ブラッドの死
四ノ月血戦 イベントノベル(テーマ)赤の吸血鬼狩り制作 おおくまねこ納品 2025年05月10日 10時42分59秒
●
「お前か? このふざけた手紙で俺を呼び出した吸血鬼は」
満月の夜が煌々と輝く夜。吸血鬼ハンター・ブラッドは丘の上の古寺院に自分を呼び出した吸血鬼と対峙していた。
十歳ぐらいの頃、赤の教会に保護されたブラッドは今や成人し、吸血鬼狩りとなっていた。そしてつい先日、そんな彼の下に一体の金色の蝙蝠がやってきた。明らかに尋常の生き物ではなかったため思わず射殺してしまったが、そいつは吸血鬼の使い魔だったらしく、黄金の封筒に入った手紙を所持していた。ブラッドが中身を検めるとそこには、
「君の父親について知っているから教えてあげよう。次の満月の夜、丘の上の寺院に一人で来たまえ ――G・Gより愛をこめて」
と書かれていた。
あまりにも怪しかったため最初は疑ったが、ブラッドは『金色の祖父』を名乗る不審者からの呼び出しに応じることにした。自身の出生の謎を知りたいという好奇心が警戒心を上回ったのだ。ブラッドは何らかの術で脳をいじられた形跡があり、保護される以前の記憶をなくしていたからだ。
「うむ。初めまして。私の名はMr.G(ミスター・ゴールデン)。私こそが君のG・Gだ」
その瞬間、ブラッドは男の眉間を撃ち抜きたい衝動に駆られたが、鍛えられた鋼の精神力でグッと堪えた。
「貴様が俺の祖父だと? なら、父親と母親についても答えてもらおうか」
「いい質問だ、ブラッド。だが君の質問に答えるためには、まずは私の生業について知ってもらう必要がある。そう、あれは百年ほど前のことだった……」
そして、長い語りが始まった。
「……私は悩んだ。薔薇の氏族の末席である私が領地を得るためにはどうすればいいのかと。そして、まずは名のある貴族に取り立ててもらうべきだと結論した。……そう、社交界デビューだよ!」
「おい。一体いつになったら俺の父親と母親が出てくるんだ!?」
小一時間ほどMr.Gの半生を聞かされたブラッドの苛立ちは限界に達していた。ひたすらおっさんの苦労話が続くだけで、まだブラッドの両親は影も形もない。
「これからがいいところなのだよ、ブラッド! だがブラッド、君がどうしてもと言うのならば、答えてあげるが世の情けだ。私を一言、『祖父いちゃん』と呼んでくれたら――」
タタタンッ!
ついにブラッドの堪忍袋の緒が切れた。ブラッドは吸血鬼の心臓目掛け発砲した。
「もういい。死ね」
「気が短いな、ブラッド! 私の牧場でも家畜達に『生き残るために最も重要な才能は腕っぷしではなく機を図る能力だ』と教えているのに! だがその闘志は悪くない! その燃えるように赤い髪も魅力的だ! 私が君をプロデュースしてあげよう!」
「黙れ! 馴れ馴れしく俺の名を呼ぶな!」
二丁拳銃を抜いたブラッドはHAHAHAと笑う変態紳士に向けて盛大に弾をバラまいた。殺してしまえばこいつから話を聞くことは不可能だが、どうせ吸血鬼は皆殺しなので問題ない。
「暴れるのなら仕方ない!」
Mr.Gは容易くブラッドの弾丸の雨を掻い潜り、黄金の槍を作り出した。その突きは閃光と見紛うほどに鋭く、ブラッドの体はみるみるうちに血に染まっていく。
(こうも間合いにやすやすと……!)
「何故私のプロデュースを拒む! 君は! 吸血鬼になりたがっていた筈だよ!」
「なんだと!?」
Mr.Gの意外な言葉に、ついブラッドは動揺してしまった。その一瞬の隙を見逃さず、Mr.Gはブラッドの片足を槍で抉った。
「チッ」
渾身の力で大きく後ろに飛び、追撃を回避するブラッド。しかし、そこでバランスを崩し、片膝をついてしまった。
「それ以上、そいつに手を出すな!」
その時、寺院の影から誰かが飛び出してきた。Mr.Gは驚き、闖入者から距離を取る。
「新手か!」
割って入ってきたのは、黒髪の吸血鬼だった。男は棒を構え、仮面の吸血鬼を睨み付けている。
(どういうことだ……違う氏族の吸血鬼か?)
