極北行

キャラクターノベル制作 コースケ納品 2024年11月04日 08時40分53秒

●極北の少女
 ヨルド氷雪帯――通称極北と呼ばれる氷雪地帯を、一人の少女が歩んでいた。黒のジャケットに肉球の付いたグローブとブーツを身に付け、猫科の耳と尻尾を揺らして歩く姿は半獣人(ハーフビースト)だが、これらは全て衣服と装飾品であり、少女の種族は小人(ハーフリング)である。
 だが、この姿は扮装(コスプレ)ではない(多分)。そもそも、厳しい寒さに加え凶悪な原生生物や巨大なクリーパーが棲むこの地を、只の扮装で歩き回れる筈が無いのだ。

「これは初めて見ますね。凍っている様ですが、まさかこのまま成長しているのでしょうか?」

 少女は凍り付いた森を発見し、警戒しながら氷結した幹に触る。

「凍ったまま生きている様に思えますが……」

 木の上の凍った葉とそれに積もる雪を見上げる少女の背後で、雪が微かに蠢く。

「っ!」

 ブンッと空を切り振り下ろされた棒を横に飛んで躱す。その棒が雪を散らすのを見る間もなく、第二、第三の棒が向かって来るのを見据え、少女はその隙間を身を捻ってくぐり抜ける。更に自分を抱き締めるように交差しようと迫る二本の棒を屈むか跳んで避けるか検討し、バックステップでその抱擁から逃れる。その一瞬後、雪の塊が先程まで少女が居た地面に落ちて来た。

「危うく潰されるところでした」

 艶のある赤髪にかかる雪を軽く首を振って払いつつも、緋色の瞳は落ちて来た雪塊から離さない。その視線の先で雪が蠢き、真白な棒が伸びる。その棒には節があり、等間隔に刺(トゲ)の様な突起が付いている。そしてその末端には鎌の様な突起が伸び、雪を踏みしめていた。
 それは雪を突き破る様に翅を広げ、ジリリリと翅同士を擦り合わせて音を発する。その振動で張り付いていた雪が四散し、長い胴体に大きな複眼と触覚を持つ顔が現れた。その体高は少女の胸程もあり、体長は倍近いだろう。

「飛蝗(バッタ)がこんな場所に生息しているとは思いませんでした。極北はわたし達の常識が通用しませんね……」

 少女がベルトに差していた二本の神材製の筒を手にし、澱(エーテル)を込めると筒から空色と緑青色の刃が伸びる。少女はそれを構え、飛蝗達に向かって凄まじい圧をかけた。

「簡単には食べられませんよ?」

 少女の名はトーラ。神に至る可能性を持つ超越者であり、その過程で周囲を傷付ける事を避け、極北を訪れた少女である。


●氷雪飛蝗
(やはり、通じませんか)

 圧倒された様子を見せつつも、引く様子の無い飛蝗達にトーラは胸中で嘆息する。数ヵ月の極北行で得た経験によれば、極北で遭遇した原生生物の行動は、トーラを見て逃げ出すか襲ってくるかに大別されたが、どうやら飛蝗達は後者らしい。

(これは危ないかもですね)

 森の出口側は飛蝗達に塞がれ、森の奥に逃げようとも考えたがそちらから何かが近付く気配がある。先程飛蝗が発した音は、威嚇だけでなく仲間を呼ぶ為のものだったのかもしれない。森の奥に行けば飛蝗と遭遇する可能性が高いことと、それ以外の脅威と遭遇する可能性を考え飛蝗達と向かい合う。

「ならこうするしかありません!」

 雪を蹴って眼前の飛蝗との距離を詰める。飛蝗は二本の前脚を振るが、トーラは刺の付いた脚に捕まる直前に加速し、飛蝗を飛び越え着地する。

「硬っ!」

 トーラは飛び越えつつ両手の刃を振るっていたが、飛蝗の背に傷を負わせつつも倒すには至っていなかった。

(流石は極北の魔獣。エーテルの刃(魔法攻撃)にもそれなりの耐性がある様ですね)

 着地したトーラは足を取られ滑りそうな雪の上を確りとした足取りで駆け、殺到する飛蝗を躱しつつ刃を振るう。だが、やはり手応えは鈍い。一対一なら余裕を持って対処出来るだろうが、既に十を越えている飛蝗の群が相手となれば思わぬ事故の可能性もあった。

(もう一度逃走を検討すべきかもしれませんね)

 胸中で呟きつつも、トーラは両手の刃を確りと握り直した。


●孤軍奮闘
「せめて数を減らさないと!」

 トーラは左手の青緑色の刃(シアンブレード)の先から魔矢(エーテルアロー)を飛ばす。エーテルの矢は青い尾を引いて最初に傷を与えた飛蝗の頭部を貫いた!

