二人の距離
キャラクターノベル(グループ)制作 真柄 葉納品 2021年02月19日 20時37分56秒
「おっ! アレなんだ!」
「お、おい、アステル!」
レオネベルが名を呼んだ頃には、アステルはすでに声の届かぬ所にまで移動していた。
「ったく、はしゃぎ過ぎだぞ。いくら珍しいもんが並んでるからって……」
言いつつレオネベルは視線を移し露店を見る。
最近、迷宮都市で大量に産出されるようになったカカオのおかげで、今まで高級品として手の出なかった『チョコレート』が、街に沢山並ぶようになった。
「でも、確かにこうやって見てるだけでも楽しいな」
露天商はこの流行りに乗ろうと趣向を凝らした様々なチョコを店先に並べている。
「わわっ、これ動物の形してるのか……? すげぇ、ひよこだ。本物みたい……か、かわいい」
数ある露天の中、ある店先に並べられた商品にレオネベルは一瞬で目を奪われた。その造形があまりにもレオネベルの興味を引きまくる。
「これ欲しい。かわいい……」
「え、なにが可愛いって?」
「おわっ!?」
ひよこ型のチョコレートに吸い寄せられるように顔を近づけたレオネベルは、突然かけられた声に飛び上がる。いつのまにか戻ってきたアステルが横から覗き込んでいた。
「おおっ! これ動物の形してる! 黒いって事は、全部チョコレート!? すげぇ! これ全部、おっちゃんが作ったのか?」
と、アステルは驚くレオネベルより目の前に並ぶチョコの動物達に興味を惹かれたのか、目を輝かせながら店主に問いかける。
「――へぇ、型があるんだ。ふむふむ、材料にもこだわってるって?」
「……おい、アステル」
店主と熱いチョコ談義に花を咲かせるアステルに、レオネベルはすっかり蚊帳の外。
「おいってば! これはオレが先に見つけたんだからな!」
「えっ、中身? へぇ、この牛には何が入ってるんだ?」
「聞いてるのかアステル!」
「プラム!? 甘いチョコの中にそんなすっぱいもの入れて大丈夫なのか……?」
「…………むぅ!」
「絶妙にマッチ!? そ、そうなのか。オレも食べてみた――おわっ!?」
店主の話にごくりと喉を鳴らしたアステルは、突然服を引っ張られたたらを踏んだ。
「行くぞ!」
「レオ!? ちょ! なんだよ、放せって! オレはおっちゃんと――」
「ふんっ!」
猛抗議するも腕力では到底レオネベルに勝てないアステルは、引きずられるままに動物型のチョコを扱う店を後にした。
●
「自分から引き揚げといて落ち込むなって……」
ズーンと落ち込むレオネベルをよしよししながら、アステルは呆れる。
「欲しいなら買ってきてやろうか? お前のことだからひよこがいいんだろ?」
「……いらない」
「なんで、あんなに気に入ってたのに」
意固地になっているのかプイっとそっぽを向くレオネベルに、アステルは困ったように問いかけた。
「……だって」
「だって?」
レオネベルは消え入るような声で小さく呟く。
「あんなに可愛いの、食べられるわけないだろっ!?」
「…………え、そっち?」
返ってきた答えに呆気にとられるアステル。レオネベルといえば真剣な顔で目にはうっすら涙まで貯めている。
「まぁいいや。ちょっと待ってな」
「えっ、ちょっと、どこ行くんだよ!」
「いいから待ってろって!」
言うなりアステルはレオネベルの前から姿を消してしまった。
●
「お待たせっ!」
「遅い! 一体どこ行ってたんだ」
「ごめんごめん、ちょっと混んでてさ」
そう言って戻ってきたアステルはレオネベルの横に腰かけた。
「混んでて?」
首をかしげるレオネベルに、アステルが持っていた紙袋を広げる。中には先ほどの露店に売ってた動物型チョコが詰まっていた。
「これってさっきの露店の?」
