向日葵の園
キャラクターノベル(グループ)制作 コースケ納品 2024年07月23日 12時11分50秒
●初夏の学び舎
パンクリアース学園。リーンエス王国王都グランスパーダにあるこの学園は、夏休みに入ったこともあり学園内に人は少ない。その内の一人に、銀色の髪を揺らし歩くエルフの生徒が居た。
「もう、随分と気温も上がって来ましたわね」
特別棟にある生徒会室を出て、生徒会会計であるネーヴェ・グラヌローザは、右手を翳して陽差しを遮り空を見上げる。初夏の空は青く、遠くもこもこと入道雲が広がっていた。
「ネネ、終わったか?」
声をかけられ振り向くと、ネーヴェと同じく生徒会役員で書記であるアルフィー・リッパーが立っていた。黒猫のハーフビーストであるアルフィーは、トレードマークである赤いリボンの結ばれた尻尾をぴょん、と立てて歩み寄ってくる。
アルフィーは群青色のシャツに作業用の黒いエプロン姿で、エプロンのポケットには剪定鋏などが入っており、靴に土が付いている事から先程まで作業をしていたことが伺えた。
「はい。出来るところはやりましたので、あとは夏休みが明けてからになりますでしょうか。アルの方はどうですの?」
「うん。そのことで見て貰いたいものがあって、ネネに来て欲しい。いいか?」
頷くと手が差し出され、ネーヴェがそれを取る。アルフィーはその手をぎゅっと握って歩き出した。
●憩いの庭園
「まあ! もうこんなに出来ていたんですの?」
「うん。定期的な手入れや鉢の入れ換えは必要だけど、とりあえずは完成かな。夏休みは人も少ないから、その間に芝も根を張ってくれると思う」
感嘆するネーヴェに、アルフィーが少し自慢げに答える。その眼前には中央に小さな池を掘り、各所に花壇や鉢の置かれた庭園が広がっていた。花壇には様々な花が植えられ、特に奥の花壇に植えられた大きく伸びた向日葵が目を引く。
「最近熱心に作業をしていると思っていたのですけれど、少し見ない間に完成させていたのですね……」
学園の敷地内ということもあり、けして大きくはない。だが、少し立ち寄って花を愛でたり、陽を浴び外の空気を吸いながらランチなどするのに良さそうな庭園だった。
花壇や道などを除いた全体には芝が植えられ、アルフィーの言うように、新学期が来る頃には腰を下ろしたり横になったりする事も出来るだろう。
「夏休みで手伝ってくださる方も少なかったでしょうし、完成させるなら私に言って下されば良かったのに」
「ネネも頑張っていたから。それに、完成したら一番に見せたくて」
「気遣って下さったのですね。そのお気持ち、嬉しく思いますわ」
アルフィーの言葉に、ネーヴェは感謝の言葉と共に微笑みかけた。
(生徒会なんてものに入ると思わなかった)
ネーヴェに庭園を案内しながらアルフィーは改めてそう思う。かっての自分はまるで野良猫で、大切にしてくれた人を失ってからは荒みきり、他人から奪うことを繰り返していた。
(そんな野良猫が人の為に何かをしているなんてな……)
その変化を齎らしたのは、反発しながらも着いていった兄貴分を初め、冒険者となって知り合った仲間達と――
「アルの公約であるお庭に、生徒会長の記念樹……遂に両方揃って見ることが出来て、私もとても嬉しいですわ」
隣に居てくれるネーヴェの影響だった。そのネーヴェに頷きながら、アルフィーは自身の変化を驚きとともに実感する。
(そしてこうやって公約が達成することも。俺にも、誰かの居場所を作れたんだよな)
生徒会の仲間や学園の有志とも力を合わせ憩いの庭園を作る。野良猫だった頃には想像も出来なかった事で、今でも実感が湧かないが、新学期が始まり人が集まれば実感も湧くだろうか。
