【占】君の手を離さぬために
キャラクターノベル制作 夏八木ヒロ納品 2024年08月27日 08時49分10秒
ドラグエンダを目指す旅の途中。夜も更けた頃、宿の一室にてハーヴィは占い道具を整理する手を止めた。 ここまでの旅路は予測通り険しいものではあったものの、極めて順調に進むことができていた。共に旅をするイーラの成長もまた目覚ましい。以前の彼女との違いを知る度にかつての彼女はもういないのだと思い知るが、今の彼女を知ることはそれ以上に嬉しかった。……そう、ハーヴィ自身が思っていたよりずっと、精神的に余裕を持てる旅だったのだ。
きっと、だから魔が差してしまった。
イーラは自分のことをどう思っているのだろうか。自身の裡に燃える恋心は果たして、実るものなのか。今の関係は良好な方だと思うのだけれど、ハーヴィ自身の想いをどれだけ仄めかしてみてものれんに腕押し。彼女、鈍いからなあ。もしかして今後ずっと進展がないこともあるのでは……?
そんな迷想がぐるぐると頭の中を埋め始める。
(自分のことを占うのは、主観が入っちゃうし、あまりやらないんだけど……)
十六夜うハーヴィはようやく意を決したように、手入れしたばかりのカードの一塊を手に取った。これは練習だから――と、半ば自分に言い聞かせるように目を閉じる。
●
鑑定はいつだって曇り無き目で事実を見つめるところから始まる。だからハーヴィはまず彼女のことを脳裏に浮かべることから始めた。
誰よりも、何よりも大切な人。そもそも極北を目指すこの旅も、彼女の悲願を叶えるため考え抜いたことだった。そんな自分へ、彼女は何を想うのか。ハーヴィが集中すると、周囲の音がすうっと消えていった。 耳が痛いほどの無音の中でカードを捲る。カードの絵柄は、相反する二つの調和を意味するものだ。
“彼女への想いと彼女への想い、どちらもを抱えているのではないか?”
まるでそう問いかけてくるようだった。ちくりと胸を刺すような痛みがある。
ハーヴィは小さく息を吐き、二枚目を捲った。今度は変転とその終わりを示す絵柄。
(うん、そうだ。彼女は今も大事な人に変わりないけれど、それでも)
“終わり”を直視するのはいつだって少し怖い。それなのに、大事なものであればあるほど終わる時は唐突にやってくる。
それでも、ここに自分が留まり続けるのは違うだろう。前に進まなければ。ヒルルクはそうしたし、何より今もイーラがそうしている。頑張り屋の彼女が進む以上、自分だけ足を止めたら必要な時に傍に居てあげられないのだと、ハーヴィはもう知っている。
イーラは恋愛にはとても鈍い性質だけど、的確かつ柔軟な視点と優しさを兼ね備えた女性なのだ。もしかしたらイーラだって、無自覚に傷つくことを怖れているのかもしれないし。
ともすれば――それについての自分の思いは伝えておくべきなのかもしれないと思った。自分が愛しているのはヒルルクを内包した彼女なのではなく、君なのだと。
ここまでを視た時点で、ハーヴィの気持ちは当初よりずいぶん穏やかだった。占いの結果が結局は一つの指針でしかないことを、占い師であるハーヴィはしっかりと理解していた。自身の中に一つの軸があることを確認できたから、それでもう充分だった。
イーラのことが好きだし、彼女を支えたいと思っている。頑張り屋で抱え込みやすいイーラの手を、今度こそ絶対に放さないためにも。それだけを考えて旅を続けている。この後の僕達の運命がどれだけ荒れたとしても、この気持ちは変わらずあり続けるだろう。
だから最後にこの恋の運命を改めて問うて、カードを捲った。
“あなたの尽くす恋は必ず彼女を助ける。どうか信じて、見守ってあげて”
果たして運命は、ハーヴィの背を優しく押した。
●
「ふああ……」
翌日の早朝。ハーヴィは眠気に思わず欠伸を噛み殺した。少し夜更かしをし過ぎてしまったか。小さく苦笑すると、顔を洗うために立ち上がる。
極北への旅は過酷だ。ここからはもっと険しくなるだろうし、辿り着いた先でイーラの願いが叶うかも真の意味ではわからない。前の彼女のことを知ることが、イーラにとって前向きなことなのかもまだ判断が付かぬままだ。『自分を知りたい』というイーラの願いは、それこそ彼女自身の内心の不安から来ている可能性だってある。
それでもハーヴィは決めている。この旅の果てにどんなことが待っているとしても、彼女の隣に寄り添い続けることを。
地図を抱えて彼女の待つ部屋へ向かう途中、ハーヴィは彼女が初めて見る今日の風景はいったいどんなものだろうかと想像する。旅の最中、花が咲くように笑うイーラはとても美しくて、それだけでいつも温かい気持ちになった。
いずれきちんと気持ちを告げて受け取ってもらうその日を見据え、ハーヴィは扉を叩く。
「さあ行こうか、イーラ。次の目的地はね――」
きっと、だから魔が差してしまった。
イーラは自分のことをどう思っているのだろうか。自身の裡に燃える恋心は果たして、実るものなのか。今の関係は良好な方だと思うのだけれど、ハーヴィ自身の想いをどれだけ仄めかしてみてものれんに腕押し。彼女、鈍いからなあ。もしかして今後ずっと進展がないこともあるのでは……?
