発端《side:青の聖騎士》
四ノ月血戦 イベントノベル(テーマ)青の聖騎士団制作 弓月 蒼納品 2025年05月09日 12時37分26秒
吸血鬼は――――人類の天敵である。例外はない。
故に一度『聖職者』として生きる事を選んだのであれば。戦い、勝利する以外の選択肢は存在しない。
求められるものは清廉さではなく強さであり。正しさではなく確からしさなのだから。
其処に男女の差分など必要ない。聖騎士は敗北してはならない。それは即ち“神の剣”の敗北だからだ。
「分かるか、『聖騎士』レティシア・R・クラティアス」
「はい、『聖騎士隊長』。私は敗けません。決して、如何なる凶悪な吸血鬼が相手であろうとも」
「結構。今宵与えられた聖銀の槍は青の枢機卿猊下より齎された騎士の誇りだ。
努々、輝きを見失う事無きように務めると良い」
膝を付き、首を垂れる銀髪の娘に、一本の白銀の槍が与えられる。
それは彼女が『青の聖騎士』として一人前を迎えた証であり、対吸血鬼戦線の最前線に辿り着いた証明。
祖国を吸血鬼に滅ぼされ、『聖騎士隊』の一員になってより3年。
元貴族だったレティシアは、苛烈なる聖騎士アルガスの薫陶を受け『聖職者』としての一歩を踏み出した。
――――つい、先月の話である。
(……っ、不味いですね……)
瓦礫に身を隠す。呼吸が乱れる。二の腕から流れる血は法術で止めたが。奪われた体力は戻らない。
単独での“狩り”はこの一月で3度目。だが、アルガス卿麾下の騎士隊では百近い場数を踏んでいる。
その自分が、単独の吸血鬼相手に此処まで追い詰められるのは想定外だった。
彼女が敬愛する隊長より学んだことは多いが、中でも最も大切だと繰り返し伝えられた事がある。
例えどれほど自らの行いに疑問を憶えようと、一度切り結んだならば勝利するまで手を止めない事。
何を当たり前のことを。と、その時は思ったものだが。いざこうなって来ると自分の甘さを実感する。
油断があった訳ではなかった。ただ、似ていたのだ。この夜対峙した吸血鬼は余りにも、恩人に。
他人の空似なのはすぐに分かった。敵手の携えた毒々しい黒槍と相打つこと3度。
(――――行ける……!)
相手がアルガス卿だったなら2合持たない。難敵ではあるが、追い縋れない程の隔絶は感じなかった。
そうして渾身の踏み込み。切り上げた穂先。殺った。と、確信した筈だ。
筈……だったのに。その瞳に過ぎった、まるで死を望む様な色深い絶望を目の当たりにした瞬間。
レティシアは、遂にその切っ先を振り下ろす事が――――出来なかった。
故に一度『聖職者』として生きる事を選んだのであれば。戦い、勝利する以外の選択肢は存在しない。
求められるものは清廉さではなく強さであり。正しさではなく確からしさなのだから。
其処に男女の差分など必要ない。聖騎士は敗北してはならない。それは即ち“神の剣”の敗北だからだ。
「分かるか、『聖騎士』レティシア・R・クラティアス」
「はい、『聖騎士隊長』。私は敗けません。決して、如何なる凶悪な吸血鬼が相手であろうとも」
「結構。今宵与えられた聖銀の槍は青の枢機卿猊下より齎された騎士の誇りだ。
努々、輝きを見失う事無きように務めると良い」
膝を付き、首を垂れる銀髪の娘に、一本の白銀の槍が与えられる。
それは彼女が『青の聖騎士』として一人前を迎えた証であり、対吸血鬼戦線の最前線に辿り着いた証明。
祖国を吸血鬼に滅ぼされ、『聖騎士隊』の一員になってより3年。
元貴族だったレティシアは、苛烈なる聖騎士アルガスの薫陶を受け『聖職者』としての一歩を踏み出した。
――――つい、先月の話である。
(……っ、不味いですね……)
瓦礫に身を隠す。呼吸が乱れる。二の腕から流れる血は法術で止めたが。奪われた体力は戻らない。
単独での“狩り”はこの一月で3度目。だが、アルガス卿麾下の騎士隊では百近い場数を踏んでいる。
その自分が、単独の吸血鬼相手に此処まで追い詰められるのは想定外だった。
彼女が敬愛する隊長より学んだことは多いが、中でも最も大切だと繰り返し伝えられた事がある。
例えどれほど自らの行いに疑問を憶えようと、一度切り結んだならば勝利するまで手を止めない事。
何を当たり前のことを。と、その時は思ったものだが。いざこうなって来ると自分の甘さを実感する。
油断があった訳ではなかった。ただ、似ていたのだ。この夜対峙した吸血鬼は余りにも、恩人に。
他人の空似なのはすぐに分かった。敵手の携えた毒々しい黒槍と相打つこと3度。
(――――行ける……!)
相手がアルガス卿だったなら2合持たない。難敵ではあるが、追い縋れない程の隔絶は感じなかった。
そうして渾身の踏み込み。切り上げた穂先。殺った。と、確信した筈だ。
筈……だったのに。その瞳に過ぎった、まるで死を望む様な色深い絶望を目の当たりにした瞬間。
レティシアは、遂にその切っ先を振り下ろす事が――――出来なかった。