エスタルの残照
キャラクターノベル制作 おおくまねこ納品 2024年10月10日 08時18分35秒
●
「ここも大分復興してきたな……見違えるみたいだ」
シルトラース帝国、東部鎮守都市エスタル。久々にこの地を訪れたカイン・ステラはリーンエス王国カペル領フロルへと帰る途中、ふとこの土地に立ち寄っていた。
「ミードラばあちゃん、元気にしてるかな……」
カインはかつてこの街で縁故を持った老婆の姿を思い出していた。実のところ、旅の途中でエスタルに寄ろうと思ったのは、彼女のことが気がかりだったからだ。
――おはよう、ばあちゃん。マックスじゃなくてごめん。
――私は夢を見ていたんだ……あの子は、私の息子じゃあ、なかった……悪いが、もう少し、寝かせておくれ……。
ミードラは一度クリーパーに丸呑みされたが、カイン達冒険者の必死の救助活動により奇跡的に一命を取り留めた。だが、家族を『二度』失った彼女は深く傷ついていた。カインは今もそれを気に病んでいたのだ。
――家族を失う辛さはよく知っていたけれど、子や孫に先立たれる人の気持ちまでは知らなかったから。
●
「本当はもう少し早く来たかったんだが、色々あって」
カインはエスタルの冒険者ギルドの店に足を踏み入れると、ミードラについて知っている者がいないか尋ねてみた。
「ああ、そのお婆さんなら存命ですよ」
ギルドの監視はもう終わっていたが、たまたま、ギルド職員に近所に住んでいる者がいたので回答が貰えた。
「そうか! 後遺症とか、病気とかは……」
「いえいえ、元気なものですよ。意識もしっかりしてらっしゃいますし。お引越しもされていないかと」
「ありがとう」
カインは職員に礼を言い、その場を後にした。
●
「ちょっと迷ったが……ここで合ってるはずだ……表札も出てるし……」
カインは少し変化した街並みに多少戸惑いつつも、無事にミードラの家に辿り着いていた。カインは遠くからこっそりと、家の様子を伺ってみる。
「……ファ。ちょっと様子を見て来てくれ」
「キュ!」
カインが相棒の大鼬に声をかけると、ファは一声鳴き、タタタッとミードラの家へと走っていく。彼女ならば気づかれずに家の様子を探ることができるだろう。
「キュ……」
ファは家の窓にへばりつき、中を覗きこむ。3分ほどそうしていると、誰かが奥の方から歩いてきた。
(婆ちゃん!)
カインの心臓がどくん、と跳ねる。ミードラだ。ファはぼてっと地面に着地し、身を隠した。
「おや、誰か来てたような気がしたけど、気のせいかねえ」
ミードラはちょっと窓の外を見た後、不思議そうに引き返していった。
(婆ちゃん、元気そうだな……よかった……)
●
「これをミードラばあちゃんによろしく。以前お世話になったから」
カインはミードラの近所の住民に煎茶と癒しの調べを預け、彼女に渡してもらうように依頼した。
「おやまあ、外国のお土産だなんてハイカラだねえ」
「このお茶は、ばあちゃんが前に気に入っていたから」
「そうかい。ミードラさんもきっと喜ぶよ。……でも、本当に会わなくていいのかい?」
「いいんだ。酷い嘘を吐いて傷つけてしまったから」
カインは静かに首を横に振り、その場を後にした。
●
「門を開けてくれ」
俺はエスタルを後にするべく、門番に声をかけた。気落ちしていないかと心配していたけど、ばあちゃんは元気だったので安心した。自分と顔を合わせると亡くした家族を思い出してしまうかもしれないので、このまま静かに去る方がいいだろう。
「待っておくれ!」
「!」
聞き覚えのある声に振り向くと、そこにはばあちゃんが立っていた。
「あの時の、おにぎりの坊やだろう?」
「うん。……おぼえててくれてたんだ」
「ああ、もちろんだとも! あんたにはもう一度会ってお礼が言いたかったんだよ!」
「転んじゃうよ」
俺は駆け寄って来ようとしたばあちゃんを抱き留めた。
●
「あの時はごめん」
カインは息子のフリをしてミードラの意識を呼び戻そうとしたことを詫びた。
「……もし立場が逆で、俺のばあちゃんだけ残されて、そう言ってたら、俺は悲しいから、助けないでいいって言えなかった」
「何を謝ることがあるんだい。私が生きているのはあんたのおかげなのに……!」
ミードラは涙ぐんでいた。
●
「……どうして自分だけが、なんて、思いもしたけど。生きていることには、必ず何か、意味があると思うんだよ。……神様はいつも、ちゃんと私達を見守ってくれているよ」
「うん、そうだね」
ミードラの言葉にカインは首を縦に振る。油断すると泣いてしまいそうだったけど、必死に涙はこらえた。
「そういえば、坊やの名前を一度も聞いてなかったね。教えてくれるかい?」
「カイン。カイン・ステラ」
「カイン。いい名前だね」
ミードラは噛み締めるように言った。
……。
「いつでもまたエスタルにおいで。今度は私がご飯を作ってあげる」
「うん。また来るよ」
「ああ、きっとだよ」
カインは微笑み、温かな気持ちでエスタルを後にした。
「ここも大分復興してきたな……見違えるみたいだ」
シルトラース帝国、東部鎮守都市エスタル。久々にこの地を訪れたカイン・ステラはリーンエス王国カペル領フロルへと帰る途中、ふとこの土地に立ち寄っていた。
「ミードラばあちゃん、元気にしてるかな……」
