極北行2
キャラクターノベル制作 コースケ納品 2025年01月21日 08時13分10秒
●雪原の追跡
一面雪に覆われた極北の原野を黒いものが動いていた。遠目では分からないが、近付けばそれは黒いマントを羽織った小柄な少女であることが分かるだろう。
「……大きいですね」
その少女――トーラ――は、何者かが移動した痕跡を調べていた。雪に覆われ見分けるのが難しい足跡を、窪みの僅かな輪郭から推測し、進行方向を割り出して後を追う。
「足の数は……六本? 魔獣の可能性もありますが目的の這者の可能性が高そうです。何とか居場所を突き止めて対処しないと」
トーラが足跡の主を追うのは理由があった。極北で活動するに当たり、拠点として幾つか小規模な居住可能地帯を見つけていたのだが、その幾つかが何者かに荒らされていたからだ。
居住可能地帯はエーテルの作用等で他より人が暮らすことに向く場所であり、その場所がエーテルを収奪されたせいか居住可能地帯ではなくなっていた。苦労して発見した拠点を台無しにされては極北での今後の活動に支障が出るため、これ以上の被害が出る前に対処しなければならない。
「一人で倒せるでしょうか……」
不安げな呟きは、誰の耳にも届くこと無く周囲の雪に吸い込まれた。
●威圧の衝動
(いました……!)
痕跡を辿り進んだ先の雪原の先に居たのは、金色の芋虫の様に長い身体をした這者だった。それは巨大な身体を人の手足のような六本の脚で支え、魔獣らしき獣を捕食している。
(わたしに反応する様子はありませんね。気付いていないということは無さそうですが……)
盗賊であるトーラだが、身に付けている神材製の装備は隠密行動に向かないため、余程感覚が鈍くない限り気付かれないということは無いだろう。恐らく此方を脅威と見なさず警戒していないのだろうが、自分を無視する異形の這者に対し、トーラの胸中にふつふつと沸いてくる衝動があった。それに突き動かされ、半ば無意識に手が背中の杖を握る。
「わたしを……見て!」
トーラが振り上げた杖――肉球の杖――の先端のデフォルメされた猫の手の爪が光る。そして周囲に猫の肉球型の光球が多数浮かび上がり、振り下ろすと金色の這者に殺到した!
『ー、ーー!?』
降り注ぐ光球が地面にも命中し雪煙を上げる。光球に身を貫かれた這者は、硝子を擦り合わせたような叫びを上げ身体をのけ反らせた。その身体には複数の傷が刻まれ、飛び散る金色の体液が雪を染める。そこへ先程の光球より大きな猫の手が突き刺さった!
「あ……、やっちゃいました」
のたうつ這者が此方を向くのを見て、追撃の魔弾を撃ち込んだトーラが額に汗を浮かべる。超越者であるトーラは意図せず他人へ圧をかけてしまう事があるが、今回は自身を無視する這者に、自分を意識させずにいられなかったのだ。
以前ならまず観察して手に負える相手かや対処法を検討するのだが、こうなっては戦うか撤退するかの二択しか無い。
「……魔法は有効の様ですし、やってみましょうか」
トーラは覚悟を決め、次の魔法を行使するため意識を集中した。
●氷壁
『ーーッ!?』
這者は反撃しようとトーラへ歪で人に似た顔を向ける。だが、その目はトーラの姿を捉えることが出来ず、這者は口から戸惑ったような声を上げる。その顔面へ再び巨大な魔弾が突き刺さり、のけ反った這者がよろめいて倒れる。
「足が遅い相手なら、このまま行けそうです!」
魔弾を放ったトーラは雪に肉球の足跡を付けながら雪原を駆けていた。影法師の作用で這者は離れたトーラの姿を正確に捉えることが出来ないため、こうして距離を取り続けていれば一方的に攻撃し続ける事が出来る。そう踏んだトーラは、攻撃に集中し更に威力を高めた魔弾を放つ!
