その縁は、手紙に紡がれて。
キャラクターノベル(グループ)制作 菊華 伴納品 2025年02月26日 09時02分24秒
●
――リーンエス王国・とある帝国との国境付近の街。
その日、レティシア・R・クラティアスはとある人物と待ち合わせをしていた。相手は帝国の所属であり、仕事の傍らレティシアと会う約束をしているのだ。
「おまたせ! ……えと、お待たせして申し訳ありません」
元気な笑みで駆けてきたかと思えば、姿勢を正し冷静に謝罪する少年。ロバ耳が特徴的なハーフビーストのレビジュ・バトーだった。その傍らには、彼とよく似たヒューマンの青年――ラルジャン・ジキタリスの姿もある。
「いいえ、私も今来たところですから」
「うぅ、先生から『あまり淑女を待たせるものではない』って言われたんだけど……」
ふふっ、と微笑むレティシアに、レビジュが苦笑いをする。その様子に、青年がこほん、と咳払いする。そして、立ち話も何だから、と喫茶店へと入ることにした。
レティシアは、冒険者を辞め時間をかけ心を通わせた相手と婚約を結んだ。それと数々の冒険活動の結果、彼女は将来的に元第2王子の義姉になる。その事を告げれば二人は少し驚いた様子で「おめでとうございます」と言祝いだ。
「じゃあ、こうして話せるのは最後になるんだね」
レビジュが少し寂し気にそういえば、レティシアは眉を下げた笑みを見せる。それがすべてを語っているように二人には思えた。
彼女は王国貴族の夫人となり、忙しい日々を送ることになる。冒険者時代のように簡単に帝国へ行くことなどできなくなるのだ。
「そこで、1つ提案があります。……レビジュ様、私と文のやり取りをしませんか?」
レティシアの言葉に、レビジュの表情が少し明るくなる。が、すぐに不安そうなものに変わる。ちらりと見たラルジャンがそっと
「レティシア様には婚約者がいらっしゃいます。それ故心配しているのでしょう」
と言えば彼女は『婚約者には了承を得ている』事を告げる。冒険者時代の友人だから、と彼も快諾してくれたらしい。それに、レビジュは帝国の薬師である。様々な活躍と要因により帝国や同盟など他国でも相応に人脈があるという妙な顔の広さとなってしまった彼女だ、そんな若者と知り合いであり協力者となっていてもおかしくはない、と判断されたのだろう。
「僕は、手紙を書いたことがあまりないから上手に書けないかもしれないけれど……、手紙でやり取りできるのは嬉しいな」
レビジュは、嬉しそうに口元を綻ばせた。
●
拝啓、 レティシア・R・クラティアス様
いまだ寒い日が続きますが、お変わりありませんでしょうか?
こちらは、雪の降る日が少しずつ減ってきました。任務の合間に、仲間と墓参りついでに雪かきをしていたのですが、その回数も減りそうです。
そこから始まったレビジュの手紙には、帝国での日々が書かれていた。
彼にも事情がある。いろいろと書けないこともあるが故、無難な内容となると『エクスピアシオン』の仲間たちとの日々が自然と中心になる。
多くの事情を抱え、それでも前を向いて生きる彼らの様子に、レティシアは安堵する。と同時に自分の掲げた目標の事も意識した。
彼女はレビジュが帝国に捕らえられた頃から知っている。その当時と比べ、レビジュは、そして仲間たちは随分『人』として成長したようにレティシアには思える。
立場故怪我をすることはあれど、おおむね健やかに過ごしているレビジュ達の様子に、レティシアの表情は柔らかいものになっていた。
「そうですね。私も、お返事を書きましょう」
と、便せんと封筒を取り出すとさっそくペンをとった。
拝啓、レビジュ・バトー様
あれからいかがお過ごしですか?
こちらは、何事もなく穏やかに過ごしています。
と、便せんに書きこんだレティシアは小さく深呼吸をした。
さぁ、何から書こうか、と考えながら。
(そういえば……)
ふと、脳裏に過ったのはかつて『メドゥの指先』として騒動を起こした一人の少年のこと。『デゼスポワル』最後の一人であり、自ら罪を認め裁かれる事を選んだ彼との少し話したことだ。レティシアは、自然と大森林にあった小さな里での出来事を思い出す。
(そう、あの時私は……)
悔いのないように生きる。そう、あの少年に話した。
そして、その通りに動き――帝国決戦で命を棄てようとした思い人を止めることができた。
レティシアの手が動き出す。自然と、手紙が綴られていく。
その時のことも書いたうえで、彼女は婚約者についても書いていく。
彼は王国貴族ですが、少々複雑な事情がありました。けれど父方の家に正式に受け入れられた事で私の家族にも認められ、婚約することができました。
色々と学ぶことが多く、大変な日々を過ごしていますが、それでもすべて大切なこと。愛する人や家族を守る為に必要な事なので頑張って学んでいきます。
私の目標は、今の立場を利用して異なる立場や派閥の調整役となり理想の国を目指す事です。貴方のように種族や生まれを理由に傷付けられ悲しむ人が居なくなるよう、そして憎しみの連鎖を止められるよう、少しずつ王国を良い国にしたいと考えています。
恐らくこれからも冒険者時代とは違う意味での困難が待っている事でしょう。でも、私には仲間がいます。愛する人がいます。少しずつ、進めていく所存です。
(少し堅苦しくなっていませんでしょうか?)
