【四々華】パカパカタウンで雪遊び!
4周年イベントノベル(テーマ)制作 STANZA納品 2024年10月31日 07時01分22秒
何の前触れもなく唐突に放り込まれたこの街、パカパカタウン。
だがパルドとウォーゼルは慌てず騒がず驚かず、寧ろ待ちかねていた風でもあった。
「いつものアレだろ、年イチで変な所に飛ばされるやつ」
「去年の不思議空間と同じような場所かな……うん、もう慣れたよ」
小さな黒豹のような猫のショコラと、柴犬のようなミニコボのチョコも一緒だし、装備類も全部そのままだ。何より今回は女装ではない事に、二人でほっと胸を撫で下ろす。
「よかった、本当によかった」
「でも可愛いウォーゼルは見たかっ……あっ、うん、冗談!」
うっかり口を滑らせたパルドは慌てて話題を変えた。
「今年はアルバスとルルトも一緒だし、去年よりずっと楽しめそうだな!」
その誤魔化し方は不自然すぎるが、発言内容に関してはウォーゼルも完全同意だった。
「ルルトも一緒だったか、なら安心だな」
アルバス・ロウルは最初こそ驚き固まっていたが、その視界にルルト・アーキスの姿を捉えた瞬間に全ての不安や戸惑いは消えた。
「うん、シロもいるよ! アルバスもタマさんと一緒だね、よかった!」
ルルトが着けたパカ耳の間には冬毛のシロが収まって、ちょっと白ウサギっぽい感じを醸し出している。
「ルルトはよく似合っているぞ! それに可愛い!」
「ありがとう、アルバスとタマさんも可愛いよ」
こちらも定位置に収まったタマさんに白い耳が生えて、白黒ウサギ猫のようにも見えていた。
「……あ、パルド達もいる!」
「なんだ、みんなも来てたのか」
そして今、彼等の姿を見付ければそこはもうホームタウンも同然だ。
「みんな一緒だから大丈夫だね、思いっきり遊んじゃおう♪」
あっという間に街に馴染んだ4人は、思いがけず訪れた休暇を存分に楽しんでいた。
因みにパルドとウォーゼルはそれぞれパカ耳を首にかけ、アルパカの顔が付いたフード付きパーカーを羽織っている。
「自前の耳とダブルじゃ、なんか変だからな」
パルドの場合、頭上のショコラも加えればトリプルけも耳だ。
「色違いのお揃いなんだ、仲良しだね♪ だったらボクはアルバスとお揃いのマフラーにしようかな?」
だってほら、向こうに雪原が見えるし!
一方こちらはブルブレ界からの訪問者。
「んなー、ここどこ?」
アオが好奇心に目を輝かせる。魔界では見た事のない街並み、食べた事のない料理やお菓子、聞いた事のない音楽。その雰囲気は、魔界に最近出来た遊園地というものに近いだろうか。
「なんかのほほんとした場所だな?」
「この穏やかで平和な空気に満ちた世界……もしやここが人間界……?」
カラッカの言葉に、魑無は淡い期待を込めて呟いてみる。が、勿論そこは人間界ではない――とも言い切れないが、少なくとも魑無が追い求めるものではなかった。
「とにかく、コレがあれば暫く遊んで暮らせるって話だし」
カラッカが手首に巻いたパカ耳バンドを軽く振って見せる。アオは尻尾に、玻璃はベルトに、魑無は素直に頭に着けていた。
「よくわかんないけど……たのしそうなところだ、ねぇ♪」
好奇心100%、警戒心ゼロ寧ろマイナス。仔ウ魔のはなちゃんも一緒だし、紫紅庵のみんなもいる。だったら物理的にどんな場所であっても、そこがアオの「おうち」だ。
「みんないるから、だいじょーぶ♪」
「確かに、この面子が揃ってるなら何も問題はないな」
「そうね、まぁなんとかなるでしょう」
「って事で遊び倒すぞー!」
あっちへこっちへ毎日のように遊び歩いて、今日はどこ行く? 何して遊ぶ?
「みてみてー、あっちまっしろになってるよー」
アオが指さしたのは、真っ青な空から雪がはらはら舞い落ちる一面の雪野原。
「雪遊びか! 楽しそうだな!」
カラッカが先頭を切って飛び出して行った。
「タマさんは雪でも平気なんだね。コタツで丸くなったりしないの?」
ルルトの言葉に元気よく走り出したタマさんは、シロと一緒に追いかけっこを始めた。その姿を追って、ルルトも「ボクも混ぜてー!」と駆けて行く。それを保護者目線でほっこり眺めるアルバス、だが平和な時は長くは続かなかった。
雪まみれのシロが背中から駆け上がって懐に潜り込み、肩に飛び乗ったタマさんが身体の雪をブルッと弾き飛ばしたと思ったら、今度は顔面にルルトが投げた雪玉がクリーンヒット!
