残すもの、正すもの
キャラクターノベル制作 崎田航輝納品 2024年12月29日 14時44分31秒
「よし、朝飯にするか」
朝日の差す窓辺のテーブルに、カイン・ステラが小さな皿を置く。
それが自分の食事だと分かると……栗鼠のランは寝床のクッションから顔を上げ、テーブルに飛び乗っていた。
今日は陽気。仰ぐカインの顔色も良く――
(もう、すっかり本調子ね)
ランはそんな思いを抱いていた。
カペル侯爵領フロル。
カインが療養生活を始め、短くない時間が経っていた。が、それも終わりが近いとランは日々感じている。
というのも――
「今日もギルドだ。頼むな」
そう言うカインは意気軒昂。装備を確認して、冒険者の様相だ。
事変後も冒険依頼は時折受けている。が、最近はその頻度も上がっていて――
(はりきっているみたいね)
素直にそう感じるのだ。
意思が伝わったか否か、カインは地図を手に口を開いた。
「フロルを発つ前に、出来る事はやっておきたいからな」
実際、カインは近々ローレラウラ近郊の小都市で……孤児院の後継者として引き継ぎを受けるらしい。
ランもそれは聞いていて、栗鼠ながらにお引越しとして受け止めていた。
(巣立つ前には寝床を綺麗にしたいって事かしら)
そんな理解でもあったが――
カインの中にこの地への深い感謝がある事もまた、分かっている。
カインとはそういうものを大事にする人間だ。
(あと“食”も大事にするのがいいところよね)
と、ランはお皿のナッツ盛り合わせをカリカリと齧る。
甘い香辛料が利いていて、これが美味。
(で、食べた分は動かないと)
故に手伝いも吝かでなく。
ランはカインの肩にぴょんと乗り、準備万端を告げた。
この日向かったのは森だ。
目的は近郊に出るという野盗の対処。足取りを調査し、この奥がアジトだと推測していた。
予想通り、木々の間に……迷彩を施した小屋が見える。
ここに少数の賊がいるはずだ。
が――
「何か騒がしいな」
カインの違和感に、ランも気付く。
小屋内に人以外の声があったのだ。
壁の隙間からランが覗くと、その正体が判る。二人の賊の他に――わんわん、にゃあにゃあ、と鳴く犬や猫達がいたのだ。
賊は「よーしよしよし」と餌をやっている。
が、当の動物達はというと……がぶり。敵意むき出しに賊の手に噛みついていた。
「いててて!」
のたうち回る賊を横目に、動物達は脱出を画策している。野生らしいが、どうやら山に別の住処があったのに、無理に連れて来られてきたらしい。
(迷惑な事ね)
「与えてる食べ物も街で盗んだものか。ひとまずお縄だな」
カインが言えば、ランも肯定の返事。
後は早い。
ランが小石で音を立てると……出てきた賊をカインが樹上から急襲。飛び降りながら首根っこを押さえ込んだ。
ふぎゃ! と倒れた賊に、もう一人の賊も尻餅をつく。
「何だ! 冒険者か!?」
「盗みだけじゃなく、動物達にまで迷惑かけて何がしたいんだ」
カインが一人を拘束しつつ言うと……賊はくっと怯む。
が、すぐに「お前に俺等の気持ちが分かるか!」と反抗した。
「平和になろうが、俺等みたいな根無し草は救われない。だが、ペットは欲しい――なのに一匹も懐いてくれない! こうするしかないだろ」
「それで無理に餌やりか」
ろくでもないわね、と呟くランにカインも同じ気持ちで続けた。
「人だけじゃなく皆に意思があるんだよ。それを無視してるから、そもそも犬も猫も寄り付かないんじゃねえのか。順番が逆だろ」
「……!」
賊は押し黙った。ぐうの音も出ないらしい。
最後には「野郎、ペットを連れてるからって!」と暴力に訴えて来たが……途中で転倒する。ランが足元に体当りしたのだ。
呻く賊を、カインは苦も無く拘束するのだった。
動物達は無事解放された。
その去り際、一匹の犬がランとカインを見てきゃんと鳴く。
良いコンビネーションだったな――と、そんな事を言いたいらしい。
ランは特段肯定も否定もせず。
(まあね)
それだけ言って見送った。
元の住処へ走る犬や猫達は、安堵の顔をしている。
(帰るべき家が一番って事ね)
それからふと自分に意識を向ける。ランにとってのそれは今、傍にあった。
(今回は中々忙しかったわ)
今日だけでなく、時に危険も伴うのが冒険者との生活だ。
元々、安全で温かい寝床と飢えない生活を理想としてカインの所に転がり込んだ。だからそれだけ考えるなら、きっとより良い条件の場所もあるのだろうけれど。
ランは今も、カインの元を離れる気はない。
それはきっと――
(……)
先のカインの言葉。そしてもっと前の幾つもの出来事を思い返す。
(ま、作ってくれる服も可愛いし)
と、ランが自身の服に触れると――
「そろそろ新しい色も欲しいか? 帰ったら考えるか」
カインは言いつつ、既に柄を思案し始めていた。
(……ほんの少しおせっかいな所もあるけどね)
