芽吹きと共に幸先を
キャラクターノベル(グループ)制作 一乃口納品 2025年03月08日 10時40分02秒
シャルガネの街並みは、独特な雰囲気で観光に訪れる者も多い。
無事に過ごせた旧年へ感謝を伝え、これから過ごす新年を迎えるに辺り、様々な願掛けを行うべく訪れる人は多い。
新年を祝う独自の装飾が目を引く街並みを、雪化粧が淡く彩っていた。
初詣。
ぱん、ぱん。
と手を叩く音、一礼をして去る者。
そんな背中を幾つか見送って、自分達の番が来る。
前の人達がやっていたのを、見様見真似に――しっかりと終え、参拝客の列からタタタと走り離れる人影がひとつ。
「終わったー!」
羽織袴に袖を通したウォーゼルが、両腕をぐっと空に向かって上げる。
「わふ!」
とミニコボのチョコが、相槌を打つように鳴いた。
参拝の最中、人口密度の高さからようやく解放された瞬間だ。
「思った以上に混んでたぞ」
観光客と地元住民の初詣。
人が集中する時期とは聞いて居たが、とショコラを連れたパルドが、ウォーゼルの後に続く。
パルドもウォーゼルと同じく羽織袴姿だ。
本来は『かもん』と言うのを刺繍する所に、それぞれチョコとショコラの似顔刺繍が在る。
アルバス・ロウルとルルト・アーキスも、参拝を終えてウォーゼルとパルドの元へ。
2人ともシャルガネ風の装いだ。ルルトは黄水晶の髪飾りに、淡いピンク地に桜柄の着物姿。帯飾りには猫がいる。
普段は元気いっぱいなルルトだが、和装も相まって普段よりも歩幅は短く。
隣を歩くアルバスは落ち着いた深紺の色合いの着物に、対照的な白を基調とした裾へ行くに連れ紅く染まる羽織姿。
雪化粧の街並みは、綺麗な景観だ。
アルバスはそう感じながらも、歩き慣れないかも知れないルルトに寄り添うように歩いていた。
(……)
互いに信頼している相棒同士だ、気を遣う言葉が無くともこうして隣を歩く事が自然体だ。
そんな2人の姿を見付けて、チョコで暖を取って居たシロとタマさんもてててと駆け寄って行く。
参拝客で賑わって居る最中に、小さな家族を一緒に連れているのも不安だったのでチョコと一緒にお留守番をしていたのだ。
「お待たせシロ」
もっふ。
何時も一緒のルルトなら見誤らない、シロの元サイズ。
冬毛仕様のシロは、通常よりももっふもふのもふりてぃ増しだ。ふかふかの手触りと共に抱え上げると、肩の定位置にシロが収まる。
その間にアルバスの懐へ、タマさんは飛び乗っていた。
雪を踏んだ肉球の冷たさが、不意にアルバスを襲う。が悪気も無くにゃぁと鳴く姿を見れば「こいつめ」とアルバスは笑って許す。
初詣と言う、この場所に訪れた冒険者達一行はひとつの目的を終え。
「じゃぁ、みんな揃ったから行くぞ」
「おー!」
「わふ!」
パルドの声に、ウォーゼルとチョコが大きな声で答えた。
●
場所は変わる。
わふ、と尻尾が揺れるチョコの姿が目に付くのと、鼻に独特な甘さを含んだ匂いを感じ取れるようになって来る。
「おぉ……これが」
雪を掃いて整えられた会場には、シャルガネの文化のひとつである餅つきを楽しめる催しが開かれていた。
既に同じように餅つきを楽しんでいる人の姿がちらほらと見え、アルバスはその光景に声を漏らした。
「餅つきだー!」
「わふ!」
テンション上昇したウォーゼルの声に、冬毛比もふ度マシマシの尻尾を揺らすチョコ。
餅つき体験、お餅が食べられる。