「もう、聞いていますの?」
「あ……、ごめん。ちょっと考えごとしてて……」
そんなことを考えていたため、返事がおざなりになっていたらしい。可愛らしく頬を膨らませるネーヴェに頭を下げ、お詫びもかねてとっておきの場所へ連れていくことにした。
●秘密の花壇
「実はな、あまり生徒が入ってこれないような隠れ場所も作ったんだ」
「隠れ場所? まぁ、秘密基地みたいですわね。ふふ、何だかわくわくして参りました」
興味津々といったー様子のネーヴェの手を引き、アルフィーは向日葵の花壇に足を踏み入れる。花壇には曲がった細い道が伸びており、遠目には分からないだろう。幅は少々窮屈だが、向日葵を痛めず歩くことが出来そうだった。
「こんなところに?」
「うん。びっくりするくらい成長が早くて、背も高いから中に入れば外からは見えないんだ」
アルフィーの言うように、四月に植えた向日葵はぐんぐんと伸び、長身のリザードマンでも隠れてしまう程の高さに成長していた。これは帝国の天霧りに消ゆる幽界樹が倒され、王国の肥沃な大地を守ることが出来た成果でもあるだろう。
「私たちのやったことが、こうして表れているのですわね……」
さほど広い花壇でもないため、足を踏み入れてすぐに花壇の中央付近に到達する。そこは小さな空間になっており、ちょこんとしたベンチが置かれていた。
「素敵な場所ですわね」
「二人っきりで過ごしたいと思って……これって公私混同かな? でも、他の生徒も見つけられたら使えるから大丈夫だよな」
「そうですわね。でも、今は私達だけの秘密の場所ですわ」
ふふっと笑うネーヴェを誘い、二人でベンチに並んで座る。
「なあ、ネネ」
アルフィーは深呼吸し、ネーヴェを見つめる。その桜色の唇に目が行き、自身の唇に残るぬくもりの記憶に頬が赤くなるが、想いを伝えるため口を開いた。
「その、この間の祭りはわがまま言ってごめん。それと俺、ネネともっと触れ合いたい。……いいか?」
ネーヴェの銀の瞳が見開かれ、その視線がアルフィーの金と紫の瞳と重なると、銀の瞳が細められ唇が笑みを作る。
「我儘だなんて、そんなこと御座いませんよ。もっと、アルの気持ちを教えて。私に伝えて下さいな」
ネーヴェはアルフィーの手を握り、その掌を自身の頬にあてる。アルフィーがこつん、とおでこをネーヴェのおでこにくっつけると、銀の瞳が閉じられた。
アルフィーはおでこを離すと、ネーヴェの頬にあてた指先にほんの少しだけ力をいれる。それに応じネーヴェが顎を上げるのを見て、瞳を閉じるとゆっくりと顔を近付けた。
やがて二人が離れ、アルフィーが脱力して息を吐いた。
「は、恥ずかしいな。やっぱり」
「その内きっと慣れますわ。……ああでも、照れている様子が見られなくなるのは少し、寂しくなりそう。もう暫くはこのままでいらして下さいますか? 私が独り占めしたいんですの」
「ッ!?」
凭れ掛かるネーヴェの言葉に、アルフィーの尻尾がぴん、と立つ。だが、すぐにぱた、と倒れふりふりと左右に揺れる。
「……でも、幸せだ」
「私も、幸せですわ」
胸が温かいもので満たされるのを感じながら、アルフィーは彼女の腰に尻尾を巻きつけた。
●夕日の約束
ベンチに身を寄せ、ゆったりと逢瀬を楽しんでいる内に時間は過ぎ、向日葵の花が向く先では沈む太陽が赤く染まろうとしていた。
「あのさ、今度故郷に墓参りに行こうと思ってて、ネネも来てくれないか? 俺の大事な人たちに紹介したいんだ」
アルフィーの言葉にネーヴェは目を瞬かせる。しかしすぐに満面の笑みを浮かべ、大きく頷くと口を開いた。