ブラッドは注意深く、二体の吸血鬼の様子を伺っている。
「HAHAHA、久しいな! 元召使い君! いや、ここはあえて我が子と呼ぶべきかな!? 喜べブラッド! ついに君のお父さんの登場だよ!」
「あの黒髪が俺の父親……? どういうことだ??」
ドクン、とブラッドの心臓が跳ねる。言われてみれば、自分はあの男にどこか見覚えが――。
「違う! 俺はお前なんて――むぐっ!?」
黒髪――ペデラは何か言おうとしたが、その瞬間、Gが放った黄金の大蛇が彼に巻き付き、体ごとその口を塞いでしまった。さらにMr.Gは足を負傷して動きの鈍っているブラッドを黄金色の十字架に捉え、動きを封じてしまった。
「聞き給え、ブラッド! 君は人間だが、十歳までこのペデラに育てられたのだよ」
「何?」
「君は父と同じく、吸血鬼になりたいと望んだ。だが、ペデラ君はそれを望まなかった。だから彼は君の記憶を封じ、自らは聖職者に討たれたフリをして君の前から消えたのだ」
熱弁を振るうMr.G。教会では「吸血鬼の甘言に耳を貸すな」と教わっていたが、ブラッドにはなぜか、男の言葉に聞き入ていた。
「さあ、今こそあるべき所に帰ろう。元召使い君と共に、君を薔薇の氏族として迎えようじゃないか」
「……俺が、吸血鬼に……そうだ、俺の名前は。俺の親は。俺の望みは……」
ブラッド譫言を呟きながら、黄金色のグラスを持ってゆっくりと近づいてくるMr.Gを見ている。だが、ブラッドまであと一歩という所でMr.Gの影が盛り上がり、彼を串刺しにしてその動きを縫い留めた。
「しっかりしろ、レピド!」
ペデラはブラッドへと声をかけながら、十字架を影の刃で叩き斬った。
「レピド」
ブラッド――否、レピドは噛み締めるように呟く。
(そうだ、俺の名前は。俺の親は。俺の望みは)
ブラッドの瞳に光が宿る。その眼にはMr.Gへの明確な殺意が浮かんでいる。
「何故? WHY?? ちょっと元召使いくん、君、そんな強力な拘束呪術使えたっけ?」
銃口を向けられ慌てるMr.G。しかし、思いのほかペデラの呪術が強力で身動きができない。
「アーッ! グッバイ現世!!」
タタタン。タタタン。
渇いた銃声が丘に響く。そして銀弾で心臓を射抜かれたMr.Gは黄金色の灰となった。ブラッドには何故か――夜空一杯に広がるMr.Gのイイ笑顔が見えた気がした。
「……やれやれ、やっと消えたか」
ペデラは大の字になって倒れながらぼやいた。実は大技の二連発で力を使い果たしてしまい、もう一歩も動けなくなっていたのだ。
「にゃあ」
ペデラの傍らではキジトラが彼の顔をぺろぺろと舐めている。この猫は彼の使い魔だろうか。
「オレはもう一歩も動けん。さあ、撃てよ。吸血鬼ハンターだろ」
ペデラは夜空を見上げたままレピドに声をかける。しかし、レピドは銃をしまい、膝から零れている血をすくってペデラの口へと押し込んだ。
「なんてことするんだよ、滅茶苦茶美味くて危うく理性飛ぶとこだったろ!?」
ペデラが怒鳴ると、レピドは泣き笑いの表情を浮かべた。
「あんたには生きてて貰わないと困るんだ。俺はあんた以外の子になる気はない……今度こそ、約束を守って貰うからな?」
頭を覆う霧はもうすっかり晴れていて、何もかもを取り戻していた。
「お前も本当に強情だなぁ、誰に似たんだよマジで。……全くもう、泣く子供には勝てねぇや」
ペデラは目を腕で覆い、大きく口を開けて笑っていた。
こうして、赤の吸血鬼狩りブラッドは教会から姿を消した。
「お前か? このふざけた手紙で俺を呼び出した吸血鬼は」
満月の夜が煌々と輝く夜。吸血鬼ハンター・ブラッドは丘の上の古寺院に自分を呼び出した吸血鬼と対峙していた。