「なるほど、宣戦布告という訳だな! 受けて立つ!」
楽しげに答えるアルバスの声で、唐突に雪合戦が始まった。
同じ猫でもこちらは雪が苦手なのか、ショコラはパルドの肩に乗ったまま微動だにしない。
そんなショコラの為に、パルドとウォーゼルは猫耳付きのカマクラを作っていた。
雪を積み上げ、丸いドーム状に固めたら穴を掘るだけの簡単なお仕事である――が、実際にはそれほど簡単ではなかった。
「わふ! わふわふわっふ!」
「うん、チョコは穴掘り手伝ってくれるんだね、ありがとう」
けれど犬かき(?)で雪山を掘り進むチョコは、勢い余って向こう側に貫通しちゃったり、元気に掘りすぎて雪山を崩落させて生き埋めになっちゃったり。
正直ありがた迷惑の感は否めないけれど、これはこれで楽しいからまあいいか。
カマクラ完成までの道のりは、まだまだ遠そうだ。
「あっ、向こうで雪合戦してる!」
カラッカの辞書に「人見知り」や「遠慮」の文字はない。楽しそうに遊ぶ姿を見付けると、「いーれーて!」とばかりに飛び込んで行った。
「うん、一緒に遊ぼう!」
飛び込まれた方も目が合ったら即トモダチ、ついでに広げちゃうトモダチの輪。
「おにーさんもおいでよ!」
ルルトに呼ばれ、ワークリーチャーらしき人達のカマクラ作りを遠巻きに眺めていた玻璃が顔を上げる。
(あれは……魔猫と、魔イタチ?)
タマさんとシロを見て首を傾げつつも、人懐っこい笑顔に釣られていそいそと寄って行く。
「魔イタチは初めて見るが……うちにも魔猫がいるんだ」
「マネコ?」
「ほら、そこで雪だるま作ってる青いの」
玻璃の視線を辿り、ルルトは見た。不恰好なジャガイモを重ねたような、お化けっぽい何かを。
「可愛い雪だるまね」
「ふふーん、じしんさく!」
魑無に褒められ、アオは満足げに胸を張る。ぶきっちょさん故の歪み具合が独特の愛嬌を醸し出すそれは、お世辞ではなく本気で可愛らしいと魑無は思うのだ。
「私にはこの味は出せないもの」
そう言いながら、魑無は綺麗に整った雪うさぎを雪だるまの頭に乗せる。どんどん作ってどんどん乗せる。
まるで雪うさぎの帽子を被ったような姿になった頃、その後ろからルルトがひょいと顔を出した。
「こんにちは、その猫さんがマネコ? とっても可愛いね!」
「かわいいって、ぼくのこと?」
「わっ、喋った!?」
「しゃべるよー、ぼくウーズだもん。なまえはアオってゆーんだぁー」
マネコでウーズでアオ。よくわからないが、その生物は猫とは似て非なる何かであるらしい。世界にはまだまだ自分の知らない世界があるのだと胸を膨らませつつ、ルルトは向こうを指差した。
「ボクはルルト、あっちで一緒に遊ばない?」
「あそぶー!」
脊髄反射で答えてから、アオはぴょこりと首を傾げた。
「なんのあそび? ……ゆきがっせん? ゆきをなげてあそぶの? たのしそー、チナもやろー!」
こうしてこれまた唐突に、パルドとウォーゼルも書き込んだ雪合戦バトルが始まる。
ガチで激しい戦いが予想されるため、タマさん達は出来上がったばかりのカマクラでのんびり応援だ。
組分けじゃんけんの結果、チームは「アルバス、ルルト、ウォーゼル、魑無」と「カラッカ、玻璃、アオ、パルド」という、どちらも一人だけ異世界組が混ざった形になった。
「みんな頑張ろうな! 魑無さんもよろしく!」
アルバスが持ち前の明るさで気合いを入れるが、多分そんな事をしなくてもこのチームは強い。
「アルバスとルルトは勿論、魑無さんともきっと気の合ったプレイが出来ると思うんだ。ルルトに聞いたけど、魑無さんも猫好きなんだよね?」
猫好きならいい人に違いないと無邪気に笑いかけるウォーゼルに、魑無が少しはにかんだ様子で頷く。
「猫も好きだけど、動物はどの子もみんな好きよ」
「じゃあウチのチームはみんな動物好きだね♪ これならチームワークもバッチリだよ」
ルルトが胸を張ると、魑無の中にもむくむく自信が湧いて来た。
「なんだか私まで強くなった気がするわ!」
3人共強そうだし、これならきっと勝てる。勝ったからといって何かご褒美があるわけでもないけれど、戦うからには勝つ気で行くのみだ。
えい、えい、おー!
「ねぇ、ねぇ、マネコのマネっこ?」
パルドの足元をちょろちょろしながら、アオは時々立ち止まって不思議そうに見上げて来る。どうやらこの自前のけも耳と尻尾に興味深々のようだ。
「マネコが何かは知らないが……」
しゃがみ込んで目線を合わせると、無垢な瞳とばっちり目が合った。なんだろう、このどこを切っても可愛いしか出て来ないような尊い生き物は。
「真似じゃない、オレは黒豹っていう猫の仲間だ。アオは猫でいいのかな?」
「ねこ、なかまー!」
そう答えると、アオは嬉しそうに尻尾を振って体を伸ばして来た。
「ん、仲間だなー」
互いに鼻ちょんでご挨拶を終えると、アオは玻璃に呼ばれて飛んで行く。
問答無用でグイグイ来るカラッカとクールで無愛想な印象の玻璃に対して、最初は警戒しつつ借りてきた猫状態のパルドだったが、アオの保護者ならきっと良い人達に違いないと警戒を解いた。
「うっし、よろしくなーっ! やるからにはぜってー勝つぞ!」
カラッカに背中をバシバシ叩かれても、悪意はないとわかる。
「任せとけ、シーフの腕の見せ所だ」
そんなパルドの様子を見つつ、玻璃は戻って来たアオの頭を撫でる。
「魔猫科(?)同士、仲良くなれそうだな」
「うん、なかまー!」
跳ねるように答えたアオに、玻璃は雪合戦についての簡単なレクチャーを始めた。
「いいか、こうやって雪玉を作って……相手に投げる」
実演して見せた雪玉はカラッカの顔面で弾けた。
「ゆきをなげてあてればいいの? わかったー!」
尻尾で器用に雪をこねこね丸めたら、その先にちょこんと乗せて――えいっ!
