三代目、就任
キャラクターノベル制作 革酎納品 2024年11月16日 10時25分13秒
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その日、コルネリウス・アーラは久々にシルトラース帝国領山岳集落群カルケルーア・ロモズの玄関口たる南集落門に姿を見せた。
出迎えたのは彼女が重兵三番隊長を務めていた頃からの副長ふたり――ローデス・プレクターとケルフィス・ディクロンの両名と、更にもうひとり、ホムンクルスにして現重兵三番隊長のオノショタの三人だった。
「ご無沙汰しております、団長殿」
「如何お過ごしでしたか」
ローデスとケルフィスが帝国式の敬礼を送り、親しみに富んだ笑みを浮かべた。
オノショタも未だ慣れない様子ではあったものの、しっかりと形に則った礼を執ってコルネリウスを歓迎してくれた。
「皆さんも、お元気そうで何よりです」
コルネリウスが穏やかな笑みを返すと、現隊長とふたりの副長はどこかほっとした表情を浮かべながら、彼女を団長室へと案内していった。
(ここも変わりませんね)
大勢の集落民や団員らが、長らく姿を見せていなかったコルネリウスに歓迎の笑顔を向けてくれた。それだけに、少しばかり胸の奥が痛む。
今日この日、コルネリウスは或る重大な相談を持ち掛ける為に、カルケルーア・ロモズを訪れたのだ。
その相談とは――団長職引継ぎの件であった。
かつて初代団長リーヴァー・シュランドルから最適任者として引き継いだロモズ歩兵団の団長職。これを、コルネリウスが最も信頼を置く者に引き継いで貰おうと考えていたのである。
が、その相談を果たして前を行く三人は受け入れてくれるだろうか。
そんな不安を胸の奥に抱えつつ、コルネリウスは団長室が入っている団舎へと歩を進めていった。
「そういえば、御存知でしたか?」
途中、ローデスが肩を並べながらカルケルーア・ロモズでの色々な出来事を教えてくれた。
元々この集落群はロモズ歩兵団が中心となって色々な生活インフラを強力に発展させてきたという経緯があったが、最近では帝都シルトラースには及ばないものの、その辺の地方都市に比べると相当に発展した街並みを見せる様になっており、今や山岳集落群というよりは、山岳小都市と呼べるほどの威容を見せるに至っていた。
実際コルネリウスは、自身の記憶の中にあるカルケルーア・ロモズよりも更に垢抜けた印象を抱いている。
(いつの間に、これ程の発展を……)
だが、この光景を見て彼女の決意は更に強固なものとなった。
自身が居なくても、この地は十分にやっていける。
団長は、自分である必要性は無いのだ、と。
それは誇らしく思えると同時に、ほんの少しだけ寂しくもあった。
これから団長職引継ぎの相談をしようというのに、何とも矛盾した思いではあったが、それが今のコルネリウスの本音でもあろう。
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団長室に辿り着いたコルネリウスは、一瞬胸が一杯になる様な思いが込み上げてくるのを感じた。
室内は綺麗に掃除されており、いつでも復職可能な状態に維持されていた。きっと団員らが毎日心を砕いて、日々の掃除を続けていてくれたのだろう。
そしてこの日はローデスやケルフィス、そしてオノショタの三人が手ずからもてなしの準備を進めてくれた。普通こういう作業は専属秘書や一般団員が率先してやるべきことなのだが、今回はコルネリウスがわざわざ足を運んでくれたということで、この三人が他の面々には一切任せようとはしなかったのである。
そういう心遣いが、コルネリウスには堪らなく嬉しかった。
そうしてひと通りの準備が整ったところで、コルネリウスは団長室内の応接ソファーに腰を下ろし、ケルフィスが淹れる紅茶の香りを堪能することが出来た。
「ところで団長殿、本日お越しになられたのは、矢張り例の件ですよね?」
お茶請けの菓子類を応接卓に並べながら、ローデスが伺う様な視線で問いかけてきた。
実はコルネリウス、この日の来訪を前にして、あらかじめ一通の手紙を送っていた。その中で、団長職引継ぎの相談についても簡単にではあったが、触れてあった。
神妙な面持ちでじっと視線を据える三人に、コルネリウスは幾分緊張しながらも小さく頷き返した。
ここで初めて彼女は、団長職を引き継ぎたいと考えるに至った経緯を話し始めた。
「私はもうすぐ、パンクリアース学園を卒業します」
その後コルネリウスは、生活拠点をリーンエス王国に移すつもりだと正直に語った。
恋人である黒鋼竜の傍で過ごす為に王国の湖都ラヴェルギアへ拠点を移すことを考えれば、今後ロモズ歩兵団長として活動するのは困難となるだろう。
現在は孤児院の手伝いなどで色々を学んでいる段階だが、これから先、王国政治など貴族の世界とも徐々に関わってゆくことになる。
つまりコルネリウスは、この先の生涯を王国民として過ごしてゆくことに舵を切ったという訳だ。
