静謐の水都
キャラクターノベル(グループ)制作 真柄 葉納品 2024年12月05日 07時26分33秒
風呂上り、寝間着に着替えたアルフィー・リッパーとネーヴェ・グラヌローザは、二つのベッドにそれぞれ腰掛け言葉を交わす。
話題は昼間のデートの事。水都アキュアリスタでのひと夏の思い出を語り合っていた。
「そういえば、ごはんおいしかったな。ネーヴェと一緒だからいろんなのが食べれた」
「はい、美味しゅう御座いましたね。アルと一緒だったから尚更、でしょうか」
「うんうん。あ、そうだ。今度俺も作ってみようかな」
「え、アルが、でございますか?」
「え……? ああ、そうだよなごめん! 俺の料理が旨かったわけじゃないもんな! 勘違いした!」
「ふふ、沢山の美味しい物に触れて見聞も広まった、これは再現しないと気が済まない。という事で御座いますわよね?」
「え……? あ、ああ、そうだな。そういう事……なのか?」
「はい、そう言う事で御座いますわ。楽しみにしておきますわね」
かくりと首をかしげるアルフィーに、ネーヴェはくすくすと笑う。
「さて、いい時間になりましたね、どうしましょう」
「あ、もうこんな時間か」
チェストの上の置時計に視線を遣れば、深夜に差し掛かろうかという時間だ。
「私としてはこのままお話を続けるのもやぶさかでは御座いませんよ?」
「俺もネネと話をするのは好きだ。だけど、明日のこともあるし、今日は大人しく寝ようか」
「ふふ、そうで御座いますね。明日は明日でまた楽しい事が待っていますものね」
「そういう事だ。それじゃ……おやすみ、ネネ」
「ええ。おやすみなさい、アル」
二人で微笑み合って、紋具の明かりを落とした。
カーテンの隙間から街の灯りが差し込むが、相手の表情は窺えないくらいの丁度いい暗さ。微睡む意識の中で、考えるのは今日の出来事。
今日の俺はうまくやれただろうか。ちゃんと彼女をリードできただろうか。
男として女の人をエスコートするのは常識――――じっちゃんはそう言ってた。
だから頑張った。おかげで楽しんでくれた……とは思う。いつも笑顔な彼女だけど、今日の笑顔は特別だった……気がする。
じっちゃんはこうも言ってた。男なら”自信”を持てって。自信の無い男は嫌われるって。
俺は嫌われてないだろうか。彼女の隣に立つに相応しい男だっただろうか。
確かめたい。
こんな事聞くのは失礼かもしれないってわかってるけど、彼女の口から……言葉で聞きたい。
じゃないと――――。
「ネネ……もう寝たか?」
「……起きて御座いますわ。どうかなさいました?」
薄明かりの中、彼女の答えが返ってきた。
返事をしなきゃ。自分から声をかけたのに、無言のままじゃ……今までと何も変わらない。
「そっちに行っても、いいか?」
「え……?」
勇気を振り絞って聞いたけど、返ってきたのは小さな驚き。
驚かせた。やってしまった。また、間違ってしまった……。
「ご、ごめん! なんでも……なんでもないんだ!」
「……アル」
「お、おやすみ! また明日な!」
「アル」
「……」
「アル、ありがとうございます」
「……え?」
「私も……あなたともっと触れ合いたい」
思いもしなかった言葉が返ってくる。
同時に、毛布を潜り彼女の細い指が俺の指に絡んできた。
「もっと近くにいらして。ここからでは、あなたの顔がよく見えませんわ」
「ネ、ネネ……」
解けないようにと絡まれた指から、彼女の体温が染み入ってくる。
「い、いいのか……?」
「そこで同意を求めるのは、野暮というもので御座いますわ」
「ご、ごめん!」
薄闇の中でくすくすと笑い声が聞こえた。
アルフィーが絡んだままの指を頼りにベッドを降りると、隣では薄いブランケットを持ち上げたネーヴェが待っている。
アルフィーは小さく「お邪魔します」と呟いて、ネーヴェのベッドに身体を横たえた。
「やはり少し狭いですわね」
「や、やっぱり俺は向こうで――――」
「でも逃がしません」
耳元で囁かれる悪戯っぽいネーヴェの呟き。べッドの端へと身体をずらそうとしたアルフィーの身体に細く白い腕が回された。
「アルは温かいですね」
「そ、そうか……?」
「ええ、とても」
ネーヴェはアルフィーの背中に自分の身体を密着させる。
温かい。
少し肌寒い水都の夜に、彼の体温はとても心地がいい。
緊張で硬くなっている彼の体を優しく撫でながら、吐息のように囁くと彼の獣の耳がピクリと揺れた。
「不安ですか?」
言葉に反応して首を回そうとした彼をぎゅっと抱きしてめて阻止。
「不安……じゃないと思う。どちらかというと安心してる……。こんな気持ち、じっちゃんと一緒に寝てた時以来な気が……ごめん、うまく言葉にできない」
「……ありがとうございます、アル」
「ありがとう……?」
「ええ。お爺様はあなたにとってとても大切な方と仰っていました。そんな方と同じと思っていただけただけたのですよね?」
