陽だまりを夢見る
キャラクターノベル制作 桂木京介納品 2025年01月02日 01時12分35秒
冷たい空気でぎゅっと押しつぶすように、空がうすぼんやりと曇ってる。それでも、ちいさな太陽は雲雀みたいに一生懸命かがやいて、すこしでも暖かさを届けようとがんばってた。
そのおかげかな、フロルの街道もにぎやかになってきて、昼前にはもう、一足はやく春がきたみたいな活気にあふれてる。馬車がカラコロ通る音に、チリンチリンと鈴の音がまじる。どこかからおいしそうな匂いがただよってくるし、人間の子どもたちが、タンポポの綿毛をふーってやっては追いかけっこしてるのを見るのも楽しい。
のどかよね。
あくびがひとつ出た。
いま、シアは窓辺に寝そべって、のんびりひなたぼっこしてるの。目を半分だけ開けて、夢うつつ。窓ぎわだけど寒くないよ。カインが編んでくれたレースのケープをかぶっているから。
……ああそうか、カインのこと説明しないとね。
カインは『カイン・ステラ』っていって、シアの家族。人間だからもちろん本当の親じゃないけど、シアにとっては父親がわりだし、お兄さんって感じもしてる。カインは、ちょっと前の動乱では弓をとって立派な役目を果たしたんだって。そこんとこ、シアはよく知らないんだけどね。
動乱のころ、カインは『シェアハウス』って大きなおうちで暮らしてた。シアは、そのシェアハウスのオーナー夫婦の猫の子で、兄弟姉妹の中じゃ末っ子だったんだよ。カインが引き取ってくれて、以来ずっと一緒にいるの。長い戦いが終わって、カインがフロルに移ってからもね。
カインのことを父親がわりって言ったけど、ご飯もらうほかは頼りきってないからそこのところお忘れなく。シアは生みの親からはなれて自立してるし、こう見えてもう、子どもたちを独り立ちさせてきたママでもあるんだから。
うーん、まあ、出産直後だけは弱りきってて、赤ちゃんたちのことはぜんぶカインに任せちゃったけど……当然のように赤ちゃんたちの父親は姿を消したし。これ、シェアハウスにいたころの話ね。
あのときカイン「父親はどこのどいつだ」と血相を変えてシェアハウスじゅうの冒険者たちのドアをノックしてまわったみたい。飼い主の冒険者を見つけて里親探しの協力と赤ちゃんたちのご飯代の一部を負担させたって話だけど、詳しいことはわかんない。
あの子たち、いまごろどうしてるかな。きっと、みんな幸せに暮らしてるはず。
いま、カインはフロルで療養中なんだ。戦いに疲れた心と体を癒やしているところ。猫にできることなんてあまりないけど、できる精いっぱいでシアはカインを応援してきたよ。カインは元気を取りもどしつつあるから、いくらかは役に立てたかな。
窓辺で伸びをしてから、またじんわりと日差しを全身に感じる。この時間、本当に大好き。
でもね最近カインがなんだかバタバタしてて、落ち着かない感じなの。何日か前、
「フロルから引っ越すことになった」
なんて急に言いだしたもんだから、びっくりしちゃった。
「荷造りが大変だ」
ぼやくカインの声を思い出す。でも言葉とはうらはらに、カインの胸は新生活への期待でいっぱいだってシアにはわかってた。
もちろん、カインはシアたちにかなり早い段階で言ってくれた。
「みんなも連れて行くから」
そう言われたとき、胸がぽわっとあったかくなった。シアたち三人娘――種族も年もちがうけど、そろってカインの家族なんだから――はずっと一緒だよ、今度の転居先でも。ほんとはね、ひょっとしたらここに置いていかれるんじゃないかって、ちょっぴり心配してたから。
カインってほんとに優しい人だと思う。この冬はケープを作ってくれたし、夏には涼しげなリボンを首につけてくれた。そのたびに「どうだ?」ってちょっと得意げに聞いてくる。そのたび返事のかわりに、シアはカインに頭をすりつけるの。シアは人間の言葉が話せないけど、きっと伝わっていると思う。
……シアはちっちゃい体だからたぶん、カインを残して先に逝くことになる。いつか訪れる永別を考えるとどうしてもさみしくなるけど、カインが笑っていられるように、そのときまでは楽しくすごしたいな。
あれ?
一台の馬車が窓の外に停まった。
かと思いきや部屋のドアが開く。
「商会の馬車が来た」
戸口にカインが立ってた。マントをはおってる。
ショウカイ?