そんな気持ちと共に、まっしぐら。
「あ、予約席はそっちじゃないんだよ!」
駆け出して行ってしまったウォーゼルとチョコの背に向かって、ルルトが声を上げ。
「……連れ戻しに行ってくる」
パルドがウォーゼルを連れ戻し、無事に餅つきスペースに全員が揃うのだった。
――
――――
パチパチ、と火鉢の中で炭の爆ぜる音がする。
真冬の、屋外での餅つき会場は寒いので、こうしたシャルガネ式の暖炉が設置されている。
早速、その温かい場所にはアルバスから飛び降りたタマさんが陣取っていた。
その間にも餅つきを行う上での注意点や説明を係員が皆に伝え。蒸し上げた餅米を運んで来てくれる。
「準備に一晩使うんだな」
杵が割れないようにする為、一晩水に漬けたりと準備が必要だ。
アルバスは支度をしてくれた人達へ感謝しながら、蒸した餅米を慎重に投入する――
「もっと!」
「いや、これくらいじゃ?」
「……」
一瞬、ヤーと言う掛け声と共に餅米を全投入する人影が会場の隅に見えた気がしたが、アルバスは適量を投入する事に成功する。
着物の上から襷を掛け、準備ができたパルドは杵を手に取った。
「行くぞ!」
「来い!」
パルドが杵を構え、ウォーゼルが返しの役を担おうと身構え――
「ウォーゼル。最初は、まだ返さなくていいんだよ?」
「……そうだった」
ステイする。わくわくしてしまうと気が逸る事もあるよなと、アルバスは静かに頷いて居た。
ぺったん、ぺったんと杵を落とすようにパルドが餅米を叩いて行くと、粒だった原型が減って粘りを帯びて行く。
「そろそろか?」
「そうだな、返して行こう」
ウォーゼルにアルバスが答え、パルドがつく度にウォーゼルが返しを入れて行く。
ある程度2人の餅つきが形になった所で。
標準サイズより小振りな、杵と臼がやって来たのだった。
「ルルトも餅つきするだろう?」
アルバスが係の人に話て、準備して貰ったのだ。
「うん! やるっ」
着物の裾を巻き込まないよう襷掛け、ルルトが杵を持ち上げる。
「よっ――っと、とと」
杵を持ち上げた瞬間の、重心にルルトがよろけてしまう。
「おっと、気を付けないとな」
そんなルルトを、アルバスがそっと支える様に後ろに立った。
「ありがとう、アルバス! よーしっ」
気を取り直して杵と重心を整えたルルトも、餅つきを始めて行くのだった。
ぺったん。
ぺったんと、リズミカルな音が立ち始めて居た。
「餅っぽくなってきた? もうちょっと?」
パルドが餅の状態を見ながら。
「もうちょっとですね」
近くに居た係員が加減を見てくれた。ウォーゼルが返す時、もう少し上にした方が良い箇所を教える。
ぺったん、ぺったん。
「だいぶ様に成って来たな」
ルルトがつき、アルバスが返しを行う。
「うん!」
ルルトが元気にアルバスに応える。転ばないように気を付けながらも、杵の重心と餅をつく力加減が板に付いて来たのだった。
最初につき始めた餅が、仕上がった頃。
その様子をキラキラとした瞳で見ている存在が、ひとり。
チョコの視線だ。
「……チョコ? 餅つきしたいのか?」
それに気付いたパルドが聞き。
「わふ!」
元気よくチョコが応える。
丁度良くルルトがついていた餅が完成したので、ルルトとチョコが選手交代。
「わふ」
杵がぐるーんとチョコを中心に半円を描き。
「おっと」
ウォーゼルが杵の回転を止め、チョコが餅をつく補助に付き。パルドが返しの役を担う。
