壁新聞特別企画・幻の火吹き馬を追え!
キャラクターノベル(グループ)制作 おおくまねこ納品 2025年01月18日 08時30分18秒
●
「なるほど、壁新聞の特別企画ですか」
優雅な仕草で紅茶をカップへと注ぎながら、新聞部顧問教師・ラミアス・クルスロードは微笑んだ。今日はパンクリアース学園・新聞部のミーティングの日だ。ラミアスはそれなりに忙しいため部活の様子を見に来ることは稀だが、今日は珍しく、お土産のお茶菓子持参で会議に参加していた。
「私もいいと思います。たまには特別なコーナーがあった方が楽しいでしょうし」
コルネリウス・アーラも笑顔で頷いた。コルネリウスは今回の企画はできるだけ後輩達に任せるつもりだった。いずれは自分も卒業するし、部員達ももう活動に慣れてきた頃なので、次代の部長の候補者も探しておきたいな、という気分だったからだ。
……。
「各学年からの一番のイケメンと美少女を選出するというのはどうかな?」
「やめてくれ、戦争になる。新聞が物理的に燃えてしまう」
「そうね。センシティブな話題は避けましょう。派閥の対立を煽るようなものは却下よ。……ですよね、先生」
部員の一人が水を向けると、ラミアスは苦笑しながら頷いた。
「そうですね。少人数の独断と偏見で容姿の優劣を選ぶ……というのは色んな人を敵に回しかねませんね」
(むむ。4年生だけあり、キャンディーナさんはなかなかしっかりしていますね)
コルネリウスは話し合う部員達の様子をつぶさに観察している。
「……というわけでここは、我らが顧問ラミアス先生のお部屋の取材記事にしましょう。知りたい女子は多いと思います。みんな(特に私)がハッピーになれます」
(あれ?)
と思っていたらキャンディーナはいきなりあさっての方向に暴走し始めた。顧問のラミアスは容姿も家柄もよろしく、ついでに未婚なので、ファンの女子学園生はそれなりにいる。ちなみに彼は学生時代はウィリアム・バデーニ公爵(元第二王子)とずっと行動を共にしていたという妖しい噂もあるため、ドゥジンシの素材としても大変な逸材とされている……。閑話休題。
「申し訳ありませんが、そちらも却下でお願いします」
ラミアスは眼鏡をクイッと上げ、笑顔で取材拒否した。
●
会議が始まり、20分ほどが経過した頃、ようやく議論がまとまる兆しが見え始めた。
「妖怪・『火吹き馬』の捕獲作戦を行う、というのはどうでしょうか!」
意見を出したのは二年生のジリアンだ。古参の部員で、新聞部員らしくインタビュー系の記事を得意としている。
「ごほっ! ごほっ!」
コルネリウスは思わずむせてしまった。何故なら、火吹き馬の正体の心当たりがありまくりだったからだ。
妖怪・火吹き馬。その正体とは、王都でのパーティ参加を控えたコルネリウスが夜中に校舎で馬の着ぐるみを来て芸の練習をしていた姿である。
「大丈夫ですか?」
「はい、すみません」
ラミアスに声をかけられ、コルネリウスは慌てて取り繕った。
「火吹き馬……ああ、そういえば前に一回取材したような……夏の怪談特集の時だっけ」
ジリアンと同級生のルサルカがぽんと手を叩く。
「なんですか? 火吹き馬って」
今年入部した新人部員のホフマンは首をかしげた。
「前にね、夜の校舎の中に、火を吹く馬の怪物が出るって噂が流れたことがあったの」
「校舎って……乗馬部の厩舎とかじゃなく、廊下にですか?」
「ええ。不思議なことにね……。正体はクリーパーだとも、上級生の嫌がらせを苦に自殺した馬の獣人の霊だとも言われてるわ」
いかにもな語りを入れながら、ルサルカは当時の新聞記事を持ってきた。
「こ、怖いですね……学園にそんなオバケが出るなんて」
(すみません、それはクリーパーでもアンデッドでもなくエルフです……)
コルネリウスは真顔になった。こんなに張り詰めた表情になったのは、非常に難しい冒険者依頼のブリーフィングとか以来かもしれない。
(火吹き馬……まあ、まだ衣装はありますし、やるのはいいんですけど……)
コルネリウスは一つの懸念があった。それは……。
(恋人にだけはバレたくありません……!)