「そうそう、結構人気の店みたいでさ。随分並んじゃったよ」
言いつつアステルは袋から兎型のチョコを取り出す。
「可愛いと人気も出るんだな」
「う、うん」
兎のチョコを眺めながら話すアステルに、レオネベルも頷いた。
「さて、これの中身は何でしょう」
と、突然アステルが問いかける。
「えっ? 何でしょうって、さっきプラムが入ってるって」
「ぶぶー! 正解は――」
勿体つけるように間を取るアステルに、レオネベルは眉間にしわを寄せた。
「わかりません!」
「は?」
質問の間にもアステルは袋からどんどんとチョコを出していた。鼠、牛、虎、竜――合計12種類の動物型チョコがある。
「ああ、なるほど、そういう事か。中身の当て合い勝負をしようってわけだな」
「おっ、さっすがレオ、話が早い!」
並べられたチョコを見てそう結論を出した幼馴染に、アステルはぐっと親指を立てた。
「ただし」
「うん?」
「一つだけ唐辛子入りがあるらしい」
「ぶっ!?」
手元に並ぶチョコ動物を見下ろすレオネベルの目つきが変わる。
「さぁ、やろう! 一体どんな味があるのか楽しみだな!」
びくりと肩をすくませるレオネベルに、アステルはニヤリと口元を歪ませ羊型のチョコを手に取った。
「待った!」
「うん?」
レオネベルの声にアステルがチョコを口に運ぶ手を止める。
「オレが食べさせる」
「……へっ!?」
アステルはレオネベルの台詞に思わずチョコを落としそうになった。
「お前が買って来たんだから当然だろ? 不正防止だ」
「むむむ……わかったよ、それでいい」
「よし、負けねぇからな!」
「こっちこそ!」
こうして手に汗握るチョコレートルーレット勝負が始まった。
「アステル、口開けろ。ほら、あーん」
「ふふーん、オレ知ってるぞ! こういうのはどう見ても大丈夫なやつが案外当たりだったりするんだ。レオ、あーん」
「あ、美味しい。これ苺だ」
「蛇のこれ、とぐろ巻いてるの悪意を感じるんだけどっ!?」
「おい、アステル! それはオレがとっておいた犬だぞ!」
「へへーん、早い者勝ちだ!」
二人は互いに相手の口にチョコを運び――そして、ついに決着はついた。
「オレの勝ちだな!」
と、必死に口を押さえるアステルに、レオネベルが水筒を手渡した。
「くそぉ、負けたぁ……」
ひりひりと疼く口の中に水を流しいれながら、アステルは項垂れる。
「へへ、勝負でオレに勝とうなんて、10年早いぜ!」
「くそっ! 次は負けないからな! ――ん!」
胸を反らし鼻を鳴らすレオネベルに、アステルが何やら差し出した。
「うん? なんだこれ」
「賞品」
「賞品?」
レオネベルは首を捻りながらも、手渡された包みを受け取り、解いてみる。すると、中には不思議な形の木細工が入っていた。
「なんだこれ?」
「チョコの『型』だ」
「型?」
状況が飲み込めないレオネベルに、アステルは続ける。
「それがあればいっぱいひよこが作れるだろ? だから、おっちゃんにお願いして譲ってもらった」
そう言いながらアステルは少し照れたように笑った。
「もしかして、あたしの為にわざわざ?」
レオネベルは手渡されたチョコの型とアステルの顔を交互に見る。
「そそ、レオの為に。だからさ、それでいっぱいチョコ作くれよ。それで、失敗したやつでいいからさ、オレにも分けてくれ」
「なんだよそれ、失敗する前提なのかよ」
「無駄をなくす、いいアイデアだろ?」
そう言うとアステルはいたずらっ子の様に、にひひと笑いかけた。
「……そっか。ありがと、アステル」
レオネベルはプレゼントされた木細工をぎゅっと胸に抱きながら呟く。
「どういたしまして!」
本当に嬉しい時にしか出さないレオネベルの少女の声に、アステルは太陽の様に無邪気な笑顔を向けたのだった。