「まだですっ!」

 一体を仕止めたトーラだったが、それを確認する間もなく横に跳び飛蝗の突進を躱し、着地した先で頭上から落ちて来た飛蝗を身を転がる様にして避ける。更に飛蝗達の追撃は続き、四体迄は避けたものの、五体目の飛蝗の横をすり抜けようとしたところ予想外に機敏な動きで向きを変えた飛蝗の脚に捕えられてしまう。

「くっ!」

 トーラは逃れようと力を込めるが、刺に肌を裂かれ苦痛の声が洩れた。飛蝗がトーラを噛み砕こうと巨大な顎を開く。開かれた顎からは褐色の液体が滴り、トーラは身を捩って抵抗する。

「こ……れならっ!」

 捕えられた不自由な姿勢からでも右手の空色の刃(セルリアンエッジ)を前肢の間接に刺し込み、ぐい、と捩じって間接を破壊して拘束を解く。間髪を入れず左手のシアンブレードを顎から脳天まで貫き通し、抉る動きを加えながら引き抜いて距離を取った。

「はぁ、はぁ……」

 トーラは荒い息を整えながら自身に癒し(ヒール)を使って傷を塞ぐが、飛蝗達は負傷したトーラへ殺到する!

「しつこいですよ!」

 トーラは凍った幹を盾に飛蝗をやり過ごし、落下する雪に紛れて傷を癒す。すぐに飛蝗に発見され再び殺到を受けるが、避けることに集中し躱してゆく。だが、続けての攻撃に退路を塞がれ、跳びかかって来る飛蝗の横をすり抜けざるを得ず、再び前肢に捕えられるかと身を固くしたが、飛蝗は方向転換すること無くトーラの横を過ぎてゆく。

「まさか? ……ですが試す価値はありますね」

 少女は今と捕えられた時の状況の違いを比べ、浮かんだ閃きを実行に移すべく向かって来る飛蝗に両手の刃を構える。

「こうですっ!」

 次の瞬間、跳んで来た飛蝗を半歩横に引いてやり過ごし、反撃に切り上げたセルリアンエッジが飛蝗の後ろ脚を斬り落とした。

「やっぱり!」

 着地に失敗し横転する飛蝗と入れ代わる様にして跳びかかって来た飛蝗を、ギリギリまで引き付けて横に避けた。続いて殺到する飛蝗達には、トーラはバックステップで攻撃範囲から逃れる。そして最後に跳びかかって来た飛蝗がすれ違う瞬間、空色と青緑色の光が幾筋もの弧を描き、着地した飛蝗が翅や脚を落とされ雪面に転がった。


●超越者
「もう見切りました!」

 幾度目かで跳びかかって来る飛蝗の前で身を翻し、トーラは両手の刃を振るう。跳躍の勢いも加わって深く切り裂かれた飛蝗の胴体が雪面に落ち、残る飛蝗達が畏れる様に動きを止める。

「飛ぶことは出来ても小回りは利きませんね。そして然程足は早くありません」

 トーラの言葉通り、飛蝗達の飛行は山なりに弧を描く軌道を描くもので、多少の軌道修正は出来ても直前で横に避けられれば対応出来ない。雪面を歩く時は鋭い爪で雪を踏み締めて機敏に向きを変えることは出来るが、身軽なトーラがその気になれば距離を稼ぐ事は容易であった。
 そして距離を詰めようと跳び上がれば、待ち構えるトーラによって手痛い反撃を受ける。飛蝗達は目の前の小柄な獲物の反撃に、戸惑うかの様に触角を揺らしている。

「わ た し を 見 て ?」

 ざわり。少女から発された先程と比べ物にならない程強い威圧感に、相手が獲物でなく天敵だと悟った飛蝗達が羽根を揺らす。そして一匹、また一匹と踵を返し、少女から逃れる為に飛び去って行く。

「……ふう。何とかやり過ごせましたね」

 トーラは脱力し、氷結樹の幹に身を預けて白い息を吐き出した。

登場キャラクター

アーカイブ生成日時 2026年08月05日 14時56分25秒 ・ world0