商の談華は彩に暗に

キャラクターノベル(グループ)制作 一乃口納品 2024年11月26日 09時46分11秒

 エラトゥーン都市同盟には様々な都市がある。
「……っ」
 吹き抜ける風も丘を抜けて吹く頃には、海の香りも途絶えて吹きゆく。
 風に乱れた栗色の髪を手で直すとパトラ=L(ランソーネ)=アルアータは、再び街並みへ紫色の瞳を向けた。
 ローレラウラ(真珠の首飾り)。湖上都市の景観は、パトラが良く知る古港街であるエスト・ポーラと異なる趣き――
 端的に言えば、比較的に新しい造りの建物が並ぶ。
 潮風とは違う風が、湖上を吹き抜けていく。
 パトラは商談の為、祖父の名代としてローレラウラ近郊に在る工房を訪れていた。
 観光、のような気分で街並みを楽しむとしたら、そうした役割を終えてからと、自身に言い聞かせると道中を進む。
 途中まで馬車で同行していた商人の勧めで、ローレラウラに面白い品を扱う商会が居ると聞き及んでいた。
「それは、興味深いですわね」
 詳しい話を聞きながら、馬車の揺れる音は続く。

 ――
 ――――
 ローレラウラにあるアーダベルト商会。その従業員達が何やら落ち着かぬようすで話し合うのを、エリザベス・ディンが気付いて声を掛けた。
「――視察?」
 半刻ほど前。在る行商人が、エスト・ポーラの商会の人物がアーダルベルト商会へ視察に来ると言う情報を、商談の折に聞き入れ。
 そして、その応対をどうしたものかと相談していた所だ。
「……そうなんですね。それでしたら」
 話を聞いたエリザベスは、皆を安心させるように優しい声音で意向を伝えた。

●
 当初の所用を済ませたパトラは、その場所へと足を向けていた。
 (アーダベルト商会、ここですわね)
 貰った羊皮紙の地図に対し、もう少しだけ仔細を望む思いを覚えながらパトラはウェルカムベルを鳴らし、歩を進める。
「あら、ようこそお出で下さいました――」
 パトラに気付いて、立ち上がる女性が微笑みながら応対する。
(……!)
 歩行杖をつき、立ち上がる商人。
(――もしかして)
 そのような人物への心当たりを一瞬思慮する最中、互いに挨拶を交わしていく。
「今日は何をお探しでして?」
「えぇ……ガラス細工や、香水を見に」
 そう言って視線を、見本として並ぶガラス細工へ向けたパトラはその精巧さを見て言葉を失う。
「……すごく、繊細な作品ですね」
「ふふ、お褒め頂き光栄です。お手に取って見ますか?」
「良いのでしたら、遠慮なく――」
 窓越しの、陽の光に賺したガラス細工。その不純物の少ない色味に、職人の技量を感じ取ってパトラは感心する。
「技術の高い職人がいらっしゃるようですわね」
「ありがとうございます」
 パトラの言葉に嬉しそうにエリザベスが微笑み。
「他にもガラス細工の品はありますが、ご覧になりますでしょうか?」
「えぇ、それは是非……」
 ガラス細工を元の場所へ奥と、パトラはエリザベスの後に続き応接間へと向かった。