「同じ……同じなのか」
別に困らせようとして言っているわけではないのだけど、彼の背中からは戸惑いを感じる。
「例え違うとしても、私とこうしていることに安心を覚えてくださっていることを、私はとても嬉しく思いますわ」
彼の引き締まったお腹に回した手を上下に揺らす。
すると彼はくすぐったそうに身体をよじった。
「ネネ」
「ごめんなさい、くすぐったかったですか?」
「違う。いや、違わないんだけど、その……」
「何でも仰ってください」
「……ネネ、俺はネネにもっと触れたい」
彼の口から出た言葉に一瞬驚いてしまった。
だって、今まで私と彼の間には一種の『壁』のようなものがあった。
互いに求めているのに、互いを想うあまり一歩が踏み出せない。
そういう類の見えない『壁』。
そんな『壁』を今彼は乗り越えようとしている。
「……あなたの方からそう言ってくれるのを待っていたのかもしれません」
「待っていた?」
「私ももっとあなたに触れていたい。アル、こちらを向いてくれませんか?」
そう囁くと、彼は少し戸惑いながらも身体を反転させた。
「やっぱり、あなたの顔がよく見えるこちらの方がいいですね」
「ああ、俺もこっちがいい」
互いの額を触れ合わせ、息のかかる距離で微笑み合う。
「俺……こうやって誰かと一緒に寝る事ができるなんて、思ってなかった」
「あら、誰でもよろしかったのですか?」
「そ、そうじゃない!」
「ふふ、冗談で御座います。申し訳ありません」
「……ネネは、いつも落ち着いてて凄いな」
「あら、落ち着いているように見えますか?」
「えっ、ちがう、のか……?」
本気で驚いている彼に、思わず笑みがこぼれそうになる。
「内緒です」
だから、少しだけ悪戯っぽくそう返した。
「むぅ……ネネには、ずっとかないそうにない」
「そんなことありませんよ。実は私も」
「私も?」
「ふふ、内緒です」
「うぅ……ネネは意地悪だ」
「女とはそういう生き物です。勉強になりましたか?」
「……勉強になった。いや、これからもっと勉強して……いつかネネに釣り合う男になる」
暗闇の中、鋭い彼の視線が真っ直ぐに私の瞳を貫いた。
「……そういう所ですよ」
「うん?」
「何でもありません。でも、待っていますね」
「そうか、待っててくれるんだな」
「あら、言質を取られてしまいましたね」
「もう忘れないからな」
そう言うと彼は私の背中に腕を回す。
「……暖かくて幸せだな」
「そうですわね。幸せです」
狭いベッドの中、二人の囁きと笑い声は、いつまでも絶える事はなかった――――。
話題は昼間のデートの事。水都アキュアリスタでのひと夏の思い出を語り合っていた。
「そういえば、ごはんおいしかったな。ネーヴェと一緒だからいろんなのが食べれた」
「はい、美味しゅう御座いましたね。アルと一緒だったから尚更、でしょうか」
「うんうん。あ、そうだ。今度俺も作ってみようかな」
「え、アルが、でございますか?」
「え……? ああ、そうだよなごめん! 俺の料理が旨かったわけじゃないもんな! 勘違いした!」
「ふふ、沢山の美味しい物に触れて見聞も広まった、これは再現しないと気が済まない。という事で御座いますわよね?」
「え……? あ、ああ、そうだな。そういう事……なのか?」
「はい、そう言う事で御座いますわ。楽しみにしておきますわね」
かくりと首をかしげるアルフィーに、ネーヴェはくすくすと笑う。
「さて、いい時間になりましたね、どうしましょう」
「あ、もうこんな時間か」
チェストの上の置時計に視線を遣れば、深夜に差し掛かろうかという時間だ。
「私としてはこのままお話を続けるのもやぶさかでは御座いませんよ?」
「俺もネネと話をするのは好きだ。だけど、明日のこともあるし、今日は大人しく寝ようか」
「ふふ、そうで御座いますね。明日は明日でまた楽しい事が待っていますものね」
「そういう事だ。それじゃ……おやすみ、ネネ」
「ええ。おやすみなさい、アル」
二人で微笑み合って、紋具の明かりを落とした。
カーテンの隙間から街の灯りが差し込むが、相手の表情は窺えないくらいの丁度いい暗さ。微睡む意識の中で、考えるのは今日の出来事。
今日の俺はうまくやれただろうか。ちゃんと彼女をリードできただろうか。
男として女の人をエスコートするのは常識――――じっちゃんはそう言ってた。
だから頑張った。おかげで楽しんでくれた……とは思う。いつも笑顔な彼女だけど、今日の笑顔は特別だった……気がする。
じっちゃんはこうも言ってた。男なら”自信”を持てって。自信の無い男は嫌われるって。
俺は嫌われてないだろうか。彼女の隣に立つに相応しい男だっただろうか。
確かめたい。
こんな事聞くのは失礼かもしれないってわかってるけど、彼女の口から……言葉で聞きたい。
じゃないと――――。
「ネネ……もう寝たか?」
「……起きて御座いますわ。どうかなさいました?」