ぺっ――ぺし。
ぺしん、ぺしっ――
「……わふ!」
少しずつ餅をつく感触を実感しながら、チョコも餅つきを楽しんだ。
「さて――」
キュッと襷をしっかりと掛け、脱いだ羽織をルルトに預けるアルバス。
チョコが餅つきを始めた所でアルバスもまた餅つきを始める。
(杵の重さを使って、落とすように――)
聞き知ったコツを再現するように、アルバスは杵で餅米をついて行く。
形になって来たころに、チョコの餅つきが落ち着いたらしく。
アルバスの餅つきをウォーゼルとパルドが手伝えるようになる。
「よし」
「一気に仕上げるんだよね?」
ウォーゼルとパルドも気合を入れ直す。その時、互いに送り合ったバンダナリングに手を掛け、髪が乱れぬ様に整えた。
「あぁ、行くぞ!」
3人が力を合わせて餅つきを始める。その力強さと息の合ったコンビネーションは、気付けば衆目を集める程に。
「がんばれー!」
ルルトはアルバス達へ声援を送っている。ふと、足元にタマさんがやって来る。
お疲れ様と言うように擦り寄ったタマさんへ、ルルトが視線を向けると――
(あ……)
アルバスの羽織の裏地に、自分と同じ桜の刺繍があるのを見付けたのだった。
●
つき立てのお餅を、手頃な大きさに整える作業を終えると、お餅を中心にした料理が席に並んだのだった。
磯辺巻きに、からみ餅。あんころ餅に、きなこ餅と様々な形と食べ方でお餅を楽しむ為の準備だ。
お餅を調理している間、タマさんは変わらずルルトの膝元。気が付けばシロもその場所で一緒に丸くなっていた。
チョコは楽しそうにみんなの周りをぴょこぴょこして、ショコラは揺れる着物の裾にじゃれついていた。
しばらくして、お餅を食べる下準備が終わった頃。
「お持ちしましたよ」
係員が茹でたささみと、餅以外のお雑煮の具材を入れたお鍋を運んで来てくれた。
餅つきを体験したチョコを始め。シロやショコラ、タマさん達にはささみが準備されて、各々美味しそうに食べ始めている。
その様子を4人で微笑ましく見守りながら、揃ったお餅を前に。
――頂きます。
多種多彩なお餅達を前に、ちょっと迷って手を伸ばしたルルトが早速一口。
「……ふふふ、すっごく美味しいね♪」
頬張ったまだ温かいお餅、びよーんっと伸びて少し慌てもしたけど。その美味しさにルルトは笑顔を見せながら堪能している。
もぐもぐとしながら、次はどれを食べようかと思いを巡らせていると。
「あぁ、美味いな。砂糖醤油とやらもいけるぞ」
羽織を着直したアルバスも、自分達でついた餅を味わう。砂糖醤油の小皿をルルトに差し出すと、ルルトも喜んで砂糖醤油のお餅を味わった。
一先ずの咀嚼を終えた頃、アルバスの耳がぷしゅっと言う音を拾った。
火鉢の上で炙っていた餅が、膨らみ始めた音だ。
「炙った餅も美味いぞ」
炙った餅を雑煮に入れる。
その餅も、勿論美味い――間違いない。それを食べたいと、ルルトがウォーゼルが手を伸ばしてパルドも受け取った。
餅のバリエーションは豊富だ。
ウォーゼルとパルドは、お互い気になるお餅へ手を付けて楽しんでいる。
「美味いなこれ」
「こっちも美味いぞ」
互いに食べたお餅を、交換するように味わって行く。
あんころ餅を手に取り、もぐもぐするパルド――に、電流が奔る。
「はっ……あんこが合うならチョコレートも合うんじゃないか?」
(わふ!?)