コルネリウスの恋人は同級生である。もし壁新聞にデカデカと、
『学園を恐怖に陥れた怪物の正体発覚! すみません、火吹き馬はうちの部長の壁エルフでした!』
などという謝罪記事が掲載されてしまっては、確実に彼の目にも入ってしまうだろう。
芸の内容自体は王国貴族どころかシルトラースの現皇帝やアシムベートにも披露したことがあるほど自信のあるものなので別に恥ずべきものではないのだが、渾身の宴会奥義を恋人に見せられるか、というとまた別問題であった。
「魔獣研究会に捕獲作戦協力を打診しましょう。あそこの部長はうちのお兄ちゃんと友達だから……」
「ふむ、夜の校舎にモンスター(?)が出る、という噂は私としても捨て置けませんね。引率は私がしましょう。ふふ、昔を思い出します」
「「やった!」」
(ああ、話がトントン拍子に進んでいる……)
無になっているコルネリウスをよそに、部員(とついでに顧問)は大いに盛り上がっていた。
●
(また、夜の校舎でこの格好をすることになるなんて)
葛藤の末、コルネリウスは恥を偲んで再び火吹き馬になることにした。せっかく部員達が盛り上がっているので、空振りだったら可哀そうだと思い、あえて妖怪変化のフリをする覚悟だ。
もうじき後輩たちが顧問と共にここに来る。コルネリウスは先回りしてこっそりと校舎に侵入し、新聞部の部室で火吹き馬の着ぐるみを着込み、部員達が来るのを待っていた。
「夜の校舎って不気味だね」
「そうだね。でも部長はどこに消えたんだろう」
「壁をぶち抜いて登場するんじゃない?」
「ハハハ、笑わすなよ!」
部員達はわいわい騒ぎながら、廊下を歩いてくる。鍛え抜かれた冒険者耳でそれを感知したコルネリウス(ついでに聞き捨てならぬ壁エルフ風評被害も聞こえた)は、急いで馬の頭をすっぽりと被った。
「ぼおおお! ぼおおお!」
赤い馬の着ぐるみに身を包んだコルネリウスは唸り声を上げながら、ダイナミックに廊下へと飛び出した。炎の部分はもちろん偽物なのだが、暗い所で見ると本物に見えないこともない。蹄の部分も愛馬の足音を参考に、本物らしい音が出るようにしっかり作りこんである。
(決まった……!)