「倒させて貰います!」
『ボォアァァァー!』
杖の先から更に巨大な肉球が放たれ、身を起こした這者の胴に突き刺さる! 這者は苦し紛れに上げた声で空気を振動させて攻撃の来た方向を攻撃するが、その振動はトーラを捉えることなく雪を巻き上げた。
(魔弾はあと三回分ですが、この調子なら倒せそうです!)
威力の高い魔弾だが、それだけに使える回数も限られる。相手の耐久力はかなりのものだが、これだけダメージを与えていればあとは杖のエーテル弾だけでも倒すことは出来るだろう。そう考えて四発目を放ったトーラだったが、這者の直前で肉球が何かに遮られる光景に目を見張る。
「ええっ!? さっきまでは通じてたのに!」
確認のためもう一度魔弾を放つが、やはり肉球は這者の前で防がれる。だが、トーラの目はその仕組みを目にしていた。
「なるほど。氷ですか……」
這者の前に氷が何枚も重なり、魔弾を受け止めて這者を守ったのだ。
「ハリケーンウォールに近いものでしょうか。あれを突破するには……」
トーラは対処法を思案する。這者が能動的に発生させているのであれば、姿を隠して死角から攻撃すれば阻止されることは無いだろう。しかし、氷原という身を隠すには不向きな場所でかつ、隠密に向かない装備のトーラでは難しい。
「あとは氷壁が張れない至近距離から攻撃するか、回数に限りがあればそこを突くか……」
そう呟くが、重い杖を抱えた今のトーラは普段より動きが鈍く、近付いて反撃を避け続けるのは難しい上に雪に足を取られる恐れもある。回数に関しても、あれだけの這者が使うのだから制限が無い可能性もある。そもそも、ハリケーンウォールは魔法を防ぐことは出来ないため、同じ様に考える事は危険かもしれない。
『ーーーッ!!』
そしてトーラが考えるため足を止めた時、這者が雪煙を上げながらトーラへと突進する!
「きゃぁっ!? ……でも、この距離なら!」
その勢いと雪崩の様に押し寄せる雪の波を飛び上がって躱し、計らずも這者に接近したトーラが着地する勢いに乗せ、両手で握った肉球の杖を振り下ろした!
「えーーーいっ!!」
『ーーー!』
殴り付けた杖に込められたエーテルが這者の頭へ浸透し、杖のファンシーな見た目に似合わない破壊力で頭を陥没させる! トーラはそのまま這者の顔を蹴って後ろに飛び、着地と同時に疾風の様に駆けて距離を取った。
●撤退
距離を取ったトーラは這者へ向き直る。
「……重い手応えでしたが、接近しての攻撃は有効ですね」
這者は物理攻撃に対してはかなりの防御力を持つ様だったが、魔法攻撃は効いている。距離を取っての攻撃は氷の壁に防がれるため、この這者を倒すには守りを上回る攻撃か、何らかの工夫が必要だろう。
「何時もの装備ならもっと上手く戦えそうですけれど、そうも言ってはいられませんか……」
先程の様に這者が全力で突進して来るのに攻撃を叩き込み、即座に距離を取ってまた突進を誘う作戦で行けるところまでやろうと身構える。
(問題は、疾風足が残り三回ということです。使い切れば距離を取る事が出来ませんし、倒せない時のために逃走用として……えっ!?)
