寒さを解き、温もりを抱いて
キャラクターノベル(グループ)制作 蛇穴典雅納品 2021年02月14日 18時51分34秒
●『おかえり』と『ただいま』
フィルエス大森林の森の奥。陽光が照らす室内は少しばかり寒さがまだ残るものの、動き回るうちに程よく身体は温まるだろうと思い、Re:Leeはせっせとキッチンで洗っていた芋を剥いていた。
今日は客人が手土産に持ってきてくれた肉を使って、温かなスープを作る予定だった。1人で暮らしている時はあまり作ることがなかったレシピだが、『特別な客人』を招く場合は話が別だ。
彼を招くのは初めてのことではない。だが、彼をひとたび招けば、なんだかんだと言いながら、結局3日、4日と過ぎてしまうのだ。
それならば、あらかじめ量を作っていた方が効率的だと考えたのである。……もっとも、彼女は別段『効率化』しなければいけないほど日常が忙しいわけではない。あくまでも、彼と長く触れ合う時間を増やすためのものだった。料理が形になってくれば、火を止める。
ガラン、ガラン、と音が外から聞こえてきた。待ち侘びていた『彼』が薪を持ってきたのだろう。この冬はずいぶん寒い日が多かった為、そういえば買い足さなければいけないと思っていたのだが、遊びに来てくれた『彼』は自分から進んで手伝ってくれたのだ。
初めは掃除、次に力仕事と色々頼んでしまったのだが、『彼』は嫌な顔一つしなかった。午前中に屋根に降り積もっていた雪を降ろす作業や窓拭き、大きな家具を動かしての大掃除など、Re:Leeがやりたいと思っていたものの、なかなかできなかったタスクを、まるで見透かしているかのように次々と提案してはそれを済ませてくれていた。
「おかえりなさいザイン! 本当にありがとう、助かっちゃった」
「なーんのなんの! おれっちこそ、リリィの家に遊びにきてばっかりでいつも世話になってるんだし、気にしなくていいって!」
「そんなことないわ! あたしだってザインには世話になってばかりで……恩返しをしてもしたりない。今日だって、あんたが居て助かったもの」
ぎゅ、と『彼』――ザインの服を掴むRe:Leeの姿に、ザインはすぅ、と目を細め、彼女を軽々と抱き上げると、その鼻先をうりうりと頬にこすりつけた。
「あぁ、そうだな。お互いに持ちつ持たれつって感じだもんな、おれっち達は。それにしてもリリィは本当にいい匂いがするなぁ」
「あっ、そうだった。あのね、あたし、ザインがくれたお肉でスープを作ったのよ。……ザインもお昼、まだでしょ? たしか煮込みローストは嫌いじゃなかったわよね?」
「まじで!? リリィの手料理が嫌いなわけがないじゃん、それは楽しみだぜ! ……んー、でも、おれっちが言ったのはそっちじゃないんだけどなぁ……」
「?」
『女の子特有の甘い匂いがする』……とは口が裂けても言えないが、ザインはRe:Leeの匂いが好きだった。優しい、親しみのある匂い。冷めないうちに食べてしまおうか、とザインが提案すれば『賛成』とばかりにRe:Leeも頷く。それを確認するとザインは彼女を抱き上げたまま、部屋へと進んでいった。
●春が来るより先に、寒さを解いて
煮込みローストのスープは非常に美味に出来ていた。もっとも、Re:Leeの作る料理であれば、ザインにとってそれよりも美味と感じる料理など、この世に存在しないのだが。
「ふーっ、ふーっ。……はい、ザイン。あーん」
「あーん! ……む。……うん、うまァい! おれが狩った塊肉が、こーんなに柔らかくなるなんてなぁ。いやぁ、リリィは料理が本当に上手だなー」
「当たり前よ! ザインは狩りの腕が良いのだもの、素材が良いのに、料理が美味しくならないわけがないわ。あたしは期待に応えただけ」
パチクリと瞬きしたあと、ザインとRe:Leeは視線を交わしたのちに笑い出した。お互いがお互いの存在に誇りを持ち、そして生かし合っている。
それぞれが、それぞれの事情で、2人は生まれてこの方、本当の『家族』というものをおおよそ詳しくは知らなかった。生きる方法を習うことこそあったものの、それは『他人』が『他人』に教え、教わるだけの関係だった。そこに『家族』らしい関係はなかったような気がする。