十歳ぐらいの頃、赤の教会に保護されたブラッドは今や成人し、吸血鬼狩りとなっていた。そしてつい先日、そんな彼の下に一体の金色の蝙蝠がやってきた。明らかに尋常の生き物ではなかったため思わず射殺してしまったが、そいつは吸血鬼の使い魔だったらしく、黄金の封筒に入った手紙を所持していた。ブラッドが中身を検めるとそこには、
「君の父親について知っているから教えてあげよう。次の満月の夜、丘の上の寺院に一人で来たまえ ――G・Gより愛をこめて」
と書かれていた。
あまりにも怪しかったため最初は疑ったが、ブラッドは『金色の祖父』を名乗る不審者からの呼び出しに応じることにした。自身の出生の謎を知りたいという好奇心が警戒心を上回ったのだ。ブラッドは何らかの術で脳をいじられた形跡があり、保護される以前の記憶をなくしていたからだ。
「うむ。初めまして。私の名はMr.G(ミスター・ゴールデン)。私こそが君のG・Gだ」
その瞬間、ブラッドは男の眉間を撃ち抜きたい衝動に駆られたが、鍛えられた鋼の精神力でグッと堪えた。
「貴様が俺の祖父だと? なら、父親と母親についても答えてもらおうか」
「いい質問だ、ブラッド。だが君の質問に答えるためには、まずは私の生業について知ってもらう必要がある。そう、あれは百年ほど前のことだった……」
そして、長い語りが始まった。
「……私は悩んだ。薔薇の氏族の末席である私が領地を得るためにはどうすればいいのかと。そして、まずは名のある貴族に取り立ててもらうべきだと結論した。……そう、社交界デビューだよ!」
「おい。一体いつになったら俺の父親と母親が出てくるんだ!?」
小一時間ほどMr.Gの半生を聞かされたブラッドの苛立ちは限界に達していた。ひたすらおっさんの苦労話が続くだけで、まだブラッドの両親は影も形もない。
「これからがいいところなのだよ、ブラッド! だがブラッド、君がどうしてもと言うのならば、答えてあげるが世の情けだ。私を一言、『祖父いちゃん』と呼んでくれたら――」
タタタンッ!
ついにブラッドの堪忍袋の緒が切れた。ブラッドは吸血鬼の心臓目掛け発砲した。
「もういい。死ね」
「気が短いな、ブラッド! 私の牧場でも家畜達に『生き残るために最も重要な才能は腕っぷしではなく機を図る能力だ』と教えているのに! だがその闘志は悪くない! その燃えるように赤い髪も魅力的だ! 私が君をプロデュースしてあげよう!」
「黙れ! 馴れ馴れしく俺の名を呼ぶな!」
二丁拳銃を抜いたブラッドはHAHAHAと笑う変態紳士に向けて盛大に弾をバラまいた。殺してしまえばこいつから話を聞くことは不可能だが、どうせ吸血鬼は皆殺しなので問題ない。
「暴れるのなら仕方ない!」
Mr.Gは容易くブラッドの弾丸の雨を掻い潜り、黄金の槍を作り出した。その突きは閃光と見紛うほどに鋭く、ブラッドの体はみるみるうちに血に染まっていく。
(こうも間合いにやすやすと……!)
「何故私のプロデュースを拒む! 君は! 吸血鬼になりたがっていた筈だよ!」
「なんだと!?」
Mr.Gの意外な言葉に、ついブラッドは動揺してしまった。その一瞬の隙を見逃さず、Mr.Gはブラッドの片足を槍で抉った。
「チッ」
渾身の力で大きく後ろに飛び、追撃を回避するブラッド。しかし、そこでバランスを崩し、片膝をついてしまった。
「それ以上、そいつに手を出すな!」
その時、寺院の影から誰かが飛び出してきた。Mr.Gは驚き、闖入者から距離を取る。
「新手か!」
割って入ってきたのは、黒髪の吸血鬼だった。男は棒を構え、仮面の吸血鬼を睨み付けている。
(どういうことだ……違う氏族の吸血鬼か?)
