なんて入らない、ただ男に引きずられていく――。

●

「うーむ、まぁこんなもんか」

 湯を浴びた。喉が渇いていたので沢山飲めた。小さな虫がいっぱい浮いてたけど、温かくて美味しかった。
 服を着た。ボロボロの布しか着てなかったから、着方がわからなかった。結局男が着せてくれた。体がもぞもぞする。肌に当たる布がくすぐったい。

「しまった、髪の毛……適当に切るか」

 鋏を取り出した男が髪の毛を引っ張った。ジョキジョキ――。

●

「着くまで大人しくしていろよ!」

 また空が四角になった。
 馬車の窓から見える空は、青く澄んでいる。

 重い鎖を沢山つけられた。首と手首と足首と腰と。
 僕はこれから売られるそうだ。買ってくれる人を見つける場所に行くらしい。
 どこでもいい。ご飯をくれるなら。何をされてもいい。水を飲ませてくれるのなら。

 ゴトゴトと揺れながら馬車は進んでいる。もうあの場所を出てどれくらいたっただろう。空は赤く染まっていた。

 馬車が突然止まった。馬がびっくりして大きな声を出している。

「な、なんだお前ぇ!」

 誰かがいる? だけど、小さな窓からは何も見えない。

「どけっ! 曳き殺されたいのか!」

 道を塞いでいるのだろうか。馬車は一向に動き出さない。

「えっ……ちょ、ま、待て!?」

 男が焦ってる。初めて聞いた声を出している。

「や、やめて――うぎゃああぁぁぁぁ!!!」

 悲鳴が聞こえた。男のものだと思う。馬車が揺れる。男が揺らしてるのだろうか。
 悲鳴が――聞こえなくなった。

 すぐに馬車のドアがこじ開けられた。隙間から赤い髪の女の人が覗き込んでいる。

 ……だれ?

 初めて見るその人は驚いてた。そして、ほっと胸をなでおろして淡く微笑んだ。
 差し伸べられた手を、僕は取った。

 馬車の外に連れ出されて、空を見上げる。空はもう暗くなっていた。

 女の人は馬車に火を放った。何もない所からいきなり火柱が上がる。あれが魔法……。
 うっとりと眺めていたら、女の人が振り向いた。

「もう大丈夫」

 そう言って微笑んだ女の人を、キリクは――とても綺麗だと思った。

登場キャラクター

アーカイブ生成日時 2026年08月05日 14時56分25秒 ・ world0