【遭遇】ここだけの三人
4周年イベントノベル(テーマ)制作 STANZA納品 2024年10月04日 13時06分41秒
この目で最期を見届けた。
この手で決着を付けた。
確かに倒したのに。
何故ここにいる。
幻覚か。
それとも幽霊?
まさか生き返ったのか。
或いはアンデッドか。
なんでもいい。
何度でも倒すだけだ。
でも残念!
パカパカタウンで殺し愛は御法度だよ!
「あの、状況はよくわかりませんが」
一触即発の二人の間にガーベラが割って入る。
「お二人とも、まずは落ち着きましょう。そして話し合いましょう……ね?」
――――
その時、マルグリット・ライヒシュタインとガーベラはお気に入りの蓮池のほとりでお茶会の真っ最中――からの、突然のパカパカタウン。
気が付けばお茶会仕草のまま、地べたに座り込んでいた。
「ここは……どこですの!?」
放り込まれたその時こそ驚き慌て狼狽えたものの、馴染むのは早かった。
「なかなか快適な場所ですわね。これはきっと、見事に復讐を果たしたご褒美旅行ですの!」
誰がくれたかは知らないが、二人は既にパカパカ脳。つまり細かい事は気にしない、気にならない。
「楽しそうな施設もお店も沢山あります。帰る時までに全て回り切れるでしょうか」
「でしたら、のんびりしている暇はございませんわね」
マルグリットが立ち上がると、パカ耳がふるると揺れた。
そんなこんなで、数日後。
「今日の昼食はどのお店がいいですかしら」
「やはりそろそろ、あの店は押さえておきたい所ですね」
ガーベラが言うあの店とは、いつ通りかかっても行列が出来ている人気のカフェ。
「けれど気が進みませんわ。ライヒシュタイン家の者が、まるで庶民のように行列に並ぶなんて」
「でもお嬢様、最初の日に決めたではありませんか。このパカパカタウンのお店を全制覇すると」
「それは、確かに……」
「しかも本日はランチメニューに限定スイーツのサービスが付くスペシャルデーだそうですよ?」
人も魔族もパカ族も、限定という言葉には弱い。目がない。しかもスイーツなら尚更だ。
その誘惑は、名家の誇りを軽く凌駕したのだった。
ルアンナ・ミュラーは、店でパンを焼いている最中に飛ばされて来た。
残して来たパン達が焦げていないか、ちゃんと店を開けられるか、お客さんからクレームが来たりしないか――気掛かりは山ほどあったが、すぐには帰れないと言われれば、気を揉むだけ無駄というものだ。
「なんだか楽しそうな所ですね」
まるで毎日続くお祭りに迷い込んだようで、ワクワクが止まらない。
遊園地にゲームセンター、リアルな立体映像の映画館やバーチャルバトルフィールドなど、リブラネスタはおろか彼女の知る世界のどこでも見た事のないものばかり。
興味を惹かれるままにあちこち遊び歩いて数日。この街にもすっかり慣れて、興味のある施設はあらかた制覇した。今は食の方に関心が向いているパン職人である。
「パンってこんなに種類があるんですね……味を覚えて、うちの店でも作ってみたいです」
いっそどこかの店に弟子入りしてみようかとも思ったけれど、元の世界には存在しない食材も多い。
「ここは素直に、楽しむことに徹しましょう」
それに一番美味しいのは、やっぱりうちのメロンパンだし?
