星駆神社の、双子のとある日。

キャラクターノベル(グループ)制作 蓮華・水無月納品 2024年10月20日 10時02分01秒

 シャルガネ地区に、その神社はある。星駆神社。ソウマとシュリという猫のハーフビースト夫妻を神職と頂き、彼らの娘であるハナユというハーフリングの巫女を置く、荘厳ながら居心地の良い神社だ。
 その、星駆神社には先ごろから新たに、ハナユの双子の片割れである神主見習いが加わった。見習いであるがゆえ、日々を修行に明け暮れ過ごす――ユズはだが、自身で決めたこの道を、いまだ一片たりとも後悔はしていない。

「ユズ、今日は祝詞のおさらいをしましょう」
「はい」

 シュリの言葉に、ユズは今日も首肯する。――神主見習いとして、言いつけられる修行を素直に、一生懸命に取り組むユズを両親もハナユも、いずれ立派な神主になる事を疑わず、見守ってくれる。
 その信頼が、ユズには嬉しく、面はゆい。ゆえに、彼らの期待に応えるためにも頑張らないとと、今日もユズは神主としての修行に明け暮れるのだった。


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 その日のユズの修行は、両親が見せてくれる手本に合わせて、実際に儀式を執り行う際の所作を1つ、1つ、練習するというものだった。お辞儀ひとつをとっても細かなやり方があり、決まりがあって――日常とは使う筋肉などが全く違うせいだろう、疲労困憊しない日はない、といっても過言ではなく。
 午後の修行の合間、ちょっと休憩にしようと言われてぐったりと社務所に座り込んでいたら、御守を作っていたハナユが「なあ」と声をかけて来た。

「明日、紫陽花を見に行かへん? 修業は休みやろ?」
「いいよ。――あ、でも町で少し、予定が、あって」

 それに、快く頷きながらもユズは、ふと思い出した用事に少しばかり言葉を濁す。予定? とハナユが不思議そうに目を丸くしたのに、うん、と頷いた。
 星駆神社が実家という事もあり、極論を言ってしまえば日常の全てが修行、家族での日々の営みが仕事とも言えるユズやハナユだが、そうは言っても月に数度、今日は神社の事は忘れてお休みしなさい、というタイミングはあった。ユズにとってのそれは、ハナユの言うように次は明日で――ハナユもまた両親に「今時期は参拝の方も少ないから休める時に休みなさい」と休みを言い渡されていたから、もしかしたら、双子で一緒に過ごせるようにという計らいなのかもしれない。
 だが、明日は町の人に頼まれて、占いをする事になっている。ユズは神主見習いではあるが、同時に占い師でもあるから、修行に差し障りのない範囲でゆえに、頼まれた時には占い師として仕事をしていて――ちょうど明日も、その予定があるのだ。
 そう、訥々と説明すればハナユが、そっかぁ、と瞳に得心の色を浮かべる。

「誰んとこ?」
「広場の、向かいの――」
「あー、あのおばさん。ほな、うちもその間に町で用事済ませよかな」
「うん、それが良い、かも。そんなに時間、かからないと、思うし」

 尋ねたハナユの言葉には言葉以上の意味も思惑も籠っては居らず、だからユズも気負わぬままこくりと頷けば、なら一緒に出掛けよ、とハナユが嬉しそうににっこりする。うん、と小指を絡めて約束を交わし――そこで社務所の外から、ごめんよ、と誰かの声がした。
 おや、と2人顔を見合わせてから視線を巡らせれば、双子達もよく知る町の人がそこに居る。

「神主さんは居るかい? ちょっと御祈祷をお願いしたいんだが」
「御祈祷やね。ユズ、神主(お父さん)に言って来てくれる?」
「はい」

 それに頷き、本殿の方に居たソウマに「御祈祷の人が来られました」と声をかければ、神主の顔をしたソウマが頷き御祈祷の準備を始める。ユズもシュリと共にそれを手伝ううち、頃合いを見計らったハナユが巫女さんの顔をして、町人を本殿まで導いてきた。
 そのタイミングは早過ぎもせず、遅すぎもせず、ハナユが星駆神社で巫女さんとして、父母を助けて過ごしてきた日々の途方もない積み重ねを、否応なしに感じさせた。