ランは苦笑する気持ちで、再び肩に乗る。そこにあるのは外面では語れない、友情に違いなかった。
朝日の差す窓辺のテーブルに、カイン・ステラが小さな皿を置く。
それが自分の食事だと分かると……栗鼠のランは寝床のクッションから顔を上げ、テーブルに飛び乗っていた。
今日は陽気。仰ぐカインの顔色も良く――
(もう、すっかり本調子ね)
ランはそんな思いを抱いていた。
カペル侯爵領フロル。
カインが療養生活を始め、短くない時間が経っていた。が、それも終わりが近いとランは日々感じている。
というのも――
「今日もギルドだ。頼むな」
そう言うカインは意気軒昂。装備を確認して、冒険者の様相だ。
事変後も冒険依頼は時折受けている。が、最近はその頻度も上がっていて――
(はりきっているみたいね)
素直にそう感じるのだ。
意思が伝わったか否か、カインは地図を手に口を開いた。
「フロルを発つ前に、出来る事はやっておきたいからな」
実際、カインは近々ローレラウラ近郊の小都市で……孤児院の後継者として引き継ぎを受けるらしい。
ランもそれは聞いていて、栗鼠ながらにお引越しとして受け止めていた。
(巣立つ前には寝床を綺麗にしたいって事かしら)
そんな理解でもあったが――
カインの中にこの地への深い感謝がある事もまた、分かっている。
カインとはそういうものを大事にする人間だ。
(あと“食”も大事にするのがいいところよね)
と、ランはお皿のナッツ盛り合わせをカリカリと齧る。
甘い香辛料が利いていて、これが美味。
(で、食べた分は動かないと)
故に手伝いも吝かでなく。
ランはカインの肩にぴょんと乗り、準備万端を告げた。
この日向かったのは森だ。
目的は近郊に出るという野盗の対処。足取りを調査し、この奥がアジトだと推測していた。
予想通り、木々の間に……迷彩を施した小屋が見える。
ここに少数の賊がいるはずだ。
が――
「何か騒がしいな」
カインの違和感に、ランも気付く。
小屋内に人以外の声があったのだ。
壁の隙間からランが覗くと、その正体が判る。二人の賊の他に――わんわん、にゃあにゃあ、と鳴く犬や猫達がいたのだ。
賊は「よーしよしよし」と餌をやっている。
が、当の動物達はというと……がぶり。敵意むき出しに賊の手に噛みついていた。
「いててて!」
のたうち回る賊を横目に、動物達は脱出を画策している。野生らしいが、どうやら山に別の住処があったのに、無理に連れて来られてきたらしい。
(迷惑な事ね)
「与えてる食べ物も街で盗んだものか。ひとまずお縄だな」
カインが言えば、ランも肯定の返事。
後は早い。
ランが小石で音を立てると……出てきた賊をカインが樹上から急襲。飛び降りながら首根っこを押さえ込んだ。
ふぎゃ! と倒れた賊に、もう一人の賊も尻餅をつく。
「何だ! 冒険者か!?」
「盗みだけじゃなく、動物達にまで迷惑かけて何がしたいんだ」
カインが一人を拘束しつつ言うと……賊はくっと怯む。
が、すぐに「お前に俺等の気持ちが分かるか!」と反抗した。
「平和になろうが、俺等みたいな根無し草は救われない。だが、ペットは欲しい――なのに一匹も懐いてくれない! こうするしかないだろ」
「それで無理に餌やりか」
ろくでもないわね、と呟くランにカインも同じ気持ちで続けた。
「人だけじゃなく皆に意思があるんだよ。それを無視してるから、そもそも犬も猫も寄り付かないんじゃねえのか。順番が逆だろ」
「……!」
賊は押し黙った。ぐうの音も出ないらしい。
最後には「野郎、ペットを連れてるからって!」と暴力に訴えて来たが……途中で転倒する。ランが足元に体当りしたのだ。
呻く賊を、カインは苦も無く拘束するのだった。
動物達は無事解放された。
その去り際、一匹の犬がランとカインを見てきゃんと鳴く。
良いコンビネーションだったな――と、そんな事を言いたいらしい。
ランは特段肯定も否定もせず。
(まあね)
それだけ言って見送った。
元の住処へ走る犬や猫達は、安堵の顔をしている。
(帰るべき家が一番って事ね)
それからふと自分に意識を向ける。ランにとってのそれは今、傍にあった。
(今回は中々忙しかったわ)
今日だけでなく、時に危険も伴うのが冒険者との生活だ。
元々、安全で温かい寝床と飢えない生活を理想としてカインの所に転がり込んだ。だからそれだけ考えるなら、きっとより良い条件の場所もあるのだろうけれど。
ランは今も、カインの元を離れる気はない。
それはきっと――
(……)
先のカインの言葉。そしてもっと前の幾つもの出来事を思い返す。
(ま、作ってくれる服も可愛いし)
と、ランが自身の服に触れると――
「そろそろ新しい色も欲しいか? 帰ったら考えるか」
カインは言いつつ、既に柄を思案し始めていた。
(……ほんの少しおせっかいな所もあるけどね)
ランは苦笑する気持ちで、再び肩に乗る。そこにあるのは外面では語れない、友情に違いなかった。