極北行3
キャラクターノベル制作 コースケ納品 2025年02月13日 11時40分09秒
●再遭遇
極北の雪原を小人の少女、トーラは走っていた。
猫耳付きの黒フードを目深に被り、尻尾付きの黒ズボンと猫足を模したブーツまで身に付けている事もあり、遠目には黒い獣が駆けている様にも見える。
昨晩までの吹雪により新雪に覆われた平原は、一歩踏み出すだけで深く沈み足を取られそうなものだが盗賊として経験を重ねたトーラの特殊な歩法は、それが硬い地面であるかのように問題なく雪を蹴って進んでいた。
(早く見つけないと……!)
トーラが急ぐ理由は、先日戦闘を行った這者を探すためだ。
(与えた傷が塞がる前に発見したかったのですが……!)
準備を整えて出発しようとした矢先に吹雪に見舞われ、じりじりと吹雪が収まるのを待っていたトーラは、天候回復の兆しを見るなり拠点を飛び出したのだ。
やがて這者が退いた地点に到着し、凍った岩場を進んだ先でトーラは風景の変化に気付く。
「ここは……、居住可能区域?」
地熱があるのか周囲より暖かく、所々覗く地面には苔が生えていた。しかし、苔は白く色褪せており、触るとさら、と崩れ去る。
「這者のエーテル収奪……!」
這者の痕跡に警戒を強め進んだ先で、トーラはその姿を発見した。
●黄金の這者
雪と凍てついた岩に囲まれた窪みの中心に、這者は踞っていた。
黄金に輝く長い身体に三対の脚を持つ姿は巨大な竹節虫に近いが、胴体は太く、脚は虫のような節足ではなく人の手足に似ており、頭部は歪な人のような顔をしていた。
その顔の左半分は潰れ目が塞がり、胴体にも複数の傷がある。それらは先日の戦闘でトーラが付けた傷であり、間違いなく件の這者である。
(ダメージは残っています!)
トーラは金色の這者が此方に反応する前に仕掛けるべく、左右の手に握った神材製の筒を握り雪を蹴る。
「今度こそ――倒しますっ!」
視界の奪われているであろう左側に回り込んだトーラは、握る神材の筒から空色と緑青の二色の刃を伸ばし、流れるような動きで斬りつけた!
『ー、ーーッ!』
「わっ! っとっと!」
腕を斬られた這者が上半身を起こし、トーラを捕らえようと金色の体液の滴る前肢を振り回すが、トーラはそれを掻い潜り、側面に回り込みながら更に四条の裂傷を刻む!
金色の飛沫が飛び散るがトーラは軽やかに距離を取ってこれも避ける。
(やはり、動きは速くありませんね)
反撃を回避しながらトーラは用心深く這者を観察する。
巨体になれば一撃の威力は重く、打たれ強さも増す反面、動きは鈍るものだ。だが、そんな明確な弱点を持った存在が生きられるほど極北の環境は甘くないことは一年近くの極北行で学んでいる。
加えて、大型になればなるほど強力になる這者が、この程度の戦闘力である筈がないという確信があった。
「ですが負けませんよ!」
トーラが神材の刃を躍らせ、這者の叫びと共に金の液体が四度吹き出した。
●行動不全
「これでっ!」
空色の刃が金色の脚に食い込む。度重なる連撃を受けた脚は自重を支えることが出来ず、這者が大きく体勢を崩す。下敷きにならないよう距離を取ったトーラは、傷だらけの這者から目を離さぬようにしながら息を整える。
「随分かかりましたが、これで終わりです」
這者はトーラの攻撃により全身に裂傷を負い、四本の脚を破壊されていた。残ったのは左側の中と後脚であるため、這う様な移動しか出来ない上に右側に回り込まれれば脚の攻撃は届かず、後は口からの衝撃波にさえ気を付ければ良い。
勝利を確信したトーラは距離を詰め、這者の胴に刺突を入れようと神材の刃を握り締める。
「……!?」
だが、その腕が突き出されることはなかった。いや、腕だけでなくトーラの全身が自由に動かず、棒立ちのまま固まってしまったのだ。
(どうして……?)