「……宜しいんですの? ええ、喜んで」
パンクリアース学園。リーンエス王国王都グランスパーダにあるこの学園は、夏休みに入ったこともあり学園内に人は少ない。その内の一人に、銀色の髪を揺らし歩くエルフの生徒が居た。
「もう、随分と気温も上がって来ましたわね」
特別棟にある生徒会室を出て、生徒会会計であるネーヴェ・グラヌローザは、右手を翳して陽差しを遮り空を見上げる。初夏の空は青く、遠くもこもこと入道雲が広がっていた。
「ネネ、終わったか?」
声をかけられ振り向くと、ネーヴェと同じく生徒会役員で書記であるアルフィー・リッパーが立っていた。黒猫のハーフビーストであるアルフィーは、トレードマークである赤いリボンの結ばれた尻尾をぴょん、と立てて歩み寄ってくる。
アルフィーは群青色のシャツに作業用の黒いエプロン姿で、エプロンのポケットには剪定鋏などが入っており、靴に土が付いている事から先程まで作業をしていたことが伺えた。
「はい。出来るところはやりましたので、あとは夏休みが明けてからになりますでしょうか。アルの方はどうですの?」
「うん。そのことで見て貰いたいものがあって、ネネに来て欲しい。いいか?」
頷くと手が差し出され、ネーヴェがそれを取る。アルフィーはその手をぎゅっと握って歩き出した。
●憩いの庭園
「まあ! もうこんなに出来ていたんですの?」
「うん。定期的な手入れや鉢の入れ換えは必要だけど、とりあえずは完成かな。夏休みは人も少ないから、その間に芝も根を張ってくれると思う」
感嘆するネーヴェに、アルフィーが少し自慢げに答える。その眼前には中央に小さな池を掘り、各所に花壇や鉢の置かれた庭園が広がっていた。花壇には様々な花が植えられ、特に奥の花壇に植えられた大きく伸びた向日葵が目を引く。
「最近熱心に作業をしていると思っていたのですけれど、少し見ない間に完成させていたのですね……」
学園の敷地内ということもあり、けして大きくはない。だが、少し立ち寄って花を愛でたり、陽を浴び外の空気を吸いながらランチなどするのに良さそうな庭園だった。
花壇や道などを除いた全体には芝が植えられ、アルフィーの言うように、新学期が来る頃には腰を下ろしたり横になったりする事も出来るだろう。
「夏休みで手伝ってくださる方も少なかったでしょうし、完成させるなら私に言って下されば良かったのに」
「ネネも頑張っていたから。それに、完成したら一番に見せたくて」
「気遣って下さったのですね。そのお気持ち、嬉しく思いますわ」
アルフィーの言葉に、ネーヴェは感謝の言葉と共に微笑みかけた。
(生徒会なんてものに入ると思わなかった)
ネーヴェに庭園を案内しながらアルフィーは改めてそう思う。かっての自分はまるで野良猫で、大切にしてくれた人を失ってからは荒みきり、他人から奪うことを繰り返していた。
(そんな野良猫が人の為に何かをしているなんてな……)
その変化を齎らしたのは、反発しながらも着いていった兄貴分を初め、冒険者となって知り合った仲間達と――
「アルの公約であるお庭に、生徒会長の記念樹……遂に両方揃って見ることが出来て、私もとても嬉しいですわ」
隣に居てくれるネーヴェの影響だった。そのネーヴェに頷きながら、アルフィーは自身の変化を驚きとともに実感する。
(そしてこうやって公約が達成することも。俺にも、誰かの居場所を作れたんだよな)
生徒会の仲間や学園の有志とも力を合わせ憩いの庭園を作る。野良猫だった頃には想像も出来なかった事で、今でも実感が湧かないが、新学期が始まり人が集まれば実感も湧くだろうか。
