カンパニュラの誓い
キャラクターノベル(グループ)制作 真柄 葉納品 2024年12月22日 09時10分15秒
寒気を運ぶ北風に、色を失った下草が揺れる。
「――――~~♪」
草を揺らす風音に交じり、時折聞こえるのは小さな歌声。
それはまるで冬色に染まった荒野を春色に塗り替える春風のようであった。
凛とした声で紡がれる楽し気な歌詞は、冬の寂しさを忘れ、新春の芽吹きを喜べと背を押してくる。
「――――♪♪」
そんな春色なソプラノに誘われるように紡がれたたどたどしいテノール。
お世辞にもうまいとは言えないその歌声には、歌声の主の懸命な気持ちがこもっていた。
「「♪~~♪――――」」
二つの歌声は時に交わり、時にぶつかり合いながら、絶えることなく紡がれる。
――――コツン。
「あら?」
そんな中、鎌を通じて感じた硬質がネーヴェ・グラヌローザの手を止めた。
「アル、この辺りに何かありますわ」
ネーヴェは少し離れた場所で草を刈っていたアルフィー・リッパーを呼ぶ。
「どれ?」
「これなのですけど……目的のものでがございませんわよね?」
「ああ、違う。でも……なんでこんなものがここに?」
「普通に考えれば、誰かが廃棄した、という所で御座いましょうか」
「うーん、でもこんなもの捨てるか?」
目の前の代物に首をかしげるアルフィー。
そんな二人の視線に先にあるもの。それは、一本の剣だった。
「あまり錆びていないところを見ると、それほど古いものではなさそうですが……アルのものでは御座いませんよね? 以前来た時に忘れたとか」
「いや、俺のじゃない。そもそも、前来た時にはこんなものなかった」
「では、誰かがこの場所を訪れた、と」
「それしか考えられないけど……いったい誰が?」
二人がいる場所は滅びて久しい廃村だ。下草に覆われ、そこに村があった事すら一目見ただけではわからない。そんな場所に、その剣は真っ直ぐに突き立てられている。
「もしかしてこれは……お墓のつもりではないでしょうか?」
「お墓?」
「ええ、戦場で亡くなった方を弔う際に、故人の持ち物を墓標代わりにすることもあると聞きます。この剣はまるでそれを模しているような……」
「……でも、いったい誰が何のために……? ここにあった村は滅んでから15年以上経つし、生き残りは俺以外いない……と思う」
「アル……」
声を曇らせるアルフィーの背に、ネーヴェはそっと手を添える。
「大丈夫だ、ありがとう。それに、そもそも墓の場所はここじゃない。もう少し向こうなんだ」
そう言ってネーヴェの手を取ったアルフィーは、まだ下草に隠れた場所を指さした。
「……そうですか。いえ、そうですわよね。私が深読みしすぎただけかもしれませんわね。ささ、続きを。また歌を口遊みながら」
「ああ、そうだな」
ネーヴェの微笑みに、アルフィーは応えると、再び鎌を手に取った。
●
謎の剣の事は気になりつつも作業を続ける事1時間。二人はようやく目的の場所へとたどり着いた。
下草を刈り、露になったそこには、石積みの墓石がいくつも並んでいる。
「これは、アルが?」
「ああ。雨に濡れたら寒いだろうと思って」
その墓石たちには木の枝で造られた簡素な雨避けがかけられてある。
「でも、造りが甘かったか。すっかり崩れてる。また造り直さないとな」
「そうですわアル、この雨避け、私が直してもよろしいですか?」
「え? ……ああ、そうか。ネネはそっちも得意だったな。お願いできるか?」
「もちろんで御座いますわ」
崩れた木材を拾っていたアルフィーに向かって、ネーヴェは任せておけとばかりに腕まくりの仕草を見せた。
●
アルフィーの造った雨避けの土台を使い、ネーヴェは建築の知識を活かして新しい雨避けを仕上げていく。
そして、作業を続けること1時間、全ての雨避けが新しく生まれ変わった。
「すげぇ……」
ありあわせの素材しかなかったはずなのに、目の前の雨避け達は見事に蘇る……どころか最早”祠”といってもいいレベルの代物になっていた。
「アルの大切な場所ですから、少し気合が入ってしまいました」
「ネネ。本当に、ありがとう……」
「アル……汚れてしまったらすみません」
ネーヴェは涙でも堪えているのか、空を仰ぐアルフィーを優しく抱きしめると、その背中をゆっくりさすった。
「ねえアル、お墓にお花を供えてもよろしいでしょうか」
「あ、ああ、もちろんだ。俺もお供えを……あっ」
「どうかされましたか?」
「今日はこれを持ってきたんだ」
「これは……種ですわね。大きさからみて花の種でしょうか」
アルフィーがネーヴェに見せたのは花の種。
「俺さ、ずっと思ってたんだ。皆が眠る場所に草が生えるのはなんか寂しいって。だから皆が眠る場所を彩るのは、花がいいって。でも、皆の花の好みなんてわからないし、もうどんな花が好きなのかも聞けないし……」
「アル……」