動かない身体に混乱しつつ、辛うじて動く眼球を動かせばこちらを向く這者の顔が映った。潰れた片目と開いた口が歪な笑顔の様にも見えるが、それが笑顔でないことを知るトーラの背筋に悪寒が走る。
(あれを受けちゃ駄目!)
次の瞬間、這者の口から放たれた咆哮がトーラを吹き飛ばした!
「ぎゃふっ……!」
受け身も取れず氷雪の中へ落ちたトーラの身体がゴロゴロと転がり、突き出た岩にぶつかって停止する。全身が酷く痛み、特に衝撃波をまともに受けた右半身がずきずき痛んで警鐘を鳴らす。
「動か、なきゃ……!」
声が出せることから身体が動くことに気付いたトーラは、悲鳴を上げる身体に鞭打って岩陰に転がり込む。直後、隠れた岩を衝撃波が襲い、バラバラと氷や岩の破片が降り注いだ!
●推測
(奥の手が物理的な攻撃とばかり思い込んでいたのは失敗でしたね)
岩陰で衝撃波をやり過ごすトーラは左手の青緑の刃を補助に、自身に治癒を使い負傷を回復させる。
「僅かに鼻を突く臭いがします。これが身体の自由を奪ったみたいですね」
続けて傷を癒しながら、トーラは小さな鼻をひくつかせる。這者の細かい体液が宙に漂い、それを吸うことで徐々に蓄積した這者の澱がトーラに行動不全を起こさせたのだろう。
「体液には気を付けていましたが、まさかこんな手を使って来るなんて……」
とは言え、澱が濃いであろう体液を直接浴びていればもっと速く身体の自由を失っていた可能性が高く、行動不全からの回復にも手間取り這者の餌食になっていたであろうことを考えれば、体液を浴びなかったことは正解だった。
「もしかしたら窪地に居たのは、風で細かい体液が飛散し難い場所を選んだのかもしれませんね……」
這者にそういった知性があるかは不明だが、本能かそれに近い出身地の論理がそうさせたのかもしれない。
「ですが、それを検証するのは後です!」
頭上に巨大な影がかかる。這者が迫っていたのだ。のたうつ巨体に押し潰されるより速く、トーラは疾風の様に飛び出した!
●氷結
「決着を、つけましょうか」
大きく息を吸い、トーラはシアンブレードを構える。対となるセルリアンエッジは落としていて連撃は使えないが、這者も限界は近い。
そのまま睨み合うも、再び行動不全が起きる前にとトーラが動く。
「やっ!」
下段から振り上げた刃から伸びる衝撃波が雪を巻き上げながら這者に迫り、這者は眼前に氷の壁を形成しそれを防ぐ!
『ーー!?』
反撃に移ろうとする這者だったが、巻き上がった雪に遮られトーラを見失っていた。周囲を見回すがその瞬間、下から伸びた刃が顔を貫いた! トーラは雪煙に紛れ衝撃波を追い、這者の下まで駆け寄っていたのだ。
「逃がしません!」
首を振り逃れようとする這者だったが、トーラは刃を捻って頭を抉る!
『ーッ!!!』
「!?」
勝利を確信したトーラだったが、指先を襲った激痛に息を呑む。見れば刃が霜に被われ、腕にまでそれが広がっていたのだ。
(冷気攻撃!? まだこんな奥の手を残し――違う! わたしを道連れにするつもりだ!)
冷気は這者を中心に広が続けており、這者自身の身体も白く凍てつかせている。その歪んだ顔が、トーラを嗤っている様にも見えた。
(離脱は間に合いません。ならば!)