「そうそう、今日はあのお店で限定スイーツが発売されるんでした」
いそいそと出かけた、その店先で――
マルグリットの全身に電撃が走った。
ぴたりと足を止め、強張った表情で行列の中ほどをじっと見つめて――いや、睨んでいる。
「お嬢様?」
どうしたのかとガーベラが視線を辿ると、その先に。
「あの憎きク〇ウィッチ!? あの時確かにこの手で倒したはず……何故ここに!!」
「元の世界で戦ったウィッチ……!? 確かにお嬢様がトドメを刺したはずなのに!」
二人の声が重なる。その物騒な空気に、周囲の人々がざわつき始めた。
それでも「あの女」は振り返らない。
「そこの死に損ないの■■ウィッチ! ▲▲ウィッチ! ◆◆◆◆◆ウィッチ!」
駄目だ、全く気付かない。■■で▲▲▲で◆◆◆◆◆なウィッチの自覚がないのだろうか。ならば仕方ない、声に出すのも穢らわしいが――
「ルアンナ!」
「……え?」
ルアンナは振り返った。先程から何やら騒々しいとは思っていたが、まさか呼ばれているのが自分だとは思わなかった。
(聞くに耐えない汚い言葉……魔女などと呼ばれる覚えもありませんし)
だが名を呼ばれた。その声にどことなく聞き覚えもあった。
振り返ったそこには――
「吸血鬼……マルグリット・ライヒシュタイン!? そんな筈は……あれは確かに倒したはずなのに、何故ここに!!」
「まさかとは思ったけど、やっぱりアナタでしたのね! 人に生き汚いとかほざいておきながら、そっちこそ随分と生き汚いですこと!」
「そんな事を言った覚えはありませんが……いいでしょう、今度こそ灰も残さぬよう、完全に消滅させてさしあげます」
場所を変えようと、どちらからともなく歩き出す二人。だがマルグリットの袖をガーベラがそっと引いた。
「……お嬢様」
袖を引いたまま、ガーベラはルアンナを見る。
(よくよく見るとなんか違うような?)
そうだ、あの女には魔力紋がない。手袋もしていないし、得物も違う。
「もしや他人の空似では?」
一方のルアンナも、マルグリットをじっと見ていた。
(顔も声も、何もかもそっくりだけど、何かが違う……それに)
空を見上げる。雲ひとつない、いい天気だ。
(彼女はデイウォーカーではなかったはずですが)
「「「???」」」
三人の頭上に等しく「?」が浮かぶ。
「アナタ、ワタクシの兄と親族を皆殺しにしたウィッチですわよね? わざと血を飲ませて、苦しんでいる皆を銃で……」
ルアンナは首を横に振った。
「……違うんですの?」
今度は縦に振る。
「私はルアンナ・ミュラー。ヒューマンのキャスターで、リブラネスタでミュラースというパン屋を開いています」
「ビックリドッキリベーカリーでは、ないのですね」
ガーベラが気になったのは、その部分らしい。
だがマルグリットは別のところに引っかかった。
「ヒューマン……人間? アナタ人間界から来たんですの!? どうやって!?」
「人間界という呼び名はあまり聞きませんね。エルフもドワーフもゴブリンも、その他様々な種族が暮らしていますから」
どうやってかはわからないと答え、ルアンナは質問を返した。
「貴方はマルグリットですよね?」
「そうよ、ワタクシはマルグリット・ライヒシュタイン。ヴァンパイアの名家に生を受けた高貴なる存在ですわ」
「ヴァンパイア? 吸血鬼ではなく?」
「「「???」」」
暫しの葛藤の後。どうやらこれは人違いのようだと、それぞれが同じ結論に至った。
ならば互いに思うところは何もない。そうと決まれば――
「「「限定スイーツ!」」」
三人は慌てて列に並び直す。しかし!
「本日分はここまでふぇ〜」
無情にも三人のすぐ前で、列は切られたのだった。
がっくりと膝をつくマルグリット、だが三人の冒険はこれからだ。
「今日は他にも限定販売を行うお店があるんですよ。私、ここのスイーツ事情には詳しいんです」
にっこり微笑むルアンナの姿が、マルグリットの目には頼もしくも神々しく、またとても好ましいものに映った。
「夕方からですから、それまで食べ歩きでも楽しみませんか?」
「喜んで、ですわ!」
それから帰還の日まで全力で、三人は仲良くスイーツ三昧を楽しんだそうな。
この手で決着を付けた。
確かに倒したのに。
何故ここにいる。
幻覚か。
それとも幽霊?