チョコレートと聞こえれば、反応しちゃうのは仕方ないだろう。合いそうだ、そうだ試そうと盛り上がっている最中。
名前を呼ばれた訳じゃ無いと分かったチョコは、再びささみに集中しながら尻尾をぶんぶんと揺らした。
チョコーティング餅と、ぜんざいがそこへ加わって行くのに然程時間は掛からなかった。
美味しくお餅を食べる。
どれを食べても美味しいし、いっぱいある。物量的にも、多種多様的な意味でも。
だから、あれもこれもと味わい尽くそうとしていたら。
「……んぐっ」
ルルト、お餅を喉に詰まらせる――
「ルルト!?」
アルバス即座に事態へ気付き、ルルトの背をとんとんと叩く。
「ぷはぁっ――!」
生還!
「気を付けるんだぞ!?」
「ごほっ。うん、ごめん……ありがとう」
アルバスが心配する中、パルドがお茶をルルトへ手渡したり。
すこしバタバタしたけれど、落ち着けばまたお餅料理を楽しむのだ。
「もう喉に詰まらせるなよ?」
アルバスがルルトへ、念の為に声を掛ける。
「だ、大丈夫だよ!」
ちゃんと、小さく切ってるよ!
とお皿の上を見せるルルトの様子を見て、ウォーゼルも小さく切って食べる様にする。
「ウォーゼルも気を付けてるな、偉い偉い」
「パルドも気を付けろよ!」
「わんっ!」
パルドの変わりに返事をするようにチョコが大きく吠え。
間が悪い事に。ショコラの口を舐めてあげたタマさんが、ルルトの元へ歩き出した時。
チョコの声に驚いたショコラが跳び跳ねて――その足がタマさんにぶつかる。
「……」
振り返ったタマさんの視界に入った、シロの姿。
もっふ。
なにするの、気を付けなさいと言わんばかりの窘め猫パンチがシロに向けられ。
「??」
何故、自分がと言う表情のシロ。解せぬ。冬毛のもふ力で、猫パンチは身体に届いてないのだが。
そんな言葉じゃない、けど言葉並みに物語る視線が4人へ向き。
「――ぷっ」
皆の笑い声が寒空の下に響く。
春の芽吹きのような温かさを。胸中に感じられるのも、皆で笑い合えるからこそだろう。
これからも、この温かな日々が。何時までも永く続きますように――
無事に過ごせた旧年へ感謝を伝え、これから過ごす新年を迎えるに辺り、様々な願掛けを行うべく訪れる人は多い。
新年を祝う独自の装飾が目を引く街並みを、雪化粧が淡く彩っていた。
初詣。
ぱん、ぱん。
と手を叩く音、一礼をして去る者。
そんな背中を幾つか見送って、自分達の番が来る。
前の人達がやっていたのを、見様見真似に――しっかりと終え、参拝客の列からタタタと走り離れる人影がひとつ。
「終わったー!」
羽織袴に袖を通したウォーゼルが、両腕をぐっと空に向かって上げる。
「わふ!」
とミニコボのチョコが、相槌を打つように鳴いた。
参拝の最中、人口密度の高さからようやく解放された瞬間だ。
「思った以上に混んでたぞ」
観光客と地元住民の初詣。
人が集中する時期とは聞いて居たが、とショコラを連れたパルドが、ウォーゼルの後に続く。
パルドもウォーゼルと同じく羽織袴姿だ。
本来は『かもん』と言うのを刺繍する所に、それぞれチョコとショコラの似顔刺繍が在る。
アルバス・ロウルとルルト・アーキスも、参拝を終えてウォーゼルとパルドの元へ。
2人ともシャルガネ風の装いだ。ルルトは黄水晶の髪飾りに、淡いピンク地に桜柄の着物姿。帯飾りには猫がいる。
普段は元気いっぱいなルルトだが、和装も相まって普段よりも歩幅は短く。
隣を歩くアルバスは落ち着いた深紺の色合いの着物に、対照的な白を基調とした裾へ行くに連れ紅く染まる羽織姿。
