花咲く時の為に

キャラクターノベル(グループ)制作 コースケ納品 2025年02月06日 00時42分31秒

●慌ただしい春の訪れ
 パンクリアース学園。リーンエス王国の貴族や騎士の子息子女が主として学ぶ名門校であり、その校内では一部の生徒や職員が慌ただしく動き回っていた。

「失礼します。リエルさんが此方にいらっしゃるとお聞きしたのですが」

 そんな中、コルネリウス・アーラは自身も所属するガーデニング愛好会の部室を訪れていた。目的はガーデニング愛好会の前会長であり、1224年度生徒会長であるリエル・サンウッドに会うためである。

「うう、どうして三月に全部やろうとするの……」

 そのリエルは、机に上半身を投げ出し窓の外へ魂の抜けた表情を向けていた。本来、秋に行われていた生徒会選挙が一昨年に起きた騒乱による混乱で三月に行われる様になったため、生徒会の役員と教職員を中心に学園はその準備に追われているのだ。
 騒乱がなければ生徒会も引退し、場合によっては一足早く卒業していてもおかしくないことを知っているコルネリウスは、机の横まで歩いてゆき、リエルを覗き込んで声をかける。

「お忙しい様です。疲労回復に効果のあるお茶を煎れますね」
「あ、コルネさん、ありがとうございます……」

 お茶を煎れて来るとリエルは身を起こし、一口飲むとほぅ、と息を吐く。薬草のブレンドされた温かいお茶が疲れた心身に染みている様子だった。

「やはり生徒会選挙と卒業が重なるのは大変そうですね。選挙がなければクロードさんの所へ行っていたかもしれませんのに」

 卒業後は学園で知り合ったOBとの結婚が決まっているリエルを慮って声をかけたコルネリウスだったが、意外な答えが返ってくる。

「あはは、逃避したい気持ちはあるけど、それで彼の所に行きたいとは思わないかな」

 怪訝な顔をするコルネリウスに、リエルはお茶で口を湿らせて続ける。

「だって、学園があったから彼と出逢えて、学園でコルネさん達に助けて貰ったから結ばれた訳でしょ? だから学園に恩を返したいし、これからも生徒や新入生にとって良い出会いの場になる様、出切ることはしておきたいの」

 だから途中で投げ出すなんて出来ない、と続けるリエルにコルネリウスは微笑みかける。

「素敵な事だと思います。クロードさんにはもう少し待って貰わないとですね」
「私達の事は大丈夫。夏と冬の休みには実家まで挨拶に来てくれたし。――そ・れ・よ・りつ! コルネさんの方がどうなってるか聞かせて貰えるかしら!」
「っ!?」

 急に話を振られのけ反ったコルネリウスの長い耳が揺れ、リエルは更にずい、と身を乗り出す。

「ずっと気になってたんですよ。コルネさんの彼のこと!」

 薬茶のお陰かそれともこの機会を逃さないという意思か。急に生き生きとし出したリエルの追及を躱すのは難しそうだった。


●恋話(コイバナ)
「彼は……釣鐘草(カンパニュラ)のような人で、どんな時も真摯に向き合ってくれる姿に。彼が紡ぐ言葉に。私はずっと、支えられてきました――――」
「ほほう。釣鐘草とはコルネさんらしい」

 コルネリウスの持参したチョココロネを手に耳を傾けるリエルは、釣鐘草の一般的な花言葉(感謝、誠実)を思い浮かべる。王国の貴族派筆頭である若き黒鋼侯爵は学園のOBだったこともあり、リエルも何度か会話した事がある。鋭利な物言いから苦手意識を抱いていたのだが、コルネリウスの言葉と様子からするに、それとは別の一面も持っているのだろう。

(私がそれに気付かなかっただけなのかも)

 そう心中で呟きリエルはコロネを一口噛る。コルネリウスが黒鋼侯と恋人になったと聞いた時は大層驚かされたが、コルネリウスは黒鋼候のその一面に惹かれ、黒鋼候もそんなコルネリウスだから共に有ることを選んだのだろう。

