愛しき夢の共有

キャラクターノベル(グループ)制作 星豆さとる納品 2025年01月29日 10時36分28秒

 年越しを、二人だけで祝った。
 ご馳走を食べ、いつもより少しだけ夜更かしをして、炬燵に似たテーブルで暖をとっている間に、二人――パルドとウォーゼルは睡魔に勝てずに寝落ちしてしまう。

 ――そうして、二人は同じ夢を見た。

「あれ? オレは……」

 パルドは天使の姿をした女の子であった。可憐なブラウスとふんわりしたスカートを身にまとい、背中の純白の羽根を羽ばたかせると、周囲に雪のように羽が舞う。
 そう、自分は天使だとその瞬間に理解をした。なぜこの場にいるのかは分からないが、それでもすぐにこの世界へと順応していく。

「……、だれ?」

 自分の隣に、知らない誰かがいた。
 どういうわけか、すやすやと眠っている。パルドとは違った形の――コウモリ型の羽根に黒い衣服。これが噂に聞く『悪魔』という存在なのだろうか。
 ぐっすりと眠っている悪魔の少女を、パルドは待ってみることにした。この場がどこかは思い出せないのだが、それでもただひたすらに、懐かしいと感じる。
 優しい風、清らかな空気。
 瞳を閉じてゆっくりと吸い込むと、自分までもが眠くなってしまいそうだった。

 ――そうして、瞼が完全に下りてしまった、その数分後。

「ん……」

 気持ちよさそうに眠っていた悪魔の女の子が、うっすらと瞳を開き、体を起こした。
 隣に座り、かくりと上半身を動かしていた存在に、彼女は瞠目する。

「……っ、だ、誰?」
「ん、あ……起きたんだね、おはよ」
「え、あぁ……うん、おはよう……」

 互いが互いに、目の前の存在を知らない。
 そんな状況の中で、彼女たちは初めて顔を見合わせたのだ。
 挨拶が出来ただけでも奇跡のようなものなのかもしれない。だがそれでも、二人は同時に相手のことを懐かしいと思えてしまった。

「えっと、その……オレは……パルド」
「……ウォーゼル」

 パルドはウォーゼルを覗き込みながら、自分の名を名乗った。
 対してウォーゼルは警戒心を抱きつつ、小声で名乗るのみだ。

「…………」
「…………」

 互いに緊張もあってか、会話は上手く繋がらなかった。
 それでも彼女が気になって仕方がないパルドが、再び口を開く。

「どうしてこんなところで眠っていたの?」
「……自分の、好きな場所だから。日差しが優しくて……ぽかぽかしてるでしょ」
「うん! だからオレも眠くなっちゃった!」
「…………」

 無邪気な天使だとウォーゼルは感じた。
 悪魔である自分を目の前にして、こうも自然に振る舞えるのは何故だろう。それこそ、『天使』としての特権なのだろうか?
 背丈の割には小さいと思える鳥の羽根が動くたびに、不思議な感覚へと陥っていくような気がした。
 それは自分の中にある警戒心や恐れを、じわじわと溶かしていくかのような感情にも似ている。

「あなたこそ……なんで私の隣で眠っていたの?」
「ふふ、自分でもわからないの。君のことをもっと知りたいって思ってたら、ふんわりしちゃって」
「……変なの」

 パルドの返答に、ウォーゼルは思わず笑ってしまった。
 そこで彼女たちの心は、僅かに近寄れたかのように思えた。

 ――ぐぅ。

「!」
「おなかすいたの?」

 何も食べてはいない。記憶が曖昧だが、眠る前も食べていなかったように思えたウォーゼルは、そこからちらりと視線を動かして、近くの木を見上げた。
 その先には不思議な色合いの果実が成っていて、美味しそうだと思えてしまったのだ。

「あれが食べたい? オレが取ってきてあげるね!」
「……あ、うん……」

 ばさり、と羽ばたきの音が目の前で起こった。
 ウォーゼルが返事をする前に、パルドはその羽根を動かして宙へと舞い上がっていったのだ。
 そうして、彼女が視線を向けていた果実へと手を伸ばして、二つ取ってくれた。
 形としては、洋梨のようなそれである。

「はい、どうぞ! このままかじっても食べられると思うよ!」
「あ、ありがとう……」
 
 果実を受け取ったウォーゼルは、恐る恐るそれを口へと持っていき、小さくかじってみた。
 すると、予想も出来なかった甘い味に、またもや緊張がほぐれていく。

「おいしい……」
「本当? よかった! ……うん、甘くておいしいね」

 口の中ですぐ崩れてしまい程の繊細な果実であった。
 だがそれでも、芳醇な甘みがじわりと広がり、二人に幸福な気持ちをもたらせてくれる。
 美味な果実を食べながら、パルドもウォーゼルも他愛ない話をした。
 憶えていることや好きなもの、好きな光景。
 そんなことを共有しあっているうちに、すっかりお互いに好意を持ち合わせてしまう。

(ここでお別れになりたくないな……また会えるかな?)
(パルドはこの先、どこかにいってしまうのかな……そうだったら寂しいな)

 空の色が少しだけ変化したところで、二人は別れの時間を察した。
 どこに帰るのかはわからないままだが、それでも帰らなくてはならないのだ。

「ねぇ、また会える?」
「うん、……また必ず、会おうね」

 二人はそう言いながら、握手をした。
 こんな短い出会いであったのに、パルドもウォーゼルも互いのことが大好きだと思った。
 そうして微笑みあっている間に、視界がぼやけていく。
 消えないで、と願うも、徐々に遠ざかっていく感覚に、二人は寂しさを覚えつつも目を閉じた。


 
「んん……」

 朝を迎えていた。
 テーブルにうつ伏せになった状態で目覚めた二人は、ぼんやりとした視界の中で、お互いを認識する。
 パルドが先に目覚めて、その直後にウォールドもうっすらと瞼を開いた状態であった。

 ――あぁ、約束通りに、また会えた。

 天使であった夢の中の感覚が、また抜けきっていないらしい。
 そうしてウォーゼルもまた、悪魔であった夢の記憶が強く残っている状態だ。

「……また会えた」
「うん、会いたかったよ……」

 そこまでを互いに口にした直後、急に意識がハッキリとした。
 先にがばりと起き上がったのはウォーゼルで、頭の上の狼の耳が慌ててパタパタご動いている。

「あ、あれ……? 夢……?」
「……うん、もしかして……同じ夢、見てた?」

 パルドもゆっくりと身を起こして、軽く首を振っていた。
 それでも幸せな感情は消えずに、口が緩んでしまうのを止められない。

 ――夢の中での可愛い女の子は、ウォーゼルだった。

「これって、初夢になるのかな」
「そうだな、二人そろって不思議な夢だった」

 ウォーゼルはまた慌てているようだ。頬も赤くなり、照れているのだろう。
 そんな幼馴染の姿を見ながら、パルドはたたひたすらに幸福感に浸っているのだった。

登場キャラクター

アーカイブ生成日時 2026年08月05日 14時56分25秒 ・ world0