書いた手紙を読み返し、それから少し修正したうえで封筒に入れる。レティシアは、小さく微笑むとそれをギルドに持っていくよう頼みに行くのだった。
●
――帝国・ヴァイセントラフ砦。
その日、レビジュは上官達と共に復興作業が遅れ気味な場所へ行く準備をしていた。自分宛の手紙が来たと聞いた時、青年はちらりと従兄弟からか、友達からかで迷う。
渡された手紙は2通で、予想通りの二人からの物であった。
ラルジャンから来た手紙には、ジキタリス家やその周辺の土地の様子、学園を卒業したら医者としての修業を始める事が書かれていた。
(そっか……。がんばってるんだよね)
と僅かな暖かさに浸りつつレティシアからの手紙の封を切る。彼女からの気遣い、そして、未来に向けた希望を感じ取れる内容に思わずやる気が漲った。
自分や仲間たちの事もレティシアの抱く『目標』の切っ掛けとなったと思うと、少し目を丸くした。が、やがて少しずつ胸の奥が暖かくなっていく。
「レティシアさん……」
レビジュは、心地よい胸の痛みを覚えながら、一文に目を止める。
以前は自分の幸福を諦め、『誰かの為に尽くす』事が私のやるべきことだと考えていました。けれど、最近ようやくですが愛する人と一緒に幸せになる事を望む自分を、許せるようになったと思うのです。
(……よかった)
自然と綻んだ顔に気づかないまま、レビジュは自然と頷いていた。
凛としていて、でもどこか危うい雰囲気のあった彼女が、今は自分の幸せを大事にしていることが嬉しいのだ。それと共に自分自身もどこかで『自分の幸せ』を諦めてはいないだろうか、と振り返る。
「僕も、自分の幸せ……大事にしていいのかな」
レビジュはそっと手紙を折りたたむと、丁寧に封筒に入れて胸に抱いた。
それからも、二人は己の空いた時間を使い文通を続けた。手紙で時に喜びを共有し、時に悩みを共有し、お互いの役目に役立てていった。
――遠い未来、その手紙は貴重な資料となるとも知らずに。
(終)
――リーンエス王国・とある帝国との国境付近の街。
その日、レティシア・R・クラティアスはとある人物と待ち合わせをしていた。相手は帝国の所属であり、仕事の傍らレティシアと会う約束をしているのだ。
「おまたせ! ……えと、お待たせして申し訳ありません」
元気な笑みで駆けてきたかと思えば、姿勢を正し冷静に謝罪する少年。ロバ耳が特徴的なハーフビーストのレビジュ・バトーだった。その傍らには、彼とよく似たヒューマンの青年――ラルジャン・ジキタリスの姿もある。
「いいえ、私も今来たところですから」
「うぅ、先生から『あまり淑女を待たせるものではない』って言われたんだけど……」
ふふっ、と微笑むレティシアに、レビジュが苦笑いをする。その様子に、青年がこほん、と咳払いする。そして、立ち話も何だから、と喫茶店へと入ることにした。
レティシアは、冒険者を辞め時間をかけ心を通わせた相手と婚約を結んだ。それと数々の冒険活動の結果、彼女は将来的に元第2王子の義姉になる。その事を告げれば二人は少し驚いた様子で「おめでとうございます」と言祝いだ。
「じゃあ、こうして話せるのは最後になるんだね」
レビジュが少し寂し気にそういえば、レティシアは眉を下げた笑みを見せる。それがすべてを語っているように二人には思えた。
彼女は王国貴族の夫人となり、忙しい日々を送ることになる。冒険者時代のように簡単に帝国へ行くことなどできなくなるのだ。
「そこで、1つ提案があります。……レビジュ様、私と文のやり取りをしませんか?」
レティシアの言葉に、レビジュの表情が少し明るくなる。が、すぐに不安そうなものに変わる。ちらりと見たラルジャンがそっと
「レティシア様には婚約者がいらっしゃいます。それ故心配しているのでしょう」
と言えば彼女は『婚約者には了承を得ている』事を告げる。冒険者時代の友人だから、と彼も快諾してくれたらしい。それに、レビジュは帝国の薬師である。様々な活躍と要因により帝国や同盟など他国でも相応に人脈があるという妙な顔の広さとなってしまった彼女だ、そんな若者と知り合いであり協力者となっていてもおかしくはない、と判断されたのだろう。
「僕は、手紙を書いたことがあまりないから上手に書けないかもしれないけれど……、手紙でやり取りできるのは嬉しいな」
レビジュは、嬉しそうに口元を綻ばせた。
●
拝啓、 レティシア・R・クラティアス様
いまだ寒い日が続きますが、お変わりありませんでしょうか?