投石器の要領でぶんっと振れば、雪玉はカラッカ目がけて飛んで行く。
「こんなかんじー?」
「そうそう、上手だ」
「いや待てよさっきから! オレは味方だぞ!?」
カラッカが文句を言って来たので、一応は「雪玉は敵に当てるもの」というルールも教えておく。
「後は好きに楽しめばいい」
他に「自分が当てられた時は自陣に戻ってやり直し」と「敵陣にある旗を先に取った方が勝ち」というルールがあるが、アオにはのびのびと楽しく遊んで貰えればそれで良しという、わりと過保護な保護者心。幸い相手チームはアオに優しくしてくれそうな顔ぶればかりだし、きっと何があっても大丈夫だろう。
「途中からルール無用の大乱闘になるのは確実だからな」
そう呟き、意味ありげな視線をカラッカに向ける玻璃だった。
各チーム雪の壁や塹壕、陣地の砦などを作り終えたらゲーム開始だ。
「やるからには負けないよ、パルド」
「オレも負けないからな!」
珍しく別チームになったウォーゼルとパルドは、互いにワクワクしながら陣地から飛び出した。素早い身のこなしで雪壁から雪壁へと渡り歩いて敵陣に迫る。
どちらのチームも先陣が相手の気を引いているうちに、本命が敵陣の旗を取りに行く作戦だ――が、そんな事を覚えていられたのも最初の数秒だけ。
「よーし頑張るぞー!」
予め雪玉を量産しておいたルルトは、壁の後ろに隠れながら投げまくる。
「シューターの本気、見せてあげるよ!」
恐ろしく正確なショットが迫り来るカラッカの顔面を捉えた――かに見えた直後、雪玉は素通りして背後の壁に当たった。
「残念、そいつはオレの残像だ!」
まあ普通に避けただけだけど、言ってみたかったんだよこの台詞。力と体力がよわよわな分は、魔力と知力と俊敏さでカバーだ。避けきれない時は纏った風で吹き散らす!
「どうだ、ウィンドバリアー!」
「えー、そんなのズルいよー!」
文句を言いながら、ルルトはヤケクソ気味に雪玉を投げまくる。
「おいおい、どこ狙ってん……えっ!?」
一瞬、カラッカの視界が真っ白になった。ルルトに気を取られている隙に背後から近付いた魑無が、固めていない雪を風の渦にそっと投げ込んだのだ。
「はい、吹雪の出来上がりよ」
「魑無姐さん容赦ねぇッス!」
慌ててバリアを解除すると、目の前に迫る大きな雪玉が!
「ルルト、悪いがアンタの雪玉はもう見切っ――ぶわ!?」
「そう? でもボクだってキミの癖は覚えたからね!」
「いやいや、今のはマグレ――べふ!?」
カラッカの回避行動を予測して、一瞬先の未来に向けて投げた雪玉が顔面で炸裂する。そう、ルルトはただヤケクソで雪玉を投げまくっていたわけではないのだ!
「くっ、あのちびっ子もなかなかやるなー」
思わず漏らした一言に、アルバスが「あっ」と小さく叫んでルルトを見た。
「カラッカ、終わったな」
「あら、何か踏んだのかしら?」
魑無の問いに、アルバスは鎮痛な面持ちで頷いた。
「特大の地雷をな……あれは禁句なんだ……」
だが今はペナルティで下がったカラッカよりも、壁や塹壕に隠れながら地味に近付いて来た玻璃への対処だ。
「ルルト、そこだ!」
アルバスが示した位置に向かって、ルルトの正確なショットが飛ぶ。玻璃は慌てて首を引っ込めるが、狙われたのは玻璃を囮に近付いていた後方のパルドだった。
「まあそう来るよな」
攻撃を避けたパルドは壁の後ろに身を隠す。だがその背後には既にウォーゼルが回り込んでいた。
背後から容赦無く飛んで来る雪玉、しかしパルドはそれさえも読んでいたかのように、素早く身をかわして行く。
「パルドは魔猫のワークリーチャーではないの?」
もしそうなら、雪玉をぶつけるのはちょっと可哀想な気もするけれど。
「でも、あれだけ避けられるなら気にすることないわね」
遠慮なく援護射撃を繰り出す魑無、しかしその時。
上空から大量の雪玉が怒涛の勢いで降って来た!
「こーやってなげれば、いいんだよねー♪」
ぽいぽいぽいぽい、アオは上空に向かって雪玉を投げ上げる。なお悪意はない。
「わわわっ、なんかいっぱい飛んで来た! アルバス任せたんだよ!」
慌てて背後に隠れたルルトを身体でガードしつつ、アルバスはこんな事もあろうかと買っておいた傘を広げた。
「ガードは任せろ! これでもう大丈夫だ!」
しかし防戦一方では埒が開かない。
(あの魑無という御仁、か弱そうな女性という印象だったが、始まってみればなかなか強い!)