冒険を重ねるうちに、他の人が『家族』の話を口にするようになってから、それまで感じたことのない寂しさを知った。『母親』がもし居たのなら、『父親』がもし居たのなら、あるいは、『兄弟』や『姉妹』が居たのなら――。『IF』が重なれば重なるほど、己の孤独は浮き彫りになり、『愛する人に見捨てられた』そんな感覚さえ刻み込まれていく、そんな気がした。
――嗚呼。これまでも、これからも。もしかしたら、ずっと。自分はひとりぼっちなのかもしれない。
……そう思っていたこともあった。だが、今はわかる。この愛おしい相手こそが『家族』なのだ。『母親』が居なくても、『父親』が居なくても、『兄弟』や『姉妹』が居なくても、『家族』というものは作れるのだ。
笑い声がおさまったのちに、2人は再び視線を交わした後、そっと目を閉じる。抱きしめたい彼女の身体は暖かかった。そして柔らかな感覚が身体に当たるのをザインは感じる。そのまま、そっと音も立てずにスープ皿とスプーンを机に置いた。
「……ん」
「……」
数秒間、否、数分間にも渡る、蕩けるようなキス。2人の体温は混じり合い、Re:Leeは少し前には少し寒いと感じていた室内はちょうど良く感じていたし、先ほど運んでいた薪に比べれば、随分と軽いにも関わらず、抵抗する気は全く起きないザインはRe:Leeに体重をかけられるまま、押し倒される。2人の姿は窓から隠れるようにして、ソファーに沈んでいく。
「……ねぇ、ザイン」
「……なんだ? リリィ」
「……アタシね、このあと、本も読みたいし、アンタがしてきた冒険の話を聞きたいわ。
「もちろん、いくらでもするさ。かわりに、リリィの冒険の話もおれっちに聞かせてくれ」
「もちろん、かまわないわ。いつでもしてあげる」
「だから、……だからさ。これからも、ずっと」
「ええ。……だから、今は」
――もう少し、このままで。
寒さに耐えた蕾が開き、花が咲き乱れる春はもうすぐそこだ。だが、このフィルエス大森林の森の奥にある小屋こそがどこよりも先に春の暖かさを抱いて居たことを知っているのは、広い広いここ世界で、たった2人だけだった。
フィルエス大森林の森の奥。陽光が照らす室内は少しばかり寒さがまだ残るものの、動き回るうちに程よく身体は温まるだろうと思い、Re:Leeはせっせとキッチンで洗っていた芋を剥いていた。
今日は客人が手土産に持ってきてくれた肉を使って、温かなスープを作る予定だった。1人で暮らしている時はあまり作ることがなかったレシピだが、『特別な客人』を招く場合は話が別だ。
彼を招くのは初めてのことではない。だが、彼をひとたび招けば、なんだかんだと言いながら、結局3日、4日と過ぎてしまうのだ。
それならば、あらかじめ量を作っていた方が効率的だと考えたのである。……もっとも、彼女は別段『効率化』しなければいけないほど日常が忙しいわけではない。あくまでも、彼と長く触れ合う時間を増やすためのものだった。料理が形になってくれば、火を止める。
ガラン、ガラン、と音が外から聞こえてきた。待ち侘びていた『彼』が薪を持ってきたのだろう。この冬はずいぶん寒い日が多かった為、そういえば買い足さなければいけないと思っていたのだが、遊びに来てくれた『彼』は自分から進んで手伝ってくれたのだ。
初めは掃除、次に力仕事と色々頼んでしまったのだが、『彼』は嫌な顔一つしなかった。午前中に屋根に降り積もっていた雪を降ろす作業や窓拭き、大きな家具を動かしての大掃除など、Re:Leeがやりたいと思っていたものの、なかなかできなかったタスクを、まるで見透かしているかのように次々と提案してはそれを済ませてくれていた。
「おかえりなさいザイン! 本当にありがとう、助かっちゃった」
「なーんのなんの! おれっちこそ、リリィの家に遊びにきてばっかりでいつも世話になってるんだし、気にしなくていいって!」
「そんなことないわ! あたしだってザインには世話になってばかりで……恩返しをしてもしたりない。今日だって、あんたが居て助かったもの」