雪化粧の街並みは、綺麗な景観だ。
アルバスはそう感じながらも、歩き慣れないかも知れないルルトに寄り添うように歩いていた。
(……)
互いに信頼している相棒同士だ、気を遣う言葉が無くともこうして隣を歩く事が自然体だ。
そんな2人の姿を見付けて、チョコで暖を取って居たシロとタマさんもてててと駆け寄って行く。
参拝客で賑わって居る最中に、小さな家族を一緒に連れているのも不安だったのでチョコと一緒にお留守番をしていたのだ。
「お待たせシロ」
もっふ。
何時も一緒のルルトなら見誤らない、シロの元サイズ。
冬毛仕様のシロは、通常よりももっふもふのもふりてぃ増しだ。ふかふかの手触りと共に抱え上げると、肩の定位置にシロが収まる。
その間にアルバスの懐へ、タマさんは飛び乗っていた。
雪を踏んだ肉球の冷たさが、不意にアルバスを襲う。が悪気も無くにゃぁと鳴く姿を見れば「こいつめ」とアルバスは笑って許す。
初詣と言う、この場所に訪れた冒険者達一行はひとつの目的を終え。
「じゃぁ、みんな揃ったから行くぞ」
「おー!」
「わふ!」
パルドの声に、ウォーゼルとチョコが大きな声で答えた。
●
場所は変わる。
わふ、と尻尾が揺れるチョコの姿が目に付くのと、鼻に独特な甘さを含んだ匂いを感じ取れるようになって来る。
「おぉ……これが」
雪を掃いて整えられた会場には、シャルガネの文化のひとつである餅つきを楽しめる催しが開かれていた。
既に同じように餅つきを楽しんでいる人の姿がちらほらと見え、アルバスはその光景に声を漏らした。
「餅つきだー!」
「わふ!」
テンション上昇したウォーゼルの声に、冬毛比もふ度マシマシの尻尾を揺らすチョコ。
餅つき体験、お餅が食べられる。
そんな気持ちと共に、まっしぐら。
「あ、予約席はそっちじゃないんだよ!」
駆け出して行ってしまったウォーゼルとチョコの背に向かって、ルルトが声を上げ。
「……連れ戻しに行ってくる」
パルドがウォーゼルを連れ戻し、無事に餅つきスペースに全員が揃うのだった。
――
――――
パチパチ、と火鉢の中で炭の爆ぜる音がする。
真冬の、屋外での餅つき会場は寒いので、こうしたシャルガネ式の暖炉が設置されている。
早速、その温かい場所にはアルバスから飛び降りたタマさんが陣取っていた。
その間にも餅つきを行う上での注意点や説明を係員が皆に伝え。蒸し上げた餅米を運んで来てくれる。
「準備に一晩使うんだな」
杵が割れないようにする為、一晩水に漬けたりと準備が必要だ。
アルバスは支度をしてくれた人達へ感謝しながら、蒸した餅米を慎重に投入する――
「もっと!」
「いや、これくらいじゃ?」
「……」
一瞬、ヤーと言う掛け声と共に餅米を全投入する人影が会場の隅に見えた気がしたが、アルバスは適量を投入する事に成功する。
着物の上から襷を掛け、準備ができたパルドは杵を手に取った。
「行くぞ!」
「来い!」
パルドが杵を構え、ウォーゼルが返しの役を担おうと身構え――
「ウォーゼル。最初は、まだ返さなくていいんだよ?」
「……そうだった」
ステイする。わくわくしてしまうと気が逸る事もあるよなと、アルバスは静かに頷いて居た。
ぺったん、ぺったんと杵を落とすようにパルドが餅米を叩いて行くと、粒だった原型が減って粘りを帯びて行く。
「そろそろか?」
「そうだな、返して行こう」
ウォーゼルにアルバスが答え、パルドがつく度にウォーゼルが返しを入れて行く。
ある程度2人の餅つきが形になった所で。
