(自称)温泉の神、縁日に行く

キャラクターノベル制作 広大野人納品 2024年07月22日 13時15分40秒

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 極北山脈に連なる山の一角。名も無き神ファンゾムが封印されていた遺跡から湧き出る豊富な温水を活かし、大きく発展しようとしていた。
 当初は遺跡の研究者や近場の農耕試作地のスタッフが寝泊まりするだけの拠点だったのだが、人と物資が次々に増え、おかげで今は大きめの集落になった。
 今日は日々の勤労に感謝し、本番的な夏に備え、『温泉の神』に祈願する、夏祭りだ。
 主体となったのは、シャルガネ居住区から移り住んだ数人の職人。彼らはシャルガネ風の夏祭りを提案していた。
「灯りを~紙でぇ覆うだけで~、だいぶとぉ雰囲気が~違うのねぇ」
 並ぶ提灯を見つめる浴衣姿のファンゾム。
 横を一緒に歩いているのはトレイシーだった。研究一筋の研究者である彼女がファンゾムを祭りに誘ったのだ。
「良いでしょう。将来的には、この夏祭りを観光化して、オルセンに住む人々に足を運んで貰うつもりだよ」
「……なにかぁ、裏がありそうねぇ~?」
 問い詰めるようなファンゾムにトレイシーは眼鏡の位置をスッと直し、ガラスが輝いた。
「多くの人が研究を理解してくれれば、予算も増えるかもしれない」
「なんだかぁ大変よね~」
 世俗との関わりを断ったファンゾムの素直な感想。拠点に引き籠っているのも、そうした面倒事を考えたくないからだ。僅かなあれこれも守護者に任せっきりで、今は『温泉の神』を自称して好き勝手な日々を過ごしている。
 トレイシーが「大変なのよ」と肩を落とすが、その表情は思ったよりも柔らかい。祭りの目的はあるにしても、本心から楽しいと思っているのかもしれない。
「祭りというのは、神事らしいけど。崇められる対象の『温泉の神』がこんな所にいるなんて、誰も思わないだろうね」
「『自称』だからぁ~。本物のぉ、温泉の神に失礼よぉ~」
「本当に自由なんだから。守護者の苦労が知れるね」
 やや呆れた様子のトレイシーに、ファンゾムは楽しそうな笑みを返した。

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 ずらりと並ぶ屋台。串や揚げ物、味のついた焼麺、氷を削ったものに甘い汁をかけたもの……さまざまな食べ物を堪能するファンゾム。
「雰囲気が違うとぉ美味しいわよぉ~」
 両手いっぱいに焼き鳥を持って満足そうな事を告げた自称温泉の神は、そろそろ胃袋が満たされてきたようだ。
「……全部食べちゃうかと思ったわ」
「食べられるわよぉ?」
 間違いなく冗談ではない。
 気を反らすように、トレイシーは催しものへ、ファンゾムを案内する。
「これは射的。おもちゃの弩を使って、棚から景品を落とせば貰えるよ」
「ふぅ~ん」
 ずらりと並んだ景品を眺め――ファンゾムは興味がなさそうだった。
 景品が食べ物だったら、テンションも上がっただろうに。
 それに、おもちゃの弩とはいえ、そこらの冒険者を凌ぐ実力の持ち主だ。遊戯には簡単過ぎると思っているのかもしれない。
 輪投げや的当て、金魚掬いなどを見て回ったファンゾムがピタリと足を止めた。
「わぁ~おぉ」
 ファンゾムの眼下には、水に浮かぶ人形がプールに幾つも浮いていた。
「あぁ、これは特別な植物の素材で作られた水人形だよ。濡れても沈まずに浮いているんだ。私達の研究成果の一つだね」
「へぇ~」
 植物研究者の説明に関心はないようだ。疑問に思ったトレイシーが覗き込んで、ファンゾムが何に興味を持ったのか、分かった。
「あぁ……この水人形、守護者に似てるね」
「わかったぁ~? これ、欲しいわぁ!」
 ジッと向けた視線の先、黒ロングジャケット姿の男の子の可愛らしいSD人形。髪の長さも左右の瞳の色も、なにより、キリっとした冷たい感じの目つきが守護者に似ている。
「あの人形はぁ~ぜぇぇたいぃ、手に入れるわぁ!」
「やる気になったみたいだね。そしたら、こよりを使って取るんだよ」
「こよりぃ?」
 針金のような先端に紙をねじったものをつけたものを渡される。
 不思議な物を見るように、こよりを眺めてから、自信満々な表情でファンゾムは水人形へと狙いを定めた。
「いくわよぉ~」
 初手、豪快に突っ込んだ。
 発生した波で揺れる水人形だったが、優れた感覚を持つファンゾムにとって、こよりを引っ掛ける程度、朝飯前だ……しかし、引き上げる所で紙部分が破けてしまった。
「えぇ~。よわよわよぉ~」
「これは加減が大事だよ」
「それ、一番苦手なのよぉ~」
 今度は慎重にこよりを近づけ、水に濡れるのを最小限にする。
 幾度もトライして、失敗したこよりが小さな山を成した時、ファンゾムはようやくお目当ての水人形を引き上げた。
 嬉しそうに暫く眺めてから、豊満な胸ポケットに人形を仕舞う。
「この子の名前は~。そうねぇ……『ルイ太』よぉ~。帰ったらぁ、見せつけないとぉ」
 満面の笑みを浮かべるファンゾム。
 自称『温泉の神』は夏祭りを楽しく過ごせたようだった。

登場キャラクター

アーカイブ生成日時 2026年08月05日 14時56分25秒 ・ world0