激動の年の終わりに
キャラクターノベル(グループ)制作 辻村朝納品 2025年02月16日 19時49分45秒
パルドとウォーゼルが暮らす一軒家は、リブラネスタ郊外にある。
家の外は、雪がはらはらと舞っている。空気も当然冷えているが、家の中はといえば――。
「最高だ……」
パルドは口元がだらしなく緩み切った表情で呟く。初対面の相手にはクールに振る舞う彼にこういった面があることをもし馴染みの薄い人間が知ったならば、それはもう「同一人物なのか」と意外に思うことだろう。
彼は今、居間にある炬燵で温まっていた。足だけでなく黒豹の尻尾も突っ込む完全防御である。幸せを噛み締める顔はといえば机に片頬を預けていて、つまり背中は丸まっている。
勿論、パルドだけではない。
「やることやった後だと達成感もあって尚更ね……」
ウォーゼルもまた、向かい側でパルドと全く同じような態勢でぬくぬくとしている。
さらに言えばパルドの横ではペットであるショコラが炬燵に半分潜って丸まっているし、パルドの視線からは見えないが、ウォーゼルの横では彼のペットであるチョコがやはり炬燵に半分体を突っ込んで寝そべっている。
メタなことを言えば炬燵の温かさは紋具で発生させたものだが、それにしても炬燵の魔力は下手な攻撃魔法よりも恐ろしい。一度入ったら中々出られない、というか出る気を無くしてしまう。
尤も、今の2人と2匹は特に出る必要物ないのだが。
●
時は新暦1224年の年末。
もうこのまま温まり続けていれば、新年はやってくる。
「決戦からもうすぐ1年経つんだ」
ウォーゼルは思いを馳せるようにふと口を開く。
決戦が終わってからも、2人は引き続きギルドに所属する冒険者として日々依頼をこなしていた。
そんな中でも、平和を享受する時間は以前より増えたと思う。
「ちびたちも連れて色んなところに遊びに行ったりもしたね」
「ああ」
パルドは肯きつつ、続ける。
「オレは海に行ったのも楽しかったな」
そういえばそんなこともした、とウォーゼルも思い出す。ちびたちと一緒に砂浜で水遊びしたりしたのも勿論楽しかったし、水を含んだ毛や尻尾を2人と2匹揃って振って水切りしたりするのが何だか面白くて笑ってしまった。
「ああいうのって、家族っていう感じがするよね」
などと言っていたら、傍で寝そべっていたチョコが不意に炬燵に潜った。何やら炬燵の中でごそごそ動いているあたり、炬燵の中でショコラとじゃれあっているようだ。
紋具には気をつけるんだよ、と声をかけたところで、
「ウォーゼルは?」
パルドに問われた。楽しかった思い出のことだろうと察して、ウォーゼルは少し考えてから口を開いた。
「収穫祭とか聖霊祭の時、孤児院に戻って皆でお祝いしたことかな」
「あそこの皆も家族だしな」
「そうだね」
肯くと、顔を上げたパルドは身体を反るようにして天井を見上げた。
「そう考えるとオレたちって家族が多いよな。全然寂しいとか思わないし」
「帰る場所があるって幸せなことだよね。当たり前のことかもしれないけど、帝国ではそうじゃない人もいるだろうし」
「しかもここも含めると、オレたちにはそれが2つ、か」
生まれ持って恵まれていたわけではない。
様々な道程を経て掴み取ったからこそ今という環境があることに、ウォーゼルは幸福を噛み締める。
きっとパルドも同じことを考えているだろうと思ったが、分かりきったことだし尋ねたりはしなかった。
●
炬燵の中で遊んでいたショコラとチョコは、揃ってパルドの側へ飛び出すと、そのまま膝の上にダイブした。
「こういうの見ると、オレたちが子供だった頃を思い出すな」
膝上で丸まっている2匹の姿を微笑ましく思い眺めながら、パルドは呟く。
「院長の気持ちが何となく分かるような気がする。きっとオレたちが寝ている時とか、凄く穏やかな顔してたんだろうな」
自分に名前をつけてくれた人でもある院長の顔を思い浮かべる。
いつも子供たちを優しく見守っていた院長だが、子供心には知れない苦労もたくさんあったろうし、それを子供たちには見せないようにしていた筈だ。でも。
「きっとこういう瞬間があるから、ずっと変わらずにいてくれたんだろうね」
ウォーゼルの言葉に、「ああ」とパルドは肯く。
「次帰ったらさ、その辺も含めて何かお礼もしたい」
その提案に、今度はウォーゼルが肯いた。
「俺たちが元気でいてくれたらそれでいい、って聖霊祭の時言ってたけど、それでもね」
「何しようか。皆の世話の手伝いとか? でも帰った時は大体やってるか……」
