翔んでヴァレンタイン

キャラクターノベル制作 大和気 いぐる納品 2021年02月21日 20時46分00秒

 アルマ・ヴァレンタインは、ここのところ、モヤモヤしていた。
 どうにも、すっきりしない。

「こうして、バレン王子とタイン王女は、結ばれました……」
「ふたりのおかげで平和がおとずれ……」
「いつまでも、しあわせにくらしましたとさ」

 広場で、吟遊詩人が歌っている。
 最近リバイバルで流行りだした古い物語。

 バレンとタイン。ヴァレンタイン。

 自分だって、そろそろ、恋のひとつもしていい年頃のはず。
 だけど、そんな気配はまったくない。

 お姫様みたいに、フワフワのドレスで着飾った自分を想像してみる。
 となりには、ステキな王子様。
 優しく、エスコートしてくれて。
 それから。それから……?

 肝心の王子様の姿は、頭の中でぼんやりするばかり。
 ちっとも具体的な姿になってくれなかった。
 顔どころか、背格好だってイメージできない。
 種族すら、想像がつかない。

 これは、まずいのでは。
 つきあう理想の相手すら、イメージできない。
 いわゆる、非モテまっしぐら、というやつなのでは?
 というか、非モテそのものだ。
 彼氏いないし。告白されたこともないし。

「うわーーーん!!」

 アルマは冒険者ギルドに飛び込んだ。
 とにかく、仕事でもして、気分を変えたかった。
 アレコレ考えるより、体でも動かしていたほうがマシだ。

 言ってもキミ、まだ14才の女の子だろう?
 そうツッコんでくれる人は、不幸なことに、いなかった。



 そんな彼女の目を引くものが、冒険者ギルドには、あった。

『非モテさん、いらっしゃい!
 最近の甘ったるい雰囲気にウンザリな、そこのキミ!
 マザキヤの街は、非モテに優しいイベントを開催予定!
 行き場のないモヤモヤ、ここなら、ぶつけられます! 壊せます!
 マザキヤの【皿割りまつり】で、日頃のうっぷんを思い切り晴らそう!
 アベック死すべし! 慈悲無用!
 今なら、マザキヤ支部に顔を出すだけで、お小遣いも貰えちゃうゾ☆』

 なんというか、ひどい依頼書だった。
 ところどころ強調したいらしい所は、インクの色まで変えてある。
 変えるにしても、虹色配色(レインボー)はどうなのか。
 しかも、アベックって。死すべしって。ゾ☆って。

 色々とツッコミどころ満載だった。
 それでも、アルマの心で、なにかが灯った。
 行ってみよう。そうしたら、このモヤモヤも晴れるに違いない――。



 訪れたマザキヤの街は、どこかアルマの故郷に似ていた。
 もちろん、故郷はこんなに大きな街じゃない。
 でも、誰もが種族の区別なく、店を並べているのは同じで。
 そんなところが、そう思わせたのかもしれなかった。

「いらっしゃーい。冒険者なら、お小遣いをあげよう」

 冒険者ギルド支部をたずねるなり、そう声をかけられた。
 声の持ち主は、中年のヒューマン。
 支部長の腕章をつけている。

「支部長さんが、受付やってるの?」
「今は、ギルドから街へ応援を出しちまってるからな」

 アルマは、依頼書の写しを取り出し、支部長の顔と見比べた。

「言っとくが、アレを書いたのは、俺じゃないぞ」

 まだ何も言っていないのに。よほど不評だったのだろうか。

「……ほいほい。アルマ・ヴァレンタインさんね。ふむ……」

「名前とちがって、非モテだよー」
 そう言われるのは悔しいので、先回りして言う。

「まだ何も言ってないだろーが。
 ま、今年はこんなんだからなあ……お気の毒さま。
 せっかく来たんだし、皿でも割ってってくれ。
 それなりに二人連れ(カップル)も多いが、パンを買い漁ったっていい。
 もちろん、小遣い受け取り次第、さっさと帰ってもな」

「冗談! せっかく来たんだもん、観光してくよ!」

 内心は、その返答を期待していたのだろう。
 支部長は、報酬の袋を渡しながら、そーかそーかと満足げだ。

「街と会場に、ギルドの係員が何人か行ってる。
 案内ぐらいはできるから、気軽に頼ってくれ」

 なぜか意味ありげな笑顔で、そう言われた。



 陶工組合で出た、不良品のお皿を割りまくっていい。
 そのさい、日頃溜めこんだアレコレを叫びまくってもいい。
 つまるところ、皿割りまつりとは、そんなものらしい。

 それなら、体力は温存すべき。
 アルマは、マザキヤ入りしたその日は、宿で早々に休息をとった。
 その代わり翌日――まつりの当日は、早起き決行。

 叫んで、皿を割るなら、それなりの運動になるのだろう。
 準備運動は欠かせない。
「おいっちに、おいっちに」

 そのあとは、朝の街を散歩した。
 すでに街中、パンの焼けるいい匂いでいっぱいだった。
 思わず、気持ちが浮き立つ。
 食べ歩きたい気持ちになったが、まだ開店前の時間だ。
 ここは、我慢。宿で朝食も頼んじゃったし。

 街の広場の花壇には、早咲きの花がつぼみをつけていた。
 別に世話をする必要もないのだろうけど。
 何となく、噴水から水をくんで、まいた。
 ちょっと、故郷の花壇を思い出したせいかもしれない。