「だから、どんな花を植えればいいのかずっとわからなかった。でも、ようやく見つけたんだ」
「それが、この種なんですね」
「ああ、これも全部ネネのおかげだ」
「私の?」
不思議そうに見上げてくるネーヴェに笑顔を向けて、アルフィーは種を墓の周りに植え始めた。
「これはカンパニュラの種なんだ」
「カンパニュラ……『感謝』を表すお花ですわね」
「ああ。俺は……みんなに何もできなかったから。だから、せめて感謝だけでも伝えたい。俺を生かしてくれてありがとうって……。でも、今までそれを伝える方が思いつかなかった。でも、それをネネが教えてくれたんだ」
「私は何も――――」
種を蒔きながら呟くアルフィーを見て、ネーヴェはある事に気付いた。
学園内で創設されたガーデニング愛好会に突然加入してきたアルフィー。理由を聞いてもはぐらかされるばかりだったけど、もしかしてこれが目的だったのかもしれない。
「……アル、私にも手伝わせてください」
そう言うと、ネーヴェは種を持つアルフィーの手を取った。
●
「とーと、かーか、じいちゃん。今日も綺麗にしてやったぞ」
すっかり綺麗になった墓石に供え物をしたアルフィーは、静かに眠りにつく3人に向け話しかける。
「そのうちカンパニュラが一杯に咲くからな。楽しみにしててくれ。えっと……あとな」
そう言って手を合わせたアルフィーは、チラリと横に視線を向けた。
「今日は、その……もう一人来てくれてる人がいるんだ」
「初めまして、ネーヴェと申します。ご家族の皆様方のお話は常日頃よりアルフィーさんからお伺いしておりました。こうしてお目に掛かることが出来て、とても嬉しく思います」
アルフィーの言葉を継ぐように墓石の前に出たネーヴェは、両膝を折り墓石に視線を合わせながら語り掛ける。
「えっと、ネーヴェ……ネネとは去年から付き合っていて、その……俺の一番大切な人なんだ。俺は、この先ずっとネネと一緒にいたいと思ってて……、だからとーともかーかもじいちゃんに紹介したかったんだ」
「アルフィーさんは私にとっても一番大切な方。まだ未熟な二人ではありますが、彼と支え合って行きたいと思っております。ですから、どうか……お空の向こうから見守っていて下さいましね」
二人は報告を終えると三つの墓石の前で手を合わせ祈りを捧げた。
「――――アル、皆様に歌を捧げてもよろしいでしょうか」
「もちろん」
アルフィーの許可を得て捧げられたネーヴェの鎮魂歌は、静かな眠りにつく大切な人々への感謝と決意に満ちていた――――。
「――――~~♪」
草を揺らす風音に交じり、時折聞こえるのは小さな歌声。
それはまるで冬色に染まった荒野を春色に塗り替える春風のようであった。
凛とした声で紡がれる楽し気な歌詞は、冬の寂しさを忘れ、新春の芽吹きを喜べと背を押してくる。
「――――♪♪」
そんな春色なソプラノに誘われるように紡がれたたどたどしいテノール。
お世辞にもうまいとは言えないその歌声には、歌声の主の懸命な気持ちがこもっていた。
「「♪~~♪――――」」
二つの歌声は時に交わり、時にぶつかり合いながら、絶えることなく紡がれる。
――――コツン。
「あら?」
そんな中、鎌を通じて感じた硬質がネーヴェ・グラヌローザの手を止めた。
「アル、この辺りに何かありますわ」
ネーヴェは少し離れた場所で草を刈っていたアルフィー・リッパーを呼ぶ。
「どれ?」
「これなのですけど……目的のものでがございませんわよね?」
「ああ、違う。でも……なんでこんなものがここに?」
「普通に考えれば、誰かが廃棄した、という所で御座いましょうか」
「うーん、でもこんなもの捨てるか?」
目の前の代物に首をかしげるアルフィー。
そんな二人の視線に先にあるもの。それは、一本の剣だった。
「あまり錆びていないところを見ると、それほど古いものではなさそうですが……アルのものでは御座いませんよね? 以前来た時に忘れたとか」
「いや、俺のじゃない。そもそも、前来た時にはこんなものなかった」
「では、誰かがこの場所を訪れた、と」
「それしか考えられないけど……いったい誰が?」
二人がいる場所は滅びて久しい廃村だ。下草に覆われ、そこに村があった事すら一目見ただけではわからない。そんな場所に、その剣は真っ直ぐに突き立てられている。
「もしかしてこれは……お墓のつもりではないでしょうか?」
「お墓?」
「ええ、戦場で亡くなった方を弔う際に、故人の持ち物を墓標代わりにすることもあると聞きます。この剣はまるでそれを模しているような……」
「……でも、いったい誰が何のために……? ここにあった村は滅んでから15年以上経つし、生き残りは俺以外いない……と思う」
「アル……」
声を曇らせるアルフィーの背に、ネーヴェはそっと手を添える。
「大丈夫だ、ありがとう。それに、そもそも墓の場所はここじゃない。もう少し向こうなんだ」