薄明かりの中、彼女の答えが返ってきた。
返事をしなきゃ。自分から声をかけたのに、無言のままじゃ……今までと何も変わらない。
「そっちに行っても、いいか?」
「え……?」
勇気を振り絞って聞いたけど、返ってきたのは小さな驚き。
驚かせた。やってしまった。また、間違ってしまった……。
「ご、ごめん! なんでも……なんでもないんだ!」
「……アル」
「お、おやすみ! また明日な!」
「アル」
「……」
「アル、ありがとうございます」
「……え?」
「私も……あなたともっと触れ合いたい」
思いもしなかった言葉が返ってくる。
同時に、毛布を潜り彼女の細い指が俺の指に絡んできた。
「もっと近くにいらして。ここからでは、あなたの顔がよく見えませんわ」
「ネ、ネネ……」
解けないようにと絡まれた指から、彼女の体温が染み入ってくる。
「い、いいのか……?」
「そこで同意を求めるのは、野暮というもので御座いますわ」
「ご、ごめん!」
薄闇の中でくすくすと笑い声が聞こえた。
アルフィーが絡んだままの指を頼りにベッドを降りると、隣では薄いブランケットを持ち上げたネーヴェが待っている。
アルフィーは小さく「お邪魔します」と呟いて、ネーヴェのベッドに身体を横たえた。
「やはり少し狭いですわね」
「や、やっぱり俺は向こうで――――」
「でも逃がしません」
耳元で囁かれる悪戯っぽいネーヴェの呟き。べッドの端へと身体をずらそうとしたアルフィーの身体に細く白い腕が回された。
「アルは温かいですね」
「そ、そうか……?」
「ええ、とても」
ネーヴェはアルフィーの背中に自分の身体を密着させる。
温かい。
少し肌寒い水都の夜に、彼の体温はとても心地がいい。
緊張で硬くなっている彼の体を優しく撫でながら、吐息のように囁くと彼の獣の耳がピクリと揺れた。
「不安ですか?」
言葉に反応して首を回そうとした彼をぎゅっと抱きしてめて阻止。
「不安……じゃないと思う。どちらかというと安心してる……。こんな気持ち、じっちゃんと一緒に寝てた時以来な気が……ごめん、うまく言葉にできない」
「……ありがとうございます、アル」
「ありがとう……?」
「ええ。お爺様はあなたにとってとても大切な方と仰っていました。そんな方と同じと思っていただけただけたのですよね?」
「同じ……同じなのか」
別に困らせようとして言っているわけではないのだけど、彼の背中からは戸惑いを感じる。
「例え違うとしても、私とこうしていることに安心を覚えてくださっていることを、私はとても嬉しく思いますわ」
彼の引き締まったお腹に回した手を上下に揺らす。
すると彼はくすぐったそうに身体をよじった。
「ネネ」
「ごめんなさい、くすぐったかったですか?」
「違う。いや、違わないんだけど、その……」
「何でも仰ってください」
「……ネネ、俺はネネにもっと触れたい」
彼の口から出た言葉に一瞬驚いてしまった。
だって、今まで私と彼の間には一種の『壁』のようなものがあった。
互いに求めているのに、互いを想うあまり一歩が踏み出せない。
そういう類の見えない『壁』。
そんな『壁』を今彼は乗り越えようとしている。
「……あなたの方からそう言ってくれるのを待っていたのかもしれません」
「待っていた?」
「私ももっとあなたに触れていたい。アル、こちらを向いてくれませんか?」
そう囁くと、彼は少し戸惑いながらも身体を反転させた。
「やっぱり、あなたの顔がよく見えるこちらの方がいいですね」
「ああ、俺もこっちがいい」
互いの額を触れ合わせ、息のかかる距離で微笑み合う。
「俺……こうやって誰かと一緒に寝る事ができるなんて、思ってなかった」
「あら、誰でもよろしかったのですか?」
「そ、そうじゃない!」
「ふふ、冗談で御座います。申し訳ありません」
「……ネネは、いつも落ち着いてて凄いな」
「あら、落ち着いているように見えますか?」
「えっ、ちがう、のか……?」
本気で驚いている彼に、思わず笑みがこぼれそうになる。
「内緒です」
だから、少しだけ悪戯っぽくそう返した。
「むぅ……ネネには、ずっとかないそうにない」
「そんなことありませんよ。実は私も」
「私も?」
「ふふ、内緒です」
「うぅ……ネネは意地悪だ」
「女とはそういう生き物です。勉強になりましたか?」
「……勉強になった。いや、これからもっと勉強して……いつかネネに釣り合う男になる」
暗闇の中、鋭い彼の視線が真っ直ぐに私の瞳を貫いた。
「……そういう所ですよ」
「うん?」
「何でもありません。でも、待っていますね」
「そうか、待っててくれるんだな」
「あら、言質を取られてしまいましたね」
「もう忘れないからな」
そう言うと彼は私の背中に腕を回す。
「……暖かくて幸せだな」
「そうですわね。幸せです」
狭いベッドの中、二人の囁きと笑い声は、いつまでも絶える事はなかった――――。