「もう、聞いていますの?」
「あ……、ごめん。ちょっと考えごとしてて……」
そんなことを考えていたため、返事がおざなりになっていたらしい。可愛らしく頬を膨らませるネーヴェに頭を下げ、お詫びもかねてとっておきの場所へ連れていくことにした。
●秘密の花壇
「実はな、あまり生徒が入ってこれないような隠れ場所も作ったんだ」
「隠れ場所? まぁ、秘密基地みたいですわね。ふふ、何だかわくわくして参りました」
興味津々といったー様子のネーヴェの手を引き、アルフィーは向日葵の花壇に足を踏み入れる。花壇には曲がった細い道が伸びており、遠目には分からないだろう。幅は少々窮屈だが、向日葵を痛めず歩くことが出来そうだった。
「こんなところに?」
「うん。びっくりするくらい成長が早くて、背も高いから中に入れば外からは見えないんだ」
アルフィーの言うように、四月に植えた向日葵はぐんぐんと伸び、長身のリザードマンでも隠れてしまう程の高さに成長していた。これは帝国の天霧りに消ゆる幽界樹が倒され、王国の肥沃な大地を守ることが出来た成果でもあるだろう。
「私たちのやったことが、こうして表れているのですわね……」
さほど広い花壇でもないため、足を踏み入れてすぐに花壇の中央付近に到達する。そこは小さな空間になっており、ちょこんとしたベンチが置かれていた。
「素敵な場所ですわね」
「二人っきりで過ごしたいと思って……これって公私混同かな? でも、他の生徒も見つけられたら使えるから大丈夫だよな」
「そうですわね。でも、今は私達だけの秘密の場所ですわ」
ふふっと笑うネーヴェを誘い、二人でベンチに並んで座る。
「なあ、ネネ」
アルフィーは深呼吸し、ネーヴェを見つめる。その桜色の唇に目が行き、自身の唇に残るぬくもりの記憶に頬が赤くなるが、想いを伝えるため口を開いた。
「その、この間の祭りはわがまま言ってごめん。それと俺、ネネともっと触れ合いたい。……いいか?」
ネーヴェの銀の瞳が見開かれ、その視線がアルフィーの金と紫の瞳と重なると、銀の瞳が細められ唇が笑みを作る。
「我儘だなんて、そんなこと御座いませんよ。もっと、アルの気持ちを教えて。私に伝えて下さいな」
ネーヴェはアルフィーの手を握り、その掌を自身の頬にあてる。アルフィーがこつん、とおでこをネーヴェのおでこにくっつけると、銀の瞳が閉じられた。
アルフィーはおでこを離すと、ネーヴェの頬にあてた指先にほんの少しだけ力をいれる。それに応じネーヴェが顎を上げるのを見て、瞳を閉じるとゆっくりと顔を近付けた。
やがて二人が離れ、アルフィーが脱力して息を吐いた。
「は、恥ずかしいな。やっぱり」
「その内きっと慣れますわ。……ああでも、照れている様子が見られなくなるのは少し、寂しくなりそう。もう暫くはこのままでいらして下さいますか? 私が独り占めしたいんですの」
「ッ!?」
凭れ掛かるネーヴェの言葉に、アルフィーの尻尾がぴん、と立つ。だが、すぐにぱた、と倒れふりふりと左右に揺れる。
「……でも、幸せだ」
「私も、幸せですわ」
胸が温かいもので満たされるのを感じながら、アルフィーは彼女の腰に尻尾を巻きつけた。
●夕日の約束
ベンチに身を寄せ、ゆったりと逢瀬を楽しんでいる内に時間は過ぎ、向日葵の花が向く先では沈む太陽が赤く染まろうとしていた。
「あのさ、今度故郷に墓参りに行こうと思ってて、ネネも来てくれないか? 俺の大事な人たちに紹介したいんだ」
アルフィーの言葉にネーヴェは目を瞬かせる。しかしすぐに満面の笑みを浮かべ、大きく頷くと口を開いた。
「……宜しいんですの? ええ、喜んで」