「帝都での戦いから随分時間も経ちましたし、復興も進んだと思いますが、自警団としての役割は今も必要と考えています。だからローデスさん、ケルフィスさん、オノショタさんのいずれかに、団長としての役割と任せたいと思っています」
初代団長リーヴァーから信任を得て引き継いだ団長職を、自身の都合で投げ出す形になってしまって心苦しいと感じているコルネリウス。
しかしローデスもケルフィスも、そしてオノショタも特段機嫌を損ねた様な表情は見せなかった。
「まぁ、良いんじゃないでしょうか。初代団長も一身上の都合で団長職を退いた訳ですし」
と、ローデスが冗談めかして笑った。
ケルフィスとオノショタも同調する様に、可笑しそうな顔つきで肩を竦めている。
問題は誰に引き継ぐかであるが、その答えは既にローデスもケルフィスも一案を抱えている様子だった。
「迷う必要はありません。団長職はオノショタに引き継ぐことで決定、で良いでしょう」
その理由はただひとつ――この三人の中で授恵者なのはオノショタだけだから、ということだった。
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ロモズ歩兵団長の任に就く為には、授恵者であることは必須だ。
全団員の指揮を執るには、一般人の力量ではどうしても限界がある。その点、授恵者ならば個人の戦闘力に加えて、経験を積むことでより高みへと成長することが期待出来る。
しかも最近のオノショタは指揮官としても素晴らしい程の実績を叩き出しており、彼は重兵のみならず、弓兵や遊兵に対する指示も的確で、臨機応変且つ柔軟な戦術を取ることも出来る様になっているらしい。
「こないだなんざ、小型クリーパーの群れを団員に任せながら、ちょい大き目の奴をひとりで片付けるなんてことも立派にやってのけてましたよ」
ローデスの言葉に、オノショタは若干はにかんだ様子で頭を掻いた。
そうだったのか――コルネリウスは嬉しく思うと同時に、誇らしくもあった。
自身の後を引き継いだ現重兵三番隊長は、今やカルケルーア・ロモズ内で最も頼れる指揮官へと著しい成長を遂げていた。
であれば、もう迷うことは無いだろう。
「では、オノショタさん……お引き受け下さいますか?」
「えぇ……僕なんかで良ければ」
照れ笑いを浮かべながら、コルネリウスの目を真っ直ぐに見つめ返してくる少年姿のホムンクルスは、以前の様なおどおどした雰囲気は欠片にも感じさせず、どっしりと腰を据えた自信の様なものを漂わせていた。
「コルネリウスさんとリーヴァーさんからの想いをしっかり、受け継いでいきます」
力強いそのひと言に、コルネリウスは眉根を開いた。
その日、コルネリウス・アーラは久々にシルトラース帝国領山岳集落群カルケルーア・ロモズの玄関口たる南集落門に姿を見せた。
出迎えたのは彼女が重兵三番隊長を務めていた頃からの副長ふたり――ローデス・プレクターとケルフィス・ディクロンの両名と、更にもうひとり、ホムンクルスにして現重兵三番隊長のオノショタの三人だった。
「ご無沙汰しております、団長殿」
「如何お過ごしでしたか」
ローデスとケルフィスが帝国式の敬礼を送り、親しみに富んだ笑みを浮かべた。
オノショタも未だ慣れない様子ではあったものの、しっかりと形に則った礼を執ってコルネリウスを歓迎してくれた。
「皆さんも、お元気そうで何よりです」
コルネリウスが穏やかな笑みを返すと、現隊長とふたりの副長はどこかほっとした表情を浮かべながら、彼女を団長室へと案内していった。
(ここも変わりませんね)
大勢の集落民や団員らが、長らく姿を見せていなかったコルネリウスに歓迎の笑顔を向けてくれた。それだけに、少しばかり胸の奥が痛む。
今日この日、コルネリウスは或る重大な相談を持ち掛ける為に、カルケルーア・ロモズを訪れたのだ。
その相談とは――団長職引継ぎの件であった。
かつて初代団長リーヴァー・シュランドルから最適任者として引き継いだロモズ歩兵団の団長職。これを、コルネリウスが最も信頼を置く者に引き継いで貰おうと考えていたのである。
が、その相談を果たして前を行く三人は受け入れてくれるだろうか。
そんな不安を胸の奥に抱えつつ、コルネリウスは団長室が入っている団舎へと歩を進めていった。
「そういえば、御存知でしたか?」
途中、ローデスが肩を並べながらカルケルーア・ロモズでの色々な出来事を教えてくれた。
元々この集落群はロモズ歩兵団が中心となって色々な生活インフラを強力に発展させてきたという経緯があったが、最近では帝都シルトラースには及ばないものの、その辺の地方都市に比べると相当に発展した街並みを見せる様になっており、今や山岳集落群というよりは、山岳小都市と呼べるほどの威容を見せるに至っていた。
実際コルネリウスは、自身の記憶の中にあるカルケルーア・ロモズよりも更に垢抜けた印象を抱いている。
(いつの間に、これ程の発展を……)