(ボクも、頑張らないと)

 チリ、と胸の底に感じる焦燥を、ユズは静かに見つめながら始まった御祈祷を、見て、聞いて、学ぶ。座学で学んでいる知識と、実際の御祈祷を自分の中で重ね合わせ、知識と身体に沁み込ませる――これも、大切な修行の一環だ。
 今日もそうやって、ユズの1日は過ぎていったのだった。


●
 水晶球(クリスタルボール)を前にした時、ユズは常とは異なる雰囲気を纏う。それはまさに、人が変わったかのように――『神主見習い』でもなく、『星駆さんとこのユズちゃん』でもなく、『占い師のユズ先生』になるのだと、町ではもっぱらの噂。
 ゆえに神妙な顔で座る、依頼人のおばさんへとユズは語り掛ける。

「私の占いが、貴方がより良い未来を掴む為の助けとなりますよう――さぁ、この水晶球(クリスタルボール)を覗き込んで……」

 言われた通りにおばさんが覗き込む、水晶球(クリスタルボール)に手をかざしてユズも、その中を覗き込む。覗き込み、神秘的な声色で微笑む。

「ほら、星の囁きが聞こえて来ましたよ」

 星の囁きを聞き、水晶球(クリスタルボール)の示す未来を読み解く技に、さほどの時間はかからない。告げるべきすべてを告げ、終わったよ、と微笑むユズにおばさんが深々と頭を下げ――ありがとねぇ、と愛想よく微笑んだ。

「助かったよ。ユズちゃん、これからまた神社に戻るのかい?」
「ううん。今日は、ハナユと出掛ける、約束が、あって」

 そうして尋ねたおばさんに、尋ねられたユズはふるりと首を振りつつ水晶球(クリスタルボール)を丁寧に仕舞う。仕舞い、さてそのハナユはどこに行っただろうと人の行き交う広場を眺めれば、ちょうど向こう側に対の姿が在った。
 今日は、休みだから私服のユズと同じように、ハナユも年頃の娘らしい着物姿。ユズの眼差しに気がついて、にぱっと笑って手を振ってきたハナユの傍らには、一見すれば年頃もさほど変わらぬ青年の姿が在る。
 青年もユズを見て、親しげに手を振った。それに、手を振り返しつつユズは少し――そう、少しだけ胸の底に気まずさを抱く。
 おばさんもまたハナユと青年に気が付いて、災難だったねぇ、とユズの内心を見透かすような苦笑いをした。――うん、と少し前の出来事を思い出し、ユズは遠い目になりながら頷く。
 つい先ごろ、ハナユは恋人である彼にプロポーズされた。世界も平和になり、互いに結婚適齢期でもあるし、そろそろ一緒にならないか――という申し出は、なるほどもっともだ。
 だが、そのもっともな申し出は、当のハナユによって一蹴された。

『ユズが一人前の神主になるまでは、結婚はせぇへんからね』

 その瞬間の、ユズの気持ちを考えて欲しい。そして、断られた当の青年が『あー……やっぱり』と苦笑いしたのを聞くに至り、ユズはその場に土下座する勢いで謝るしか出来ず。
 以来、彼を見るたびに申し訳なさが込み上げてしまい、へにょりと眉尻を下げたユズに、おばさんが苦笑する。

「ま、気にするこたぁないさ! ゆっくり羽根伸ばししておいで!」
「う、ん。おばさん、ありがと」

 バシッと背中を叩かれて、たたらを踏みながらユズが2人の方へ向かえば、当たり前にハナユは彼と別れてユズの隣に並ぶ。ちら、と気遣うように対(ハナユ)を見たユズに、ハナユは「さっ、行こ!」と当たり前の顔で対(ユズ)の手を引いた。
 ハナユがそれで良いのなら、ユズに何かを言えるはずもなく。ぺこん、と頭を下げて歩き出したユズ達を、青年が翳りのない笑みで手を振り見送ってくれる。
 ――そんな風にして今日も、ユズ達の日常は続いていくのだ。

登場キャラクター

アーカイブ生成日時 2026年08月05日 14時56分25秒 ・ world0