「うわああ!! 本当に出た!」
「クリーパーだー!」
部員達は本物のモンスターと勘違いし、びびりまくっている。
「皆さん、下がって下さい! まさか本当に出るとは……」
引率のラミアスは部員達を下がらせ、自らはダガーを抜いた。そして、ギロリと怪物を睨みつける。そして……。
「フッ」
ラミアスは空虚な笑みを浮かべると、ダガーをしまった。
「……みなさん、退避しましょう! 急いで校舎の外に!」
ラミアスは踵を返すと、学園生達を先導して校舎の外へと出ていった。
●
『未知との遭遇! 幻の火吹き馬、再び現る!』
(ああ、出てしまった……)
数日後、学園各地の壁に掲示された新聞にはモンスター図鑑のような美麗なイラスト付きで火を吹くUMAの記事が載っていた。
コルネリウスはそれを見てとても複雑な気分になったが、ラミアスが秘密裏に真相を学園に報告でもしてくれたのか、校舎に王家の調査とかは特に入らなかったという。
ヒューマンよりは長いとはいえ、エルフの寿命は永遠ではないが、彼女が生み出した幻想はこれからもずっと、学園で語り継がれていくかもしれない……。
「なるほど、壁新聞の特別企画ですか」
優雅な仕草で紅茶をカップへと注ぎながら、新聞部顧問教師・ラミアス・クルスロードは微笑んだ。今日はパンクリアース学園・新聞部のミーティングの日だ。ラミアスはそれなりに忙しいため部活の様子を見に来ることは稀だが、今日は珍しく、お土産のお茶菓子持参で会議に参加していた。
「私もいいと思います。たまには特別なコーナーがあった方が楽しいでしょうし」
コルネリウス・アーラも笑顔で頷いた。コルネリウスは今回の企画はできるだけ後輩達に任せるつもりだった。いずれは自分も卒業するし、部員達ももう活動に慣れてきた頃なので、次代の部長の候補者も探しておきたいな、という気分だったからだ。
……。
「各学年からの一番のイケメンと美少女を選出するというのはどうかな?」
「やめてくれ、戦争になる。新聞が物理的に燃えてしまう」
「そうね。センシティブな話題は避けましょう。派閥の対立を煽るようなものは却下よ。……ですよね、先生」
部員の一人が水を向けると、ラミアスは苦笑しながら頷いた。
「そうですね。少人数の独断と偏見で容姿の優劣を選ぶ……というのは色んな人を敵に回しかねませんね」
(むむ。4年生だけあり、キャンディーナさんはなかなかしっかりしていますね)
コルネリウスは話し合う部員達の様子をつぶさに観察している。
「……というわけでここは、我らが顧問ラミアス先生のお部屋の取材記事にしましょう。知りたい女子は多いと思います。みんな(特に私)がハッピーになれます」
(あれ?)
と思っていたらキャンディーナはいきなりあさっての方向に暴走し始めた。顧問のラミアスは容姿も家柄もよろしく、ついでに未婚なので、ファンの女子学園生はそれなりにいる。ちなみに彼は学生時代はウィリアム・バデーニ公爵(元第二王子)とずっと行動を共にしていたという妖しい噂もあるため、ドゥジンシの素材としても大変な逸材とされている……。閑話休題。
「申し訳ありませんが、そちらも却下でお願いします」
ラミアスは眼鏡をクイッと上げ、笑顔で取材拒否した。
●
会議が始まり、20分ほどが経過した頃、ようやく議論がまとまる兆しが見え始めた。
「妖怪・『火吹き馬』の捕獲作戦を行う、というのはどうでしょうか!」
意見を出したのは二年生のジリアンだ。古参の部員で、新聞部員らしくインタビュー系の記事を得意としている。
「ごほっ! ごほっ!」
コルネリウスは思わずむせてしまった。何故なら、火吹き馬の正体の心当たりがありまくりだったからだ。
妖怪・火吹き馬。その正体とは、王都でのパーティ参加を控えたコルネリウスが夜中に校舎で馬の着ぐるみを来て芸の練習をしていた姿である。
「大丈夫ですか?」
「はい、すみません」
ラミアスに声をかけられ、コルネリウスは慌てて取り繕った。
「火吹き馬……ああ、そういえば前に一回取材したような……夏の怪談特集の時だっけ」
ジリアンと同級生のルサルカがぽんと手を叩く。
「なんですか? 火吹き馬って」
今年入部した新人部員のホフマンは首をかしげた。
「前にね、夜の校舎の中に、火を吹く馬の怪物が出るって噂が流れたことがあったの」
「校舎って……乗馬部の厩舎とかじゃなく、廊下にですか?」
「ええ。不思議なことにね……。正体はクリーパーだとも、上級生の嫌がらせを苦に自殺した馬の獣人の霊だとも言われてるわ」
いかにもな語りを入れながら、ルサルカは当時の新聞記事を持ってきた。
「こ、怖いですね……学園にそんなオバケが出るなんて」
(すみません、それはクリーパーでもアンデッドでもなくエルフです……)
コルネリウスは真顔になった。こんなに張り詰めた表情になったのは、非常に難しい冒険者依頼のブリーフィングとか以来かもしれない。
(火吹き馬……まあ、まだ衣装はありますし、やるのはいいんですけど……)
コルネリウスは一つの懸念があった。それは……。
(恋人にだけはバレたくありません……!)
