不屈の金獅子
キャラクターノベル制作 夜帷かもめ納品 2021年01月28日 17時29分11秒
「――俺は、負けないッ!」
張り上げた声は、誰に向けてのものだったか。アルベルト=V=シュタールシュヴェーアトは倒れるように前方へと飛び込むと、そのまま器用に肩から前転し――勢いのままにクリーパーを両断した。
●
リーンエスとの国境に程近いシルトラース帝国領。王国西方で発生したバルバロイらの武装蜂起を鎮圧したアルベルトは、久しぶりに帝国領内へと戻ってきていた。彼の武装蜂起の首謀者が元は帝国軍籍だったということもあり――祖国の様子が気に掛かったのだ。
「クリーパー共め――また、性懲りもなく……」
そんなアルベルトが耳にしたのは、帝都やヴィントから逃れた人々が身を寄せている難民キャンプに甲虫型クリーパーの群れが接近しているとの一報だった。年が明けてもまだまだ寒さは厳しい。普段は森の奥に潜んでいるクリーパーも、食料を求めて人気の多いキャンプに目を付けたのだろう。
いつか、祖国を取り戻す日の為に。その一念を胸に、彼は戦いの最中にその身を置く。当然のように彼はキャンプの護衛を買って出た。
(レイウェスト殿下――俺は、いつでもあなたの為に)
●
剣を振るう。
2mに届こうかという偉丈夫であるアルベルトをしても胸の辺りまである大太刀は、その重さと切れ味が相まって敵を悉く退ける。研ぎ澄まされた刃がクリーパーの甲殻をいとも簡単に切り裂いた。光沢のある羽根や角がメキリと音を立ててひしゃげ、緑色の液体が四散する。顔に掛かるそれらを意にも介さず、アルベルトは更に――更に突き進む。
彼が授恵者である、という点を抜きにしても討伐隊の中でもアルベルトの働きは群を抜いていた。的確に状況を見て取ると、崩れがちな陣形へとフォローに入る。攻撃を主体としたアルベルトが戦線を押し返すことで、クリーパー討伐隊は今のところ順調に数百にも及ぶクリーパーを討伐できている。
「まだだ……この程度の力では」
――だが、そんな中でも彼の表情は浮かない。
脳裏に浮かぶのは、先日剣を交えた一人の女の事だ。元は帝国軍人だったという彼女は、アルベルトの剣を受け止めて見せた。剣技には多少の自信があった彼だが、こうして力量に勝る相手の存在を前に自らの至らなさを実感した。
「――レイウェスト殿下の力になる為には、足りないんだッ!」
敬愛する殿下の下、帝国を再興する。その想いが、今の彼を突き動かしていた。
●
「お前が……群れの、ボスか」
幾重にも囲まれた甲虫のその中心に『ソレ』は居た。姿形こそ周囲の小型クリーパーと同じだが、その大きさは牛馬よりも大きい。ギチギチと歯を鳴らして冒険者らへと相対したソレは、羽根を震わせると地を滑るように飛んで冒険者をなぎ倒す。アルベルトは盾で上手くその角先を逸らすことが出来たが、掠っただけでも腕が痺れる。飛び去り際へと放ったアルベルトの攻撃は、だが、その堅い体表に弾かれてしまった。
(マジかよ)
エーテルを刃先に乗せて放った、アルベルトの攻撃である。大木であっても一刀の下に断ち切ることが出来るほどの威力を持ったその一撃を以てしても、敵の外殻にわずかな傷を残すのみ。
こんな化け物が、キャンプを襲ったら――その結果は、想像するまでもない。
「お前は、ここで、俺が倒す」
自らに言い聞かせるように、アルベルトは宣言した。攻撃は弾いたものの、その重さを感じ取ったか――剣を構え直したアルベルトに対してクリーパーも向き直り、慎重に間合いを測っている。見た目に反して、知能らしきものもあるらしい。
太刀を逆手に構え直し、敢えて刃先を敵から外す。息を一つ吐いて、アルベルトは半歩踏み込んだ。彼の肩が前に出て、交わった視線が……一瞬、途切れる。その瞬間を逃さず、クリーパーはアルベルトへ向かい突進した。先ほど討伐隊を薙ぎ払った、重い一撃だ。もう一度まともに喰らえば、彼も無事では済まないだろう。
――だが。
(掛かった!)