「お、おい、アステル!」
レオネベルが名を呼んだ頃には、アステルはすでに声の届かぬ所にまで移動していた。
「ったく、はしゃぎ過ぎだぞ。いくら珍しいもんが並んでるからって……」
言いつつレオネベルは視線を移し露店を見る。
最近、迷宮都市で大量に産出されるようになったカカオのおかげで、今まで高級品として手の出なかった『チョコレート』が、街に沢山並ぶようになった。
「でも、確かにこうやって見てるだけでも楽しいな」
露天商はこの流行りに乗ろうと趣向を凝らした様々なチョコを店先に並べている。
「わわっ、これ動物の形してるのか……? すげぇ、ひよこだ。本物みたい……か、かわいい」
数ある露天の中、ある店先に並べられた商品にレオネベルは一瞬で目を奪われた。その造形があまりにもレオネベルの興味を引きまくる。
「これ欲しい。かわいい……」
「え、なにが可愛いって?」
「おわっ!?」
ひよこ型のチョコレートに吸い寄せられるように顔を近づけたレオネベルは、突然かけられた声に飛び上がる。いつのまにか戻ってきたアステルが横から覗き込んでいた。
「おおっ! これ動物の形してる! 黒いって事は、全部チョコレート!? すげぇ! これ全部、おっちゃんが作ったのか?」
と、アステルは驚くレオネベルより目の前に並ぶチョコの動物達に興味を惹かれたのか、目を輝かせながら店主に問いかける。
「――へぇ、型があるんだ。ふむふむ、材料にもこだわってるって?」
「……おい、アステル」
店主と熱いチョコ談義に花を咲かせるアステルに、レオネベルはすっかり蚊帳の外。
「おいってば! これはオレが先に見つけたんだからな!」
「えっ、中身? へぇ、この牛には何が入ってるんだ?」
「聞いてるのかアステル!」
「プラム!? 甘いチョコの中にそんなすっぱいもの入れて大丈夫なのか……?」
「…………むぅ!」
「絶妙にマッチ!? そ、そうなのか。オレも食べてみた――おわっ!?」
店主の話にごくりと喉を鳴らしたアステルは、突然服を引っ張られたたらを踏んだ。
「行くぞ!」
「レオ!? ちょ! なんだよ、放せって! オレはおっちゃんと――」
「ふんっ!」
猛抗議するも腕力では到底レオネベルに勝てないアステルは、引きずられるままに動物型のチョコを扱う店を後にした。
●
「自分から引き揚げといて落ち込むなって……」
ズーンと落ち込むレオネベルをよしよししながら、アステルは呆れる。
「欲しいなら買ってきてやろうか? お前のことだからひよこがいいんだろ?」
「……いらない」
「なんで、あんなに気に入ってたのに」
意固地になっているのかプイっとそっぽを向くレオネベルに、アステルは困ったように問いかけた。
「……だって」
「だって?」
レオネベルは消え入るような声で小さく呟く。
「あんなに可愛いの、食べられるわけないだろっ!?」
「…………え、そっち?」
返ってきた答えに呆気にとられるアステル。レオネベルといえば真剣な顔で目にはうっすら涙まで貯めている。
「まぁいいや。ちょっと待ってな」
「えっ、ちょっと、どこ行くんだよ!」
「いいから待ってろって!」
言うなりアステルはレオネベルの前から姿を消してしまった。
●
「お待たせっ!」
「遅い! 一体どこ行ってたんだ」
「ごめんごめん、ちょっと混んでてさ」
そう言って戻ってきたアステルはレオネベルの横に腰かけた。
「混んでて?」
首をかしげるレオネベルに、アステルが持っていた紙袋を広げる。中には先ほどの露店に売ってた動物型チョコが詰まっていた。
「これってさっきの露店の?」
「そうそう、結構人気の店みたいでさ。随分並んじゃったよ」