「冒険者として受けた依頼の話とかはどうかな? モノによっては少し大袈裟にしたりした方が皆は喜んでくれると思う」
「話がでかくなりすぎないように、先にちゃんと考えておかないとな……っと」
思案して視線を下に下ろしたパルドの動きに反応して、膝上のショコラとチョコが跳ねるようにそれぞれ膝から下りる。そして炬燵を経由してウォーゼルのところまで来ると、今度は彼の膝をよじ登った。
その様子を見てか、ウォーゼルが新たな提案をした。
「ちび達みたいな、家族を連れて行ってあげてもいいかもしれないね」
「世話は皆で分担してってすれば、それで院長も喜ぶかもな」
恩返しの手段はたくさん出てきそうだ。
考えるのもまた楽しいが、それはそれとして――。
「あ、もうすぐ新年だ」
「お」
ある方向を見たウォーゼルにつられ、パルドも視線を動かす。
壁にかけられた時計は、まもなく24時――新しい年の0時を示そうとしていた。
●
「「あけましておめでとう」」
新年になった瞬間、2人は互いの顔を見て同時にそう告げた。
「今年もよろしくね」
「こっちこそ、今年もよろしくな」
そしてそれぞれに、互いへの挨拶の言葉を。
「オレたちは大人になったけどさ、これからも一緒にいられるといいな」
パルドの希望に、ウォーゼルも「うん」と返す。
パルドと、チョコとショコラ。
彼らがいるからこそ、何気ない日々に幸福を感じる。
その幸福を大切だと思う。
帰る場所。
帰りたい場所。
帰るべき場所。
その全部が今この時間に詰まっているから、明日も、その先もずっと生きていけると思う。
「この小さな幸せが、ずっと続きますように、なんて思っちゃうよね」
「今、全く同じことを思った」
2人揃って目を丸くして、それからおかしくなって笑う。
するとウォーゼルの膝上のちび達が、つられたように欠伸をした。
ウォーゼルは2匹を撫でつつ言う。
「そろそろ寝ようか」
「だな」
今夜は新年を迎える為に夜遅くまで起きていたが、新年になったらなったでやるべきことはまた出てくる。とはいえ、この後依頼が待ち構えているわけでもなし、幸せを実感しつつ寝るのが良いというものだろう。
「「おやすみ」」
異口同音に挨拶を交わし、それぞれ寝床につく。
このやりとりも、ずっと続けられたら良い。
そんなことを、揃って考えながら。
家の外は、雪がはらはらと舞っている。空気も当然冷えているが、家の中はといえば――。
「最高だ……」
パルドは口元がだらしなく緩み切った表情で呟く。初対面の相手にはクールに振る舞う彼にこういった面があることをもし馴染みの薄い人間が知ったならば、それはもう「同一人物なのか」と意外に思うことだろう。
彼は今、居間にある炬燵で温まっていた。足だけでなく黒豹の尻尾も突っ込む完全防御である。幸せを噛み締める顔はといえば机に片頬を預けていて、つまり背中は丸まっている。
勿論、パルドだけではない。
「やることやった後だと達成感もあって尚更ね……」
ウォーゼルもまた、向かい側でパルドと全く同じような態勢でぬくぬくとしている。
さらに言えばパルドの横ではペットであるショコラが炬燵に半分潜って丸まっているし、パルドの視線からは見えないが、ウォーゼルの横では彼のペットであるチョコがやはり炬燵に半分体を突っ込んで寝そべっている。
メタなことを言えば炬燵の温かさは紋具で発生させたものだが、それにしても炬燵の魔力は下手な攻撃魔法よりも恐ろしい。一度入ったら中々出られない、というか出る気を無くしてしまう。
尤も、今の2人と2匹は特に出る必要物ないのだが。
●
時は新暦1224年の年末。
もうこのまま温まり続けていれば、新年はやってくる。
「決戦からもうすぐ1年経つんだ」
ウォーゼルは思いを馳せるようにふと口を開く。
決戦が終わってからも、2人は引き続きギルドに所属する冒険者として日々依頼をこなしていた。
そんな中でも、平和を享受する時間は以前より増えたと思う。
「ちびたちも連れて色んなところに遊びに行ったりもしたね」
「ああ」
パルドは肯きつつ、続ける。
「オレは海に行ったのも楽しかったな」
そういえばそんなこともした、とウォーゼルも思い出す。ちびたちと一緒に砂浜で水遊びしたりしたのも勿論楽しかったし、水を含んだ毛や尻尾を2人と2匹揃って振って水切りしたりするのが何だか面白くて笑ってしまった。
「ああいうのって、家族っていう感じがするよね」