たぶん、お引っ越しを手伝ってくれる人たちだね。
「シア、準備はいいか?」
カインがシアのそばに来て、やさしく頭をなでてくれた。カインの手のぬくもりが、いつも以上に心地よく感じられた。
いよいよかぁ。
あたらしい家でも、カインと一緒ならきっと楽しい日々が待ってるよね。
シアは小さく「にゃあ」と鳴いてカインを見上げたよ。
うん、行こう。
カイン、それにみんなも一緒に。
フロルも居心地は悪くなかったよ。でもそろそろ別れを告げるときだね。
ばいばい、フロル。
シアはもう、あたらしい窓辺の陽だまりを夢見てる。
そのおかげかな、フロルの街道もにぎやかになってきて、昼前にはもう、一足はやく春がきたみたいな活気にあふれてる。馬車がカラコロ通る音に、チリンチリンと鈴の音がまじる。どこかからおいしそうな匂いがただよってくるし、人間の子どもたちが、タンポポの綿毛をふーってやっては追いかけっこしてるのを見るのも楽しい。
のどかよね。
あくびがひとつ出た。
いま、シアは窓辺に寝そべって、のんびりひなたぼっこしてるの。目を半分だけ開けて、夢うつつ。窓ぎわだけど寒くないよ。カインが編んでくれたレースのケープをかぶっているから。
……ああそうか、カインのこと説明しないとね。
カインは『カイン・ステラ』っていって、シアの家族。人間だからもちろん本当の親じゃないけど、シアにとっては父親がわりだし、お兄さんって感じもしてる。カインは、ちょっと前の動乱では弓をとって立派な役目を果たしたんだって。そこんとこ、シアはよく知らないんだけどね。
動乱のころ、カインは『シェアハウス』って大きなおうちで暮らしてた。シアは、そのシェアハウスのオーナー夫婦の猫の子で、兄弟姉妹の中じゃ末っ子だったんだよ。カインが引き取ってくれて、以来ずっと一緒にいるの。長い戦いが終わって、カインがフロルに移ってからもね。
カインのことを父親がわりって言ったけど、ご飯もらうほかは頼りきってないからそこのところお忘れなく。シアは生みの親からはなれて自立してるし、こう見えてもう、子どもたちを独り立ちさせてきたママでもあるんだから。
うーん、まあ、出産直後だけは弱りきってて、赤ちゃんたちのことはぜんぶカインに任せちゃったけど……当然のように赤ちゃんたちの父親は姿を消したし。これ、シェアハウスにいたころの話ね。
あのときカイン「父親はどこのどいつだ」と血相を変えてシェアハウスじゅうの冒険者たちのドアをノックしてまわったみたい。飼い主の冒険者を見つけて里親探しの協力と赤ちゃんたちのご飯代の一部を負担させたって話だけど、詳しいことはわかんない。
あの子たち、いまごろどうしてるかな。きっと、みんな幸せに暮らしてるはず。
いま、カインはフロルで療養中なんだ。戦いに疲れた心と体を癒やしているところ。猫にできることなんてあまりないけど、できる精いっぱいでシアはカインを応援してきたよ。カインは元気を取りもどしつつあるから、いくらかは役に立てたかな。
窓辺で伸びをしてから、またじんわりと日差しを全身に感じる。この時間、本当に大好き。
でもね最近カインがなんだかバタバタしてて、落ち着かない感じなの。何日か前、
「フロルから引っ越すことになった」
なんて急に言いだしたもんだから、びっくりしちゃった。
「荷造りが大変だ」
ぼやくカインの声を思い出す。でも言葉とはうらはらに、カインの胸は新生活への期待でいっぱいだってシアにはわかってた。
もちろん、カインはシアたちにかなり早い段階で言ってくれた。
「みんなも連れて行くから」
そう言われたとき、胸がぽわっとあったかくなった。シアたち三人娘――種族も年もちがうけど、そろってカインの家族なんだから――はずっと一緒だよ、今度の転居先でも。ほんとはね、ひょっとしたらここに置いていかれるんじゃないかって、ちょっぴり心配してたから。
カインってほんとに優しい人だと思う。この冬はケープを作ってくれたし、夏には涼しげなリボンを首につけてくれた。そのたびに「どうだ?」ってちょっと得意げに聞いてくる。そのたび返事のかわりに、シアはカインに頭をすりつけるの。シアは人間の言葉が話せないけど、きっと伝わっていると思う。
……シアはちっちゃい体だからたぶん、カインを残して先に逝くことになる。いつか訪れる永別を考えるとどうしてもさみしくなるけど、カインが笑っていられるように、そのときまでは楽しくすごしたいな。
あれ?
一台の馬車が窓の外に停まった。
かと思いきや部屋のドアが開く。
「商会の馬車が来た」
戸口にカインが立ってた。マントをはおってる。
ショウカイ?
たぶん、お引っ越しを手伝ってくれる人たちだね。
「シア、準備はいいか?」
カインがシアのそばに来て、やさしく頭をなでてくれた。カインの手のぬくもりが、いつも以上に心地よく感じられた。
いよいよかぁ。
あたらしい家でも、カインと一緒ならきっと楽しい日々が待ってるよね。
シアは小さく「にゃあ」と鳴いてカインを見上げたよ。
うん、行こう。
カイン、それにみんなも一緒に。
フロルも居心地は悪くなかったよ。でもそろそろ別れを告げるときだね。
ばいばい、フロル。
シアはもう、あたらしい窓辺の陽だまりを夢見てる。