ブラッドは注意深く、二体の吸血鬼の様子を伺っている。
「HAHAHA、久しいな! 元召使い君! いや、ここはあえて我が子と呼ぶべきかな!? 喜べブラッド! ついに君のお父さんの登場だよ!」
「あの黒髪が俺の父親……? どういうことだ??」
ドクン、とブラッドの心臓が跳ねる。言われてみれば、自分はあの男にどこか見覚えが――。
「違う! 俺はお前なんて――むぐっ!?」
黒髪――ペデラは何か言おうとしたが、その瞬間、Gが放った黄金の大蛇が彼に巻き付き、体ごとその口を塞いでしまった。さらにMr.Gは足を負傷して動きの鈍っているブラッドを黄金色の十字架に捉え、動きを封じてしまった。
「聞き給え、ブラッド! 君は人間だが、十歳までこのペデラに育てられたのだよ」
「何?」
「君は父と同じく、吸血鬼になりたいと望んだ。だが、ペデラ君はそれを望まなかった。だから彼は君の記憶を封じ、自らは聖職者に討たれたフリをして君の前から消えたのだ」
熱弁を振るうMr.G。教会では「吸血鬼の甘言に耳を貸すな」と教わっていたが、ブラッドにはなぜか、男の言葉に聞き入ていた。
「さあ、今こそあるべき所に帰ろう。元召使い君と共に、君を薔薇の氏族として迎えようじゃないか」
「……俺が、吸血鬼に……そうだ、俺の名前は。俺の親は。俺の望みは……」
ブラッド譫言を呟きながら、黄金色のグラスを持ってゆっくりと近づいてくるMr.Gを見ている。だが、ブラッドまであと一歩という所でMr.Gの影が盛り上がり、彼を串刺しにしてその動きを縫い留めた。
「しっかりしろ、レピド!」
ペデラはブラッドへと声をかけながら、十字架を影の刃で叩き斬った。
「レピド」
ブラッド――否、レピドは噛み締めるように呟く。
(そうだ、俺の名前は。俺の親は。俺の望みは)
ブラッドの瞳に光が宿る。その眼にはMr.Gへの明確な殺意が浮かんでいる。
「何故? WHY?? ちょっと元召使いくん、君、そんな強力な拘束呪術使えたっけ?」
銃口を向けられ慌てるMr.G。しかし、思いのほかペデラの呪術が強力で身動きができない。
「アーッ! グッバイ現世!!」
タタタン。タタタン。
渇いた銃声が丘に響く。そして銀弾で心臓を射抜かれたMr.Gは黄金色の灰となった。ブラッドには何故か――夜空一杯に広がるMr.Gのイイ笑顔が見えた気がした。
「……やれやれ、やっと消えたか」
ペデラは大の字になって倒れながらぼやいた。実は大技の二連発で力を使い果たしてしまい、もう一歩も動けなくなっていたのだ。
「にゃあ」
ペデラの傍らではキジトラが彼の顔をぺろぺろと舐めている。この猫は彼の使い魔だろうか。
「オレはもう一歩も動けん。さあ、撃てよ。吸血鬼ハンターだろ」
ペデラは夜空を見上げたままレピドに声をかける。しかし、レピドは銃をしまい、膝から零れている血をすくってペデラの口へと押し込んだ。
「なんてことするんだよ、滅茶苦茶美味くて危うく理性飛ぶとこだったろ!?」
ペデラが怒鳴ると、レピドは泣き笑いの表情を浮かべた。
「あんたには生きてて貰わないと困るんだ。俺はあんた以外の子になる気はない……今度こそ、約束を守って貰うからな?」
頭を覆う霧はもうすっかり晴れていて、何もかもを取り戻していた。
「お前も本当に強情だなぁ、誰に似たんだよマジで。……全くもう、泣く子供には勝てねぇや」
ペデラは目を腕で覆い、大きく口を開けて笑っていた。
こうして、赤の吸血鬼狩りブラッドは教会から姿を消した。