コルネリウスの恋人は同級生である。もし壁新聞にデカデカと、
『学園を恐怖に陥れた怪物の正体発覚! すみません、火吹き馬はうちの部長の壁エルフでした!』
などという謝罪記事が掲載されてしまっては、確実に彼の目にも入ってしまうだろう。
芸の内容自体は王国貴族どころかシルトラースの現皇帝やアシムベートにも披露したことがあるほど自信のあるものなので別に恥ずべきものではないのだが、渾身の宴会奥義を恋人に見せられるか、というとまた別問題であった。
「魔獣研究会に捕獲作戦協力を打診しましょう。あそこの部長はうちのお兄ちゃんと友達だから……」
「ふむ、夜の校舎にモンスター(?)が出る、という噂は私としても捨て置けませんね。引率は私がしましょう。ふふ、昔を思い出します」
「「やった!」」
(ああ、話がトントン拍子に進んでいる……)
無になっているコルネリウスをよそに、部員(とついでに顧問)は大いに盛り上がっていた。
●
(また、夜の校舎でこの格好をすることになるなんて)
葛藤の末、コルネリウスは恥を偲んで再び火吹き馬になることにした。せっかく部員達が盛り上がっているので、空振りだったら可哀そうだと思い、あえて妖怪変化のフリをする覚悟だ。
もうじき後輩たちが顧問と共にここに来る。コルネリウスは先回りしてこっそりと校舎に侵入し、新聞部の部室で火吹き馬の着ぐるみを着込み、部員達が来るのを待っていた。
「夜の校舎って不気味だね」
「そうだね。でも部長はどこに消えたんだろう」
「壁をぶち抜いて登場するんじゃない?」
「ハハハ、笑わすなよ!」
部員達はわいわい騒ぎながら、廊下を歩いてくる。鍛え抜かれた冒険者耳でそれを感知したコルネリウス(ついでに聞き捨てならぬ壁エルフ風評被害も聞こえた)は、急いで馬の頭をすっぽりと被った。
「ぼおおお! ぼおおお!」
赤い馬の着ぐるみに身を包んだコルネリウスは唸り声を上げながら、ダイナミックに廊下へと飛び出した。炎の部分はもちろん偽物なのだが、暗い所で見ると本物に見えないこともない。蹄の部分も愛馬の足音を参考に、本物らしい音が出るようにしっかり作りこんである。
(決まった……!)
「うわああ!! 本当に出た!」
「クリーパーだー!」
部員達は本物のモンスターと勘違いし、びびりまくっている。
「皆さん、下がって下さい! まさか本当に出るとは……」
引率のラミアスは部員達を下がらせ、自らはダガーを抜いた。そして、ギロリと怪物を睨みつける。そして……。
「フッ」
ラミアスは空虚な笑みを浮かべると、ダガーをしまった。
「……みなさん、退避しましょう! 急いで校舎の外に!」
ラミアスは踵を返すと、学園生達を先導して校舎の外へと出ていった。
●
『未知との遭遇! 幻の火吹き馬、再び現る!』
(ああ、出てしまった……)
数日後、学園各地の壁に掲示された新聞にはモンスター図鑑のような美麗なイラスト付きで火を吹くUMAの記事が載っていた。
コルネリウスはそれを見てとても複雑な気分になったが、ラミアスが秘密裏に真相を学園に報告でもしてくれたのか、校舎に王家の調査とかは特に入らなかったという。
ヒューマンよりは長いとはいえ、エルフの寿命は永遠ではないが、彼女が生み出した幻想はこれからもずっと、学園で語り継がれていくかもしれない……。