標準サイズより小振りな、杵と臼がやって来たのだった。
「ルルトも餅つきするだろう?」
アルバスが係の人に話て、準備して貰ったのだ。
「うん! やるっ」
着物の裾を巻き込まないよう襷掛け、ルルトが杵を持ち上げる。
「よっ――っと、とと」
杵を持ち上げた瞬間の、重心にルルトがよろけてしまう。
「おっと、気を付けないとな」
そんなルルトを、アルバスがそっと支える様に後ろに立った。
「ありがとう、アルバス! よーしっ」
気を取り直して杵と重心を整えたルルトも、餅つきを始めて行くのだった。
ぺったん。
ぺったんと、リズミカルな音が立ち始めて居た。
「餅っぽくなってきた? もうちょっと?」
パルドが餅の状態を見ながら。
「もうちょっとですね」
近くに居た係員が加減を見てくれた。ウォーゼルが返す時、もう少し上にした方が良い箇所を教える。
ぺったん、ぺったん。
「だいぶ様に成って来たな」
ルルトがつき、アルバスが返しを行う。
「うん!」
ルルトが元気にアルバスに応える。転ばないように気を付けながらも、杵の重心と餅をつく力加減が板に付いて来たのだった。
最初につき始めた餅が、仕上がった頃。
その様子をキラキラとした瞳で見ている存在が、ひとり。
チョコの視線だ。
「……チョコ? 餅つきしたいのか?」
それに気付いたパルドが聞き。
「わふ!」
元気よくチョコが応える。
丁度良くルルトがついていた餅が完成したので、ルルトとチョコが選手交代。
「わふ」
杵がぐるーんとチョコを中心に半円を描き。
「おっと」
ウォーゼルが杵の回転を止め、チョコが餅をつく補助に付き。パルドが返しの役を担う。
ぺっ――ぺし。
ぺしん、ぺしっ――
「……わふ!」
少しずつ餅をつく感触を実感しながら、チョコも餅つきを楽しんだ。
「さて――」
キュッと襷をしっかりと掛け、脱いだ羽織をルルトに預けるアルバス。
チョコが餅つきを始めた所でアルバスもまた餅つきを始める。
(杵の重さを使って、落とすように――)
聞き知ったコツを再現するように、アルバスは杵で餅米をついて行く。
形になって来たころに、チョコの餅つきが落ち着いたらしく。
アルバスの餅つきをウォーゼルとパルドが手伝えるようになる。
「よし」
「一気に仕上げるんだよね?」
ウォーゼルとパルドも気合を入れ直す。その時、互いに送り合ったバンダナリングに手を掛け、髪が乱れぬ様に整えた。
「あぁ、行くぞ!」
3人が力を合わせて餅つきを始める。その力強さと息の合ったコンビネーションは、気付けば衆目を集める程に。
「がんばれー!」
ルルトはアルバス達へ声援を送っている。ふと、足元にタマさんがやって来る。
お疲れ様と言うように擦り寄ったタマさんへ、ルルトが視線を向けると――
(あ……)
アルバスの羽織の裏地に、自分と同じ桜の刺繍があるのを見付けたのだった。
●
つき立てのお餅を、手頃な大きさに整える作業を終えると、お餅を中心にした料理が席に並んだのだった。
磯辺巻きに、からみ餅。あんころ餅に、きなこ餅と様々な形と食べ方でお餅を楽しむ為の準備だ。
お餅を調理している間、タマさんは変わらずルルトの膝元。気が付けばシロもその場所で一緒に丸くなっていた。
チョコは楽しそうにみんなの周りをぴょこぴょこして、ショコラは揺れる着物の裾にじゃれついていた。
しばらくして、お餅を食べる下準備が終わった頃。
「お持ちしましたよ」
係員が茹でたささみと、餅以外のお雑煮の具材を入れたお鍋を運んで来てくれた。
