【甘露】金の双眸、店主と『四ノ月血戦』の一部を語る
四ノ月血戦 イベントノベル(テーマ)牡丹の氏族制作 菊華 伴納品 2025年05月07日 08時46分33秒
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――『甘露亭』
とある街にある、小さめの食堂。そこは真昼だと聖職者達がよく食事を食べに来ていた。夕暮れには閉まるものの……、深夜にこっそり開くこともある。というのも、ここは吸血鬼向けにも、開いているのだから。
●
「いらっしゃいませ、カモミィル様」
「いつものを」
ある月のない夜。ふらりと訪れた男性は最奥のカウンター席に向かいながらそう言い、小柄な体で高めの椅子に座った。すると赤い酒で満たされ、ザクロの実が2、3粒浮かんだグラスが目の前に置かれ、彼は香りを楽しむとこくり、一口。
「そういえば、『四ノ月血戦』もそろそろ終わりか?」
とカウンターの中から店主が問えば、カモミィルと呼ばれた小柄な男性は小さく頷く。
「噂が本当ならば、そうだろうな」
そういってまた酒を口にし、ため息を吐く。その顔はどことなく満足気だ。
「『四ノ月血戦』、色々あったらしいね」
店主がおつまみだろう干し肉を出すと共に話題を振れば、カモミィルは相槌を打ち、楽しそうに笑う。
「『菊の氏族』の男が、彼らの体術を使う『青の聖騎士団』の若者と戦ったとか、『赤の吸血鬼狩り』同士の模擬戦がなかなか面白かったとか」
「因縁のある『牡丹の氏族』と『赤の吸血鬼狩り』の乙女達がぶつかった、とか」
彼が楽し気に囀れば、店主がぽつり、と。それに、金色の双眸が僅かに見開かれる。店主はそれにすまし顔。
その他にも「とある聖職者の小隊が解散命令を出された」とか、「どこぞの見習いが数人の吸血鬼相手に奮闘した」とか、「横柄な性格で有名だったとある聖職者の兄弟が、強力な吸血鬼に始末された」など会話が弾み、酒が進む。
「そうそう! 先日油断した奴が軽やかに動く聖職者に討たれたって聞いたよ。全く、曇りとはいえ昼間に動くからさ」
「曇りに動けるようになって燥いだんだろうよ」
カモミィルが齎した話題に、店主が苦笑する。そして、客人同様尖った牙を見せ、肩を竦めた。
「我々にはやはり夜が合う」
「同感だ」
カモミィルは苦笑するとグラスの中の赤い酒を飲み干し、カウンターに金貨を数枚置く。
「すまないね」
「楽しい会話へのお礼だ。釣りはいらない。――それに、今夜で真夜中の部は閉店なのだろう?」
そういうと、彼はドアを開け……音もなく夜闇に溶けていった。
やがて夜が明ける。
『甘露亭』の扉に『しばらくお休みにします』の看板がかかったのは、それからすぐの事だった。
(終)
――『甘露亭』
とある街にある、小さめの食堂。そこは真昼だと聖職者達がよく食事を食べに来ていた。夕暮れには閉まるものの……、深夜にこっそり開くこともある。というのも、ここは吸血鬼向けにも、開いているのだから。
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「いらっしゃいませ、カモミィル様」
「いつものを」
ある月のない夜。ふらりと訪れた男性は最奥のカウンター席に向かいながらそう言い、小柄な体で高めの椅子に座った。すると赤い酒で満たされ、ザクロの実が2、3粒浮かんだグラスが目の前に置かれ、彼は香りを楽しむとこくり、一口。
「そういえば、『四ノ月血戦』もそろそろ終わりか?」
とカウンターの中から店主が問えば、カモミィルと呼ばれた小柄な男性は小さく頷く。
「噂が本当ならば、そうだろうな」
そういってまた酒を口にし、ため息を吐く。その顔はどことなく満足気だ。
「『四ノ月血戦』、色々あったらしいね」
店主がおつまみだろう干し肉を出すと共に話題を振れば、カモミィルは相槌を打ち、楽しそうに笑う。
「『菊の氏族』の男が、彼らの体術を使う『青の聖騎士団』の若者と戦ったとか、『赤の吸血鬼狩り』同士の模擬戦がなかなか面白かったとか」
「因縁のある『牡丹の氏族』と『赤の吸血鬼狩り』の乙女達がぶつかった、とか」
彼が楽し気に囀れば、店主がぽつり、と。それに、金色の双眸が僅かに見開かれる。店主はそれにすまし顔。
その他にも「とある聖職者の小隊が解散命令を出された」とか、「どこぞの見習いが数人の吸血鬼相手に奮闘した」とか、「横柄な性格で有名だったとある聖職者の兄弟が、強力な吸血鬼に始末された」など会話が弾み、酒が進む。
「そうそう! 先日油断した奴が軽やかに動く聖職者に討たれたって聞いたよ。全く、曇りとはいえ昼間に動くからさ」
「曇りに動けるようになって燥いだんだろうよ」
カモミィルが齎した話題に、店主が苦笑する。そして、客人同様尖った牙を見せ、肩を竦めた。
「我々にはやはり夜が合う」
「同感だ」
カモミィルは苦笑するとグラスの中の赤い酒を飲み干し、カウンターに金貨を数枚置く。
「すまないね」
「楽しい会話へのお礼だ。釣りはいらない。――それに、今夜で真夜中の部は閉店なのだろう?」
そういうと、彼はドアを開け……音もなく夜闇に溶けていった。
やがて夜が明ける。
『甘露亭』の扉に『しばらくお休みにします』の看板がかかったのは、それからすぐの事だった。
(終)