ならばこの傘で攻撃を防ぎつつ、まずは無意識に固定砲台と化しているアオを抑えるのが先決か。
移動の間にも、復活したカラッカが数撃ちゃ当たるでひょろ玉を投げまくって来る。
「ほらほら、上ばっか気にしてっとオレのひょろ玉さえ防げねーぞ!」
しかし流石に自他共に認めるひょろ玉、胸一杯に空気を吸い込んだアルバスのひと吹きで儚く散った。
「見たか、俺の肺活量!」
その隙に全身ほぼ真っ白な魑無がステルス状態でカラッカに近付き、真正面から雪玉を投げ付けた。
「ぶへっ! また魑無姐さんッスか! ズルいッスよ、オレが姐さんに当てらんねーの知ってるくせに!」
「勝負の世界は厳しいのよ、はいやり直し」
そう言って手を振った魑無の背後から、玻璃の投げた雪玉が飛んで来る。もはや敵陣の旗など眼中にない。
「そんなもので決着が付いたら面白くないだろう?」
「ええ、確かにそうね」
アルバスのガードで守られた魑無は、すぐさま反撃に出た。
しかし隠れ潜んで一撃離脱が玻璃の身上、正面切っての戦いは不利と素早く身を翻す。
「そう来ると思ってたわ」
玻璃が退路に選ぶであろうルートの先ではルルトが待ち伏せていた。
「ごめんね!」
迫る雪玉、しかし横合いから飛んで来た別の雪玉がそれを弾き飛ばす。
「パルドか、助かった」
ほっと一息つく玻璃、だがその一瞬が命取りだった。パルドが背後を指差して何かを叫ぶ。それを認識した直後、後頭部で雪玉が炸裂した。
「ウォーゼルもやるじゃない」
軽く笑みを漏らし、魑無はパルドに雪玉を命中させた。
戦場に暫しの安寧が訪れる。
だって、ねえ?
「アオにはぶつけられないわ」
こんな可愛い生き物に雪玉をぶつけるなんて、そんな酷いこと出来る?
魑無は両手で雪を掬い、ふわりと上空に投げ上げた。
「わぁ、ゆきふってきたー♪」
おめめキラキラ、雪もキラキラ、アオは大喜びでころころと転がり回る。
そこにアルバスが雪玉を転がすと、ぴょんと起き上がったアオは尻尾とお尻をふりふり、狙い定めて飛び付いた。ルルトやウォーゼルがふんわり投げた玉をバシッと空中でパンチする姿は魔猫そのものだ。
かぁいいねぇ、かぁいいねぇ。
復活したパルドも、あそこだけほのぼのしてるなーとほっこりにっこり眺めている。
だが、そんな平和で優しい世界は長続きしないのが世の常だ。
「なるほど、動物好きチームはアオにベタ甘、と」
実に悪い感じにカラッカが笑みを作る。
気配を消してアオの背後から忍び寄り、脇の下に手を入れてをひょいと抱え上げた。なんと、アオの身体を盾にしようというのだ。
「え? なぁにー?」
みょーんと伸びた身体がゆらゆらと揺れる。
「ふふん、どーだっ! これで当てらんねーだr……イテッ!」
だが言い終わらないうちに、ウォーゼルのスナイパーレベルに精度を上げた雪玉が飛んで来た。
「当てられるけど?」
「それで逃げられると思ったかしら?」
にっこり微笑んだ魑無の手には、氷のように固く締まった雪玉が握られている。
「いいのか? 手が塞がってるぞ」
ニヤリと笑って投げたアルバスの雪玉は。アオを綺麗に避けてカラッカに直撃した。
「ダメだよ小さい子を盾にしちゃ」
ウォーゼルの楽しげな笑みが逆に怖い。だがそれよりも数段恐ろしい笑顔が、そこにあった。
「そうそう、アオを盾にするなんてダメなんだから。それと……」
ルルトの楽しげな笑みが一段と深くなる。
「ボクはちびっ子じゃないんだよ」
その目は全く笑っていないどころか、深淵を映すが如くに昏く澱んでいた。
――ゴッ!
雪玉にあるまじき轟音を立てて、白い塊がカラッカの頬を掠めて飛ぶ。
「ひぃっ!?」
カラッカは思わずアオを取り落とした。
それを待っていたように、怒涛の集中攻撃が襲いかかる。
「わぁ、みんなすごーい!」
解放されたアオは、楽しそうにきゃっきゃと拍手喝采。
「玻璃さんまで投げてるけどいいのか?!」
「いいんだよ」
狼狽えるパルドに悪魔が囁いた。
「よくねぇ! おい、こらっ! 玻璃、てめー、絶対わざとだろっ!」
後頭部を抑えたカラッカの抗議に玻璃が返す。
「あー手が滑ったー。どうしようー滑りまくって止まらないー」
見事なまでの棒読みで神経を逆撫でしつつ、優しく微笑んだ玻璃はパルドの手に雪玉を握らせた。
「気にしなくて大丈夫だ。あんたも投げると良い。顔面狙っていこう」
「なんか不穏な匂いがするけどこれ大丈夫か? え、カラッカの好物? だったらまあ、いいいか……」
正直投げたい。もうワクワクが止まらない。
「一応チームメイトだと思って自重してたが……そうだよな、幼い子盾にしちゃダメだもんな」
――バシィ!