そう言ってネーヴェの手を取ったアルフィーは、まだ下草に隠れた場所を指さした。
「……そうですか。いえ、そうですわよね。私が深読みしすぎただけかもしれませんわね。ささ、続きを。また歌を口遊みながら」
「ああ、そうだな」
ネーヴェの微笑みに、アルフィーは応えると、再び鎌を手に取った。
●
謎の剣の事は気になりつつも作業を続ける事1時間。二人はようやく目的の場所へとたどり着いた。
下草を刈り、露になったそこには、石積みの墓石がいくつも並んでいる。
「これは、アルが?」
「ああ。雨に濡れたら寒いだろうと思って」
その墓石たちには木の枝で造られた簡素な雨避けがかけられてある。
「でも、造りが甘かったか。すっかり崩れてる。また造り直さないとな」
「そうですわアル、この雨避け、私が直してもよろしいですか?」
「え? ……ああ、そうか。ネネはそっちも得意だったな。お願いできるか?」
「もちろんで御座いますわ」
崩れた木材を拾っていたアルフィーに向かって、ネーヴェは任せておけとばかりに腕まくりの仕草を見せた。
●
アルフィーの造った雨避けの土台を使い、ネーヴェは建築の知識を活かして新しい雨避けを仕上げていく。
そして、作業を続けること1時間、全ての雨避けが新しく生まれ変わった。
「すげぇ……」
ありあわせの素材しかなかったはずなのに、目の前の雨避け達は見事に蘇る……どころか最早”祠”といってもいいレベルの代物になっていた。
「アルの大切な場所ですから、少し気合が入ってしまいました」
「ネネ。本当に、ありがとう……」
「アル……汚れてしまったらすみません」
ネーヴェは涙でも堪えているのか、空を仰ぐアルフィーを優しく抱きしめると、その背中をゆっくりさすった。
「ねえアル、お墓にお花を供えてもよろしいでしょうか」
「あ、ああ、もちろんだ。俺もお供えを……あっ」
「どうかされましたか?」
「今日はこれを持ってきたんだ」
「これは……種ですわね。大きさからみて花の種でしょうか」
アルフィーがネーヴェに見せたのは花の種。
「俺さ、ずっと思ってたんだ。皆が眠る場所に草が生えるのはなんか寂しいって。だから皆が眠る場所を彩るのは、花がいいって。でも、皆の花の好みなんてわからないし、もうどんな花が好きなのかも聞けないし……」
「アル……」
「だから、どんな花を植えればいいのかずっとわからなかった。でも、ようやく見つけたんだ」
「それが、この種なんですね」
「ああ、これも全部ネネのおかげだ」
「私の?」
不思議そうに見上げてくるネーヴェに笑顔を向けて、アルフィーは種を墓の周りに植え始めた。
「これはカンパニュラの種なんだ」
「カンパニュラ……『感謝』を表すお花ですわね」
「ああ。俺は……みんなに何もできなかったから。だから、せめて感謝だけでも伝えたい。俺を生かしてくれてありがとうって……。でも、今までそれを伝える方が思いつかなかった。でも、それをネネが教えてくれたんだ」
「私は何も――――」
種を蒔きながら呟くアルフィーを見て、ネーヴェはある事に気付いた。
学園内で創設されたガーデニング愛好会に突然加入してきたアルフィー。理由を聞いてもはぐらかされるばかりだったけど、もしかしてこれが目的だったのかもしれない。
「……アル、私にも手伝わせてください」
そう言うと、ネーヴェは種を持つアルフィーの手を取った。
●
「とーと、かーか、じいちゃん。今日も綺麗にしてやったぞ」
すっかり綺麗になった墓石に供え物をしたアルフィーは、静かに眠りにつく3人に向け話しかける。
「そのうちカンパニュラが一杯に咲くからな。楽しみにしててくれ。えっと……あとな」
そう言って手を合わせたアルフィーは、チラリと横に視線を向けた。
「今日は、その……もう一人来てくれてる人がいるんだ」
「初めまして、ネーヴェと申します。ご家族の皆様方のお話は常日頃よりアルフィーさんからお伺いしておりました。こうしてお目に掛かることが出来て、とても嬉しく思います」
アルフィーの言葉を継ぐように墓石の前に出たネーヴェは、両膝を折り墓石に視線を合わせながら語り掛ける。
「えっと、ネーヴェ……ネネとは去年から付き合っていて、その……俺の一番大切な人なんだ。俺は、この先ずっとネネと一緒にいたいと思ってて……、だからとーともかーかもじいちゃんに紹介したかったんだ」
「アルフィーさんは私にとっても一番大切な方。まだ未熟な二人ではありますが、彼と支え合って行きたいと思っております。ですから、どうか……お空の向こうから見守っていて下さいましね」
二人は報告を終えると三つの墓石の前で手を合わせ祈りを捧げた。
「――――アル、皆様に歌を捧げてもよろしいでしょうか」
「もちろん」
アルフィーの許可を得て捧げられたネーヴェの鎮魂歌は、静かな眠りにつく大切な人々への感謝と決意に満ちていた――――。