旅路の果て

キャラクターノベル(グループ)制作 おおくまねこ納品 2025年01月21日 12時10分40秒

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「そろそろ出発するが……聞いておきたいことはないか?」
「ご安心下さい、レピド院長。後のことは私達にお任せを」

 夜更けに旅支度を終えたレピド・クロサイトが問うと、青年は力強く頷いた。彼はレピドが創設したこの孤児院『輝石の家』の二代目院長だ。レピドは彼と固く握手を交わした。

「いつでも戻ってきてくださいね。ここの子供達はみな貴方の子なのですから」
「ありがとう」
 レピドは微笑むと、建物の外に出た。

「じゃあ行ってくる、ショウガ」
 レピドは孤児院の入り口に立っていた立派な猫の像に微笑みかけると、外套を被り直し、孤児院を後にした。

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「さて、まずはギルド本部の方から行ってみるか……」

 幽界樹との戦いから長い年月が経った。レピドはパンクリアース学園を無事に卒業し、夢だった孤児院を創設した。それからさらに数十年。各地に散らばった同胞(ホムンクルス)が自然死したという話も聞こえてきた頃、レピドは自分の人生に一区切りつけるべく、世話になった人達に挨拶をして回ることにしたのだ。
『輝石の家』にはもう戻るつもりはない。引継ぎはもう終えたし、人造授恵者(ホムンクルス)があそこで死ぬと、トラブルの種になるかもしれないからだ。
 長年の冒険者稼業で蓄えた金のほとんどは置いてきたので、当面は経営に困ることもないだろう。

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 レピドは冒険者ギルド本部に顔を出した後、馴染みのパン屋にも立ち寄り、旅用の保存の効くパンをどっさり買いこんだ。その後はスズランの花畑や、ベールコートの屋外庭園、友人のエルフの故郷の森など、縁故があった場所をあちこち回った。そして、最後に行くと決めた場所へとレピドは向かっていた。

「さて、最後はあの男だが――会えるだろうか」
 レピドの眼前には、峻嶮(しゅんけん)なるクリエスター山脈が広がっていた。

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「お前さん、本当にその格好でクリエスター山脈に入る気かね? 死ぬぞ」

 レピドがドワーフ王国との国境沿いの集落で道を尋ねると、農夫は怪訝そうな顔をした。
 クリエスター山脈はドワーフ王国のある土地なのだが、地上は邪竜の勢力圏である。英雄を志す者でもそうそう近寄りはしない場所だ。
 だが何よりも奇妙なのは、レピドが金ピカの外套を羽織り、王冠や腕輪などのアクセサリーをじゃらじゃらと大量に身に着けていることだった。傍目には発狂した成金にしか見えない。

「危険なのは分かってる。どうしても会いたい邪竜がいるんだ」
 レピドが簡潔に理由を告げると、男は納得したように頷いた。
「なるほど、弔い合戦か……ならばもう止めまい。気を付けていけよ」
「ありがとう」

 男に地図をもらい、レピドは礼を言って山道に入っていった。

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「怪鳥か……俺は食べてもあまりうまくないと思うぞ」
 案の定、レピドは山に入ってすぐ、危険な魔獣に目を付けられてしまった。人間など一飲みにできそうな巨大な鳥だ。カラスのように光り物を好んでいるのか、怪鳥はレピドを執拗に追ってきた。

『ブラッドよ、追手を撒く時は自分の足跡を踏むように歩きたまえ。数歩戻り、足跡が残らないように別の場所に飛び移るのだ』
(ああ、そうだったな)

 脳内に誰かの声が響く。別に亡霊に憑かれているとかいうわけではないが、暗殺者時代に身に着けた記憶を思い返す時は、時折こんな風に余計なことまで思い出すことがある。
(都合よく、忘れるわけにはいかないしな)
 あの男の記憶は、レピドの消せない罪が、確かに在ったことを示す証明だった。

 孤児院の院長となった今でも自分は元暗殺者だ。どれだけ年月が経とうとも、過去(つみ)は消えない。レピド自身は授恵者となる前――暗殺者となる前の記憶を失っているけれど、殺された者達は決してその恨みを忘れることはないだろう。ずいぶん昔に、自分の標的となった者の遺族達と相対したことがあるが、やはり許されることはなかった。