「パルド、お前もかーッ?! しかも何だよこれ、この匂い……まさか……っ」
割れた雪玉の中から超苦手な天敵がコンニチハ。
カラッカが蒼白な顔で意識を手放した事により、戦いは動物大好きチームの勝利に終わった。
もはや組分けにも勝利条件にも当初の面影はないが、気にする者は誰もいなかったとか。
さて、遊んだ後は猫耳カマクラでひと休みしようか――
だがパルドとウォーゼルは慌てず騒がず驚かず、寧ろ待ちかねていた風でもあった。
「いつものアレだろ、年イチで変な所に飛ばされるやつ」
「去年の不思議空間と同じような場所かな……うん、もう慣れたよ」
小さな黒豹のような猫のショコラと、柴犬のようなミニコボのチョコも一緒だし、装備類も全部そのままだ。何より今回は女装ではない事に、二人でほっと胸を撫で下ろす。
「よかった、本当によかった」
「でも可愛いウォーゼルは見たかっ……あっ、うん、冗談!」
うっかり口を滑らせたパルドは慌てて話題を変えた。
「今年はアルバスとルルトも一緒だし、去年よりずっと楽しめそうだな!」
その誤魔化し方は不自然すぎるが、発言内容に関してはウォーゼルも完全同意だった。
「ルルトも一緒だったか、なら安心だな」
アルバス・ロウルは最初こそ驚き固まっていたが、その視界にルルト・アーキスの姿を捉えた瞬間に全ての不安や戸惑いは消えた。
「うん、シロもいるよ! アルバスもタマさんと一緒だね、よかった!」
ルルトが着けたパカ耳の間には冬毛のシロが収まって、ちょっと白ウサギっぽい感じを醸し出している。
「ルルトはよく似合っているぞ! それに可愛い!」
「ありがとう、アルバスとタマさんも可愛いよ」
こちらも定位置に収まったタマさんに白い耳が生えて、白黒ウサギ猫のようにも見えていた。
「……あ、パルド達もいる!」
「なんだ、みんなも来てたのか」
そして今、彼等の姿を見付ければそこはもうホームタウンも同然だ。
「みんな一緒だから大丈夫だね、思いっきり遊んじゃおう♪」
あっという間に街に馴染んだ4人は、思いがけず訪れた休暇を存分に楽しんでいた。
因みにパルドとウォーゼルはそれぞれパカ耳を首にかけ、アルパカの顔が付いたフード付きパーカーを羽織っている。
「自前の耳とダブルじゃ、なんか変だからな」
パルドの場合、頭上のショコラも加えればトリプルけも耳だ。
「色違いのお揃いなんだ、仲良しだね♪ だったらボクはアルバスとお揃いのマフラーにしようかな?」
だってほら、向こうに雪原が見えるし!
一方こちらはブルブレ界からの訪問者。
「んなー、ここどこ?」
アオが好奇心に目を輝かせる。魔界では見た事のない街並み、食べた事のない料理やお菓子、聞いた事のない音楽。その雰囲気は、魔界に最近出来た遊園地というものに近いだろうか。
「なんかのほほんとした場所だな?」
「この穏やかで平和な空気に満ちた世界……もしやここが人間界……?」
カラッカの言葉に、魑無は淡い期待を込めて呟いてみる。が、勿論そこは人間界ではない――とも言い切れないが、少なくとも魑無が追い求めるものではなかった。
「とにかく、コレがあれば暫く遊んで暮らせるって話だし」
カラッカが手首に巻いたパカ耳バンドを軽く振って見せる。アオは尻尾に、玻璃はベルトに、魑無は素直に頭に着けていた。
「よくわかんないけど……たのしそうなところだ、ねぇ♪」
好奇心100%、警戒心ゼロ寧ろマイナス。仔ウ魔のはなちゃんも一緒だし、紫紅庵のみんなもいる。だったら物理的にどんな場所であっても、そこがアオの「おうち」だ。
「みんないるから、だいじょーぶ♪」
「確かに、この面子が揃ってるなら何も問題はないな」
「そうね、まぁなんとかなるでしょう」
「って事で遊び倒すぞー!」
あっちへこっちへ毎日のように遊び歩いて、今日はどこ行く? 何して遊ぶ?
「みてみてー、あっちまっしろになってるよー」
アオが指さしたのは、真っ青な空から雪がはらはら舞い落ちる一面の雪野原。
「雪遊びか! 楽しそうだな!」
カラッカが先頭を切って飛び出して行った。
「タマさんは雪でも平気なんだね。コタツで丸くなったりしないの?」
ルルトの言葉に元気よく走り出したタマさんは、シロと一緒に追いかけっこを始めた。その姿を追って、ルルトも「ボクも混ぜてー!」と駆けて行く。それを保護者目線でほっこり眺めるアルバス、だが平和な時は長くは続かなかった。
雪まみれのシロが背中から駆け上がって懐に潜り込み、肩に飛び乗ったタマさんが身体の雪をブルッと弾き飛ばしたと思ったら、今度は顔面にルルトが投げた雪玉がクリーンヒット!