そんな迷想がぐるぐると頭の中を埋め始める。
(自分のことを占うのは、主観が入っちゃうし、あまりやらないんだけど……)
十六夜うハーヴィはようやく意を決したように、手入れしたばかりのカードの一塊を手に取った。これは練習だから――と、半ば自分に言い聞かせるように目を閉じる。
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鑑定はいつだって曇り無き目で事実を見つめるところから始まる。だからハーヴィはまず彼女のことを脳裏に浮かべることから始めた。
誰よりも、何よりも大切な人。そもそも極北を目指すこの旅も、彼女の悲願を叶えるため考え抜いたことだった。そんな自分へ、彼女は何を想うのか。ハーヴィが集中すると、周囲の音がすうっと消えていった。 耳が痛いほどの無音の中でカードを捲る。カードの絵柄は、相反する二つの調和を意味するものだ。
“彼女への想いと彼女への想い、どちらもを抱えているのではないか?”
まるでそう問いかけてくるようだった。ちくりと胸を刺すような痛みがある。
ハーヴィは小さく息を吐き、二枚目を捲った。今度は変転とその終わりを示す絵柄。
(うん、そうだ。彼女は今も大事な人に変わりないけれど、それでも)
“終わり”を直視するのはいつだって少し怖い。それなのに、大事なものであればあるほど終わる時は唐突にやってくる。
それでも、ここに自分が留まり続けるのは違うだろう。前に進まなければ。ヒルルクはそうしたし、何より今もイーラがそうしている。頑張り屋の彼女が進む以上、自分だけ足を止めたら必要な時に傍に居てあげられないのだと、ハーヴィはもう知っている。
イーラは恋愛にはとても鈍い性質だけど、的確かつ柔軟な視点と優しさを兼ね備えた女性なのだ。もしかしたらイーラだって、無自覚に傷つくことを怖れているのかもしれないし。
ともすれば――それについての自分の思いは伝えておくべきなのかもしれないと思った。自分が愛しているのはヒルルクを内包した彼女なのではなく、君なのだと。
ここまでを視た時点で、ハーヴィの気持ちは当初よりずいぶん穏やかだった。占いの結果が結局は一つの指針でしかないことを、占い師であるハーヴィはしっかりと理解していた。自身の中に一つの軸があることを確認できたから、それでもう充分だった。
イーラのことが好きだし、彼女を支えたいと思っている。頑張り屋で抱え込みやすいイーラの手を、今度こそ絶対に放さないためにも。それだけを考えて旅を続けている。この後の僕達の運命がどれだけ荒れたとしても、この気持ちは変わらずあり続けるだろう。
だから最後にこの恋の運命を改めて問うて、カードを捲った。
“あなたの尽くす恋は必ず彼女を助ける。どうか信じて、見守ってあげて”
果たして運命は、ハーヴィの背を優しく押した。
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「ふああ……」
翌日の早朝。ハーヴィは眠気に思わず欠伸を噛み殺した。少し夜更かしをし過ぎてしまったか。小さく苦笑すると、顔を洗うために立ち上がる。
極北への旅は過酷だ。ここからはもっと険しくなるだろうし、辿り着いた先でイーラの願いが叶うかも真の意味ではわからない。前の彼女のことを知ることが、イーラにとって前向きなことなのかもまだ判断が付かぬままだ。『自分を知りたい』というイーラの願いは、それこそ彼女自身の内心の不安から来ている可能性だってある。
それでもハーヴィは決めている。この旅の果てにどんなことが待っているとしても、彼女の隣に寄り添い続けることを。
地図を抱えて彼女の待つ部屋へ向かう途中、ハーヴィは彼女が初めて見る今日の風景はいったいどんなものだろうかと想像する。旅の最中、花が咲くように笑うイーラはとても美しくて、それだけでいつも温かい気持ちになった。
いずれきちんと気持ちを告げて受け取ってもらうその日を見据え、ハーヴィは扉を叩く。
「さあ行こうか、イーラ。次の目的地はね――」