カインはかつてこの街で縁故を持った老婆の姿を思い出していた。実のところ、旅の途中でエスタルに寄ろうと思ったのは、彼女のことが気がかりだったからだ。
――おはよう、ばあちゃん。マックスじゃなくてごめん。
――私は夢を見ていたんだ……あの子は、私の息子じゃあ、なかった……悪いが、もう少し、寝かせておくれ……。
ミードラは一度クリーパーに丸呑みされたが、カイン達冒険者の必死の救助活動により奇跡的に一命を取り留めた。だが、家族を『二度』失った彼女は深く傷ついていた。カインは今もそれを気に病んでいたのだ。
――家族を失う辛さはよく知っていたけれど、子や孫に先立たれる人の気持ちまでは知らなかったから。
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「本当はもう少し早く来たかったんだが、色々あって」
カインはエスタルの冒険者ギルドの店に足を踏み入れると、ミードラについて知っている者がいないか尋ねてみた。
「ああ、そのお婆さんなら存命ですよ」
ギルドの監視はもう終わっていたが、たまたま、ギルド職員に近所に住んでいる者がいたので回答が貰えた。
「そうか! 後遺症とか、病気とかは……」
「いえいえ、元気なものですよ。意識もしっかりしてらっしゃいますし。お引越しもされていないかと」
「ありがとう」
カインは職員に礼を言い、その場を後にした。
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「ちょっと迷ったが……ここで合ってるはずだ……表札も出てるし……」
カインは少し変化した街並みに多少戸惑いつつも、無事にミードラの家に辿り着いていた。カインは遠くからこっそりと、家の様子を伺ってみる。
「……ファ。ちょっと様子を見て来てくれ」
「キュ!」
カインが相棒の大鼬に声をかけると、ファは一声鳴き、タタタッとミードラの家へと走っていく。彼女ならば気づかれずに家の様子を探ることができるだろう。
「キュ……」
ファは家の窓にへばりつき、中を覗きこむ。3分ほどそうしていると、誰かが奥の方から歩いてきた。
(婆ちゃん!)
カインの心臓がどくん、と跳ねる。ミードラだ。ファはぼてっと地面に着地し、身を隠した。
「おや、誰か来てたような気がしたけど、気のせいかねえ」
ミードラはちょっと窓の外を見た後、不思議そうに引き返していった。
(婆ちゃん、元気そうだな……よかった……)
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「これをミードラばあちゃんによろしく。以前お世話になったから」
カインはミードラの近所の住民に煎茶と癒しの調べを預け、彼女に渡してもらうように依頼した。
「おやまあ、外国のお土産だなんてハイカラだねえ」
「このお茶は、ばあちゃんが前に気に入っていたから」
「そうかい。ミードラさんもきっと喜ぶよ。……でも、本当に会わなくていいのかい?」
「いいんだ。酷い嘘を吐いて傷つけてしまったから」
カインは静かに首を横に振り、その場を後にした。
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「門を開けてくれ」
俺はエスタルを後にするべく、門番に声をかけた。気落ちしていないかと心配していたけど、ばあちゃんは元気だったので安心した。自分と顔を合わせると亡くした家族を思い出してしまうかもしれないので、このまま静かに去る方がいいだろう。
「待っておくれ!」
「!」
聞き覚えのある声に振り向くと、そこにはばあちゃんが立っていた。
「あの時の、おにぎりの坊やだろう?」
「うん。……おぼえててくれてたんだ」
「ああ、もちろんだとも! あんたにはもう一度会ってお礼が言いたかったんだよ!」
「転んじゃうよ」
俺は駆け寄って来ようとしたばあちゃんを抱き留めた。
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「あの時はごめん」
カインは息子のフリをしてミードラの意識を呼び戻そうとしたことを詫びた。
「……もし立場が逆で、俺のばあちゃんだけ残されて、そう言ってたら、俺は悲しいから、助けないでいいって言えなかった」
「何を謝ることがあるんだい。私が生きているのはあんたのおかげなのに……!」
ミードラは涙ぐんでいた。
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「……どうして自分だけが、なんて、思いもしたけど。生きていることには、必ず何か、意味があると思うんだよ。……神様はいつも、ちゃんと私達を見守ってくれているよ」
「うん、そうだね」
ミードラの言葉にカインは首を縦に振る。油断すると泣いてしまいそうだったけど、必死に涙はこらえた。
「そういえば、坊やの名前を一度も聞いてなかったね。教えてくれるかい?」
「カイン。カイン・ステラ」
「カイン。いい名前だね」
ミードラは噛み締めるように言った。
……。
「いつでもまたエスタルにおいで。今度は私がご飯を作ってあげる」
「うん。また来るよ」
「ああ、きっとだよ」
カインは微笑み、温かな気持ちでエスタルを後にした。