「なるほど、宣戦布告という訳だな! 受けて立つ!」
楽しげに答えるアルバスの声で、唐突に雪合戦が始まった。
同じ猫でもこちらは雪が苦手なのか、ショコラはパルドの肩に乗ったまま微動だにしない。
そんなショコラの為に、パルドとウォーゼルは猫耳付きのカマクラを作っていた。
雪を積み上げ、丸いドーム状に固めたら穴を掘るだけの簡単なお仕事である――が、実際にはそれほど簡単ではなかった。
「わふ! わふわふわっふ!」
「うん、チョコは穴掘り手伝ってくれるんだね、ありがとう」
けれど犬かき(?)で雪山を掘り進むチョコは、勢い余って向こう側に貫通しちゃったり、元気に掘りすぎて雪山を崩落させて生き埋めになっちゃったり。
正直ありがた迷惑の感は否めないけれど、これはこれで楽しいからまあいいか。
カマクラ完成までの道のりは、まだまだ遠そうだ。
「あっ、向こうで雪合戦してる!」
カラッカの辞書に「人見知り」や「遠慮」の文字はない。楽しそうに遊ぶ姿を見付けると、「いーれーて!」とばかりに飛び込んで行った。
「うん、一緒に遊ぼう!」
飛び込まれた方も目が合ったら即トモダチ、ついでに広げちゃうトモダチの輪。
「おにーさんもおいでよ!」
ルルトに呼ばれ、ワークリーチャーらしき人達のカマクラ作りを遠巻きに眺めていた玻璃が顔を上げる。
(あれは……魔猫と、魔イタチ?)
タマさんとシロを見て首を傾げつつも、人懐っこい笑顔に釣られていそいそと寄って行く。
「魔イタチは初めて見るが……うちにも魔猫がいるんだ」
「マネコ?」
「ほら、そこで雪だるま作ってる青いの」
玻璃の視線を辿り、ルルトは見た。不恰好なジャガイモを重ねたような、お化けっぽい何かを。
「可愛い雪だるまね」
「ふふーん、じしんさく!」
魑無に褒められ、アオは満足げに胸を張る。ぶきっちょさん故の歪み具合が独特の愛嬌を醸し出すそれは、お世辞ではなく本気で可愛らしいと魑無は思うのだ。
「私にはこの味は出せないもの」
そう言いながら、魑無は綺麗に整った雪うさぎを雪だるまの頭に乗せる。どんどん作ってどんどん乗せる。
まるで雪うさぎの帽子を被ったような姿になった頃、その後ろからルルトがひょいと顔を出した。
「こんにちは、その猫さんがマネコ? とっても可愛いね!」
「かわいいって、ぼくのこと?」
「わっ、喋った!?」
「しゃべるよー、ぼくウーズだもん。なまえはアオってゆーんだぁー」
マネコでウーズでアオ。よくわからないが、その生物は猫とは似て非なる何かであるらしい。世界にはまだまだ自分の知らない世界があるのだと胸を膨らませつつ、ルルトは向こうを指差した。
「ボクはルルト、あっちで一緒に遊ばない?」
「あそぶー!」
脊髄反射で答えてから、アオはぴょこりと首を傾げた。
「なんのあそび? ……ゆきがっせん? ゆきをなげてあそぶの? たのしそー、チナもやろー!」
こうしてこれまた唐突に、パルドとウォーゼルも書き込んだ雪合戦バトルが始まる。
ガチで激しい戦いが予想されるため、タマさん達は出来上がったばかりのカマクラでのんびり応援だ。
組分けじゃんけんの結果、チームは「アルバス、ルルト、ウォーゼル、魑無」と「カラッカ、玻璃、アオ、パルド」という、どちらも一人だけ異世界組が混ざった形になった。
「みんな頑張ろうな! 魑無さんもよろしく!」
アルバスが持ち前の明るさで気合いを入れるが、多分そんな事をしなくてもこのチームは強い。
「アルバスとルルトは勿論、魑無さんともきっと気の合ったプレイが出来ると思うんだ。ルルトに聞いたけど、魑無さんも猫好きなんだよね?」
猫好きならいい人に違いないと無邪気に笑いかけるウォーゼルに、魑無が少しはにかんだ様子で頷く。
「猫も好きだけど、動物はどの子もみんな好きよ」
「じゃあウチのチームはみんな動物好きだね♪ これならチームワークもバッチリだよ」
ルルトが胸を張ると、魑無の中にもむくむく自信が湧いて来た。
「なんだか私まで強くなった気がするわ!」
3人共強そうだし、これならきっと勝てる。勝ったからといって何かご褒美があるわけでもないけれど、戦うからには勝つ気で行くのみだ。
えい、えい、おー!
「ねぇ、ねぇ、マネコのマネっこ?」
パルドの足元をちょろちょろしながら、アオは時々立ち止まって不思議そうに見上げて来る。どうやらこの自前のけも耳と尻尾に興味深々のようだ。
「マネコが何かは知らないが……」
しゃがみ込んで目線を合わせると、無垢な瞳とばっちり目が合った。なんだろう、このどこを切っても可愛いしか出て来ないような尊い生き物は。
「真似じゃない、オレは黒豹っていう猫の仲間だ。アオは猫でいいのかな?」
「ねこ、なかまー!」
そう答えると、アオは嬉しそうに尻尾を振って体を伸ばして来た。
「ん、仲間だなー」
互いに鼻ちょんでご挨拶を終えると、アオは玻璃に呼ばれて飛んで行く。
問答無用でグイグイ来るカラッカとクールで無愛想な印象の玻璃に対して、最初は警戒しつつ借りてきた猫状態のパルドだったが、アオの保護者ならきっと良い人達に違いないと警戒を解いた。
「うっし、よろしくなーっ! やるからにはぜってー勝つぞ!」
カラッカに背中をバシバシ叩かれても、悪意はないとわかる。
「任せとけ、シーフの腕の見せ所だ」
そんなパルドの様子を見つつ、玻璃は戻って来たアオの頭を撫でる。
「魔猫科(?)同士、仲良くなれそうだな」
「うん、なかまー!」
跳ねるように答えたアオに、玻璃は雪合戦についての簡単なレクチャーを始めた。
「いいか、こうやって雪玉を作って……相手に投げる」
実演して見せた雪玉はカラッカの顔面で弾けた。
「ゆきをなげてあてればいいの? わかったー!」
尻尾で器用に雪をこねこね丸めたら、その先にちょこんと乗せて――えいっ!