などと言っていたら、傍で寝そべっていたチョコが不意に炬燵に潜った。何やら炬燵の中でごそごそ動いているあたり、炬燵の中でショコラとじゃれあっているようだ。
紋具には気をつけるんだよ、と声をかけたところで、
「ウォーゼルは?」
パルドに問われた。楽しかった思い出のことだろうと察して、ウォーゼルは少し考えてから口を開いた。
「収穫祭とか聖霊祭の時、孤児院に戻って皆でお祝いしたことかな」
「あそこの皆も家族だしな」
「そうだね」
肯くと、顔を上げたパルドは身体を反るようにして天井を見上げた。
「そう考えるとオレたちって家族が多いよな。全然寂しいとか思わないし」
「帰る場所があるって幸せなことだよね。当たり前のことかもしれないけど、帝国ではそうじゃない人もいるだろうし」
「しかもここも含めると、オレたちにはそれが2つ、か」
生まれ持って恵まれていたわけではない。
様々な道程を経て掴み取ったからこそ今という環境があることに、ウォーゼルは幸福を噛み締める。
きっとパルドも同じことを考えているだろうと思ったが、分かりきったことだし尋ねたりはしなかった。
●
炬燵の中で遊んでいたショコラとチョコは、揃ってパルドの側へ飛び出すと、そのまま膝の上にダイブした。
「こういうの見ると、オレたちが子供だった頃を思い出すな」
膝上で丸まっている2匹の姿を微笑ましく思い眺めながら、パルドは呟く。
「院長の気持ちが何となく分かるような気がする。きっとオレたちが寝ている時とか、凄く穏やかな顔してたんだろうな」
自分に名前をつけてくれた人でもある院長の顔を思い浮かべる。
いつも子供たちを優しく見守っていた院長だが、子供心には知れない苦労もたくさんあったろうし、それを子供たちには見せないようにしていた筈だ。でも。
「きっとこういう瞬間があるから、ずっと変わらずにいてくれたんだろうね」
ウォーゼルの言葉に、「ああ」とパルドは肯く。
「次帰ったらさ、その辺も含めて何かお礼もしたい」
その提案に、今度はウォーゼルが肯いた。
「俺たちが元気でいてくれたらそれでいい、って聖霊祭の時言ってたけど、それでもね」
「何しようか。皆の世話の手伝いとか? でも帰った時は大体やってるか……」
「冒険者として受けた依頼の話とかはどうかな? モノによっては少し大袈裟にしたりした方が皆は喜んでくれると思う」
「話がでかくなりすぎないように、先にちゃんと考えておかないとな……っと」
思案して視線を下に下ろしたパルドの動きに反応して、膝上のショコラとチョコが跳ねるようにそれぞれ膝から下りる。そして炬燵を経由してウォーゼルのところまで来ると、今度は彼の膝をよじ登った。
その様子を見てか、ウォーゼルが新たな提案をした。
「ちび達みたいな、家族を連れて行ってあげてもいいかもしれないね」
「世話は皆で分担してってすれば、それで院長も喜ぶかもな」
恩返しの手段はたくさん出てきそうだ。
考えるのもまた楽しいが、それはそれとして――。
「あ、もうすぐ新年だ」
「お」
ある方向を見たウォーゼルにつられ、パルドも視線を動かす。
壁にかけられた時計は、まもなく24時――新しい年の0時を示そうとしていた。
●
「「あけましておめでとう」」
新年になった瞬間、2人は互いの顔を見て同時にそう告げた。
「今年もよろしくね」
「こっちこそ、今年もよろしくな」
そしてそれぞれに、互いへの挨拶の言葉を。
「オレたちは大人になったけどさ、これからも一緒にいられるといいな」
パルドの希望に、ウォーゼルも「うん」と返す。
パルドと、チョコとショコラ。
彼らがいるからこそ、何気ない日々に幸福を感じる。
その幸福を大切だと思う。
帰る場所。
帰りたい場所。
帰るべき場所。
その全部が今この時間に詰まっているから、明日も、その先もずっと生きていけると思う。
「この小さな幸せが、ずっと続きますように、なんて思っちゃうよね」
「今、全く同じことを思った」
2人揃って目を丸くして、それからおかしくなって笑う。
するとウォーゼルの膝上のちび達が、つられたように欠伸をした。
ウォーゼルは2匹を撫でつつ言う。
「そろそろ寝ようか」
「だな」
今夜は新年を迎える為に夜遅くまで起きていたが、新年になったらなったでやるべきことはまた出てくる。とはいえ、この後依頼が待ち構えているわけでもなし、幸せを実感しつつ寝るのが良いというものだろう。
「「おやすみ」」
異口同音に挨拶を交わし、それぞれ寝床につく。
このやりとりも、ずっと続けられたら良い。
そんなことを、揃って考えながら。