まさか生き返ったのか。
或いはアンデッドか。
なんでもいい。
何度でも倒すだけだ。
でも残念!
パカパカタウンで殺し愛は御法度だよ!
「あの、状況はよくわかりませんが」
一触即発の二人の間にガーベラが割って入る。
「お二人とも、まずは落ち着きましょう。そして話し合いましょう……ね?」
――――
その時、マルグリット・ライヒシュタインとガーベラはお気に入りの蓮池のほとりでお茶会の真っ最中――からの、突然のパカパカタウン。
気が付けばお茶会仕草のまま、地べたに座り込んでいた。
「ここは……どこですの!?」
放り込まれたその時こそ驚き慌て狼狽えたものの、馴染むのは早かった。
「なかなか快適な場所ですわね。これはきっと、見事に復讐を果たしたご褒美旅行ですの!」
誰がくれたかは知らないが、二人は既にパカパカ脳。つまり細かい事は気にしない、気にならない。
「楽しそうな施設もお店も沢山あります。帰る時までに全て回り切れるでしょうか」
「でしたら、のんびりしている暇はございませんわね」
マルグリットが立ち上がると、パカ耳がふるると揺れた。
そんなこんなで、数日後。
「今日の昼食はどのお店がいいですかしら」
「やはりそろそろ、あの店は押さえておきたい所ですね」
ガーベラが言うあの店とは、いつ通りかかっても行列が出来ている人気のカフェ。
「けれど気が進みませんわ。ライヒシュタイン家の者が、まるで庶民のように行列に並ぶなんて」
「でもお嬢様、最初の日に決めたではありませんか。このパカパカタウンのお店を全制覇すると」
「それは、確かに……」
「しかも本日はランチメニューに限定スイーツのサービスが付くスペシャルデーだそうですよ?」
人も魔族もパカ族も、限定という言葉には弱い。目がない。しかもスイーツなら尚更だ。
その誘惑は、名家の誇りを軽く凌駕したのだった。
ルアンナ・ミュラーは、店でパンを焼いている最中に飛ばされて来た。
残して来たパン達が焦げていないか、ちゃんと店を開けられるか、お客さんからクレームが来たりしないか――気掛かりは山ほどあったが、すぐには帰れないと言われれば、気を揉むだけ無駄というものだ。
「なんだか楽しそうな所ですね」
まるで毎日続くお祭りに迷い込んだようで、ワクワクが止まらない。
遊園地にゲームセンター、リアルな立体映像の映画館やバーチャルバトルフィールドなど、リブラネスタはおろか彼女の知る世界のどこでも見た事のないものばかり。
興味を惹かれるままにあちこち遊び歩いて数日。この街にもすっかり慣れて、興味のある施設はあらかた制覇した。今は食の方に関心が向いているパン職人である。
「パンってこんなに種類があるんですね……味を覚えて、うちの店でも作ってみたいです」
いっそどこかの店に弟子入りしてみようかとも思ったけれど、元の世界には存在しない食材も多い。
「ここは素直に、楽しむことに徹しましょう」
それに一番美味しいのは、やっぱりうちのメロンパンだし?