言いつつアステルは袋から兎型のチョコを取り出す。
「可愛いと人気も出るんだな」
「う、うん」
兎のチョコを眺めながら話すアステルに、レオネベルも頷いた。
「さて、これの中身は何でしょう」
と、突然アステルが問いかける。
「えっ? 何でしょうって、さっきプラムが入ってるって」
「ぶぶー! 正解は――」
勿体つけるように間を取るアステルに、レオネベルは眉間にしわを寄せた。
「わかりません!」
「は?」
質問の間にもアステルは袋からどんどんとチョコを出していた。鼠、牛、虎、竜――合計12種類の動物型チョコがある。
「ああ、なるほど、そういう事か。中身の当て合い勝負をしようってわけだな」
「おっ、さっすがレオ、話が早い!」
並べられたチョコを見てそう結論を出した幼馴染に、アステルはぐっと親指を立てた。
「ただし」
「うん?」
「一つだけ唐辛子入りがあるらしい」
「ぶっ!?」
手元に並ぶチョコ動物を見下ろすレオネベルの目つきが変わる。
「さぁ、やろう! 一体どんな味があるのか楽しみだな!」
びくりと肩をすくませるレオネベルに、アステルはニヤリと口元を歪ませ羊型のチョコを手に取った。
「待った!」
「うん?」
レオネベルの声にアステルがチョコを口に運ぶ手を止める。
「オレが食べさせる」
「……へっ!?」
アステルはレオネベルの台詞に思わずチョコを落としそうになった。
「お前が買って来たんだから当然だろ? 不正防止だ」
「むむむ……わかったよ、それでいい」
「よし、負けねぇからな!」
「こっちこそ!」
こうして手に汗握るチョコレートルーレット勝負が始まった。
「アステル、口開けろ。ほら、あーん」
「ふふーん、オレ知ってるぞ! こういうのはどう見ても大丈夫なやつが案外当たりだったりするんだ。レオ、あーん」
「あ、美味しい。これ苺だ」
「蛇のこれ、とぐろ巻いてるの悪意を感じるんだけどっ!?」
「おい、アステル! それはオレがとっておいた犬だぞ!」
「へへーん、早い者勝ちだ!」
二人は互いに相手の口にチョコを運び――そして、ついに決着はついた。
「オレの勝ちだな!」
と、必死に口を押さえるアステルに、レオネベルが水筒を手渡した。
「くそぉ、負けたぁ……」
ひりひりと疼く口の中に水を流しいれながら、アステルは項垂れる。
「へへ、勝負でオレに勝とうなんて、10年早いぜ!」
「くそっ! 次は負けないからな! ――ん!」
胸を反らし鼻を鳴らすレオネベルに、アステルが何やら差し出した。
「うん? なんだこれ」
「賞品」
「賞品?」
レオネベルは首を捻りながらも、手渡された包みを受け取り、解いてみる。すると、中には不思議な形の木細工が入っていた。
「なんだこれ?」
「チョコの『型』だ」
「型?」
状況が飲み込めないレオネベルに、アステルは続ける。
「それがあればいっぱいひよこが作れるだろ? だから、おっちゃんにお願いして譲ってもらった」
そう言いながらアステルは少し照れたように笑った。
「もしかして、あたしの為にわざわざ?」
レオネベルは手渡されたチョコの型とアステルの顔を交互に見る。
「そそ、レオの為に。だからさ、それでいっぱいチョコ作くれよ。それで、失敗したやつでいいからさ、オレにも分けてくれ」
「なんだよそれ、失敗する前提なのかよ」
「無駄をなくす、いいアイデアだろ?」
そう言うとアステルはいたずらっ子の様に、にひひと笑いかけた。
「……そっか。ありがと、アステル」
レオネベルはプレゼントされた木細工をぎゅっと胸に抱きながら呟く。
「どういたしまして!」
本当に嬉しい時にしか出さないレオネベルの少女の声に、アステルは太陽の様に無邪気な笑顔を向けたのだった。
登場キャラクター
レオネベル
アステル