「男女ってそういうものよね」
「急に一人で納得されても……。というか、ずっと私のことばかりですし、そろそろリエルさんの番ではないですか?」

 したり顔で頷くリエルに、コルネリウスが水を向ける。境遇が近い恋する乙女同士、コルネリウスとしても聞きたいことは沢山あった。

「どうしようかなー?」

 リエルも言葉とは裏腹に惚気る気満々で応じる。二人はお互いの恋人について赤裸々に語り合うのだった。


●未来
「卒業したら黒鋼竜(彼)の領地である湖都(ラヴェルギア)へ行きますけれど、今はパンクリアース学園で勉学に励みながら、湖都へ通うつもりです」

 コルネリウスは立場を隠して領内の難民孤児の居る孤児院を巡り、それを手伝いながら王国の現状やこれからすべきことを学ぶつもりだと語る。教育改革は黒鋼候の唱える政策でありそれに協力する意図もあるが、自らも孤児であったコルネリウスを温かく育ててくれた養父の様に、自身もそういった立場の者の助けになりたいという想いがあるからだ。

「湖都は実家から近いけど、里帰りは出来ないんだよね……」

 圧倒されつつ力になれないか思案するリエルだったが、派閥の違う貴族の家に嫁ぐ結果、実家と断縁するリエルが実家から手を貸すことは難しい。歯噛みするリエルに、コルネリウスは気にしないよう声をかける。

「お気持ちだけで十分ですよ。……そうだ。よろしければお願いを聞いて戴けないでしょうか?」
「勿論! 何でも聞くわ!」

 即答するリエルに、コルネリウスは社交界での作法(マナー)を教えて欲しいと口にする。侯爵の伴侶として相応の振る舞いを求められる立場であるからだ。
 本来なら卒業後に黒鋼候の元で講師による指導を受け身に付けるものだろうが、それに甘えることなく一刻も早く身に付けたいという想いがあった。

「全然大丈夫……あ」

 快諾しようとしたリエルだったが、現状に気付いて言葉を詰まらせる。友人であり、恩人でもあるコルネリウスの頼みとあらば是非応えたいところであるが、卒業までの短い期間は生徒会選挙を初めとした業務で忙しい。

「あの、無理でしたら構いませんので……」
「待って! 私は見れないけど、心当たりがあるからその子に頼んでみるわ!」

 リエルによれば以前同室だった卒業生と今も交流があり、頼めば教えてくれるだろうとの事だった。

「リブラネスタの商家の娘(こ)なんだけど、王国の貴族とも交流があるし私より社交界慣れしてて頼りになるわ。手紙で来月から王都(グランスパーダ)に来ると言っていたし、お願い出来ると思う」
「お会いした事がありますね。お願い出来るのであれば助かります」

 コルネリウスはその相手が、学園に憩いの森を作った時に居た相手だと思い出す。唯人(ヒューマン)至上主義の王国貴族から森人《エルフ》であるコルネリウスに作法を教えてくれる人物を探すとなれば苦労しそう(黒鋼候やリエルの様な者は少数派なのだ)だが、国外の商家の者ならその心配はないだろう。

 だが、後日その相手と会った時、指導の対価として難題を突き付けられる事になるのだが、それはまた別の話である――


●バトン
「コルネさん、選挙には出ないんですか?」
「……!」

 別れ際に切り出されたコルネリウスは息を飲む。多忙なこともあり、生徒会選挙について迷っていたからだ。それを察してかリエルは続ける。

「綺麗な花を咲かせるにはまず土の改良からです。王国を変えるのなら、学園はもってこいの土壌だと思いません?」

 黒鋼候の進める教育改革の力になるには、生徒会役員として経験と各所に繋がりを持つことは有益だろうが、それを園芸に例えるのはリエルらしい。 

「……大変な一年になりそうですね」

 それを察したコルネリウスは窓の外へ視線を向ける。そこにはリエルが植えた桜の記念樹が枝を伸ばし、その先には蕾が膨らんでいた。

登場キャラクター

アーカイブ生成日時 2026年08月05日 14時56分25秒 ・ world0