 応接間の落ち着いた雰囲気。
 テーブルを挟みエリザベスとパトラは、着座して向かい合っている。
 シュッと言う音と共に、柑橘系の香りが辺りに漂った。
「……いい香りですわね」
「はい、こちらも良いですよ」
 テーブルに並ぶシンプルなデザインのボトル達、そのひとつひとつが香水だ。
 漂う香りは、試す度に混じり織成されて行く。
「こちらの香りなら、男性にも女性にも勧めやすいですわね」
「そう言って頂けると幸いです」
 男女兼用として作られた香水であるとエリザベスは説明し、パトラがその香りを楽しんでいる。
「それは道理で……」
「いえ、流石です」
 ハーブを中心とした香りや、他の品が並び話にも花を咲かせる。
 木彫りの品ひとつ取っても木々の香りが、空間を彩って居た。
「お待たせしました」
 応接間に入って来た従業員が、ガラス細工を運んで来た。
 カチャカチャと小さな音を立てながら、色鮮やかな品がテーブルへと置かれ従業員はエリザベスとパトラへ一礼すると奥へと戻る。
 香水の香りを一通り楽しんだ後。パトラはガラス細工のひとつを手に取って、窓から射す陽光に翳す。
 『百花繚乱』と名付けられた品のひとつだ。
「――この色を出すのも、相応の技術が必要だと聞いてますわ」
 胴枠で作られたステンドグラスブックメーカーを手に、パトラはその品を吟味していた。
「はい、自慢の職人達です」
 パトラの評を聞き、エリザベスは頷き答える。
「……水仙に、薔薇……こちらは――」
「薫衣草と瑠璃唐綿です。贈答用での購入が多いのは、こちらの颯です」
「どれも精巧で、選ぶのに迷いそうですわね……」
 そう言いながら、パトラは各ガラス細工を手に取って居た。
「……エスト・ポーラの細工職人の腕も良いですが、この作品達も大変素晴らしいですわ」
「ありがとうございます。他にはこちらの商品も――」
「是非、拝見させて頂きたいですわ」
 エリザベスが見せる品を、パトラは楽しみながら時が流れる。
「……これは」
 幾つかの品を見て来た中で、異色な雰囲気を放つ一冊の本。
 アーダベルトキッチン。
 そう書いてある本を手に取って、ぱらりとページを捲る。
「美味・節約・難易度低の三拍子を心掛けた野菜料理のレシピ本です」
「……これは、凄いですわね」
 料理を普段する機会が少ない、そんなパトラが眼を通しても何(、)と(、)な(、)く(、)そ(、)の(、)通(、)り(、)に(、)や(、)れ(、)ば(、)料(、)理(、)を(、)で(、)き(、)そ(、)う(、)だと、思えるようなレシピの内容。
「はい、自慢の品です」
 自慢は、身内贔屓と言う意味も含まれるとは、エリザベスは微笑みの内に隠して言う。
「これだけの数……一体何人の料理人が――」
「……」
 パトラが想像している料理人が、実はそれなりに知っている人物であり、そして1人だけだと言う事をエリザベスは微笑みながら隠して居た。
 そんな様子をエリザベスが眺めて居ると、レシピ本を読むパトラの手が止まった。
「……見慣れない調味料がありますわね」
 パトラがレシピの文字列を指で撫でながら聞く。
「それでしたら、当商会で扱っている調味料です」
「それは――う(、)ま(、)い(、)ですわね」
「ありがとうございます」

 紅茶の香りが、応接間に漂って居る。
「そうですわ、良かったらこのクッキーを」
 パトラが鞄から包みを取り出して拡げる。そこにはクッキーが並んでいた。
「良いのでしょうか?」
「えぇ、折角の紅茶ですから」
「では、頂きます」
 数多くの品を楽しんだ後、休憩を挟んでのティータイムだ。
 エリザベスがクッキーを齧った所で、パトラも紅茶に口を付けた。
「良い香りですね」
「このクッキーも美味しいです」
「この紅茶も、アーダベルト商会で扱っているのかしら?」
「はい、取り扱ってます」
「それは、良かったですわ」
 紅茶を置き。
「噂には聞いていましたが、噂以上に良いですわね」
「それは光栄です」
 パトラの微笑みに、エリザベスも微笑みを返した。
 お茶の時間も終わり、最終的にパトラは幾つかの品物を購入する。
 自身で持ち帰れない量に関しては、人手を手配した。
 備え付けられたベルが、チリン、チリンと高く鳴る――
「えぇ、良い買い物が出来ました」
 商会を後にするパトラを、エリザベスが見送る。
「ご来店ありがとうございます、アルアータ様。視察で不在の夫にもよく伝えておきます」
(――あぁ)
 パトラはエリザベスの言葉を聞いて、自身が気付いて居た事をエリザベスも気付いて居たのだと悟る。
 エリザベスは強かな商人なのだと、パトラは思った。
「えぇ、よろしくお伝えくださいね」
 先刻と変わらぬ微笑みを見せるエリザベスへ、パトラもまた微笑みを返すのだった。

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アーカイブ生成日時 2026年08月05日 14時56分25秒 ・ world0