 宿にもどり、軽めの食事をとったら、時間もいい具合だった。
 いざ――出陣。
 別に戦闘に出るわけでもなかったが。
 アルマは桃色の帽子をキリリと被りなおし、会場へと向かった。

「よしっ! 割りまくるぞーっ!!」



 会場に向かう途中、アルマは、ある露店の前を通りがかった。
 小さなチョコレート菓子を売る店だ。
 パンじゃない。この街にしては、珍しい品揃えだ。

 ドワーフの売り子が、愛想よく言った。

「試供品ありますよ、おひとついかが?」
「……わあ、おいしそう! いただきまーす!」

 朝食を食べたばかりだけれど、一粒なら問題ないだろう。
 アルマは、差し出された菓子を口に入れた。

 噛みしめると、ぱきりとチョコが崩れる。
 中からは、とろり、ほろ苦い液体がこぼれ出た。
 なんだろう。あまり、馴染みがない。
 果物みたいな、穀物みたいな、木材みたいな、どれとも違う香り。
 それがチョコと混ざり合いながら広がる。結構、心地いい。
 余韻を楽しみながら飲み下す。
 喉から胃にかけてが、ホカホカと温まった。

「おいしい! 食べたことない味だなあ」

 なかなか気に入った。
 お財布の中身を確かめる。
 うん、少し高めだけど、買っても問題なさそう。

 一粒だけのつもりだったけれど。
 ついつい会場につく前に、ひとつ、またひとつ。
 袋からは、結構な数の菓子が消えてしまった。

 アルマは知るよしもなかったが。
 それは、ドワーフ王国産の大人の飲み物を入れた菓子だった。
 ついでに、チョコレートというものは。
 少なからず興奮作用があるのだった。



 結論から言えば。
 大変なことになった。

 会場入りした、アルマのテンションは、すでに限界を突破していた。

 高まるエーテルを抑えもせず、身を任せる。
 そのまま大音響と共に、皿の山に頭から突っ込んだ。

 ドン引きする周りをよそに、奇声をあげつつ皿を割った。
 割って、割って、割りまくった。
 
 街角で、アルマをかわいいな、と見初める少年がいたと仮定して。
 そのフラグもチャンスも、全て無に帰す勢いだった。

 幸いなのは、別にそういう事実は、なかったことぐらいである。

「名前が、ばれんたいんなのに!
 今年もボクは無敵のソロ軍団っ……チクショー!!」

 まあ、なんというか。無敵ではあった。色んな意味で。

 記念品のお皿をくれた人は、遠い目をしていた。



 散々に暴れ、胃の中はすっかり空っぽに。
 すると、アルマは憑き物が落ちたようになった。

「フー……体を動かして、声を出すって、気持ちいいね!」

 その後は、会場のあちこちに置かれた差し入れパンをつまんだり。
 冒険仲間の姿を見つけて、談笑しつつ、料理をごちそうになったり。

 お腹もふくれて、大満足。
 モヤモヤも晴れて、楽しい一日(イベント)は終わり。



 そのはずだった。

「う、うぐ……!?」

 どくん。
 大きな鼓動の音が、アルマの体内で響いた。
 そいつは、抗えない熱を持って、胃の腑の底で渦を巻く。

「く、くそっ……暴れだしやがった……ッ!」

 アルマはお腹を押さえて、その場にうずくまった。
 別に腹痛ではない。
 この年頃にありがちな、アレな病でも、たぶんない。
 口調の乱れは、ちょっぴり、そういう影響も、なくはないけど。

「静まれッ……静まるんだ!」

 だが、満たされぬソレは、膨れ上がるばかり。
 どうすればいい? どうすれば――。

 あせるアルマの脳裏に、少し前の記憶が蘇った。

『案内ぐらいはできるから、気軽に頼ってくれ』

 アルマは、緑の瞳をギラギラと輝かせ、会場を凝視した。
 アルパカ頭のハーフビーストの係員が、のん気に見回っている。
 いた。あれだ。
 ターゲット、ロックオン。

「ウォオオアアアーー!!」

 本日、何度目かの雄叫びをあげ、アルマは突撃した。

「な、なんだっ? 一体、どうしたパカ!?」

 すごい勢いで詰め寄られ、係員は目を白黒させる。
 アルマは、ぜいぜいと肩で息をし、唾を飲み込んで、言った。

「アレ……アレ(ゲテモノ)が欲しいんだよォ……!!」



「ここ、わりと上級者向けだけど、大丈夫パカ?」

 アルパカ係員が、連れてきてくれたのは、街外れの小さな店だった。
 東方趣味のちょっと怪しげな看板。
『珍味問屋 頂点(テッペン)』と書いてある。
 ごくり、アルマの喉が鳴った。
 こういうのは、尋常じゃない店構えのほうが、期待できる。

「ありがとう。行ってくるよ――」

 なぜか背中を煤けさせ、アルマは店の入り口へと進む。

 今ならわかる。
 そう、モヤモヤの原因はコレだ。
 恋へのあこがれ? 独り身の寂しさ?
 ないとは言わない。たしかに、それはあった。

 だけど。
 アルマは、ここひと月ほど、好物(ゲテモノ)を口にしていなかった。

 想像の中の、王子様。
 いまだに顔も思いつかないけれど。
 もしも、そんな人が現れるなら。
 同じものを食べ、味わい、眉をひそめることのない。
 そんなひとがいい……のかも。

「たのもう!」

 店の扉も、アルマの扉も、まだ開いたばかり――。

登場キャラクター

アーカイブ生成日時 2026年08月05日 14時56分25秒 ・ world0