(さて、どうする。ここであの鳥の餌になったとしても、一応目的の一つは果たせるが……諦めるには早すぎるな)
 レピドはグエッグエッと鳴きながら旋回する鳥を見上げ、愛刀を握り締める。レピドが奇襲の隙を伺っていると、突然怪鳥は慌てたように全速力で飛び去っていった。

「なんだ?」
 レピドは周囲を見渡す。すると、北の方から黒く、とてつもなく大きなものがこちらに向かってくるのが見えた。

「邪竜……あれに怯えて逃げたんだな」
 レピドは黒い竜の方を見る。幼体ですら授恵者の集団でさえも手に余る強大な存在を目にしても、レピドは堂々としていた。竜はレピドに気付いたのか、高度を保ったまま、ゆっくりと近づいてきた。

『この土地に何のようだ、人間』
 邪竜はレピドを見下ろしたまま、厳かな声でレピドへと問いかけた。

「俺はレピドという者だ! 俺の言葉が分かるのなら、ベリアルという邪竜を呼んできてほしい! 礼ならする!」
(これは賭けだ)
 絶体絶命のピンチだったが、レピドは邪竜同士の交流があることに賭けた。

『……いいだろう』
『ありがとう! 助かる!』
『礼を言われたいわけではない。あの変わり者に貸しを作りたいだけだ』

 邪竜は威嚇するように告げると、北へと飛び去っていった。そして数時間後。さっきとは別の黒い竜が姿を現した。

「ベリアル。久しぶりだな」
 レピドは笑みを浮かべ、邪竜に手を振った。

『ああ、ずいぶん、懐かしい顔じゃないか』

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 レピドはベリアルの背に乗せてもらい、そこそこの広さがある洞窟に案内された。

「親切な邪竜がいて助かった。アンタに会えるかどうかはかなり分の悪い賭けだったからな」
「親切な邪竜か。そいつは傑作だ。たぶん、変態がいるなと思って見ていたのだと思うよ」

 竜人型に変身したベリアルはくっくと笑った。

「それで、ボクに何の用だい。首を獲りにきた、というわけじゃあなさそうだが」
「遊びにきた。これ土産の最新ゲームや俺の一推しドゥジンシだ。今年のドゥジケットに出た作品もある」
「なんだって?」

 レピドがドゥジンシやボードゲームやらをごろごろと取り出すと、ベリアルはぽかんと口を開けたまま、レピドを凝視した。
「さあ、早速デュエルするぞ」
「……」
 ベリアルが石になったように固まっていたので、不安になったレピドはベリアルに尋ねた。
「もしかして、迷惑だっただろうか」
 すると、ベリアルは大笑いした後、こう答えた。

「いいや。ボクもちょうど退屈していたところでね。好きなだけ泊まっていけよ」

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 持ち込んだゲームでひとしきり盛り上がった後、レピドはここにきたもう一つの要件を切り出した。

「……俺は近いうちに死ぬと思う。なんとなく分かるんだ」
「なんだって?」
「アンタ達邪竜の寿命が何年あるかは知らないが、人間よりは長いはずだ。だから……俺が逝ったら俺の賢者の石はアンタにやる。……竜の宝に手を出そうとする奴もそういないだろ」
 レピドがそう答えると、ベリアルは真顔になった。

「なるほど……わざわざこんなところまで来たのはそういう理由か」
「ああ。アンタ、賢者の石が欲しかったんだろ」
「そうだな。冒険者にそれを話したことはなかったはずだが」
 
 レピドの問いに、ベリアルは冷笑を浮かべながら頷いた。

「それで、どうだ? 賢者の石はもらってくれるのか?」
 レピドがもう一度問うと、ベリアルは笑った。
「ああ。貴重な品を譲ってくれると言うんだ。断る理由はない。ボクが死ぬまで大事に飾っておくよ」
「そうか、よかった」

 その答えに、今度はレピドが笑った。

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アーカイブ生成日時 2026年08月05日 14時56分25秒 ・ world0