どこまで覚悟を決めて挑むか逡巡するトーラだったが、眼前の這者がゆっくり下がりはじめるのを目にして声を上げる。這者はそのまま雪原の先の岩場へ後退してゆき、トーラは息を吐いて杖を下ろす。
「逃げた……ううん。痛み分けでしょうか」
追撃するべきかもしれないが、此方から仕掛けるのは危険も大きく、何か奥の手を隠している可能性もある。
此方を見据える這者の目に不気味なものを感じたこともあり、トーラは手近な居住可能地帯へ引き返すのだった。
一面雪に覆われた極北の原野を黒いものが動いていた。遠目では分からないが、近付けばそれは黒いマントを羽織った小柄な少女であることが分かるだろう。
「……大きいですね」
その少女――トーラ――は、何者かが移動した痕跡を調べていた。雪に覆われ見分けるのが難しい足跡を、窪みの僅かな輪郭から推測し、進行方向を割り出して後を追う。
「足の数は……六本? 魔獣の可能性もありますが目的の這者の可能性が高そうです。何とか居場所を突き止めて対処しないと」
トーラが足跡の主を追うのは理由があった。極北で活動するに当たり、拠点として幾つか小規模な居住可能地帯を見つけていたのだが、その幾つかが何者かに荒らされていたからだ。
居住可能地帯はエーテルの作用等で他より人が暮らすことに向く場所であり、その場所がエーテルを収奪されたせいか居住可能地帯ではなくなっていた。苦労して発見した拠点を台無しにされては極北での今後の活動に支障が出るため、これ以上の被害が出る前に対処しなければならない。
「一人で倒せるでしょうか……」
不安げな呟きは、誰の耳にも届くこと無く周囲の雪に吸い込まれた。
●威圧の衝動
(いました……!)
痕跡を辿り進んだ先の雪原の先に居たのは、金色の芋虫の様に長い身体をした這者だった。それは巨大な身体を人の手足のような六本の脚で支え、魔獣らしき獣を捕食している。
(わたしに反応する様子はありませんね。気付いていないということは無さそうですが……)
盗賊であるトーラだが、身に付けている神材製の装備は隠密行動に向かないため、余程感覚が鈍くない限り気付かれないということは無いだろう。恐らく此方を脅威と見なさず警戒していないのだろうが、自分を無視する異形の這者に対し、トーラの胸中にふつふつと沸いてくる衝動があった。それに突き動かされ、半ば無意識に手が背中の杖を握る。
「わたしを……見て!」
トーラが振り上げた杖――肉球の杖――の先端のデフォルメされた猫の手の爪が光る。そして周囲に猫の肉球型の光球が多数浮かび上がり、振り下ろすと金色の這者に殺到した!
『ー、ーー!?』
降り注ぐ光球が地面にも命中し雪煙を上げる。光球に身を貫かれた這者は、硝子を擦り合わせたような叫びを上げ身体をのけ反らせた。その身体には複数の傷が刻まれ、飛び散る金色の体液が雪を染める。そこへ先程の光球より大きな猫の手が突き刺さった!
「あ……、やっちゃいました」
のたうつ這者が此方を向くのを見て、追撃の魔弾を撃ち込んだトーラが額に汗を浮かべる。超越者であるトーラは意図せず他人へ圧をかけてしまう事があるが、今回は自身を無視する這者に、自分を意識させずにいられなかったのだ。
以前ならまず観察して手に負える相手かや対処法を検討するのだが、こうなっては戦うか撤退するかの二択しか無い。
「……魔法は有効の様ですし、やってみましょうか」
トーラは覚悟を決め、次の魔法を行使するため意識を集中した。
●氷壁
『ーーッ!?』
這者は反撃しようとトーラへ歪で人に似た顔を向ける。だが、その目はトーラの姿を捉えることが出来ず、這者は口から戸惑ったような声を上げる。その顔面へ再び巨大な魔弾が突き刺さり、のけ反った這者がよろめいて倒れる。
「足が遅い相手なら、このまま行けそうです!」
魔弾を放ったトーラは雪に肉球の足跡を付けながら雪原を駆けていた。影法師の作用で這者は離れたトーラの姿を正確に捉えることが出来ないため、こうして距離を取り続けていれば一方的に攻撃し続ける事が出来る。そう踏んだトーラは、攻撃に集中し更に威力を高めた魔弾を放つ!