「そうそう、今日はあのお店で限定スイーツが発売されるんでした」
いそいそと出かけた、その店先で――
マルグリットの全身に電撃が走った。
ぴたりと足を止め、強張った表情で行列の中ほどをじっと見つめて――いや、睨んでいる。
「お嬢様?」
どうしたのかとガーベラが視線を辿ると、その先に。
「あの憎きク〇ウィッチ!? あの時確かにこの手で倒したはず……何故ここに!!」
「元の世界で戦ったウィッチ……!? 確かにお嬢様がトドメを刺したはずなのに!」
二人の声が重なる。その物騒な空気に、周囲の人々がざわつき始めた。
それでも「あの女」は振り返らない。
「そこの死に損ないの■■ウィッチ! ▲▲ウィッチ! ◆◆◆◆◆ウィッチ!」
駄目だ、全く気付かない。■■で▲▲▲で◆◆◆◆◆なウィッチの自覚がないのだろうか。ならば仕方ない、声に出すのも穢らわしいが――
「ルアンナ!」
「……え?」
ルアンナは振り返った。先程から何やら騒々しいとは思っていたが、まさか呼ばれているのが自分だとは思わなかった。
(聞くに耐えない汚い言葉……魔女などと呼ばれる覚えもありませんし)
だが名を呼ばれた。その声にどことなく聞き覚えもあった。
振り返ったそこには――
「吸血鬼……マルグリット・ライヒシュタイン!? そんな筈は……あれは確かに倒したはずなのに、何故ここに!!」
「まさかとは思ったけど、やっぱりアナタでしたのね! 人に生き汚いとかほざいておきながら、そっちこそ随分と生き汚いですこと!」
「そんな事を言った覚えはありませんが……いいでしょう、今度こそ灰も残さぬよう、完全に消滅させてさしあげます」
場所を変えようと、どちらからともなく歩き出す二人。だがマルグリットの袖をガーベラがそっと引いた。
「……お嬢様」
袖を引いたまま、ガーベラはルアンナを見る。
(よくよく見るとなんか違うような?)
そうだ、あの女には魔力紋がない。手袋もしていないし、得物も違う。
「もしや他人の空似では?」
一方のルアンナも、マルグリットをじっと見ていた。
(顔も声も、何もかもそっくりだけど、何かが違う……それに)
空を見上げる。雲ひとつない、いい天気だ。
(彼女はデイウォーカーではなかったはずですが)
「「「???」」」
三人の頭上に等しく「?」が浮かぶ。
「アナタ、ワタクシの兄と親族を皆殺しにしたウィッチですわよね? わざと血を飲ませて、苦しんでいる皆を銃で……」
ルアンナは首を横に振った。
「……違うんですの?」
今度は縦に振る。
「私はルアンナ・ミュラー。ヒューマンのキャスターで、リブラネスタでミュラースというパン屋を開いています」
「ビックリドッキリベーカリーでは、ないのですね」
ガーベラが気になったのは、その部分らしい。
だがマルグリットは別のところに引っかかった。
「ヒューマン……人間? アナタ人間界から来たんですの!? どうやって!?」
「人間界という呼び名はあまり聞きませんね。エルフもドワーフもゴブリンも、その他様々な種族が暮らしていますから」
どうやってかはわからないと答え、ルアンナは質問を返した。
「貴方はマルグリットですよね?」
「そうよ、ワタクシはマルグリット・ライヒシュタイン。ヴァンパイアの名家に生を受けた高貴なる存在ですわ」
「ヴァンパイア? 吸血鬼ではなく?」
「「「???」」」
暫しの葛藤の後。どうやらこれは人違いのようだと、それぞれが同じ結論に至った。
ならば互いに思うところは何もない。そうと決まれば――
「「「限定スイーツ!」」」
三人は慌てて列に並び直す。しかし!
「本日分はここまでふぇ〜」
無情にも三人のすぐ前で、列は切られたのだった。
がっくりと膝をつくマルグリット、だが三人の冒険はこれからだ。
「今日は他にも限定販売を行うお店があるんですよ。私、ここのスイーツ事情には詳しいんです」
にっこり微笑むルアンナの姿が、マルグリットの目には頼もしくも神々しく、またとても好ましいものに映った。
「夕方からですから、それまで食べ歩きでも楽しみませんか?」
「喜んで、ですわ!」
それから帰還の日まで全力で、三人は仲良くスイーツ三昧を楽しんだそうな。