だが、この光景を見て彼女の決意は更に強固なものとなった。
自身が居なくても、この地は十分にやっていける。
団長は、自分である必要性は無いのだ、と。
それは誇らしく思えると同時に、ほんの少しだけ寂しくもあった。
これから団長職引継ぎの相談をしようというのに、何とも矛盾した思いではあったが、それが今のコルネリウスの本音でもあろう。
●
団長室に辿り着いたコルネリウスは、一瞬胸が一杯になる様な思いが込み上げてくるのを感じた。
室内は綺麗に掃除されており、いつでも復職可能な状態に維持されていた。きっと団員らが毎日心を砕いて、日々の掃除を続けていてくれたのだろう。
そしてこの日はローデスやケルフィス、そしてオノショタの三人が手ずからもてなしの準備を進めてくれた。普通こういう作業は専属秘書や一般団員が率先してやるべきことなのだが、今回はコルネリウスがわざわざ足を運んでくれたということで、この三人が他の面々には一切任せようとはしなかったのである。
そういう心遣いが、コルネリウスには堪らなく嬉しかった。
そうしてひと通りの準備が整ったところで、コルネリウスは団長室内の応接ソファーに腰を下ろし、ケルフィスが淹れる紅茶の香りを堪能することが出来た。
「ところで団長殿、本日お越しになられたのは、矢張り例の件ですよね?」
お茶請けの菓子類を応接卓に並べながら、ローデスが伺う様な視線で問いかけてきた。
実はコルネリウス、この日の来訪を前にして、あらかじめ一通の手紙を送っていた。その中で、団長職引継ぎの相談についても簡単にではあったが、触れてあった。
神妙な面持ちでじっと視線を据える三人に、コルネリウスは幾分緊張しながらも小さく頷き返した。
ここで初めて彼女は、団長職を引き継ぎたいと考えるに至った経緯を話し始めた。
「私はもうすぐ、パンクリアース学園を卒業します」
その後コルネリウスは、生活拠点をリーンエス王国に移すつもりだと正直に語った。
恋人である黒鋼竜の傍で過ごす為に王国の湖都ラヴェルギアへ拠点を移すことを考えれば、今後ロモズ歩兵団長として活動するのは困難となるだろう。
現在は孤児院の手伝いなどで色々を学んでいる段階だが、これから先、王国政治など貴族の世界とも徐々に関わってゆくことになる。
つまりコルネリウスは、この先の生涯を王国民として過ごしてゆくことに舵を切ったという訳だ。
「帝都での戦いから随分時間も経ちましたし、復興も進んだと思いますが、自警団としての役割は今も必要と考えています。だからローデスさん、ケルフィスさん、オノショタさんのいずれかに、団長としての役割と任せたいと思っています」
初代団長リーヴァーから信任を得て引き継いだ団長職を、自身の都合で投げ出す形になってしまって心苦しいと感じているコルネリウス。
しかしローデスもケルフィスも、そしてオノショタも特段機嫌を損ねた様な表情は見せなかった。
「まぁ、良いんじゃないでしょうか。初代団長も一身上の都合で団長職を退いた訳ですし」
と、ローデスが冗談めかして笑った。
ケルフィスとオノショタも同調する様に、可笑しそうな顔つきで肩を竦めている。
問題は誰に引き継ぐかであるが、その答えは既にローデスもケルフィスも一案を抱えている様子だった。
「迷う必要はありません。団長職はオノショタに引き継ぐことで決定、で良いでしょう」
その理由はただひとつ――この三人の中で授恵者なのはオノショタだけだから、ということだった。
●
ロモズ歩兵団長の任に就く為には、授恵者であることは必須だ。
全団員の指揮を執るには、一般人の力量ではどうしても限界がある。その点、授恵者ならば個人の戦闘力に加えて、経験を積むことでより高みへと成長することが期待出来る。
しかも最近のオノショタは指揮官としても素晴らしい程の実績を叩き出しており、彼は重兵のみならず、弓兵や遊兵に対する指示も的確で、臨機応変且つ柔軟な戦術を取ることも出来る様になっているらしい。
「こないだなんざ、小型クリーパーの群れを団員に任せながら、ちょい大き目の奴をひとりで片付けるなんてことも立派にやってのけてましたよ」
ローデスの言葉に、オノショタは若干はにかんだ様子で頭を掻いた。
そうだったのか――コルネリウスは嬉しく思うと同時に、誇らしくもあった。
自身の後を引き継いだ現重兵三番隊長は、今やカルケルーア・ロモズ内で最も頼れる指揮官へと著しい成長を遂げていた。
であれば、もう迷うことは無いだろう。
「では、オノショタさん……お引き受け下さいますか?」
「えぇ……僕なんかで良ければ」
照れ笑いを浮かべながら、コルネリウスの目を真っ直ぐに見つめ返してくる少年姿のホムンクルスは、以前の様なおどおどした雰囲気は欠片にも感じさせず、どっしりと腰を据えた自信の様なものを漂わせていた。
「コルネリウスさんとリーヴァーさんからの想いをしっかり、受け継いでいきます」
力強いそのひと言に、コルネリウスは眉根を開いた。