餅つきを体験したチョコを始め。シロやショコラ、タマさん達にはささみが準備されて、各々美味しそうに食べ始めている。
その様子を4人で微笑ましく見守りながら、揃ったお餅を前に。
――頂きます。
多種多彩なお餅達を前に、ちょっと迷って手を伸ばしたルルトが早速一口。
「……ふふふ、すっごく美味しいね♪」
頬張ったまだ温かいお餅、びよーんっと伸びて少し慌てもしたけど。その美味しさにルルトは笑顔を見せながら堪能している。
もぐもぐとしながら、次はどれを食べようかと思いを巡らせていると。
「あぁ、美味いな。砂糖醤油とやらもいけるぞ」
羽織を着直したアルバスも、自分達でついた餅を味わう。砂糖醤油の小皿をルルトに差し出すと、ルルトも喜んで砂糖醤油のお餅を味わった。
一先ずの咀嚼を終えた頃、アルバスの耳がぷしゅっと言う音を拾った。
火鉢の上で炙っていた餅が、膨らみ始めた音だ。
「炙った餅も美味いぞ」
炙った餅を雑煮に入れる。
その餅も、勿論美味い――間違いない。それを食べたいと、ルルトがウォーゼルが手を伸ばしてパルドも受け取った。
餅のバリエーションは豊富だ。
ウォーゼルとパルドは、お互い気になるお餅へ手を付けて楽しんでいる。
「美味いなこれ」
「こっちも美味いぞ」
互いに食べたお餅を、交換するように味わって行く。
あんころ餅を手に取り、もぐもぐするパルド――に、電流が奔る。
「はっ……あんこが合うならチョコレートも合うんじゃないか?」
(わふ!?)
チョコレートと聞こえれば、反応しちゃうのは仕方ないだろう。合いそうだ、そうだ試そうと盛り上がっている最中。
名前を呼ばれた訳じゃ無いと分かったチョコは、再びささみに集中しながら尻尾をぶんぶんと揺らした。
チョコーティング餅と、ぜんざいがそこへ加わって行くのに然程時間は掛からなかった。
美味しくお餅を食べる。
どれを食べても美味しいし、いっぱいある。物量的にも、多種多様的な意味でも。
だから、あれもこれもと味わい尽くそうとしていたら。
「……んぐっ」
ルルト、お餅を喉に詰まらせる――
「ルルト!?」
アルバス即座に事態へ気付き、ルルトの背をとんとんと叩く。
「ぷはぁっ――!」
生還!
「気を付けるんだぞ!?」
「ごほっ。うん、ごめん……ありがとう」
アルバスが心配する中、パルドがお茶をルルトへ手渡したり。
すこしバタバタしたけれど、落ち着けばまたお餅料理を楽しむのだ。
「もう喉に詰まらせるなよ?」
アルバスがルルトへ、念の為に声を掛ける。
「だ、大丈夫だよ!」
ちゃんと、小さく切ってるよ!
とお皿の上を見せるルルトの様子を見て、ウォーゼルも小さく切って食べる様にする。
「ウォーゼルも気を付けてるな、偉い偉い」
「パルドも気を付けろよ!」
「わんっ!」
パルドの変わりに返事をするようにチョコが大きく吠え。
間が悪い事に。ショコラの口を舐めてあげたタマさんが、ルルトの元へ歩き出した時。
チョコの声に驚いたショコラが跳び跳ねて――その足がタマさんにぶつかる。
「……」
振り返ったタマさんの視界に入った、シロの姿。
もっふ。
なにするの、気を付けなさいと言わんばかりの窘め猫パンチがシロに向けられ。
「??」
何故、自分がと言う表情のシロ。解せぬ。冬毛のもふ力で、猫パンチは身体に届いてないのだが。
そんな言葉じゃない、けど言葉並みに物語る視線が4人へ向き。
「――ぷっ」
皆の笑い声が寒空の下に響く。
春の芽吹きのような温かさを。胸中に感じられるのも、皆で笑い合えるからこそだろう。
これからも、この温かな日々が。何時までも永く続きますように――