ぎゅ、と『彼』――ザインの服を掴むRe:Leeの姿に、ザインはすぅ、と目を細め、彼女を軽々と抱き上げると、その鼻先をうりうりと頬にこすりつけた。
「あぁ、そうだな。お互いに持ちつ持たれつって感じだもんな、おれっち達は。それにしてもリリィは本当にいい匂いがするなぁ」
「あっ、そうだった。あのね、あたし、ザインがくれたお肉でスープを作ったのよ。……ザインもお昼、まだでしょ? たしか煮込みローストは嫌いじゃなかったわよね?」
「まじで!? リリィの手料理が嫌いなわけがないじゃん、それは楽しみだぜ! ……んー、でも、おれっちが言ったのはそっちじゃないんだけどなぁ……」
「?」
『女の子特有の甘い匂いがする』……とは口が裂けても言えないが、ザインはRe:Leeの匂いが好きだった。優しい、親しみのある匂い。冷めないうちに食べてしまおうか、とザインが提案すれば『賛成』とばかりにRe:Leeも頷く。それを確認するとザインは彼女を抱き上げたまま、部屋へと進んでいった。
●春が来るより先に、寒さを解いて
煮込みローストのスープは非常に美味に出来ていた。もっとも、Re:Leeの作る料理であれば、ザインにとってそれよりも美味と感じる料理など、この世に存在しないのだが。
「ふーっ、ふーっ。……はい、ザイン。あーん」
「あーん! ……む。……うん、うまァい! おれが狩った塊肉が、こーんなに柔らかくなるなんてなぁ。いやぁ、リリィは料理が本当に上手だなー」
「当たり前よ! ザインは狩りの腕が良いのだもの、素材が良いのに、料理が美味しくならないわけがないわ。あたしは期待に応えただけ」
パチクリと瞬きしたあと、ザインとRe:Leeは視線を交わしたのちに笑い出した。お互いがお互いの存在に誇りを持ち、そして生かし合っている。
それぞれが、それぞれの事情で、2人は生まれてこの方、本当の『家族』というものをおおよそ詳しくは知らなかった。生きる方法を習うことこそあったものの、それは『他人』が『他人』に教え、教わるだけの関係だった。そこに『家族』らしい関係はなかったような気がする。
冒険を重ねるうちに、他の人が『家族』の話を口にするようになってから、それまで感じたことのない寂しさを知った。『母親』がもし居たのなら、『父親』がもし居たのなら、あるいは、『兄弟』や『姉妹』が居たのなら――。『IF』が重なれば重なるほど、己の孤独は浮き彫りになり、『愛する人に見捨てられた』そんな感覚さえ刻み込まれていく、そんな気がした。
――嗚呼。これまでも、これからも。もしかしたら、ずっと。自分はひとりぼっちなのかもしれない。
……そう思っていたこともあった。だが、今はわかる。この愛おしい相手こそが『家族』なのだ。『母親』が居なくても、『父親』が居なくても、『兄弟』や『姉妹』が居なくても、『家族』というものは作れるのだ。
笑い声がおさまったのちに、2人は再び視線を交わした後、そっと目を閉じる。抱きしめたい彼女の身体は暖かかった。そして柔らかな感覚が身体に当たるのをザインは感じる。そのまま、そっと音も立てずにスープ皿とスプーンを机に置いた。
「……ん」
「……」
数秒間、否、数分間にも渡る、蕩けるようなキス。2人の体温は混じり合い、Re:Leeは少し前には少し寒いと感じていた室内はちょうど良く感じていたし、先ほど運んでいた薪に比べれば、随分と軽いにも関わらず、抵抗する気は全く起きないザインはRe:Leeに体重をかけられるまま、押し倒される。2人の姿は窓から隠れるようにして、ソファーに沈んでいく。
「……ねぇ、ザイン」
「……なんだ? リリィ」
「……アタシね、このあと、本も読みたいし、アンタがしてきた冒険の話を聞きたいわ。
「もちろん、いくらでもするさ。かわりに、リリィの冒険の話もおれっちに聞かせてくれ」
「もちろん、かまわないわ。いつでもしてあげる」
「だから、……だからさ。これからも、ずっと」
「ええ。……だから、今は」
――もう少し、このままで。
寒さに耐えた蕾が開き、花が咲き乱れる春はもうすぐそこだ。だが、このフィルエス大森林の森の奥にある小屋こそがどこよりも先に春の暖かさを抱いて居たことを知っているのは、広い広いここ世界で、たった2人だけだった。