トーラはエーテルを止めて神材の筒から刃を消し、渾身の一撃を放つべく再び筒へエーテルを込める。
「わあああっ!!!」
爆発的に広がる衝撃波が凍った這者の頭を吹き飛ばす! だが、トーラも冷気に包まれ全身に霜が広がってゆく。
――そして、雪原に動くものはいなくなった。
極北の雪原を小人の少女、トーラは走っていた。
猫耳付きの黒フードを目深に被り、尻尾付きの黒ズボンと猫足を模したブーツまで身に付けている事もあり、遠目には黒い獣が駆けている様にも見える。
昨晩までの吹雪により新雪に覆われた平原は、一歩踏み出すだけで深く沈み足を取られそうなものだが盗賊として経験を重ねたトーラの特殊な歩法は、それが硬い地面であるかのように問題なく雪を蹴って進んでいた。
(早く見つけないと……!)
トーラが急ぐ理由は、先日戦闘を行った這者を探すためだ。
(与えた傷が塞がる前に発見したかったのですが……!)
準備を整えて出発しようとした矢先に吹雪に見舞われ、じりじりと吹雪が収まるのを待っていたトーラは、天候回復の兆しを見るなり拠点を飛び出したのだ。
やがて這者が退いた地点に到着し、凍った岩場を進んだ先でトーラは風景の変化に気付く。
「ここは……、居住可能区域?」
地熱があるのか周囲より暖かく、所々覗く地面には苔が生えていた。しかし、苔は白く色褪せており、触るとさら、と崩れ去る。
「這者のエーテル収奪……!」
這者の痕跡に警戒を強め進んだ先で、トーラはその姿を発見した。
●黄金の這者
雪と凍てついた岩に囲まれた窪みの中心に、這者は踞っていた。
黄金に輝く長い身体に三対の脚を持つ姿は巨大な竹節虫に近いが、胴体は太く、脚は虫のような節足ではなく人の手足に似ており、頭部は歪な人のような顔をしていた。
その顔の左半分は潰れ目が塞がり、胴体にも複数の傷がある。それらは先日の戦闘でトーラが付けた傷であり、間違いなく件の這者である。
(ダメージは残っています!)
トーラは金色の這者が此方に反応する前に仕掛けるべく、左右の手に握った神材製の筒を握り雪を蹴る。
「今度こそ――倒しますっ!」
視界の奪われているであろう左側に回り込んだトーラは、握る神材の筒から空色と緑青の二色の刃を伸ばし、流れるような動きで斬りつけた!
『ー、ーーッ!』
「わっ! っとっと!」
腕を斬られた這者が上半身を起こし、トーラを捕らえようと金色の体液の滴る前肢を振り回すが、トーラはそれを掻い潜り、側面に回り込みながら更に四条の裂傷を刻む!
金色の飛沫が飛び散るがトーラは軽やかに距離を取ってこれも避ける。
(やはり、動きは速くありませんね)
反撃を回避しながらトーラは用心深く這者を観察する。
巨体になれば一撃の威力は重く、打たれ強さも増す反面、動きは鈍るものだ。だが、そんな明確な弱点を持った存在が生きられるほど極北の環境は甘くないことは一年近くの極北行で学んでいる。
加えて、大型になればなるほど強力になる這者が、この程度の戦闘力である筈がないという確信があった。
「ですが負けませんよ!」
トーラが神材の刃を躍らせ、這者の叫びと共に金の液体が四度吹き出した。
●行動不全
「これでっ!」
空色の刃が金色の脚に食い込む。度重なる連撃を受けた脚は自重を支えることが出来ず、這者が大きく体勢を崩す。下敷きにならないよう距離を取ったトーラは、傷だらけの這者から目を離さぬようにしながら息を整える。
「随分かかりましたが、これで終わりです」
這者はトーラの攻撃により全身に裂傷を負い、四本の脚を破壊されていた。残ったのは左側の中と後脚であるため、這う様な移動しか出来ない上に右側に回り込まれれば脚の攻撃は届かず、後は口からの衝撃波にさえ気を付ければ良い。
勝利を確信したトーラは距離を詰め、這者の胴に刺突を入れようと神材の刃を握り締める。
「……!?」
だが、その腕が突き出されることはなかった。いや、腕だけでなくトーラの全身が自由に動かず、棒立ちのまま固まってしまったのだ。
(どうして……?)