「倒させて貰います!」
『ボォアァァァー!』
杖の先から更に巨大な肉球が放たれ、身を起こした這者の胴に突き刺さる! 這者は苦し紛れに上げた声で空気を振動させて攻撃の来た方向を攻撃するが、その振動はトーラを捉えることなく雪を巻き上げた。
(魔弾はあと三回分ですが、この調子なら倒せそうです!)
威力の高い魔弾だが、それだけに使える回数も限られる。相手の耐久力はかなりのものだが、これだけダメージを与えていればあとは杖のエーテル弾だけでも倒すことは出来るだろう。そう考えて四発目を放ったトーラだったが、這者の直前で肉球が何かに遮られる光景に目を見張る。
「ええっ!? さっきまでは通じてたのに!」
確認のためもう一度魔弾を放つが、やはり肉球は這者の前で防がれる。だが、トーラの目はその仕組みを目にしていた。
「なるほど。氷ですか……」
這者の前に氷が何枚も重なり、魔弾を受け止めて這者を守ったのだ。
「ハリケーンウォールに近いものでしょうか。あれを突破するには……」
トーラは対処法を思案する。這者が能動的に発生させているのであれば、姿を隠して死角から攻撃すれば阻止されることは無いだろう。しかし、氷原という身を隠すには不向きな場所でかつ、隠密に向かない装備のトーラでは難しい。
「あとは氷壁が張れない至近距離から攻撃するか、回数に限りがあればそこを突くか……」
そう呟くが、重い杖を抱えた今のトーラは普段より動きが鈍く、近付いて反撃を避け続けるのは難しい上に雪に足を取られる恐れもある。回数に関しても、あれだけの這者が使うのだから制限が無い可能性もある。そもそも、ハリケーンウォールは魔法を防ぐことは出来ないため、同じ様に考える事は危険かもしれない。
『ーーーッ!!』
そしてトーラが考えるため足を止めた時、這者が雪煙を上げながらトーラへと突進する!
「きゃぁっ!? ……でも、この距離なら!」
その勢いと雪崩の様に押し寄せる雪の波を飛び上がって躱し、計らずも這者に接近したトーラが着地する勢いに乗せ、両手で握った肉球の杖を振り下ろした!
「えーーーいっ!!」
『ーーー!』
殴り付けた杖に込められたエーテルが這者の頭へ浸透し、杖のファンシーな見た目に似合わない破壊力で頭を陥没させる! トーラはそのまま這者の顔を蹴って後ろに飛び、着地と同時に疾風の様に駆けて距離を取った。
●撤退
距離を取ったトーラは這者へ向き直る。
「……重い手応えでしたが、接近しての攻撃は有効ですね」
這者は物理攻撃に対してはかなりの防御力を持つ様だったが、魔法攻撃は効いている。距離を取っての攻撃は氷の壁に防がれるため、この這者を倒すには守りを上回る攻撃か、何らかの工夫が必要だろう。
「何時もの装備ならもっと上手く戦えそうですけれど、そうも言ってはいられませんか……」
先程の様に這者が全力で突進して来るのに攻撃を叩き込み、即座に距離を取ってまた突進を誘う作戦で行けるところまでやろうと身構える。
(問題は、疾風足が残り三回ということです。使い切れば距離を取る事が出来ませんし、倒せない時のために逃走用として……えっ!?)
どこまで覚悟を決めて挑むか逡巡するトーラだったが、眼前の這者がゆっくり下がりはじめるのを目にして声を上げる。這者はそのまま雪原の先の岩場へ後退してゆき、トーラは息を吐いて杖を下ろす。
「逃げた……ううん。痛み分けでしょうか」
追撃するべきかもしれないが、此方から仕掛けるのは危険も大きく、何か奥の手を隠している可能性もある。
此方を見据える這者の目に不気味なものを感じたこともあり、トーラは手近な居住可能地帯へ引き返すのだった。