視線を切ったのは、彼の誘いであった。敢えて攻めさせ、動きが直線的になったところへ研ぎ澄ませた一撃を見舞う。地面ごと抉り取るように太刀を振り上げ、甲虫の腹へその刃を食い込ませるアルベルト。
「うおおぉぉッ!」
気魄と共に、更に柄を握る手に力を籠める。刃を雷光が纏い、肉が焦げる匂いが鼻を衝いた。極限まで濃縮されたエーテルが、クリーパーを灼いたのだ。アルベルトの全力の一撃を受け、群れの主は頭と胴を切り離されていた。
●
「キャンプの皆は、無事でしょうか?」
群れの中心となっている個体をアルベルトが倒してからは、クリーパーの討伐は一気に楽になった。最後の一匹を脚で踏みつぶし息の根を止めると、アルベルトは討伐隊を振り返る。
「この様子なら――大丈夫でしょう。助かりました」
そう言った討伐隊長の手を、アルベルトも握り返す。力が足りぬというのならば、一つひとつ、掴み取っていこう。それだけの覚悟が、アルベルトにはあった。
張り上げた声は、誰に向けてのものだったか。アルベルト=V=シュタールシュヴェーアトは倒れるように前方へと飛び込むと、そのまま器用に肩から前転し――勢いのままにクリーパーを両断した。
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リーンエスとの国境に程近いシルトラース帝国領。王国西方で発生したバルバロイらの武装蜂起を鎮圧したアルベルトは、久しぶりに帝国領内へと戻ってきていた。彼の武装蜂起の首謀者が元は帝国軍籍だったということもあり――祖国の様子が気に掛かったのだ。
「クリーパー共め――また、性懲りもなく……」
そんなアルベルトが耳にしたのは、帝都やヴィントから逃れた人々が身を寄せている難民キャンプに甲虫型クリーパーの群れが接近しているとの一報だった。年が明けてもまだまだ寒さは厳しい。普段は森の奥に潜んでいるクリーパーも、食料を求めて人気の多いキャンプに目を付けたのだろう。
いつか、祖国を取り戻す日の為に。その一念を胸に、彼は戦いの最中にその身を置く。当然のように彼はキャンプの護衛を買って出た。
(レイウェスト殿下――俺は、いつでもあなたの為に)
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剣を振るう。
2mに届こうかという偉丈夫であるアルベルトをしても胸の辺りまである大太刀は、その重さと切れ味が相まって敵を悉く退ける。研ぎ澄まされた刃がクリーパーの甲殻をいとも簡単に切り裂いた。光沢のある羽根や角がメキリと音を立ててひしゃげ、緑色の液体が四散する。顔に掛かるそれらを意にも介さず、アルベルトは更に――更に突き進む。
彼が授恵者である、という点を抜きにしても討伐隊の中でもアルベルトの働きは群を抜いていた。的確に状況を見て取ると、崩れがちな陣形へとフォローに入る。攻撃を主体としたアルベルトが戦線を押し返すことで、クリーパー討伐隊は今のところ順調に数百にも及ぶクリーパーを討伐できている。
「まだだ……この程度の力では」
――だが、そんな中でも彼の表情は浮かない。
脳裏に浮かぶのは、先日剣を交えた一人の女の事だ。元は帝国軍人だったという彼女は、アルベルトの剣を受け止めて見せた。剣技には多少の自信があった彼だが、こうして力量に勝る相手の存在を前に自らの至らなさを実感した。
「――レイウェスト殿下の力になる為には、足りないんだッ!」
敬愛する殿下の下、帝国を再興する。その想いが、今の彼を突き動かしていた。
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「お前が……群れの、ボスか」
幾重にも囲まれた甲虫のその中心に『ソレ』は居た。姿形こそ周囲の小型クリーパーと同じだが、その大きさは牛馬よりも大きい。ギチギチと歯を鳴らして冒険者らへと相対したソレは、羽根を震わせると地を滑るように飛んで冒険者をなぎ倒す。アルベルトは盾で上手くその角先を逸らすことが出来たが、掠っただけでも腕が痺れる。飛び去り際へと放ったアルベルトの攻撃は、だが、その堅い体表に弾かれてしまった。
(マジかよ)
エーテルを刃先に乗せて放った、アルベルトの攻撃である。大木であっても一刀の下に断ち切ることが出来るほどの威力を持ったその一撃を以てしても、敵の外殻にわずかな傷を残すのみ。
こんな化け物が、キャンプを襲ったら――その結果は、想像するまでもない。
「お前は、ここで、俺が倒す」
自らに言い聞かせるように、アルベルトは宣言した。攻撃は弾いたものの、その重さを感じ取ったか――剣を構え直したアルベルトに対してクリーパーも向き直り、慎重に間合いを測っている。見た目に反して、知能らしきものもあるらしい。
太刀を逆手に構え直し、敢えて刃先を敵から外す。息を一つ吐いて、アルベルトは半歩踏み込んだ。彼の肩が前に出て、交わった視線が……一瞬、途切れる。その瞬間を逃さず、クリーパーはアルベルトへ向かい突進した。先ほど討伐隊を薙ぎ払った、重い一撃だ。もう一度まともに喰らえば、彼も無事では済まないだろう。
――だが。
(掛かった!)
視線を切ったのは、彼の誘いであった。敢えて攻めさせ、動きが直線的になったところへ研ぎ澄ませた一撃を見舞う。地面ごと抉り取るように太刀を振り上げ、甲虫の腹へその刃を食い込ませるアルベルト。
「うおおぉぉッ!」
気魄と共に、更に柄を握る手に力を籠める。刃を雷光が纏い、肉が焦げる匂いが鼻を衝いた。極限まで濃縮されたエーテルが、クリーパーを灼いたのだ。アルベルトの全力の一撃を受け、群れの主は頭と胴を切り離されていた。
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「キャンプの皆は、無事でしょうか?」
群れの中心となっている個体をアルベルトが倒してからは、クリーパーの討伐は一気に楽になった。最後の一匹を脚で踏みつぶし息の根を止めると、アルベルトは討伐隊を振り返る。
「この様子なら――大丈夫でしょう。助かりました」
そう言った討伐隊長の手を、アルベルトも握り返す。力が足りぬというのならば、一つひとつ、掴み取っていこう。それだけの覚悟が、アルベルトにはあった。