動かない身体に混乱しつつ、辛うじて動く眼球を動かせばこちらを向く這者の顔が映った。潰れた片目と開いた口が歪な笑顔の様にも見えるが、それが笑顔でないことを知るトーラの背筋に悪寒が走る。
(あれを受けちゃ駄目!)
次の瞬間、這者の口から放たれた咆哮がトーラを吹き飛ばした!
「ぎゃふっ……!」
受け身も取れず氷雪の中へ落ちたトーラの身体がゴロゴロと転がり、突き出た岩にぶつかって停止する。全身が酷く痛み、特に衝撃波をまともに受けた右半身がずきずき痛んで警鐘を鳴らす。
「動か、なきゃ……!」
声が出せることから身体が動くことに気付いたトーラは、悲鳴を上げる身体に鞭打って岩陰に転がり込む。直後、隠れた岩を衝撃波が襲い、バラバラと氷や岩の破片が降り注いだ!
●推測
(奥の手が物理的な攻撃とばかり思い込んでいたのは失敗でしたね)
岩陰で衝撃波をやり過ごすトーラは左手の青緑の刃を補助に、自身に治癒を使い負傷を回復させる。
「僅かに鼻を突く臭いがします。これが身体の自由を奪ったみたいですね」
続けて傷を癒しながら、トーラは小さな鼻をひくつかせる。這者の細かい体液が宙に漂い、それを吸うことで徐々に蓄積した這者の澱がトーラに行動不全を起こさせたのだろう。
「体液には気を付けていましたが、まさかこんな手を使って来るなんて……」
とは言え、澱が濃いであろう体液を直接浴びていればもっと速く身体の自由を失っていた可能性が高く、行動不全からの回復にも手間取り這者の餌食になっていたであろうことを考えれば、体液を浴びなかったことは正解だった。
「もしかしたら窪地に居たのは、風で細かい体液が飛散し難い場所を選んだのかもしれませんね……」
這者にそういった知性があるかは不明だが、本能かそれに近い出身地の論理がそうさせたのかもしれない。
「ですが、それを検証するのは後です!」
頭上に巨大な影がかかる。這者が迫っていたのだ。のたうつ巨体に押し潰されるより速く、トーラは疾風の様に飛び出した!
●氷結
「決着を、つけましょうか」
大きく息を吸い、トーラはシアンブレードを構える。対となるセルリアンエッジは落としていて連撃は使えないが、這者も限界は近い。
そのまま睨み合うも、再び行動不全が起きる前にとトーラが動く。
「やっ!」
下段から振り上げた刃から伸びる衝撃波が雪を巻き上げながら這者に迫り、這者は眼前に氷の壁を形成しそれを防ぐ!
『ーー!?』
反撃に移ろうとする這者だったが、巻き上がった雪に遮られトーラを見失っていた。周囲を見回すがその瞬間、下から伸びた刃が顔を貫いた! トーラは雪煙に紛れ衝撃波を追い、這者の下まで駆け寄っていたのだ。
「逃がしません!」
首を振り逃れようとする這者だったが、トーラは刃を捻って頭を抉る!
『ーッ!!!』
「!?」
勝利を確信したトーラだったが、指先を襲った激痛に息を呑む。見れば刃が霜に被われ、腕にまでそれが広がっていたのだ。
(冷気攻撃!? まだこんな奥の手を残し――違う! わたしを道連れにするつもりだ!)
冷気は這者を中心に広が続けており、這者自身の身体も白く凍てつかせている。その歪んだ顔が、トーラを嗤っている様にも見えた。
(離脱は間に合いません。ならば!)
トーラはエーテルを止めて神材の筒から刃を消し、渾身の一撃を放つべく再び筒へエーテルを込める。
「わあああっ!!!」
爆発的に広がる衝撃波が凍った這者の頭を吹き飛ばす! だが、トーラも冷気に包まれ全身に霜が広がってゆく。
――そして、雪原に動くものはいなくなった。