投石器の要領でぶんっと振れば、雪玉はカラッカ目がけて飛んで行く。
「こんなかんじー?」
「そうそう、上手だ」
「いや待てよさっきから! オレは味方だぞ!?」
カラッカが文句を言って来たので、一応は「雪玉は敵に当てるもの」というルールも教えておく。
「後は好きに楽しめばいい」
他に「自分が当てられた時は自陣に戻ってやり直し」と「敵陣にある旗を先に取った方が勝ち」というルールがあるが、アオにはのびのびと楽しく遊んで貰えればそれで良しという、わりと過保護な保護者心。幸い相手チームはアオに優しくしてくれそうな顔ぶればかりだし、きっと何があっても大丈夫だろう。
「途中からルール無用の大乱闘になるのは確実だからな」
そう呟き、意味ありげな視線をカラッカに向ける玻璃だった。
各チーム雪の壁や塹壕、陣地の砦などを作り終えたらゲーム開始だ。
「やるからには負けないよ、パルド」
「オレも負けないからな!」
珍しく別チームになったウォーゼルとパルドは、互いにワクワクしながら陣地から飛び出した。素早い身のこなしで雪壁から雪壁へと渡り歩いて敵陣に迫る。
どちらのチームも先陣が相手の気を引いているうちに、本命が敵陣の旗を取りに行く作戦だ――が、そんな事を覚えていられたのも最初の数秒だけ。
「よーし頑張るぞー!」
予め雪玉を量産しておいたルルトは、壁の後ろに隠れながら投げまくる。
「シューターの本気、見せてあげるよ!」
恐ろしく正確なショットが迫り来るカラッカの顔面を捉えた――かに見えた直後、雪玉は素通りして背後の壁に当たった。
「残念、そいつはオレの残像だ!」
まあ普通に避けただけだけど、言ってみたかったんだよこの台詞。力と体力がよわよわな分は、魔力と知力と俊敏さでカバーだ。避けきれない時は纏った風で吹き散らす!
「どうだ、ウィンドバリアー!」
「えー、そんなのズルいよー!」
文句を言いながら、ルルトはヤケクソ気味に雪玉を投げまくる。
「おいおい、どこ狙ってん……えっ!?」
一瞬、カラッカの視界が真っ白になった。ルルトに気を取られている隙に背後から近付いた魑無が、固めていない雪を風の渦にそっと投げ込んだのだ。
「はい、吹雪の出来上がりよ」
「魑無姐さん容赦ねぇッス!」
慌ててバリアを解除すると、目の前に迫る大きな雪玉が!
「ルルト、悪いがアンタの雪玉はもう見切っ――ぶわ!?」
「そう? でもボクだってキミの癖は覚えたからね!」
「いやいや、今のはマグレ――べふ!?」
カラッカの回避行動を予測して、一瞬先の未来に向けて投げた雪玉が顔面で炸裂する。そう、ルルトはただヤケクソで雪玉を投げまくっていたわけではないのだ!
「くっ、あのちびっ子もなかなかやるなー」
思わず漏らした一言に、アルバスが「あっ」と小さく叫んでルルトを見た。
「カラッカ、終わったな」
「あら、何か踏んだのかしら?」
魑無の問いに、アルバスは鎮痛な面持ちで頷いた。
「特大の地雷をな……あれは禁句なんだ……」
だが今はペナルティで下がったカラッカよりも、壁や塹壕に隠れながら地味に近付いて来た玻璃への対処だ。
「ルルト、そこだ!」
アルバスが示した位置に向かって、ルルトの正確なショットが飛ぶ。玻璃は慌てて首を引っ込めるが、狙われたのは玻璃を囮に近付いていた後方のパルドだった。
「まあそう来るよな」
攻撃を避けたパルドは壁の後ろに身を隠す。だがその背後には既にウォーゼルが回り込んでいた。
背後から容赦無く飛んで来る雪玉、しかしパルドはそれさえも読んでいたかのように、素早く身をかわして行く。
「パルドは魔猫のワークリーチャーではないの?」
もしそうなら、雪玉をぶつけるのはちょっと可哀想な気もするけれど。
「でも、あれだけ避けられるなら気にすることないわね」
遠慮なく援護射撃を繰り出す魑無、しかしその時。
上空から大量の雪玉が怒涛の勢いで降って来た!
「こーやってなげれば、いいんだよねー♪」
ぽいぽいぽいぽい、アオは上空に向かって雪玉を投げ上げる。なお悪意はない。
「わわわっ、なんかいっぱい飛んで来た! アルバス任せたんだよ!」
慌てて背後に隠れたルルトを身体でガードしつつ、アルバスはこんな事もあろうかと買っておいた傘を広げた。
「ガードは任せろ! これでもう大丈夫だ!」
しかし防戦一方では埒が開かない。
(あの魑無という御仁、か弱そうな女性という印象だったが、始まってみればなかなか強い!)