こちらは、雪の降る日が少しずつ減ってきました。任務の合間に、仲間と墓参りついでに雪かきをしていたのですが、その回数も減りそうです。
そこから始まったレビジュの手紙には、帝国での日々が書かれていた。
彼にも事情がある。いろいろと書けないこともあるが故、無難な内容となると『エクスピアシオン』の仲間たちとの日々が自然と中心になる。
多くの事情を抱え、それでも前を向いて生きる彼らの様子に、レティシアは安堵する。と同時に自分の掲げた目標の事も意識した。
彼女はレビジュが帝国に捕らえられた頃から知っている。その当時と比べ、レビジュは、そして仲間たちは随分『人』として成長したようにレティシアには思える。
立場故怪我をすることはあれど、おおむね健やかに過ごしているレビジュ達の様子に、レティシアの表情は柔らかいものになっていた。
「そうですね。私も、お返事を書きましょう」
と、便せんと封筒を取り出すとさっそくペンをとった。
拝啓、レビジュ・バトー様
あれからいかがお過ごしですか?
こちらは、何事もなく穏やかに過ごしています。
と、便せんに書きこんだレティシアは小さく深呼吸をした。
さぁ、何から書こうか、と考えながら。
(そういえば……)
ふと、脳裏に過ったのはかつて『メドゥの指先』として騒動を起こした一人の少年のこと。『デゼスポワル』最後の一人であり、自ら罪を認め裁かれる事を選んだ彼との少し話したことだ。レティシアは、自然と大森林にあった小さな里での出来事を思い出す。
(そう、あの時私は……)
悔いのないように生きる。そう、あの少年に話した。
そして、その通りに動き――帝国決戦で命を棄てようとした思い人を止めることができた。
レティシアの手が動き出す。自然と、手紙が綴られていく。
その時のことも書いたうえで、彼女は婚約者についても書いていく。
彼は王国貴族ですが、少々複雑な事情がありました。けれど父方の家に正式に受け入れられた事で私の家族にも認められ、婚約することができました。
色々と学ぶことが多く、大変な日々を過ごしていますが、それでもすべて大切なこと。愛する人や家族を守る為に必要な事なので頑張って学んでいきます。
私の目標は、今の立場を利用して異なる立場や派閥の調整役となり理想の国を目指す事です。貴方のように種族や生まれを理由に傷付けられ悲しむ人が居なくなるよう、そして憎しみの連鎖を止められるよう、少しずつ王国を良い国にしたいと考えています。
恐らくこれからも冒険者時代とは違う意味での困難が待っている事でしょう。でも、私には仲間がいます。愛する人がいます。少しずつ、進めていく所存です。
(少し堅苦しくなっていませんでしょうか?)
書いた手紙を読み返し、それから少し修正したうえで封筒に入れる。レティシアは、小さく微笑むとそれをギルドに持っていくよう頼みに行くのだった。
●
――帝国・ヴァイセントラフ砦。
その日、レビジュは上官達と共に復興作業が遅れ気味な場所へ行く準備をしていた。自分宛の手紙が来たと聞いた時、青年はちらりと従兄弟からか、友達からかで迷う。
渡された手紙は2通で、予想通りの二人からの物であった。
ラルジャンから来た手紙には、ジキタリス家やその周辺の土地の様子、学園を卒業したら医者としての修業を始める事が書かれていた。
(そっか……。がんばってるんだよね)
と僅かな暖かさに浸りつつレティシアからの手紙の封を切る。彼女からの気遣い、そして、未来に向けた希望を感じ取れる内容に思わずやる気が漲った。
自分や仲間たちの事もレティシアの抱く『目標』の切っ掛けとなったと思うと、少し目を丸くした。が、やがて少しずつ胸の奥が暖かくなっていく。
「レティシアさん……」
レビジュは、心地よい胸の痛みを覚えながら、一文に目を止める。
以前は自分の幸福を諦め、『誰かの為に尽くす』事が私のやるべきことだと考えていました。けれど、最近ようやくですが愛する人と一緒に幸せになる事を望む自分を、許せるようになったと思うのです。
(……よかった)
自然と綻んだ顔に気づかないまま、レビジュは自然と頷いていた。
凛としていて、でもどこか危うい雰囲気のあった彼女が、今は自分の幸せを大事にしていることが嬉しいのだ。それと共に自分自身もどこかで『自分の幸せ』を諦めてはいないだろうか、と振り返る。
「僕も、自分の幸せ……大事にしていいのかな」
レビジュはそっと手紙を折りたたむと、丁寧に封筒に入れて胸に抱いた。
それからも、二人は己の空いた時間を使い文通を続けた。手紙で時に喜びを共有し、時に悩みを共有し、お互いの役目に役立てていった。
――遠い未来、その手紙は貴重な資料となるとも知らずに。
(終)