ならばこの傘で攻撃を防ぎつつ、まずは無意識に固定砲台と化しているアオを抑えるのが先決か。
移動の間にも、復活したカラッカが数撃ちゃ当たるでひょろ玉を投げまくって来る。
「ほらほら、上ばっか気にしてっとオレのひょろ玉さえ防げねーぞ!」
しかし流石に自他共に認めるひょろ玉、胸一杯に空気を吸い込んだアルバスのひと吹きで儚く散った。
「見たか、俺の肺活量!」
その隙に全身ほぼ真っ白な魑無がステルス状態でカラッカに近付き、真正面から雪玉を投げ付けた。
「ぶへっ! また魑無姐さんッスか! ズルいッスよ、オレが姐さんに当てらんねーの知ってるくせに!」
「勝負の世界は厳しいのよ、はいやり直し」
そう言って手を振った魑無の背後から、玻璃の投げた雪玉が飛んで来る。もはや敵陣の旗など眼中にない。
「そんなもので決着が付いたら面白くないだろう?」
「ええ、確かにそうね」
アルバスのガードで守られた魑無は、すぐさま反撃に出た。
しかし隠れ潜んで一撃離脱が玻璃の身上、正面切っての戦いは不利と素早く身を翻す。
「そう来ると思ってたわ」
玻璃が退路に選ぶであろうルートの先ではルルトが待ち伏せていた。
「ごめんね!」
迫る雪玉、しかし横合いから飛んで来た別の雪玉がそれを弾き飛ばす。
「パルドか、助かった」
ほっと一息つく玻璃、だがその一瞬が命取りだった。パルドが背後を指差して何かを叫ぶ。それを認識した直後、後頭部で雪玉が炸裂した。
「ウォーゼルもやるじゃない」
軽く笑みを漏らし、魑無はパルドに雪玉を命中させた。
戦場に暫しの安寧が訪れる。
だって、ねえ?
「アオにはぶつけられないわ」
こんな可愛い生き物に雪玉をぶつけるなんて、そんな酷いこと出来る?
魑無は両手で雪を掬い、ふわりと上空に投げ上げた。
「わぁ、ゆきふってきたー♪」
おめめキラキラ、雪もキラキラ、アオは大喜びでころころと転がり回る。
そこにアルバスが雪玉を転がすと、ぴょんと起き上がったアオは尻尾とお尻をふりふり、狙い定めて飛び付いた。ルルトやウォーゼルがふんわり投げた玉をバシッと空中でパンチする姿は魔猫そのものだ。
かぁいいねぇ、かぁいいねぇ。
復活したパルドも、あそこだけほのぼのしてるなーとほっこりにっこり眺めている。
だが、そんな平和で優しい世界は長続きしないのが世の常だ。
「なるほど、動物好きチームはアオにベタ甘、と」
実に悪い感じにカラッカが笑みを作る。
気配を消してアオの背後から忍び寄り、脇の下に手を入れてをひょいと抱え上げた。なんと、アオの身体を盾にしようというのだ。
「え? なぁにー?」
みょーんと伸びた身体がゆらゆらと揺れる。
「ふふん、どーだっ! これで当てらんねーだr……イテッ!」
だが言い終わらないうちに、ウォーゼルのスナイパーレベルに精度を上げた雪玉が飛んで来た。
「当てられるけど?」
「それで逃げられると思ったかしら?」
にっこり微笑んだ魑無の手には、氷のように固く締まった雪玉が握られている。
「いいのか? 手が塞がってるぞ」
ニヤリと笑って投げたアルバスの雪玉は。アオを綺麗に避けてカラッカに直撃した。
「ダメだよ小さい子を盾にしちゃ」
ウォーゼルの楽しげな笑みが逆に怖い。だがそれよりも数段恐ろしい笑顔が、そこにあった。
「そうそう、アオを盾にするなんてダメなんだから。それと……」
ルルトの楽しげな笑みが一段と深くなる。
「ボクはちびっ子じゃないんだよ」
その目は全く笑っていないどころか、深淵を映すが如くに昏く澱んでいた。
――ゴッ!
雪玉にあるまじき轟音を立てて、白い塊がカラッカの頬を掠めて飛ぶ。
「ひぃっ!?」
カラッカは思わずアオを取り落とした。
それを待っていたように、怒涛の集中攻撃が襲いかかる。
「わぁ、みんなすごーい!」
解放されたアオは、楽しそうにきゃっきゃと拍手喝采。
「玻璃さんまで投げてるけどいいのか?!」
「いいんだよ」
狼狽えるパルドに悪魔が囁いた。
「よくねぇ! おい、こらっ! 玻璃、てめー、絶対わざとだろっ!」
後頭部を抑えたカラッカの抗議に玻璃が返す。
「あー手が滑ったー。どうしようー滑りまくって止まらないー」
見事なまでの棒読みで神経を逆撫でしつつ、優しく微笑んだ玻璃はパルドの手に雪玉を握らせた。
「気にしなくて大丈夫だ。あんたも投げると良い。顔面狙っていこう」
「なんか不穏な匂いがするけどこれ大丈夫か? え、カラッカの好物? だったらまあ、いいいか……」
正直投げたい。もうワクワクが止まらない。
「一応チームメイトだと思って自重してたが……そうだよな、幼い子盾にしちゃダメだもんな」
――バシィ!
「パルド、お前もかーッ?! しかも何だよこれ、この匂い……まさか……っ」
割れた雪玉の中から超苦手な天敵がコンニチハ。
カラッカが蒼白な顔で意識を手放した事により、戦いは動物大好きチームの勝利に終わった。
もはや組分けにも勝利条件にも当初の面影はないが、気にする者は誰もいなかったとか。
さて、遊んだ後は猫耳カマクラでひと休みしようか――